家族、セクシュアリティ、シスターフッド、ジェンダーバイアスなど今を生きる私たちが直面する問題やトピックがちりばめられている、漫画『違国日記』が映画化。作家の主人公を演じる新垣結衣さんのインタビュー後編では、10代の頃から芸能界の第一線で活躍してきた新垣さんだからこそたどり着いた「自分らしく」いる方法を教えてもらいました。

新垣結衣 インタビュー

新垣結衣
新垣結衣

沖縄県出身。2007年に公開された主演映画『恋空』が大ヒットとなり、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な話題作に、映画『ゴーストブック おばけずかん』、『正欲』などがある。テレビドラマでは、「逃げるは恥だが役に立つ」、「獣になれない私たち」、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、「風間公親-教場0-」などに出演。

映画『違国日記』STORY
小説家の高代槙生(こうだいまきお)と、その姪・田汲朝(たくみあさ)の女同士の同居生活を描いたヒューマンドラマ。交通事故で両親を亡くし、親族たちにたらい回しにされる朝。その様子を見た槙生が、勢いで朝を引き取ることに。しかし槙生は他人と住むことに戸惑いを隠せず、朝は困惑する——。理解し合えない思いを抱えながら、まっすぐに向き合い、次第にかけがえのない関係となっていく姿が描かれる。

自分の考えを頭から出して客観視してみる

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——「自分の気持ちを言語化する大切さ」は『違国日記』において物語の根幹である大きな要素です。新垣さんは自分の気持ちを整理したり、言語化したりする機会はありますか。


新垣さん:今のこのインタビューの瞬間がまさにそうですよね。取材をしていただくことがとても多いので、質問の内容について考え、それを口に出して回答するということを続けていると、「あ、私ってこんなこと考えていたんだ」と気づかされることが多々あります。ぼんやりとしていた輪郭がより明確にクリアになっていくというか。


プライベートでも、言語化したいタイプだと思います。ノートに書き出すこともありますが、やっぱり人と話していく過程で整理することが多いです。家族や友達に、思っていること、感じていることをすべて聞いてもらって、一回頭の外に出して客観視しています。


昔から、仕事でもプライベートでも、話を聞いてもらうことが習慣化しているからこそ、自分の語彙力のなさに苦しむこともあります。「もっといい表現があったはずなのに」ともどかしい思いをすることも。こればっかりは、日々修行ですね。

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——自分の考えを客観視することで、新たな気づきはありますか。


新垣さん:最近では、新たな自分に出合うというより、自分の変わらなさに気づいて驚くことが多いです。何年も繰り返し同じことを言っているなぁと。新しい話題を提供できずに申し訳ない気持ちになったり、自分に関することを話し尽くしてしまったのかもしれないという感覚に陥ったりもしますが、根っこが変わらないのは悪くないのかな、と。根っこの部分は変わらないまま、そこから徐々に肉付けされていって、年を重ねるごとに幅を広げていっているという感覚ですね。


——その「変わらない自分」とは?

新垣さん:例えば仕事に対する向き合い方でいうと、10代の頃から今にいたるまで、いただいた仕事を、その時の自分の精一杯を尽くしてやるという気持ちは変わりません。責任感を抱えてプレッシャーにおしつぶされそうになったり、初めての現場に参加するのに緊張したり。苦手だと思うこともあまり変わってません。でも最近は、その「精一杯やる」というところから少し発展して、「楽しみたい」と思えるようになりました。それが先ほど話した肉付けされた部分であり、心がけていることですね。

パブリックイメージもすべて自分の一部、そう思えるようになった

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——高校生である朝や、朝の友人えみりが、「なりたい自分でありたい」と葛藤している描写がありますよね。「なりたい自分になりたいのっ!!」、「あたしはただ あたしでいたい」というセリフに心を打たれる観客も多いと思います。新垣さんは10代のときにこういった気持ちを感じていましたか。

新垣さん:「あたしはただ あたしでいたい」という気持ちにはなったことがあります。私の場合は10代のときから人前に立つ仕事をしていて、パブリックイメージを持たれる経験もしています。世間の皆さんが「新垣結衣」に対してそれぞれイメージを持ってくれることはありがたい半面、戸惑いもありました。

でも今は、パブリックイメージもすべて自分の一部だと思えるようになったんです。「他人がイメージする新垣結衣は、本当の私ではない!」と、切り捨てるのではなく、それも私の一部であると感じています。私しか知らない私ももちろん私ですし、人に「あなたってこういう人だよね」と言われてはじめて気づくこともあります。全部ひっくるめて私の一部なんだなって思うようになりました。

——そのような考えを持てるようになったきっかけはありますか。


新垣さん:いつの間にかという感じです。映画『正欲』のインタビューで、そう答えた自分がいたんです。改めて「あ、私ってそんなこと思ってたんだ」って気づけました。

「私しか知らない私」というのも、絶対に誰にも見せたくないとか隠し通したいと特別に意識しているわけではないのですが、見せる必要がないと思うことは、あえてさらけ出すわけでもないというスタンス。

この仕事をしていく中では「求められているもの」というのもありますし、それには精一杯応えつつ、自分に嘘をつかない程度に頑張りすぎず、自分を守りつつ、そして歩み寄る。そうやって納得のいくベストパフォーマンスをしていきたいです。

——自分に嘘をつくとは、例えばどんなことですか。

新垣さん:苦手なことを得意と言わないとか、ですかね。「早起きするのがすごく得意です」なんてことは絶対に言わないようにしています(笑)。

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撮影/SAKAI DE JUN ヘア&メイク/藤尾明日香(kichi) スタイリスト/小松嘉章(nomadica) 画像デザイン/前原悠花 取材・文/高田真莉絵 構成/渋谷香菜子