2025年4月に出版したフォトエッセイ『人生そんなもん』(講談社刊)で、L.A.移住後に経験した恋愛について赤裸々に語っている與真司郎さん。恋愛によって得られた成長や、母親との恋バナ、自分を愛せるようになったきっかけ、ベルリンで参加したプライド・パレードなど、“愛”をテーマにじっくり語ってもらいました。

愛を感じたときに得られるパワーは、何よりも強い

──L.A.で暮らしはじめて、初めての恋愛を経験したという與さん。“30歳を超えて、「愛される喜び」と「失う悲しみ」を知った。ようやくラブソングの歌詞に心から共感できるようになって、感情を込めて歌えるようになった。”というフォトエッセイの一節が、とても印象的でした。與さんは、ご家族ととても良好な関係を築いていますが、恋人から受ける愛情と家族から受ける愛情に違いは感じますか?
與さん:個人的には、少し違う気がします。深く考えたことがなかったけど、何故だろう? そうだな……恋人は、結局のところ他人だからじゃないかな。僕にとって家族は、自分の悪いところもすべて受け入れてくれる存在。極論だけど、切ろうとしても切れないし、頑張らなくても愛してくれるんです。
でも恋人は、そうはいかない。関係を続けるためには、お互いに頑張って歩み寄る必要がありますよね。いつでも別れを選べるからこそ、愛し愛されることが尊いし、喜びも増すんじゃないかな。特にアメリカ人は個人主義の人が多いから、甘えは許されないし、自分に至らない部分があればズバッと指摘される。努力し続けないといけないから大変だけど、アメリカで恋愛を経験して、すごく成長できたと思います。
──アメリカでは恋愛でも友情でも愛情表現が豊かで、褒め合う文化であることも、與さんにとってポジティブなインパクトがあったそうですね。
與さん:そうなんですよ。一般的に日本人って、あまり愛情表現をしないじゃないですか。アメリカでは、友人同士でも「I love you」って言うんですよね。最初は驚いたけど、言葉でストレートに愛を伝え合うの、いいな!って。愛を感じられる瞬間が増えて、僕は幸福度が増しました。
──現代は恋愛離れが著しいと言われていますが、そう感じることはありますか?
與さん:確かに恋愛に興味がないって言う人、増えましたよね。僕は恋愛体質だから、つねに恋愛していたいけど(笑)。ただ、恋愛を面倒に感じる人の気持ちもわかる。だって一人でいるほうが絶対に楽ですもん。でも、面倒だし疲れるからこそ、自分の成長につながるんじゃないかな。僕にとって、愛を感じたときに得られるパワーは何よりも強い。だから僕は、“I love love”。愛を愛しています。
恋愛で素直になれた。母と恋バナもします

──恋愛による成長を実感するのは、どんな時ですか?
與さん:家族に対して、より素直になれたこと。母がLAに来た時、日本では珍しいと思うのですが、初めてハグしたんですよ! 母も、僕が成長できた土地に来られたことに興奮していたんだと思う。空港で会った瞬間、“真!”って駆け寄ってきて、自然な流れでハグしていました。まだ、愛してるとは伝えられていないんですけどね。
昔は家族と恋愛の話をするなんて考えられなかったけど、今では普通にしますし。先日も、母と一緒に大阪から東京までドライブしながら、ずっと恋バナしてました。恋人の話を初めてしたときは、お互いに照れくさい雰囲気があったけど、今は何でも話せる。母も今はシングルだし、「また恋愛してみたら?」って提案しています(笑)。
──20代後半で初交際を経験したことについて、“我ながら遅いなと思うけれど、20代後半で人生初の経験がたくさんできるなんてラッキーだと前向きに考えることもできる”という與さんの言葉を読み、とらえ方次第で物事はポジティブにもなるしネガティブにもなるのだと、再認識しました。
與さん:自分に自信がない時期は、そんなふうにとらえられなかったんですよ。何か不満があったり、自分の理想通りに進まなかったりすると、「〜〜のせいで」と何か他のものに責任を転嫁していました。でも今は、苦しいことも楽しいことも経験したうえで、現在の僕があるんだと思える。自己肯定感が上がって自分らしさが見つかり、“自分らしく生きるって、こういうことなんだ!”と気づけたことが大きいですね。
──自己肯定感が上がったことで、過去のつらい経験もプラスに受け取れるようになったんですね。
與さん:そう! 自己肯定感を上げたほうがいいって最近よく言われるようになりましたが、本当にいいことがたくさんあるんですよ。もちろん簡単にできることじゃないし、僕自身もすごく時間がかかりました。僕は昔から、行動力だけは人並み以上にあって。とにかく何でも試してみる精神で、色んなことに挑戦しては失敗を繰り返してきました。
そうやって徐々に自信をつけていって、ようやく36歳前後で、“僕はこれでいいんだ”と自分に納得することができた。自分を愛せるようになると、不思議と人にも優しくなれるんですよね。すると今度は、人からも愛されるようになる。そんな感じに、ポジティブな連鎖が発展していきました。
──人から愛されることで、さらに自己肯定感が上がりそうです。
與さん:そのとおりです。これってLGBTQ+の人に限らず、孤独を感じているすべての人に当てはまると思うんです。誰もが人と違う個性を持っていて、人と違う悩みを抱えている。そういう自分を受け入れるためには、他人に認めてもらうことも必要なんですよね。ギブ&テイクという言葉があるとおり、他人に何かを求める時には、自分も相手に何かを与えないといけない。だから人に優しくなることは、とても大事だと感じます。
以前の僕は卑屈で人に甘えられなかったし、どんなに褒められてもポジティブに受け止められなかったし……。自分でも思うけど、本当に性格が悪かったから、そんなんじゃ人に愛されないよな、って。そのフェーズって自己肯定感が低いすべての人が経験するものだから、あきらめずに前に進んでほしいです。何度も人生を諦めそうになった僕が挽回できたのだから、皆さんも確実にできます!
僕たちは、特別扱いされたいわけじゃない

──6月はプライド月間です。旅先のベルリンでプライド・パレードに参加したことがあるそうですが、いかがでしたか?
與さん:ベルリンを訪れた時期が、たまたまプライド月間だったんです。僕はそこで初めてプライド・パレードに参加したのですが、街中がお祭りムードでビックリ。小さい子どもからおじいさん、おばあさんまで、セクシャリティを問わずに多くの人が参加していました。それぞれレインボーカラーのアイテムを身につけて、ダンスをしたりお酒を飲んだり大盛り上がり。その場に居合わせるだけで、すごく元気をもらいました。
LAでも大規模なプライド・パレードを開催しているのですが、住んでいた当時は自分のセクシャリティを隠していたから、参加する気になれず。タイミングが合えば、またどこかで参加してみたいです。
――“同じ立場の人には、一人でもいいから信頼できる人を見つける旅に出てほしい。「この人になら言える」と思える人が、きっと世界にはたくさんいるはずだから。本当はそんなことをしなくていい世の中になってほしいけど、まだそうではない。”というエッセイの一節が、深く心に残りました。與さんにとって、すべての人にとって生きやすい世の中は、どのようなものでしょうか?
與さん:僕にとっての理想は、誰にもジャッジされず、それぞれが自分らしく生きられる社会。例えばLGBTQ+の人々が自分のセクシャリティをカミングアウトしたときに、「そうなんだ! だから何?」と返されるくらい、ノーマライズされたらいいなと思っています。
僕たちは特別扱いされたい気持ちは一切なくて、ストレートの人たちが生きるように生きたい。ただ、それだけなんです。そういう社会が実現するためには、僕がしたように、多くの人が声を上げていかなければいけないのが現状。あらゆる職業や立場の人が、ありのままの自分を表現することによって、理想の社会に近づけると信じています。
──みんなが自分らしく生きられる社会をかなえるために、私たち一人ひとりが日頃から意識できることはありますか?
與さん:今でも「初めてゲイの方にお会いしました」と言われることが結構あるんですけど、きっとそれは、まわりにいるLGBTQ+の人がカミングアウトできていないだけ。ストレートの人は、「自分の職場や交友関係にはいないから関係ない」ではなくて、「もしかしたら、いるかもしれない」と考えながら生活してみると、例えば恋愛の話をするときに、恋愛対象を異性だと決めつけるような発言をしなくなるはず。一人一人の意識が変われば、社会を変える大きなパワーになると思います!
撮影/堤 智世(ende) スタイリスト/SUGI(FINEST) ヘア&メイク/佐藤 真希 構成・取材・文/中西彩乃