「結婚=恋愛感情+性行為が前提」に当てはまらない人のための、“友情結婚”を専門とする結婚相談所「COLORUS(カラーズ)」。「COLORUS」の”友情結婚”という新しいスタイルが誕生したきっかけや、新しいパートナー探しについて、代表の中村光沙さんに伺いました!
※本記事での“友情結婚”とは、「COLORUS」のサービスを説明するうえで使用している言葉です。「COLORUS」では恋愛関係にない者同士が、性的関係を伴わず相互扶助する婚姻関係を“友情結婚”と定義しています
COLORUS 代表取締役
自身のセクシュアリティはストレートでありながら、「安心して相談でき、効率的に“友情結婚”のお相手を探せる場」の必要性を感じ、“友情結婚”経験者のメンバーとともに2015年3月、「COLORUS」を創設。セクシュアリティに関係なく、誰もが希望するライフスタイルを実現できる社会を目指し、日本初の友情結婚を専門とする結婚相談所を運営。さらに、ストレートの方も登録可能な、多様なセクシャリティの方が性的関係のない同性・異性のパートナーと出会えるマッチングアプリ「FrieMa+(フレマ)」も展開している。
学生時代の日常に溶け込んでいた“セクシュアリティは人それぞれ”という意識
──中村さんがセクシュアリティの多様性に目を向けたきっかけは?
中村さん 高校時代に両親の仕事の都合でアメリカに引っ越したことが、多様性に触れる大きなきっかけでした。アメリカでは、さまざまな人種の人がいる環境が日常に溶け込んでいたんです。
その後、ニューヨークの美術大学に進学したところ、ゲイの友人ができ、教授陣もセクシュアリティをオープンにしている人が多いように感じました。マンハッタンにはゲイタウンもあり、街全体が「セクシュアリティで人を判断しない文化」を持っているように感じたんです。
──学生時代の環境が大きく影響しているんですね。
中村さん 日本で過ごしていたときには、まだLGBTQ+という言葉の認知があまりなく、深く考えたことはなかったです。だから、学生時代からそういった環境に身を置く機会があってよかったです。
卒業後、ファッション業界で働きはじめたときも、職場にいる人のセクシュアリティはさまざまでした。オープンに話される方が多かったのですが、“ゲイ”と自認している人の中でも価値観が一括りにできないことに気づかされたんです。“ストレートの女性”といっても全員が一括りにできないことと同じだと。
「人それぞれのセクシュアリティがある」という感覚が、アメリカで自然と私に根付いていったんだと思います。
自分がストレートだからこそ、LGBTQ+にフラットな姿勢で取り組めたと感じる
──“友情結婚”を事業としてはじめたのはなぜですか?
中村さん ファッションではない業界で、そして日本でもキャリアを築きたいと思い、2011年に帰国しました。そこでまず感じたのは、「日本の一般社会ではLGBTQ+の方がほとんどセクシュアリティを明らかにしていない」ということ。
調べてみると、「カミングアウトしたくない」という人が多く、カミングアウトはしないまま、自分のセクシュアリティを理解してくれるパートナーを探している人も多いとわかりました。
その中で、“友情結婚”や“契約結婚”という言葉に出会いました。当時、掲示板を通じてパートナーを探す人たちがいましたが、それは非常に非効率的で、成約につながりにくい状況でした。
もともと「自分でビジネスを立ち上げたい」という思いがあったので、この分野には新しいビジネスの可能性があると感じ、“友情結婚”のためのサービスに取り組みはじめたんです。
──ストレートの女性である中村さんがサービスを立ち上げるうえで、大変なことはなかったですか?
中村さん 逆に、ストレートだったからこそフラットな視点を持つことができたのかもしれません。セクシュアリティは人それぞれ違うものですから、先入観を持たずに聞く姿勢を大切にしています。
さらに大きかったのは、現在も一緒にビジネスをしているケンとの出会い。彼はゲイというセクシャリティで“友情結婚”を経験した当事者で、自身の体験をブログで発信していました。そんな彼にコンタクトをとって話を聞いてみると、表立って活動ができないもどかしさを話してくれました。
それだったらわたしが表立って、カミングアウトできない人の代わりにビジネスをしたいと、ケンのアイデアを借りたりサポートをしてもったりしながら、「COLORUS」を立ち上げることになりました。
現在、創立10年目。成婚者は600名以上になり、お子さんを持たれる夫婦も多くいらっしゃいます。
新しい“結婚”のカタチで、ラクに生きられる人が増えてほしい
──「COLORUS」のサービスが知られるようになったきっかけはあったんですか?
中村さん 2015年に事業を立ち上げた当初、「ノンセクシュアル(恋愛感情は抱くが、性的欲求を抱かない)」や「アセクシュアル(恋愛感情や性的欲求を抱かない)」といった言葉自体を知らない人がほとんどでした。けれども、2016年に公開されたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の放送が大きな転機となったんです。
このドラマがきっかけで、「契約結婚」に興味を持った人たちが「COLORUS」を知るようになり、「自分もノンセクシュアルかもしれない」と思う人からの問い合わせが急増しました。
──問い合わせする方は、ノンセクシュアルやアセクシュアルと自認していらっしゃいますか?
中村さん セクシュアリティは人によってグラデーションのようなもので、明確な基準を設けるのは難しいです。「異性と触れ合うのは絶対に無理」「恋愛感情がわかない」と感じる人もいれば、「恋愛感情はあるけど性行為には興味ない」「キスまでは大丈夫」など、境界が曖昧なケースも多いんです。そのため、自分の感覚をうまく言語化できず、悩む方も少なくありません。
──確かに「好き」という判断基準そのものも、人それぞれですね。
中村さん そうなんです。「好きになれない」ことを友人に相談しても「まだ好きな人に出会っていないのかも」という結論になりがちで、なかなかノンセクシュアルやアセクシュアルかもしれないという可能性にまで発展しない場合も多いんです。
──まだ自分のセクシュアリティがはっきりしていない方も「COLORUS」に申し込んでいいのでしょうか?
中村さん そういう方々の面談も多いです。確信を得るのは難しいと思うのですが、一人で悩まないでほしいですね。“友情結婚”は、そんな悩みを抱える人たちに向けた新しい選択肢。こういう選択肢があることで、もっとラクに生きられる人が増えればうれしいです。
「結婚しない=一人」ではない。未婚は選択肢のひとつ
──ストレートを自認している方は「COLORUS」の“友情結婚”の対象外ですか?
中村さん “友情結婚”の定義はさまざまですが、「COLORUS」では現状ストレートの方は受け入れていないんです。
それこそ最初の1年はストレートの方も受け入れようと模索していました。でも、恋愛感情や性的欲求が芽生えてしまうことで、関係が破綻するケースが想定できたので、現在はセクシュアリティを限定し、“友情結婚”の条件(異性に性的欲求を抱かない)をクリアした人だけに絞っています。
──ストレートを自認している方でも“友情結婚”を望むケースがあるのですね。
中村さん そうですね。これまで相談に乗った3000人以上の中で、セクシュアリティに関係なく、女性相談者の約5割が「子どもを望まない」という共通点を持っていました。
なぜ結婚をしたいのか、理由を見直していくと「老後が不安」「一人だと寂しい」といった声が多かったです。でもそれは、必要なのは「結婚」ではなく「生涯のパートナー」が欲しいという気持ちなのでは?と感じました。
そのニーズにこたえるため、ストレートの方も対象にした、生涯のパートナー探しアプリ「FrieMa+(フレマ)」を展開しています。
──生涯のパートナーを見つけるアプリは新しい取り組みですね。
中村さん まだ新しい取り組みなので、もっと広めていきたいと思っています。アプリ「FrieMa+」は、恋愛や性行為は必要ない、子どもは望まない、でも今後一人で生きていくのは不安という方へ、結婚というカタチに縛られず、気の合うパートナーを探したい人向けに作りました。
「結婚しない=一人」ではないと思っています。未婚はシンプルに選択肢のひとつだと思うので、それに自信を持ってほしいです。
でも、将来の不安や不満はつきもの。それを少しでも解消するために、自分と同じ方向性の価値観を持ったパートナーと出会える場になればと思います。
──「老後が不安」「一人だと寂しい」という気持ちを解消する選択肢は結婚だけではないですね。
中村さん 結婚しても試練は続くし、結婚しなくても試練はあります。重要なのは「自分が何を大切にして生きたいか」を見極めることだと私は思っています。
“友情結婚”でも、生涯のパートナーでも、自分が求めているものだったら、関係を維持する努力ができると思うんです。その点は、普通の結婚と変わらないんです。
それぞれが自由に、自分らしい選択ができる社会になればうれしいです。
イラスト/Megumi Goto 構成・取材・文/高浦彩加