情報が“すべて”とは思わず、“一部だけ”という観点を忘れずに
夏のあいだ、景色をブロックしていた藪の葉が落ちて夕暮れの光が透けて見えた。
行ったことがない場所のことも、会ったことがない人の話も、歴史的なことからニッチなことまで、ありとあらゆる情報をオンラインで手に入れることが可能になった現在は、とても便利な世の中といえます。半面、知らなくてもいいことまで目に入ってくることで心が乱されたり、疲れてしまったり。かといって、スマホを手放して情報をシャットアウトする…というのも現実的ではありません。情報過多な今の世の中で、情報に振り回されないように生きていくにはどうしたらいいんでしょう?
「この問題は、年代に関係ありませんよね。若い人たちのほうが、ある意味無防備に情報のシャワーを浴びている分、影響されやすいかもしれませんが、“情報に振り回される”という点においては、年齢は関係ないんだろうと思います。
興味があること、知りたい内容は人それぞれだと思いますが、例えばWEB検索についていえば、個人的なコンプレックスや悩みに関する情報を積極的に求める人って多いような気がします。すると、似たような悩みを持っている人、近い人たちの意見を目にする機会が増えていきます。そもそも、自分に近い意見はとても耳触りがいいですからね。そういう情報ばかりに触れていると、それだけを信じてどんどん深みにハマっていってしまう。さまざまな情報を拾っているように見えても、同じようなキーワードで検索すればするほど自分の好みに近いものばかりが集まってきてしまうから、逆に世界が狭まっていってしまう。そういう危険性もあるんじゃないかなと感じます。
もちろん、その情報によって『悩んでいるのは自分だけじゃない』と、勇気づけられ、頑張るきっかけになるのであればいいんです。でも、自分のネガティブな心が増大され、人と比べて自分の姿かたちに思い悩んだり、素敵な人たちの生活を見てますます落ち込んだり、自分のことが嫌いになってしまったり…だと、ちょっとつらいですよね。これは、情報とのいいつき合い方とは思えません」
時間とともに自然と一体化したミステリアスな鉄道 。
「ちょっと考えてみてほしいんです。素敵な生活をしている人も、かっこいいビジュアルも、画面に映っているのはあくまでも人に見せるための一部分。その姿がその人のすべてだと考えないほうがいいんじゃないかな。
僕は、SNSはコマーシャルツールだと思うんです。個人や企業が自分をよく見せるためのツールとでもいえばいいのかな。だから100%ピュアの情報だと信じても、誰かのそういうアイデアが入っているかもしれない。
SNSをはじめ、WEB検索の情報は、そういうものだと思ってきたから、すべてを信じないで、その情報に触れたときに感じた直感を大切に、最終的には自分でジャッジするようにしてきました。情報を鵜呑みにしてしまうと、それこそ情報に振り回されてしまいますから」
情報は自分に答えを出してくれるものではなく、あくまでも考えるきっかけを与えてくれるもの
美しいテクスチャーのグラフィックアートは広告の文字が風化したもの。
確かに、言われてみれば私たちは、WEB検索にせよSNSにせよ、見たままの情報を信じ、自分にとって都合のいいことだけを無意識に取捨選択しているのかもしれません。
「自分の行動や考えを正当化したり、自分の存在を肯定するために、ある情報を妄信的に“信じたい”という気持ちは誰にでもある気がします。でも、情報はあくまでも情報。僕はこの連載で自分の考えを発信していますが、すべての人に僕が言っていることが響くとは思っていないし、『ちょっと違う』と感じる人がいるのも当然だと思っています。大切なのは、あくまでも自分。何かの答えを出すのも、どんな情報を生かすかを決めるのも、すべて自分自身。
情報は、自分自身や生き方にYES or NOを出すものではなく、あくまでも考えるきっかけを与えてくれるもの。他者から得た情報によって、自分を何かのカテゴリーに入れる必要なんてないんです。もちろん、どこかに属することに安心感を覚えるのであればそれでもいいけれど、本質を言えば、みんな違って当たり前なんですから。
ちょっと近い考え方に、“親友”に対するとらえ方がありますよね。なんでも自分と一緒だと思っていると、ちょっとした食い違いがあるだけで失望し、落ち込んでしまう。『失望の根源は期待にある』なんて言葉もありますが、『あの人はわかってくれる』『私のことを好きなはず』というような期待は、自分が勝手につくっているものです。“情報”もそれに近い感覚。だから、信じすぎず頼りすぎないで、考えはじめるためのスタート地点くらいにとらえたほうがいいんじゃないかなと僕は思います」
情報によって踊らされるのではなく、自分にとってはどうなのかを考えてみるクセをつけ、適度な距離感を持って接していく。そんな風に情報と付き合っていけたら、少し楽になれそうですね。
取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)