Netflixで配信中の男性同士の恋愛リアリティーシリーズ『ボーイフレンド』。キャスティング・プロデュースを担当し、本人もゲイであることを公言しているモデルのTAIKIさんと竹田ダニエルさんの対談の後編では、エンターテインメントの役割や、LGBTQ+を取り巻く環境の変化について語り合いました。

TAIKI ボーイフレンド Netflix

TAIKI

モデル・「OfficeBriller」代表取締役

TAIKI

1987年生まれ。芸能事務所「OfficeBriller」代表取締役。モデルとして世界各地のコレクションや広告、雑誌などワールドワイドに活躍し、DJとしての顔も持つ。パートナーとの日常などを投稿するYouTube「TAIKINOAH」も好評で、インフルエンサーとしても人気を集める。

竹田ダニエル

ライター

竹田ダニエル

1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌「群像」での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』を刊行。そのほか、現在も多くのメディアで執筆中。

知るきっかけを作るのがエンターテインメントの役割

ボーイフレンド Netflix SHUN DAI

【Netflixリアリティシリーズ「ボーイフレンド」 世界独占配信中 http://www.netflix.com/『ボーイフレンド』出演者、SHUN(左)とDAI(右)の二人。

ダニエルさん日本では同性婚がまだ成立していないから、同性カップルは“結婚”というゴールがない分、すごく純粋に目の前の相手と向き合っている人がまわりには多いです。もちろん、その分ぶつかる壁や社会的な不条理も残念ながら多い。相手のステータスとか家柄とか肩書とか関係なく、一緒にいたいからいる。そういう人と人のつながりが『ボーイフレンド』では、垣間見えたんじゃないかなって。 TAIKIくんは『ボーイフレンド』の制作に携わって今、課題に感じていることはある?

TAIKIさん:課題というか、もっと知るきっかけ作りができたらと思う。「面白い」とか「感動した」で終わらない、知るきっかけを提供できるのもエンターテインメントの役割だと思っているから。今回は出演者9人という限られた人数だったけど、ゲイの世界には本当にいろんな人がいて、それぞれに悩みがあるということを当事者以外の人に伝えたい。なぜなら、“知ってる”と“知らない”じゃ、大きく違うから。知った上で、自分がどう思うかは人それぞれ。でも、知らないまま語られたくない。

個人的には『ボーイフレンド2,3,4…』ってシリーズで作りたいと思ってて。ドラァグの人も、“オネエ”の人も、トランスジェンダーの人の居場所もここにちゃんとあるよということを示したいし、いろんな人に出てもらいたい。あとは、『ガールフレンド』を作ってほしいという声もたくさん届いてます。もちろんやりたいけど、その場合はやっぱり当事者の人が監修に入ってもらうほうがいいと思ってる。

リアリティーシリーズでもドキュメンタリーでも、知るきっかけ作りは今後もやっていきたい。改めて、人が興味を持って見てもらうにはどうしたらいいかはすごく考える。きっと『ボーイフレンド』がこれだけたくさんの人に見てもらえたのは、「ねぇ、見た?おもしろいよ」っていう口コミの力が大きかったと思うんだよね。そういうふうに人に勧めたくなるようなコンテンツをつくる視点を以前より意識するようになった。

“みんな違う”ということを忘れてはいけない

Netflex BOYFRIEND メンバー

【Netflixリアリティシリーズ「ボーイフレンド」 世界独占配信中 http://www.netflix.com/国籍も年齢もバラバラな『ボーイフレンド』のメンバー。

ダニエルさん:アメリカは多民族国家だから、隣の人や向かいに座ってる人は自分とは違うという考え方が浸透しているけど、日本はだいたい“みんな同じ”という感覚でいる人が多いと思うんだよね。でも、本当は違うじゃん?

TAIKIさん:そうそう。顔が似てても、育った環境は近くても、一人一人全然違う。最近“多様性”と言われ始めているけど、昔から多様性のある社会だったわけで、ただ、それが表出していなかっただけなんだよね。

ダニエルさん:「みんな一緒」という考えがあると、マイノリティの人が特殊に見えたり、仲間はずれにされがち。でも、本当はみんな違うということを忘れちゃいけない。それを可能にするのが、言葉の力だと私は思ってて。

『ボーイフレンド』は、みんなが安全で安心して話せる場がつくられていたから、それぞれが踏み込んだバックグラウンドの話もできたんだと思う。一人一人、経験してきたことは違うし、考え方も違う。自分がこう思うのは、こういう経験をしてきたからなんだよって言葉で伝えることで、相手と意見が違っても理解できたり、寄り添えたり、ちょうどいい距離を取り合える。

時々、「友達とはゴシップとか推しの話しかできない」ということに悩んでいる人の声を聞くことがあるんだけど、自分は何が嫌で、どうしてそう思うのか?と自分と向き合う機会を持てないままだと、自分の思いを言葉にすることが難しくて、人と表層的な会話しかできないのかもしれない。

TAIKIさん:芸能の世界では、人と一切話さなかったり、ツンとした態度をとっている人のほうが面白がられて売れることもあるし、すごく性格がよくて、コミュニケーションを取るのが上手だからといって売れるわけでもない。そこが難しいところなんだけど、事務所の社長として、所属しているメンバーに伝えているのは、「仕事の関係でも恋愛でも友情関係を築く上でも、心地いいと思える人のほうが一緒にいたいと思えるから、コミュニケーションも大事だよ」っていうこと。

利き手の違いと同じくらいの感覚で、セクシュアリティの違いが受け止められる社会へ

TAIKI ボーイフレンド Netflix 顔のアップ

ダニエルさん:『ボーイフレンド』が全話配信されてからTAIKIくんのところにはどんな反応が届いてる?

TAIKIさん想像以上にハッピーでポジティブなコメントがたくさんあってすごくうれしい。「こんな素敵な番組を作ってくれてありがとうございます」とか「小さい頃に自分こういう番組があったら」とか。「子どもにカミングアウトされたときを考えるきっかけになりました」という親世代の方々の声もあって、いろんな人に刺さっているんだなと思った。ただ、「母親から『こんな番組見てるの!? 気持ち悪い』と言われてショックでした」っていう悲しいメッセージもあって、それは本当に悔しかった。

全体的には好意的に受け取ってもらえているなと思う。第一話の配信時から日本だけでなく、香港やシンガポールといった10の国と地域で「今日のテレビ番組TOP10」入りを果たして、グローバルで注目を集めたのも誇らしかった。それに、1日だけだったけど、日本で1位になった時があって、あれは本当にうれしかった。もちろん制作段階でたくさんの人に観てほしいと思っていたけど、まさか1位が獲れるとは思ってなかったから驚いた。そして、「時代が変わったかも」って思った。

ダニエルさん:時代が変わったというのは?

TAIKIさん応援してくれる人がこんなにいるんだということが可視化されたというか。

ダニエルさん:LGBTQ+を取り巻く世界も変わっていると思う?

TAIKIさん:そう思う。セクシュアリティを発信する人は確実に増えたよね。オープンにする/しないは人それぞれだけど、昔より当事者の人が言いやすくなったのはうれしい。やっぱり、インスタとかTikTokとか自分発信のSNSが普及したことも深く関係していると思う。昔は「ゲイ=テレビに出ている特殊な人」と思われていた気がするから。

ダニエルさん:アメリカでも、昔は今と比べて、保守的な地域に暮らす人の中には差別されるかもという不安で一生カミングアウトできなかった人はたくさんいたと思う。でも、今はSNSを通じてだったり、『ル・ポールのドラァグ・レース』とか『クィア・アイ』といった番組も身近になって、「自分は一人じゃないんだ」って知れるだけでも心強い。

TAIKIさん:そうだね。僕がNOAH(TAIKIさんが交際中の同性パートナー)とつき合いはじめた9年前は、ゲイカップルで活躍している人って本当に少なかったけど、今は自然な感じで活動している子がたくさんいて、そういうところでも時代は変わったなって思う。

ダニエルさん:トロイ・シヴァンが2013年にYouTubeでカミングアウトしたときは、ビッグニュースとして取り扱われていたけど、今のアメリカではそういう感じでカミングアウトする人がいても「そうなんだ〜」って反応の人が多いと思う。

TAIKIさん:日本も早くそうなってほしい。「右利きです/左利きです」っていう感覚で、自分のセクシュアリティを言えて、受け止められる社会が理想だな。

ただ、カミングアウトについては、実は自分も悩んだ時期があって。母親に「もともとカミングアウトする気はなかった」と伝えたら「なんでしたくなかったの?」って聞かれたんだよね。当時自分はまだ22歳だったんだけど、「ゲイは差別されるし、それで親を悲しませたくなかったから」って言ったら、「そう思うのはあなたが差別する人間だからでしょ。差別されたくないんだったら、セクシュアリティなんて関係ないぐらいステータスを高くして生きなさい。そしたら、誰も何も言ってこないから」って言われてハッとした。

その言葉が自分の心にずっとある。人間として誠実に生きていれば、セクシュアリティなんて本当はどうでもいい話。僕が惹かれる人はセクシュアリティ関係なく、人間として魅力的で輝いている人。僕はそういう人たちと一緒にいたいし、そういう人であふれる社会にしていきたい。そこにはやっぱり、知るっていう第一歩がすごく大事。自分の活動を通して、そういうきっかけ作りをできたらって思う。

撮影/森川英里 取材・文/浦本真梨子 企画・構成/木村美紀(yoi)