脚本家として鳴かず飛ばずの「ダメ夫」と、そんな夫に苛立ってしょうがない「鬼嫁」。セックスを巡る夫婦の攻防戦を真正面から描いた『劇場版 それでも俺は、妻としたい』で、夫・豪太を演じた風間俊介さんに、セックスレス夫婦を演じたからこそ見えてきたこと、そしてご自身の家族観について伺いました。

『劇場版 それでも俺は、妻としたい』STORY
売れない脚本家の柳田豪太(風間俊介)は、浮気する勇気もなければ、風俗に行くようなお金もない。あの手この手を使って妻のチカ(MEGUMI)とセックスしようとするが、チカはそんな豪太をとことん罵倒する。「したい」夫と、「したくない」妻がセックスを巡り攻防戦を繰り広げる。
豪太みたいなやつが友人にいたら、本気で説教します

——『劇場版 それでも俺は、妻としたい』は、夫婦のセックスレスだけでなく、子どもが発達障害を抱えていたり、風間さん演じる豪太の母親が古い価値観を押し付けてくるタイプだったりと、現代の家庭を巡るさまざまな問題を描いています。風間さんはこの物語と出合って、まず最初に何を感じましたか?
風間さん:足立紳さん(脚本・監督)の私小説がもとになっている物語なので、家族の問題をつまびらかにしていくスタイルだとは理解していたのですが、実際に台本を読んで演じてみると「ここまでなのか」と、正直驚きました。
足立家の実際の暮らしがベースになっているから、起承転結があったり、クライマックスに向かって盛り上がりをみせたり、この夫婦の問題が劇的に解決したり、なんてことはないんです。
でも、日々の暮らしなんて、そんなものですよね。インタビューでは「それは何をきっかけに変わったのですか?」「何が転機になったのですか?」といった質問が定番になっていますが、はっきり答えられる人ってあまり多くないように感じていて。
人生って、一日一日をなんとか頑張って過ごしてきたら、結果こうなりましたってことだと思うんです。本作はそれを無理に盛り上げるようなことをせずに、実直に描いている作品です。

——なんとかして妻とセックスをしたいと熱望する豪太を演じるにあたり、意識したことはありますか?
風間さん:お手本がすぐ横にいらっしゃったので(笑)。監督に質問してしまえばすぐに答えが出るんでしょうけど、それは野暮なので、監督を観察していました。ただそれをそのままトレースするのではなく、自分なりに監督の要素を入れ込んだつもりです。
——では、演じてみていかがでしたか?
風間さん:今まで社会不適合者やサイコパス、とことんうだつがあがらない人間など、観る方たちに嫌悪感を与える役や悪役といわれるようなキャラクターを色々と演じてきましたが、今回の豪太にはいちばん衝撃を受けたかも。
悪いやつ要素がゼロなのに、めちゃくちゃダメなんです。まだ、打算的だったり、意地悪だったりするほうが理解できるけど、豪太にはそんなところは一切ない。なのに、ここまでダメってすごいなぁ、と。
妻とセックスしたいという気持ちは直球で伝えられるのに、妻が求めていることはなぜかやろうとしない。豪太みたいなやつが友人にいたら、本気で説教します。
「自分がしたいことばかりパートナーに伝えているけれど、その熱意を少しでも仕事に向けたら、パートナーも拒絶せずにちゃんと向き合ってくれると思うよ」って伝えてあげたいです。

結婚観や家族観に、何が正しいなんて答えはない
——足立家の暮らしをドキュメンタリータッチともいえる、リアルな描写で描くことによって、「結婚とは何か?」「家族とは何か?」という問題を突きつけてくる作品にもなっています。
風間さん:そうですね。社会的や哲学的なテーマを組み込まずに、リアルな家族像を見せているのも大きな特徴ですよね。家族や結婚というものに対して、高級デパートの宝石売り場のように決して美しくはないし、憧れを抱かないかもしれないけれど、スーパーの鮮魚コーナーのように親近感が湧く作品です。
僕も含め、皆自分の家族のことしか知らないから、それぞれが持つ「家族観」って人それぞれですよね。家族への想いも人それぞれだし、パートナーに対する愛情も、ほかの誰かとまったく同じってことはない。
この作品を観ると、結婚観や家族観は自分や相手によって変わるもので、何が正しいかなんて答えはないんだということに改めて気づかされます。
この夫婦のやり取りに「マジか……」とびっくりする方も、逆に「我が家を見ているようだ」と感じてくださる方もいるかもしれない。自分が知っている家族とは違っても、これもひとつの家族だと理解するきっかけになれたらうれしいです。
『劇場版 それでも俺は、妻としたい』

5月30日(金)全国ロードショー
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本などを手掛けた足立紳が、自ら執筆した私小説をドラマ化。ドラマの大ヒットを受けて、劇場版の制作が決定。
原作:足立紳『それでも俺は、妻としたい』(新潮文庫刊)
脚本・監督:足立紳
出演:風間俊介、MEGUMIほか
配給:東映ビデオ
撮影/SAKAI DE JUN ヘア&メイク/清家いずみ スタイリスト/手塚陽介 取材・文/高田真莉絵 構成/渋谷香菜子