シェイクスピア四大悲劇の中でも高い人気を誇る『マクベス』の舞台が5月から上演されます。マクベス夫人役に扮する土屋太鳳さんに、悪女の代名詞といわれる役に対する思いや、シェイクスピア作品への初挑戦について伺いました。

1995年生まれ、東京都出身。2008年に映画『トウキョウソナタ』で映画デビュー。ドラマ『鈴木先生』で注目を集め、連続テレビ小説『まれ』でヒロインを務めた。近年の主な出演作は映画『マッチング』、『帰ってきた あぶない刑事』、ドラマ『今際の国のアリス』シリーズ、『海に眠るダイヤモンド』など。
STORY
マクベス(藤原竜也)とバンクォー(河内大和)は荒野で三人の魔女(吉田鋼太郎ほか)と出会う。魔女たちは、マクベスがコーダーの領主となりやがて国王となることと、バンクォーの子孫が王となることを予言する。夫からの手紙で予言について知ったマクベス夫人(土屋太鳳)は、野望を遂げさせようと決意。マクベスはダンカン王(たかお鷹)を暗殺し王座を手にするが、すぐさま良心の呵責に苛まれていく。不吉な予言に不安と怒りに駆られ、マクベスはさらに残忍な行為を重ねる。気丈だったはずのマクベス夫人は罪悪感と血の幻影に悶え苦しみ錯乱状態に陥っていく。マクベスへの復讐に燃えるマクダフ(廣瀬友祐)とマルカム(井上祐貴)の軍勢が攻め入り、荒唐無稽な予言は現実のものとなっていく——。
“マクベス夫人=悪女”に、あまりしっくりきていない

──マクベス夫人は“悪女”の代名詞です。土屋さんのイメージとはかけ離れているように思います。
土屋さん:悪女と言われる人も、きっと最初から悪女じゃなかったと思うんです。多分何か理由があったはずだし、関わる人の影響もきっとあったはず。 だから私は「悪女っぽいよね」と言われても、まだあまりしっくりきていないんです。
──土屋さんから見たマクベス夫人はどんな女性に映りますか?
土屋さん:献身的な女性だったのではないかなと思っています。大切な人を一生懸命守って幸せになりたいけれど、幸せではない時間が長かった人なのかなと。
どんどん心が壊れていき、そのことに気づかずにまた大切な人を守ろうとした。『マクベス』の物語は、その結果起きてしまった悲劇のように思っています。
──そう感じたのは、ご自身のライフステージの変化も影響していますか?
土屋さん:そうかもしれません。子どもやパートナーに限らず、一生懸命応援していたら行きすぎた行動を取ってしまったり、守ろうとしていたら共依存みたいな関係になってしまったり、ということはあると思っていて。
年齢を重ねれば重ねるほど、「こういうことってあるよね」と、誰もが思うような物語だと思いました。夫人の過去と、マクベスを演じる(藤原)竜也さんをしっかり見ながら演じることで、結果的に悪女に見えるかもしれません。

──特に心に残っているセリフは?
土屋さん:「私は赤ん坊を育てたことがあります、自分の乳房を吸う赤ん坊がどんなにかわいいか知っています」というセリフがあって。演出の(吉田)鋼太郎さんとどういう解釈で言おうか話し合っています。
マクベス夫人の過去がわかる瞬間なので、サラッと言うのか、実感を込めて言うのか、優しく言うのか、悲しそうに言うのか……。夫人が心を壊していくきっかけを、セリフの中で探していけたらと思っています。
──シェイクスピア作品に初挑戦となりますが、これまで観客として触れた経験は?
土屋さん:16歳のときに共演した長谷川博己さんの影響で蜷川幸雄さんの存在を知り、『空騒ぎ』や『冬物語』など、本当にいろんなシェイクスピア作品のDVDをみっちり観ました。当時は部活の合間をぬって実際に彩の国さいたま芸術劇場に行き、蜷川さん演出のシェイクスピア作品も観ていました。シェイクスピア作品に出演することは私にとって夢のひとつでした。
自分の“足りないもの”がわかる気がする

──20年のキャリアを築いてこられた土屋さんにとって、初めての挑戦はどんな意味を持ちますか?
土屋さん:自分に足りないものや、大切にしなければいけないものがわかる気がします。稽古に入ったら頭を抱えているかもしれませんが…。
──“足りないもの”に直面するのは怖くないですか?
土屋さん:怖いです(笑)。以前ミュージカルに挑戦したのですが、私はもともと声帯の発達が遅くて、大声を出すことにコンプレックスがあったんです。コロナ禍での初挑戦ということもあり、最初は本当に不安でした。
でも、いろいろなボイストレーナーさんに出会い、発声の仕方を知ることで、声を出すことが少し好きになりました。
俳優のお仕事はオファーを受けることが多いので、「させていただく」という言葉を使うことが多い気がします。けれど、いつまでも受動的でいたら役を生きるうえで何かが足りないと思うので、今後は、能動的に向き合っていきたいと思っています。
──今回のシェイクスピア作品の初挑戦で、具体的な課題はありますか?
土屋さん:多分、足りないことだらけだと思うんです。さらにお芝居を好きになるために必要なもの、そして自分がライフステージの変化で得たものなども、この作品でわかる気がしています。 自分の生き方を反映していきたいと思っているので、愛情がふくらんだ私なりのマクベス夫人を演じられたらと思います。
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.2『マクベス』

5月8日(木)〜5月25日(日)彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて上演(ツアー公演あり)
出演:藤原竜也、土屋太鳳、河内大和、廣瀬友祐、井上祐貴、たかお鷹、吉田鋼太郎ほか
作:W.シェイクスピア
翻訳:小田島雄志
演出・上演台本:吉田鋼太郎(彩の国シェイクスピア・シリーズ芸術監督)
音楽:東儀秀樹
ツアー公演情報
【宮城公演】5月30日(金)~6月1日(日)仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
【愛知公演】6月6日(金)~8日(日)刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
【広島公演】6月12日(木)~14日(土)広島文化学園HBGホール
【福岡公演】6月20日(金)~22日(日)福岡市民ホール 大ホール
【大阪公演】6月26日(木)~30日(月)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
カーディガン¥59400、ドレス¥59400/CFCL(CFCL OMOTESANDO 03-6421-0555) ネックレス ¥42900/PLUIE(PLUIE Tokyo 03-6450-5777) イヤーカフ¥33000、リング¥49500/Hirotaka(Hirotaka 表参道ヒルズ 03-3478-1830)シューズ¥49500/MANA(株式会社コンコルディア info-concordia@mana-l.com)
撮影/垂水佳菜 ヘア&メイク/尾曲いずみ スタイリスト/藤本大輔(tas) 取材・文/松山梢