虹クロ 若林祐真 下山田志帆 Eテレ

セクシュアリティーやジェンダーにまつわる悩みや疑問を抱える10代が、さまざまな分野で活躍するLGBTQ+のメンターたちと本音で語り合う、NHK Eテレの番組『ハートネットTV 虹クロ』。番組に出演するメンターの若林佑真さんと下山田志帆さんが、yoi読者のお悩みに回答してくださいました。

『ハートネットTV 虹クロ』とは?
セクシュアリティーやジェンダーにまつわる悩みや疑問を抱える10代が、さまざまな分野で活躍するLGBTQ+のメンターたちと本音で語り合う、NHK Eテレの番組。

●放送:毎月第1火曜 午後8:00~8:29 (NHKプラスで同時配信、1週間の見逃し配信もしています)
●再放送:本放送の翌週水曜 午前0:30~0:59 ※火曜深夜 

公式HP:https://www.nhk.jp/p/ts/WYNW817V7Y/

お悩みに回答してくれたのは…

若林 佑真

俳優・ジェンダー表現監修

若林 佑真

1991年生まれ、大阪府出身。生まれた時に割り当てられた性別は女性で、性自認は男性のトランスジェンダー男性。大学在籍中から演技のレッスンを受け、卒業を機に上京。 俳優、舞台プロデュースの他、作品監修、講演活動など多岐に渡り活動している。2022年にはドラマ『チェイサーゲーム』(テレビ東京)にトランスジェンダー当事者役として出演。

下山田志帆

元サッカー選手

下山田志帆

1994年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学卒業後にドイツへ渡り、プロサッカー選手として2017年から2019年の2シーズンをプレー。ドイツ在住中に、同性のパートナーがいることを公表した。2019年の夏から、なでしこリーグ1部のスピーダ世田谷FCで活躍し、2023年にプロ選手を引退。現在は、女性やノンバイナリー、トランス男性のライフパフォーマンス向上をサポートする機能性ウェアブランドの代表を務める傍ら、アスリート視点でのプロダクト開発や教育などの事業を展開する。

ノンバイナリー読者のお悩み:職場のトイレ問題で悩み中…

私は出生時に割り当てられた性別は女性で、性自認はノンバイナリーです。 現在、髪は丸刈りにしていて、それがとても自分らしい表現だと感じていて、気に入っています。ただ、社会的には非常に生きづらさを感じることが多くなりました。 たとえば、外出時にトイレを利用する時や、大好きな趣味であるサウナなど、男女で分けられた施設を使う場面では、周囲からジロジロ見られたり、二度見されたり、ヒソヒソされたりすることがあります。

特に最近困っているのが、職場でのトイレの利用です。 私の職場は20階建てのビルで、私の部署は20階にあります。しかし、多目的トイレは1階にしかありません。とても遠いため、ある程度我慢してからトイレに向かうようにしています。でも、その道中は「どうしてこんな思いをしなければいけないのか」と、悲しい気持ちになります。 さらに、その多目的トイレが「利用中」になっていることが多く、その状況が本当に苦しいのです。

というのも、そのトイレは中の「閉」ボタンを押すだけで、誰もいなくても「使用中」になってしまう仕様で、前に使った人が間違えて中のボタンを押してしまっていた場合、開かずのトイレになってしまうのです。私には中の様子を知るすべはないので、ある程度待ちます。でも、すでにトイレを我慢して20階から来ているので、この時点でかなり限界に近い状態です。「このままでは漏れてしまう」という気持ちで仕方なく1階の女子トイレを利用することがありますが、そこで誰かとすれ違うと、驚かれたり、不審な目で見られたりします。

そして私はいつも、泣きながらトイレを終え、20階に戻るのです。 どうして、ただトイレに行きたいだけなのに、こんなにつらい思いをしなければならないのでしょうか。

若林佑真さんの回答

虹クロ 若林祐真 お悩み相談 LGBTQ+

僕も同じような経験をしてきました

お悩みを読みながら、胸が苦しくなりました。とてつもなく大きな負担を心と体に負いながら、生活しているのかが伝わってきて……その辛さを、こうやって言葉にして送ってくださり、本当にありがとうございます。 

トイレに関しては僕もすごく苦労してきたので、この方のお気持ちが、とてもよくわかります。一番大変だったのが、ホルモン注射を打ち始める前の性別移行期。見た目はボーイッシュな女の子という状態の時期ですね。僕は大学生の時にカミングアウトしたのですが、カミングアウトしてからは、休み時間にトイレを使った記憶がほとんどありません。授業中、誰も使わないような場所の多目的トイレを使い、誰にも会わないようにササっと済ませていました。

今でも忘れられないのが、友達と男女混合で遊びに行った時のこと。僕が「トイレ行ってくるわ!」と言ったら、みんなも行きたいとなって一緒に向かうと、男性用と女性用トイレしかなくて。みんなは迷わず入っていくけれど、性自認は男性だとカミングアウトしていて見た目は女性の僕は、どちらに入ればいいの?と。結局、僕は入れず、みんなと合流後に適当な理由を作って、走って別のビルのトイレに行きました。

まずは、信頼できそうな人に状況を伝えて相談を

現在あなたが抱えているその苦しさは、社会側の整備や理解がまだまだ足りていないから生まれているもの。あなたが悪いわけではないことを、まずは伝えさせてください。これ以上、あなたに我慢し続けてほしくないですし、その必要もありません。だからこそ状況を変えるために、環境に働きかけることを視野に入れてみてほしいです。

具体的な方法としては、信頼できそうな上司や人事の方に状況を説明してみる。トイレを我慢しなければいけない状況が続いていて、精神的にも身体的にも大きな負荷がかかっていると、伝えてみるのはいかがでしょうか。その際にカミングアウトしたくない場合は、する必要はありません。髪型が原因で人を驚かせてしまうから、など他の理由を作って、多目的トイレの環境の不備を伝えるのが最もスムーズかな、と。

「今すぐにトイレの構造を変えてほしい」、「多目的トイレを20階にも作ってほしい」と伝え、それがかなえばベストなのですが、現実的に難しいし、少し構えられてしまうかもしれません。なので、すぐに対応してもらえそうな案として、例えば、1階の多目的トイレに「使用後は必ず、外から“閉”ボタンを押してください。中から押すと開かずの間になります!」と書かれた紙を貼ってほしいと頼んでみる。それなら難しいことではないですし、きっと、すんなり受け入れてもらえるはずです。

勇気を出して、一歩踏み出してみて

自分の感情を抑えて、できる限り人に迷惑をかけないための行動は、誰しもができることではありません。ずっと胸に秘めてきたことを人に伝えるのは、勇気がいることだと思います。でも、これから我慢しないためにも、一歩踏み出してみてほしいです。 

下山田志帆さんの回答

虹クロ 下山田志帆 LGBTQ+ お悩み相談

あなたの悩みは、社会や組織に届けられるべき声

少し真面目な話をしますね。 2015年、経済産業省に勤務するトランスジェンダー女性の職員が、職場内の女性用トイレの一部使用を禁止されたことに対して訴訟を起こしました。その結果、2023年に最高裁はこの制限を「違法」と判断し、職場における女性用トイレの利用制限は正当化できないという趣旨の判決を示しました。

私自身もノンバイナリーであり、相談者の方のトイレに関する悩みにはとても共感しました。自認する性別に沿って社会生活を送ることは誰にとっても重要なことであるはずですが、ノンバイナリーという性のあり方だと、男女という二択の中に「どちらにも当てはまらない、当てはまれない」と感じる場面が多くありますよね。けれども残念ながら、社会や組織には「どちらにも当てはまれない」とはどういうことなのか、私たちノンバイナリーが感じていることがまだ十分に理解されていない側面があると感じています。

相談者の方がトイレの使用に悩んでいるという事実は、本来、社会や組織側が整備して解決していくべき課題であり、決して相談者の方が我慢し続けなければならない問題ではありません。だからこそ、相談者の方がどうすれば辛い思いをすることなく職場で過ごせるのか。その声は、もっと聞かれ、受け止められていくべきだと私は思います。

「自分が我慢すればいい」なんて、誰にも思ってほしくない

私も銭湯に行くとジロジロ見られたり、怒られたりした経験があり、相談者の方と同じように「我慢すればいい」と思っていた時期があります。でも、私の周りの大切な人たちに「志帆が我慢する必要なんてないんだよ!」と代わりに声をあげてくれた人たちがいたおかげで、自分の中にある違和感は声に出して良いことなのだと気がつけました。

我慢をやめた今は「自分が我慢すればいい」「自分の悩みなんて大したことない」なんて、相談者の方を含め、誰にも思ってほしくないと思っています。相談者の方が、今すぐにでも相談できる誰かが近くにいたらいいなと思いますし、もし、相談した相手から否定的・差別的なことを言われることがあれば、重ねてにはなりますが、それはあなたが悪いのではなく、人権の侵害であることを知っておいて欲しいとも思います。

自分の中に閉じ込めてきた感情を今回こうやって語ってくださったように、ぜひ勇気を出して誰かに相談してみてください。

撮影/TOWA 画像デザイン/齋藤春香 取材・文/中西彩乃 企画・構成/木村美紀(yoi)