バッグの中にお気に入りのケアアイテムがあるだけで、なんだか安心できるという人は多いはず。ほっとひと息つきたいとき、リフレッシュしたいとき、さっと取り出して、自分のためにケアをする。そんな時間は心を優しく癒してくれます。

連載「SELF-CARE RELAY」では、今気になるあの人に、そんなセルフケアの愛用品をご紹介いただきます。前回の向井太一さんがバトンを渡したのは、尊敬する友人でもあり、ともに楽曲制作も行う、シンガーソングライターのRUNG HYANG(ルンヒャン)さん。自身の音楽活動だけでなく、さまざまなアーティストのプロデュースや、音楽塾を主宰するなど、多忙な日々に欠かせないケアアイテムとは...? そんな彼女のバッグの中身を見せていただきました!

Vol.6 シンガーソングライター/プロデューサー・RUNG HYANGさん

シンガーソングライターRUNG HYANGさん

RUNG HYANG/ルンヒャン福岡県・筑豊生まれの在日コリアン3世。卒園ソングをテーマにした『さくらびより』がYouTubeで話題を呼び、2012年にメジャーデビュー。自身の活動のみならず多くのプロデュースも手がけ、eill、瑛人、YAMORI、松本千夏などのアーティストを輩出する「ルンヒャンゼミ」が各方面で注目を集める。 SIRUP、韻シスト、向井太一、Claquepotなどとの フィーチャリング楽曲も次々と発表し話題に。Jazz、Hip Hop、Soul、フォークなど多彩なジャンルを取り入れた「雑食」スタイルが特徴のシンガー “ソウル”ライター。

RUNGHYANGさん

「ずっと、ストレスなんてないと思っていたんです」と語るRUNG HYANGさん。20代の頃から、人に求められることがうれしくて、つねにフル回転で仕事しつづけてきたといいます。ところがある時期から、人知れず悩みを抱えることに。自分の生活や心と向かい合ったことで、セルフケアの大切さにも目覚めたそうです。


RUNG HYANG's Self-Care Rules

1. 空白の時間を大切にする
2. 孤独を恐れない
3. 自分にとっての“いい塩梅”を見つける

バッグの中身はこんな感じ

RUNG HYANGさんのバッグの中身

「バッグは小さめが好きで、最近は、『JIL SANDER(ジル サンダー)』のカンノーロシリーズのショルダーバッグを愛用しています。めずらしい形がお気に入りです。荷物が多いときは、とにかくたくさん入る『A VACATION(ア ヴァケーション)』のバッグと二個持ち。趣味のイラストを描くためのiPadや、データの移し替えが簡単にできるSanDiskのメモリーカード、曲のフレーズを思いついたとき、すぐに書き留められるよう、五線譜も持ち歩いています。でも、本当は手ぶらが理想。できるかぎり身軽でいたいですね」

香りは、なりたい自分になるためのスイッチ

(左から) Velvet Desire Eau de Parfum/ドルチェ&ガッバーナ ビューティ BYREDO EAU DE PARFUM SLOW DANCE/BYREDO /EAU DE PARFUM FLEUR DE PEAU/Diptyque

(左から) Velvet Desire Eau de Parfum/ドルチェ&ガッバーナ ビューティ BYREDO EAU DE PARFUM SLOW DANCE/BYREDO EAU DE PARFUM FLEUR DE PEAU/diptyque

「私は鼻がすごく敏感みたいで、香りの影響を受けやすいんです。だから、香りを使ってうまく気分をコントロールするようにしています。オンオフを切り替えたいときや季節の変わり目など、心身の揺らぎを整える手段として使うこともありますね。

仕事をしていると、“性別がいらない”と感じることがあって。そういうとき、『BYREDO(バイレード)』の香水がすごくマッチするんです。はじめは“SLOW DANCE”という名前にひかれて手に取ったのですが、甘さ控えめのやわらかい香りが中性的な雰囲気で好み。首筋や手首に吹きかけると、自然と仕事のスイッチが入ります」

香水をつけるRUNG HYANGさん

『diptyque(ディプティック)』の“FLEUR DE PEAU”は性別を問わないニュートラルな香り。初めて嗅いだとき、ステージの上で自信を持ってパフォーマンスをする自分が想像できたんですよね。アーティストとして、理想の自分になれる気がした。ライブ前に、この香りで気持ちを高めています。

そして、『ドルチェ&ガッバーナ』の香水もかなり使い込んでいます。楽曲制作に携わった瑛人の『香水』を思い出す人も多いかもしれませんが…(笑)。この“Velvet Desire”は、ローズの優しい香りで、華やかな雰囲気。ワンピースなど、カラフルなファッションに合わせたくなりますね」

1日の終わりに、お香に火をともしてスイッチオフ

DANLOWのお香

​ブックオブインセンススティック/Danlow

「お香には、これまであまり興味がなかったんです。和の香りか、アジアン雑貨屋さんで嗅ぐオリエンタルな香りというイメージが強くて。でも、この『Danlow(ダンロウ)』のインセンススティックに出合って、イメージがガラリと変わりました。

一気に部屋の印象を変えてしまうほどの強い香りではなく、自然に部屋に広がって消えていくので、ベッドルームで使うのにちょうどいい。夜寝る前に『今日はこれ』と、引き出しを引いて、お香に火をともし、なくなる頃には自然と眠りに落ちている。一日の終わりに心を落ち着かせ、リラックスして過ごすためのアイテムです。

4段の引き出しに、それぞれ別の香りのお香が入っていて、その日の気分でセレクトできるのも楽しいですし、海外に住む方へのギフトにも喜ばれますよ」

あると安心・便利な“日本のいいもの”

懐紙

懐紙と裁縫セット

「年々、日本の“いいもの”を見直すことが増えました。ちりめんでできた裁縫セットもその一つ。お洋服をちょっと引っ掛けてしまったり、ほつれてしまったりしたときって、一日中そこが気になって気分も落ちてしまう。だから、どんなにバッグが小さくても必ず入れています。プロデュースするアーティストの現場にスタイリストさんがいないときに、この裁縫セットで少し衣装を繕うこともあります。

懐紙は、いろいろな使い方ができる便利アイテム。お菓子をいただいたとき、お皿代わりにしたり、メモに使ったり、リップを抑えるのに使うこともあります。というのも、小さい頃から祖母や叔母が茶道を習っているのを見て育ったんです。そこで懐紙を広げてお菓子を切ったり、包んだりする光景に、『なんてしゃれているんだろう!』と衝撃を受けました。そんな身近な大人たちの影響もあり、懐紙はますますなじみ深いものになりました」

自分のルーツ、韓国のコスメもお気に入り

RUNG HYANさんのコスメ (左から)シマリング グロー デュオ 01/THREE センシュアル フィッティング グロウ ティント 467 ジンジャーセンティッド/HERA リベレイティッド マット リップス 03テラコッタ/Celvoke 

(左から)シマリング グロー デュオ 01/THREE センシュアル フィッティング グロウ ティント 467/HERA リベレイティッド マット リップス 03/Celvoke 

「普段はすっぴんで過ごすことが多いですが、リップと眉毛、ハイライトだけは欠かせません。バッグのスタメンはこの3点。今日の撮影でも使用した『HERA(ヘラ)』のリップは、ブラウンがかった赤で、これからの季節にも活躍しそう。私のルーツである韓国のブランドで、本国ではデパコス的なちょっと高級なイメージです。『Celvoke(セルヴォーク)』の赤味の強いオレンジ系リップも、顔色が明るくなるので重宝。『THREE(スリー)』の“シマリング グロー デュオ”は、ハイライト&チークベースですが、瞼にアイシャドウとしても塗れて、マルチに使えるのでおすすめです」

考えごとで頭皮がガチガチに。救世主のケンザンブラシを2個使い

「考えごとが増えると頭皮が硬くなりやすいようで、ヘアメイクさんに『これは相当の硬さです』と言われたことがあります(笑)。それで使いはじめたのが『uka(ウカ)』のスカルプブラシです。4種類から硬さを選べて、私が選んだのはいちばんハードな“バリカタ”。これを両手に持って頭全体をマッサージしています。ぐるぐるとマイナスな思考が止まらなくなってしまうときは、自分の中に空白をつくるようにしていて。お風呂につかりながらこのブラシでマッサージしていると、だんだん頭の中も心も落ち着いてくるような気がします」

頭皮をマッサージするRUNG HYANGさん

円形脱毛症に悩んだ過去。快方に向かったきっかけは“自立”

「実は、30代のある時期、円形脱毛症に悩まされていたことがありました。いくつかの脱毛班が徐々につながって、両方のこめかみのワキあたりから後頭部へぐるりと髪の毛がなくなってしまって。病院にかかると、おそらくストレス性のものだと言われましたが、心当たりがまったくありませんでした。忙しいけれど仕事は楽しいし、つねにいろんな人と会って、毎日充実しているし…ストレスなんて皆無だと思っていたから。でも、本当は負担を感じていたのかもしれません。

治療のために、漢方やステロイドなどいろいろ試しましたが、ほとんど効果はなし。その時期、私はよく帽子をかぶっていて、それがトレードマークになっていましたが、円形脱毛症を隠すためだったんですよね」

RUNG HYANGさん

「それが、離婚後の自立をきっかけに、改善していきました。別れた当初は、自分の選択に後悔はなかったものの、一人で過ごす時間が増えて孤独感を感じるように。それまではずっと誰かと一緒にいて、寂しいときは人に助けを求めていたから。でも、少しずつ一人の自分を認められるようになっていきました。

そんななかで気がついたのは『孤独はずっとあるもので、飼い慣らすものなんだ』ということ。孤独をなくそう、なくそうとするのではなく、受け入れることで苦しさがやわらいでいくことに気がついたんです。

私には、自分を見つめる時間が必要だったんですね。それまで休みなく仕事をしてきて、とにかくその勢いを止めまいとしていた。でも離婚をきっかけに、その勢いが一度止まったんです。そうしたら不思議なことに、脱毛症もよくなっていきました。それが、自立できた瞬間だったんだと思います」

ヘアもハンドも、オイルで丁寧にいたわる

(左から)uka scalp brush kenzan ブラック/uka オーセンティック オイル/davines マスク&エア リフレッシュナー/john master organics × UNDERSON UNDERSON  uka nail oil 24:45/uka

(左から)uka scalp brush kenzan barikata/uka オーセンティック オイル/davines マスク&エアリフレッシュナー/john masters organics × UNDERSON UNDERSON uka nail oil 24:45/uka

「ヘアスタイルはずっとショート。『davines(ダヴィネス)』の オーセンティック・オイルは、もう3本目で、乾燥しやすい髪質なので重宝しています。寝る前にコーティングとしてつけたり、スタイリングするときは『Lebel(ルベル)』のMoii(モイ)バームと混ぜて使うことも。オイルだけだとセット力がないし、バームだけだとベタつく。混ぜることでちょうどよいバランスにセットできます。

『uka(ウカ)』のネイルオイルは、手軽なマインドケアに。指先がかさつきやすいので、これを塗ってマッサージしているとリラックスできます。私がプロデュースするアーティストにも、撮影前やライブ前の緊張をやわらげるため、このオイルでハンドマッサージしてあげることもあります」

“孤独”と“自立”から、セルフケアの大切さを実感。シンガーソングライター・プロデューサーRUNG HYANGさんの「バッグの中身」_12

仕事道具のiPadやAirPods Pro、SanDiskのメモリードライブ

「主宰する『ルンヒャンゼミ』という音楽塾では、これまで本当に才能ある教え子たちに恵まれました。アーティストとして活躍する教え子もたくさんいますが、やっぱり音楽業界で一人で戦っていくって、すごく大変なことなんですよね。アーティストのまわりにはたくさんスタッフがいるように見えますが、実はメンタルケアをできる体制が整っていないことが多い。それもあって、私ができることはしてあげたいなという気持ちがあります。

教え子たちとは友人のような関係です。私は、全然“先生”なんかではなく、実はポンコツで弱い人間だということを、彼らもちゃんとわかっているはず(笑)。でも、そんな私がなぜ人に教えたり、プロデュースしたりすることを続けるんだろうと考えると、それが私のセルフケアでもあるからだと思うんです。自分の持っているもので必要とされること、役に立つこと、それがいちばん力になると感じています」

あの日の思い出を胸に。前向きな気持ちになれる2冊

(左)小さな幸せ46こ/よしもとばなな(中公文庫)(右)独立記念日/原田マハ(PHP文芸文庫)

(左)小さな幸せ46こ/よしもとばなな(中公文庫)(右)独立記念日/原田マハ(PHP文芸文庫)

「読書も大切な時間のひとつです。原田マハさんの『独立記念日』は、いろんな女性たちの別れや挫折、人生の旅立ちを描いた短編小説で、元夫との離婚が決まったときに、彼の母親がプレゼントしてくれた本なんです。義理の母は、家族というより女友達として私をずっと応援してくれていて、離婚を決めたときも『寂しいけれどあなたの素敵な未来を応援してる』と背中を押してくれました。なんて素敵な人だろう、と思ったことを今でも覚えています。離婚はネガティブなことだと思われがちですが、私にとってはまったくそんなことなかった。それは最終的に送り出してくれた元夫はもちろん、彼女や家族の空気感も大きかったと思います。

よしもとばななさんは、甘くて淡い、だけど毒っけがある世界観が好きで、昔からよく読んでいました。インスピレーションを受けて作った曲もいくつかあります。実は、まだ音楽だけで生計を立てられない時期に焼肉屋さんでバイトをしていたのですが、ばななさんのご家族がそこの常連さんで。作ったCDをプレゼントしたり、私がサポートしている演奏家(その焼肉屋さんの息子さん)のライブにも来てくださいました。『小さな幸せ46こ』は、最近買ったエッセイ集。短編なので、ちょっと時間が空いたときや、移動時間にサラサラ読める一冊です」

本を読むRUNG HYANGさん

セルフケアアイテムも音楽も、あれば豊かになれるもの

「いろいろな経験を通して学んだのは、“足るを知る”ということ。人の手を借りてなんとかしようとするのではなく、自分の孤独を認めたからこそ得られるものがある。そのうえで、こうしたケアの浸透率もグッと高まったように感じます。『今、必要な場所に必要なだけちゃんと届くんだ』という実感があるんです。

セルフケアアイテムは音楽と一緒で、なくても生きてはいけるけれど、あれば豊かになれるもの。あちこち痛んで、ゴワゴワになりながら進んでいくよりも、やっぱりちゃんとケアをして、身も心も滑らかにありたいなと思うんです」

RUNG HYANGさん

●Information
10月19日に発表したニューシングル『嫌いな人』を含む全5曲を収録した、ニューEP『ROMANTIA』を11月9日に、リリース予定。また、同作のリリースパーティーが12月12日に代官山UNITにて開催決定。ゲストに向井太一が出演する。現在、チケット発売中。

撮影/井手野下貴弘 取材・文/秦レンナ 企画・編集/種谷美波(yoi)