「お金のため」と仕事で我慢をしすぎると、やっぱり心が不健康になってしまいます
写真を生業として毎日を楽しもうとしているパートナーの生き方からは、インスピレーションをもらえます。
社会で生きていくうえで欠かすことができない“お金”。正直、お金の話はつい遠慮しがちですが、お金がなければ、好きなことができなかったり、自分らしく生きていくのに不自由さを感じることがあるのも事実。とはいえ、お金を稼ぐために自分らしさを失ってしまったり、逆に自分らしさを貫いた結果、生活が苦しくなってしまっては元も子もありません。お金とのつき合い方は本当に難しいもの。お金について、吉川さんはどう考えているのでしょうか?
「お金の稼ぎ方っていろいろありますよね。時間をかけて稼ぐ人もいれば、お金持ちと結婚して手に入れたい…なんて人もいるかもしれない。やりたいことで稼ぐ人、やりたくはないけれど割りきって稼ぐ人、本当にいろいろですし、どれが正解、というのはもちろんないと思うのです。
僕の場合はフリーランスのメイクアップアーティスト・クリエイターとしてお金を稼いでいますが、最初からこれで稼ごうと決めていたわけではないんです。そのとき、そのときに選択した結果が今の姿になっているのですが、その選択の基準は、対価ではなく『楽しいかどうか』でした。
お金を稼ぐことと、人生を楽しむことって、それぞれが別のベクトルで進むということもあり得ますが、僕はそれを一緒にしたほうがいいんじゃないかと常々感じてきたように思います。これは僕の経験からなので一概には言えないかもしれませんが、僕自身、仕事に対して『どうしてこれをやっているんだろう?』という疑問をあまり感じていないんです。つまり、自分にとって楽しいことをして、お金を稼いでいる、という感覚です」
大好きな環境の中で生活して僕にできること。それがUNMIXでした。
「人は、仕事を選ぶとき、『将来的にどういう生活をしたいか』だったり、“物を作りたい”などの 『自分は何をしたいか』という自分の希望について大ざっぱにでも考えて、それに近い仕事を探しますよね。その基準は人それぞれ。会社のネームバリューが大切な人、お給料が大切な人、会社という環境が好きな人、業種で選ぶ人…そこにはいろいろな“好き”があります。その“好き”をベースにして、『これから自分はどうしたいのか』『そこに近づくためにはどうしたらいいのか』ということを、ずっと考えさせられつづけるのではないかと思います。たとえお金が稼げても、“好き”という要素がまるでない、自分に向いていない環境の中で働きつづけるというのはつらいなって思う人もいるだろうし、ほかのことが楽しければそれでいいと思える人も、もしかしたらいるのかもしれない。
僕は、これまでさまざまな人たちと仕事でご一緒してきましたが、“好き”や“興味”を見失っている人は、つらそうに見えてしまう。それは、自分に向いていないことをすると、自分に自信がなくなるし、それが大きなストレスにもなってしまうと僕自身が感じるからなのかもしれません。
『会社員よりフリーランスのほうが自由な分、ストレスが少ないか』といえば、それも違うと思うのです。フリーランスは、自分でコントロールを利かせられなければ、それこそ年中無休で仕事する人もいるわけだし、それはそれでつらいですよね。会社に属す、属さないに関係なく、お金を稼ぐための仕事にまつわる悩みは、きっと平等に尽きないのだと思います」
“こんな場所で大丈夫?”と思うようなところにもきれいな花は咲くのです。
「だけど例えば、仕事をする組織の中で自分が苦しいと感じるのなら、この苦しさは何が原因なのかを考える、ということは大切なんじゃないかな。なぜこんなことを言うかというと、お金は稼がないといけないんだけど、“心が苦しい”というのは不健康だと思うからです。
稼ぐということは、対価として自分の時間を差し出しているわけだから、『お金のため』と割りきって苦痛をただ我慢するのではなく、苦しいならその気持ちを少しでも解決するように考えたほうがいいと思いませんか? だって膨大に費やされる仕事の時間が苦痛だなんて、人生あまりにももったいなさすぎます」
仕事もプライベートもどちらも自分の時間。だったら少しでも楽しいほうがいいですよね
日本でヘア&メイクアップアーティストとして活動しつづけ、それなりの対価があったであろう30代でそれらすべてを手放し、単身NYへ渡った吉川さん。生きていくために必要なお金の不安はなかったのでしょうか?
「新たな挑戦に自信があったわけではないですが、お金の心配はあまりしませんでした。自分が一生懸命やっていれば、必ず何かの結果が見えてくるはずだし、あのときは、とにかく自分の好きなことに向かっていきたかったから、ああするしかなかった。『ここで我慢するより、あっちのほうが楽しそう』と、虫が明るいところに行くみたいな感じで(笑)。
でも、できなければやめるしかないとは感じていました。やめたからといって、決してそれが不幸なことなのではないですし、やめる決断をするときには、次の人生を真剣に考えますよね。これって失恋と似ていて、恋人を失ったからといって、その後一生一人でいることが決まった、というわけではありませんよね。それと一緒で、目の前のひとつのことを決定したからといって、これから先ずっと同じというわけではないんです。
よく、『お金は二の次で、好きなことを仕事にする』か『プライベートを充実させるために割り切って、お金のために仕事をする』か、ということが議論されますが、そもそもこの分け方がどうなんだろう…。仕事もプライベートもどちらも自分の人生なのに、その2択だけに絞るのはおかしな話で、自分の時間すべてを楽しめたほうがいいと僕は思うんですよね。
結局、そのとき、そのときの決断で、自分の幸せの基準に合うほうや自分が心地よい方向を選択していけばいいんじゃないかな。今の状況を客観視し、自分が心地よくいられるのか? もし、心地よくいられないのであればなぜ? と考える。心地よくするための工夫はすべきで、そこは『お金のため』だからといってあきらめないほうがいい。
お金だけにしがみついていると、せっかくのチャンスを無下にしてしまうこともあるし、いざ自分が本当にやりたいことが出てきたときに、経験不足でできなかったり、何かを始めたいという気持ちすら湧かなくなってしまったり。だからこそ、自分が好きなこと、興味があることについては、対価だけを求めるのではなく、とにかくかかわって楽しんでみるのもいいかもしれません。そこから広がっていくことって、いっぱいあると思いますよ」
そもそも、好きそうなこと、興味があること、自分ができそうなことを基準に仕事を選んだはずと言われれば、確かにそのとおり。だからこそ、今そこに楽しさを感じないのであれば、何が原因なのか見つめ直すべきなのかもしれません。お金とは一生つき合っていくからこそ、いま一度、自分にとってのお金の意味を考えてみたいですね。
取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 吉川康雄 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)