2025年4月、フォトエッセイ『人生そんなもん』(講談社刊)を出版した與真司郎さん。自身のセクシャリティに戸惑い続けた幼少期からカミングアウトしたあとの苦悩まで、自身の半生を振り返る形で丁寧に語っています。本著に取り組む過程で感じたことや、今の與さんが大切にしていることを伺いました。

與真司郎さんインタビュー AAA

與真司郎
與真司郎

1988年11月26日生まれ、京都府出身。男女混合のパフォーマンスグループ、AAA(トリプル・エー)のメンバーとして、 2005年にデビュー。2023年7月、約2,000人のファンの前で自身のセクシャリティを公表。ソロアーティストとして、2024年10月に最新シングル『Kizuketa』を配信リリース。 現在は自身の人生を題材にしたドキュメンタリーをハリウッドで制作中。

辛い過去を振り返って、今がどれほど幸せか実感できた

與真司郎さん カミングアウト AAA

──まず、フォトエッセイの出版を決めた理由を教えてください。

與さん:2023年にカミングアウトしたすぐあとに、数社からエッセイの出版オファーをいただきまして。以前から、また本を出したいなと思っていたので、すぐに決意が固まりました。イベントだけでは伝えきれないことがあったし、本当の自分の全てをさらけ出すつもりで取り組んでみよう!と。過去の恋愛についても包み隠さず、かなり赤裸々に語っています。

──エッセイはとてもボリュームがあり、読み応えたっぷりでした。取り組み始めてから完成までに、どれくらい時間をかけたのでしょうか。

與さん:インタビューを始めたのは、2024年の春頃。まずは3日間かけてバーっと話して、原稿が上がってきたら言い回しの修正や、説明が足りない箇所を補足して、ということを何度も何度も繰り返しました。ラストスパートではスタッフの皆さんが僕の家に来て、深夜まで話し合ったことも。

──過去のつらい経験と再び向き合いながら言葉を紡ぐのは、とてもカロリーを要する作業だったのではないでしょうか。

與さん:そうですね……。過去の経験を順序立てて話さなければならず、じっくり考える中で、しんどさを感じることもありました。自分のセクシャリティに疑問を抱き続けた幼少期、同性愛に嫌悪感を示す人の言葉に傷ついたこと、芸能界に入ってからは人と比べられ続けることで疲弊してしまったこと……それらを思い出しながら、“こんな感情あったな”、“この時は大変だったな”、といった当時の感情がどんどんよみがえってきたんです。

でも今は、振り返るきっかけができてよかったと思います。それらを経てたどり着いた現状が、どれほど幸せかを実感できたので。僕はつらい状況から脱することができたけれど、きっと当時の僕と同じように悩んでいる人がたくさんいるはず。僕の経験が、誰かの支えになったり、社会が変わるまでいかなくとも、考えるきっかけになったりすればいいな、という願いも込められています。 

ロールモデルがいないから、自分で人生のレールを作れた

與真司郎さんインタビュー ポートレート AAA

──カミングアウト直後に感じた後悔と、それによる苦悩の日々も語られています。当時は、SNSも見られなかったとか。

與さん:
みんなから「やっと本当のことを言えて、ハッピーだよね?」と言われたけど、全然そんなことなくて。むしろカミングアウトしたあとがいちばん、精神的につらかったかもしれません。イベントの翌日にロサンゼルスの自宅に戻ってからは、“なぜ、あんなことしてしまったんだろう?”と自問自答する日々。世間の反応が怖くて、日本のメディアは見ないようにしていたし、SNSのアプリもすべて消しました。

──不安が膨らんだ要因の一つとして、ロールモデルとなる人がいなかったことを挙げていましたね。

與さん:
日本の芸能界で、大勢のファンを招待し、目の前でカミングアウトした人って、おそらく僕くらいしかいないんですよ。だから誰とも同じ気持ちを共有できないし、自分で解決するしかない。もちろん、それを理解したうえでしたんだけれど……やっぱり寂しかった。この広い世界で、一人ぼっちになってしまった感覚がありました。

僕が子どもの頃は、テレビでも身の回りでもLGBTQ+の人を知る機会がほとんどなくて、思えばずっとロールモデルを探し求めていました。自分と似た人がいるだけで安心するし、生き方の参考にもできるじゃないですか? 

今だから思えることですが、ロールモデルがいなかったからこそ、自分で自分の人生のレールを作って来られた。一般的なレールからは大きく外れてしまいましたが、回り道をしながら、とても多くのことを吸収できました。もしもロールモデルがいたら、同じ道を歩んで、自分らしさを見出せなかったんじゃないかな。

──ご自身の道を切り拓いた與さんは、多くの人のロールモデルになっているはず。

與さん:
カミングアウトしたあと、僕は確実に世間に嫌われたと思っていたんです。事務所の人から「ポジティブなメッセージばかりだから、SNSのコメント欄を見てください」と連絡をいただいて開いてみたら、想像以上に温かい言葉ばかりで驚きました。

「與さんの行動が私の人生を変えてくれました」「僕も勇気を出してカミングアウトできました」といった嬉しい報告もたくさんいただいて。今も毎日のようにDMが届き、勇気を出して行動して本当によかったな、と心の底から思います。少なからず批判的な言葉も届くけれど、まったく気にならなくなりました。

自分を守ることも強くすることも、自分にしかできない

與真司郎さんインタビュー ファッション AAA

──DMなどを通じてファンの方の悩みを聞く機会もあると思いますが、以前と比べて、人々の悩みは変化していると感じますか?

與さん:
人と自分を比較してしまう、人と比べて自分が劣っているように感じる、といった悩みがとても増えている印象があります。僕も芸能界に入ってから同じような悩みを持っていたけれど、今はSNSがあるから、そういう状況に陥りやすいんじゃないかな。しかも比べる相手が身近な友達や同僚に限らず、世界中にいるわけだから、つらさも増しますよね。アメリカでも、SNSが原因でメンタルヘルスに支障をきたす若者が増えているようで、問題視されているんですよ。 

──與さんは、SNSとどうつき合っていますか?

與さん:“自分は自分、人は人”って口で言うのは簡単だけど、よほど自分に自信を持っていないと、そんなにキッパリ割り切れないと思うんです。今は超がつくほどポジティブで、メンタルヘルスに気を遣っている僕でも、SNSを見すぎると暗い気持ちになることがあるし。だから僕は、メリハリをつけてSNSを使っています。こまめに見るのは、プライベートのアカウントで繋がっている友達や家族の投稿のみ。自分の心に害を与えそうなことは、自ら遮断しています。結局、自分を守ることも強くすることも、自分にしかできないので。

──自分自身を守るために、與さんが意識していることを教えてください。

與さん:メンタルヘルスについて学ぶことと、本当の自分をわかってくれる仲間を大切にすること。仲間は家族でもいいし、パートナーでもいいし、友達でもいい。心で深くつながった人の存在に、僕はとても救われています。

カミングアウトする前も友達はいましたが、一緒にいても100%楽しめていなかったんですよね。それは相手のせいではなく、自分に隠し事があったから。でも一人でいるのは寂しくて、誰かと一緒にいたかったんです。

カミングアウトして、自分のいいところも悪いところもすべてさらけ出して、それでも一緒にいてくれる仲間との時間は心の底から楽しい。悲しいこともうれしいことも、包み隠さずにすべてをシェアし合える友達ができて、これが本当の仲間なんだ!と気づきました。仲間がいれば、何があっても大丈夫。そう思わせてくれる存在は何よりも心強く、僕が僕らしくいるための支えになっています。 

写真/堤 智世 スタイリング/SUGI(FINEST) ヘア&メイク/佐藤 真希 構成・取材・文/中西彩乃