10代でデビューし、40代を迎えた今に至るまで第一線でさまざまな役に挑戦し続けている、風間俊介さん。長年活躍し続けているからこそ手に入れた、嫉妬心で苦しまないための思考法や、あえて仕事を選ばない理由を伺いました。

まわりの皆のことが羨ましいと思う反面、誰のことにも執着しないんです

——『劇場版 それでも俺は、妻としたい』では、「どうしようもなくなってからが勝負だ」という台詞がありますが、風間さんは実生活でこのように感じられたことはありますか?
風間さん:極端な話をすれば、いつだってどうしようもない状態でピンチだと思っているし、逆にいつだって余裕があるとさえ思っています。どういうことかというと、人生はどこからでもやり直せると思っているんです。
「今からでもやり直せるなら、大丈夫か」と思っていると、心が軽くなります。自分が今、余裕のある環境にいるのか、どうしようもなく焦らないといけないところにいるのかって、当事者ではなく他者が決めることなのかな、とも感じています。こんなこと言えるなんて、本当にどうしようもない状態になったことがないからなのかもしれませんが。
——今、どのような環境にいるのかを自分で決めつけないからこそ、焦らずに済むということですね。風間さん演じる豪太は、嫉妬や焦りといった感情にとらわれてしまっています。風間さんは嫉妬心に苦しんで、心がざわつくことはありますか?
風間さん:これも極端な考え方かもしれないんですが、まわりの皆のことが羨ましいと思う反面、誰のことにも執着しないんです。全部羨ましいし、羨ましくないという感情が自分の中に同居しています。なので、嫉妬心にとらわれて苦しくなることはあまりないかもしれない。
デパートなどおしゃれなものが置いてあるお店に行くと「ここにあるもの全部欲しい!」と思う反面、そう思うってことは全部いらないんだなって感じることありませんか? それと似ている感情だと思います。

——そのように一歩引いて物事を見られるようになったのはいつ頃からですか?
風間さん:高校二年生の頃からです。芸能生活をしていて羨ましがられることもありましたが、「僕は皆のことが羨ましいよ、でも羨ましがったって他人になることはできない。自分を生きるしかない」と思っていました。
——特に10代は、自分とまわりと比較してつらい思いをすることも多いなか、達観していらっしゃいますね。
風間さん:その頃にはもう、人格形成ができ上がっていたんだと思います。なので、その頃からあまり考え方は変わっていません。
オファーをいただいたら、どんな役でも気持ちに応えたい

——中学生の頃にキャリアをスタートさせ、芸能生活25年を超えた今、仕事を選ぶ際に指針にしているものはありますか?
風間さん:僕は役を託される側なので、こんな役を演じたいという気持ちをあまり持たないようにしているんです。求められていること自体がうれしいので、「この役を演じてほしい」とオファーをいただいたら、どんな役でも気持ちに応えたいという気持ちが大きいです。
毎回、自分で食べたいものばかり選んでいたら、食生活は偏ってしまいますし、マンネリを招くことになりますよね。でも好き嫌いせずにおすすめされたものを食べていれば、予想外のおいしいものに出合えることもあるはず。仕事もそれと似ていると思っているので、僕から選ぶようなことはしないようにしています。
「この役を僕で想定して描いた方がいるんだ」と驚くこともあれば、「僕っぽいよね。わかるわかる」と感じることもあります。どちらであっても、期待に応えられるよう演じるのみです。
——今回の撮影には、インティマシーコーディネーターの西山ももこさんが参加されているそうですね。西山さんがチームに加わったことで、どのような変化がありましたか?
風間さん:対演者同士、対製作側との話し合いに留まらずに、「作品を観てくれる方々に、このシーンはどういった印象を持たれるだろうか」という建設的な話し合いができました。
夫婦の性的な問題をつまびらかにする作品だからこそ、ここまで描かなくても、ここまで言葉で説明しなくても、観ている方には伝わるのではないかと話し合えたのはうれしかったですし、素晴らしい経験になりました。
『劇場版 それでも俺は、妻としたい』

5月30日(金)全国ロードショー
STORY
売れない脚本家の柳田豪太(風間俊介)は、浮気する勇気もなければ、風俗に行くようなお金もない。あの手この手を使って妻のチカ(MEGUMI)とセックスしようとするが、チカはそんな豪太をとことん罵倒する。「したい」夫と、「したくない」妻がセックスを巡り攻防戦を繰り広げる。
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本などを手掛けた足立紳が、自ら執筆した私小説をドラマ化。ドラマの大ヒットを受けて、劇場版の制作が決定。
原作:足立紳『それでも俺は、妻としたい』(新潮文庫刊)
脚本・監督:足立紳
出演:風間俊介、MEGUMIほか
配給:東映ビデオ
撮影/SAKAI DE JUN ヘア&メイク/清家いずみ スタイリスト/手塚陽介 取材・文/高田真莉絵 構成/渋谷香菜子