少子化問題って、女性を取り巻くさまざまな社会問題と根本でつながっている。だから今回、話したいと思った
強い風で飛ばされた元気な桜の花。
毎月の取材中に、いろいろな気になることを話していくうちに見つかる吉川さんの連載テーマ。テーマが決まれば、さらに話を掘り下げていき、吉川さんの考えや経験が言葉となって紡がれます。こうやって発信されているyoiの連載ですが、今回は事前に吉川さんからテーマ提案がされました。それが「少子化問題に絡んだ女性の働き方」についてです。
「今回、僕からテーマを提案してみましたが、だからといってこの問題の答えが見えているわけではないんです。ただ、この少子化問題って、さまざまな女性問題や社会問題と根本的につながっている気がしたので、yoiを通して、皆さんと話してみたかったんです。
日本では『異次元の少子化対策』の発表などもあり、この問題を目にする機会が増えているんじゃないでしょうか。でも、一時的に給付金を支給したからといって解決できるような簡単な問題、だなんて僕には到底思えません。だからといって、何か解決できる術を僕が持ち合わせているのかといったら、残念ながらそうではないのですが…。こういった問題提起や意識は常に発信していったほうがいいのかな、という思いがあったんです。
もちろん、これまでの提案のように、自分の心持ち次第で明日からできる、なんてことではないけれど、女性が生きにくい社会の原因は意識したほうがいいのかな、と。だからこそ、今回はこの問題を取り上げたいんです」
女性ばかりに負担がのしかかる育児は、やっぱりおかしいことだと思いませんか?
似ていないチューリップ同士のカップルショット。
「女性に関する社会の問題って、それこそ課題がたくさんあるし、歴史が長すぎてひとつに集約することなんてできません。正直、どこから手をつけていいか、わからなくなってしまいますよね。
これは僕の個人的な意見ですが、問題解決のひとつの糸口になるのは女性の働き方にあるんじゃないかな。今から40年ほど前に施行された男女雇用機会均等法や核家族化をきっかけに、現代は、女性も男性と同じように外で働き、夫婦で協力して家計を担うようになるのが当たり前の世の中となりました。その結果、夫の収入だけに頼らず、一見、平等に協力し合えていい形のようですが、それゆえに、女性が妊娠し、子どもを産んで産休や育休を取ると、金銭的に生活が成り立たなくなってしまう家庭も多いでしょうし、何よりも女性のキャリア形成に大きなダメージを与えます。今は、制度として、産休や育休は働く人の権利として取得できるようになっています。一般的に企業は産休・育休を保証さえしていればOKだと思っているふしがありますが、それがそもそも違うと思うんです。
育休中は経済的にも厳しくなるし、子どもが保育園に入って復職したとしても、時短で働いたり、熱が出て急な呼び出しがかかる…なんてこともしょっちゅうあります。たとえ小学生、ティーンエイジャーになっても子育ては終わらないどころか、今の世の中だと、どんどん大変になっている家庭は多いと思います。なのに、企業では、子育ては小学校に上がれば終わりと思われがち。さらに、なぜか『育児は女性が対応するものだ』という社会通念もいまだに根強い。共働きで家庭を支えているなら、子どもができたら育児も男女平等に関わって助け合うのが当然。そのためには、社会的にも育児のための時間が、男女ともに工面できる仕組みにならなければいけないはずなのに、それがないから女性だけに負担がかかっているのが現状ではないでしょうか。僕は、社会と企業がそのことを認識し、男性の意識も変えていきつつ動かないとダメだと思うんです」
女性の能力を眠らせて活用しないのは、女性一人一人にとっても、日本にとっても大きな損失です
元気な白い花びらの絨毯を見つけた。
「まずは、少子化を解決するために女性の働き方を見直すべき、という以前に、子どもができることで働きたくても働けなくなる女性たちの自分らしく生きる権利や、社会に与える損失の意味をしっかり考えたほうがいい。『この仕事(女性)の代わりはいくらでもいる』『女性には休んでもいいように簡単な仕事しか与えない』なんて考え方は、社会が女性を軽んじているように思えてならないんです。
僕は、長らくファッション業界に身を置き、素晴らしい仕事をする女性たちを目の当たりにしてきました。その後、化粧品開発をするにあたり、一般企業ともお付き合いをするようになって感じたのは、日本の社会は女性の能力を十分に引き出していないということ。いずれ妊娠して、子どもが生まれれば産休を取ることを前提に、期待しない、もしくは、いなくなっても困らないようにする雰囲気を感じてしまいました。
そもそも、妊娠、出産するかどうかにかかわらず、女性というだけで出世できないのは不平等だし、そこに性が入ってくるのはおかしいのではないでしょうか。もちろん、仕事が好きで、できる女性もいれば、仕事ではなく、家庭に入りたい女性もいるでしょう。このことは男性もしかり。つまり、そこには性差はなく、あるのは個人の考え方の差。なのに、最初から女性の仕事にはリミッターを勝手に設けているとしたら、それは女性たちが自分らしく生きる機会を奪っているということになりますよね。それに、それだけすごい数の能力が眠ってしまっているなんて、ただでさえ人口が少なくなっていく日本社会にとっても本当にもったいないことです。
今の世の中、自分の能力を生かせていない、出せる場所がない女性が多すぎる。そういう女性にはやはりもっと活躍してほしいな、というのが僕の思い。能力とは関係なく、男性だけが出世していくのをしょうがないことと、あきらめてしまっては状況は変わりません。だから、この問題を社会全体で“意識をする”ことが大切なのです」
世の中の不条理はそう簡単には変えられないかもしれないけれど、まずは問題意識を持つことが大切だと吉川さんは話します。後編では、さらにこの問題の根源に迫ります。
取材・文/藤井優美(dis-moi) 撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)