大正から昭和初期を舞台に、実在した3人の表現者のいびつな三角関係を描いた映画『ゆきてかへらぬ』で、役者の長谷川泰子役を演じた広瀬すずさん。これまでのイメージを覆す、エキセントリックでミステリアスなキャラクターに抱いた想いとは。「演じがいのある役だった」と語った撮影の舞台裏について聞きました。

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広瀬すず

俳優

広瀬すず

1998619日生まれ、静岡県出身。2012年に「Seventeen」の専属モデルとしてデビューし、ドラマ「幽かな彼女」で俳優としての活動を開始。主な出演作に、映画『海街diary』、『ちはやふる』シリーズ、『四月は君の嘘』、『怒り』、『三度目の殺人』、『流浪の月』、『キリエのうた』、NHK連続テレビ小説「なつぞら」など。公開待機作に『片思い世界』(2025年4月4日公開)、『宝島』(2025年9月19日公開)、『遠い山なみの光』(2025年夏公開予定)などがある。

『ゆきてかへらぬ』STORY
大正時代の京都。20歳の役者・長谷川泰子(広瀬すず)は、17歳の学生・中原中也(木戸大聖)と出会い、一緒に暮らしはじめる。やがて東京に越した二人の家には、詩人としての中也の才能を誰よりも認める小林秀雄(岡田将生)が訪れるように。中也と小林の仲むつまじい様子を目の当たりにした泰子は、彼らに置いてきぼりにされたような寂しさを感じる。やがて小林も泰子の魅力と役者としての才能に気づき、後戻りできない複雑でいびつな三角関係がはじまる。

“資料から読み取る彼女”を参考にするのは違うと思った

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──はつらつとした広瀬さんのイメージを覆す、エキセントリックでミステリアス、そして色気のある長谷川泰子役が新鮮でした。『ゆきてかへらぬ』に出演しようと思われた理由は?

広瀬さん まわりの方たちからも「今までのイメージと違う」と言われるんですけど、私自身はもともとこういう文学的な作品が好きだったので、純粋に「すごくやりたい」と思いました。役づくりも、自分の中にある泰子と似た要素をちょっとずつ広げていったので自分から遠い感じもしないし、「今までよりも難しい役をやりました!」みたいな感覚も一切ないんです。がむしゃらな表現をする役もいつかやってみたいと思っていたので、演じがいのある役でした。

──天才詩人の中原中也、文芸評論家の小林秀雄と恋に落ちる実在の泰子役を演じるにあたり、リサーチはされましたか?

広瀬さん 中也の視点からの泰子の資料はあるけれど、泰子の視点で語られた資料はあまり残っていないんです。この映画の中に生きている泰子は「私は私」と思っているだろうし、資料などから読み取った彼女の姿というよりは、素直に台本から得たものだけで演じました。

遠慮なく、高い温度でいろんな感情を共有し合えた

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──仕草や視線、言葉遣いや佇まいを含めてとても魅力的で、細部まで徹底的にこだわって演じられたのではと感じました。

広瀬さん 実は、撮影中は夢中すぎて何をやっていたかあまり思い出せないんです。ただ、気持ちいい音と語尾の置き方は意識したかもしれません。あとは中也と小林にとって“妖精”みたいな存在でいたいと思っていて。「男がいないと生きていけない」みたいな彼女の根っこの部分や、精神のバランスを崩したお母さんの存在なども散りばめつつ、最終的に泰子らしい“変な品”が表現できたらいいなと思いました。 大正時代らしい古風な言い回しも、ある意味キュートだと思います。

──体力のいる役柄だったそうですが、具体的には?

広瀬さん 中也とのケンカのシーンは1日かけて撮ったのですが、お互いにビンタを受け合いながら「顔、大丈夫?」みたいな(笑)。自分でも心配になるくらい中也を蹴ったりして暴れまくりました。中也を演じた木戸(大聖)くんは、「本当に遠慮がないね…」って、ちょっと引いてましたけど(笑)。それくらい遠慮なく、高い温度でいろんな感情を共有し合えたことは、泰子と中也を演じるうえですごく意味があったと思います。

噛み合っていないのに通じ合う、運命共同体の3人

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──撮影を終え、完成した作品をご覧になった感想は?

広瀬さん 撮影現場では3人の噛み合っていない感じを演じるのが面白かったけれど、完成した作品を冷静に観ると「こんなに変な間があったっけ?」みたいな。テンポも言葉の言い回しも、全然噛み合っていない。それなのになぜか通じ合っちゃっている感じがすごくいいなって。

──改めて、3人の関係はどう映りましたか?

広瀬さん 面倒くさい人たちだなって思いましたね(笑)。3人が一緒にいられたのは、他の人になかなか理解してもらえないから。もはや運命共同体というか。ケンカするシーンも、まるでお互いの心の穴を埋めながら慰め合っているような感じがして。

泰子の頭の中には中也と小林の二人がつねにいて、彼らが“自分の人生”になっている。外に視野が広がらないくらい二人のことで頭がいっぱいですし、男性二人も、泰子を通していろんなことを知っていく。狭い世界で生きている姿は面白いし、あれだけお互いに執着し合えるって、すごいなと思いました。

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『ゆきてかへらぬ』
2月21日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生、田中俊介、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、カトウシンスケ、藤間爽子、柄本佑
監督:根岸吉太郎 脚本:田中陽造
©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会 配給:キノフィルムズ

ボレロ¥46200/アイレネ(ルシェルブルー総合カスタマーサービス 03-3404-5370)、ワンピース¥26900/DESIGUAL(デシグアルストア 銀座中央通り店 03-6264-5431)、ブーツ¥209000/クリスチャン ルブタン(クリスチャン ルブタン ジャパン 03-6804-2855)、ピアス¥102300/シャルロット シェネ(エドストローム オフィス/03-6427-5901)

撮影/垂水佳菜 ヘア&メイク/奥平正芳 スタイリスト/丸山晃 画像デザイン/前原悠花 取材・文/松山梢 構成/国分美由紀