グローバルな世の中では、女性の能力がますます必要になってくる

桜の木

無作為にそこのあるものすべてが集まってまとまりのない美しさを感じます。

吉川さんから提案された「少子化問題に絡んだ女性の働き方」について。吉川さん自身、この問題の答えが見えているわけではないけれど、あらゆる差別や女性の働き方、これまでの社会通念など、さまざまな問題がつながっているからこそ、意見を発信していきたいと語ります。

「そもそも子育ては夫婦で行うべき、ということを論じる前に、女性が仕事で差別されないようにすることが重要ではないでしょうか。世界経済フォーラムが公表した2022年のジェンダーギャップ指数の日本の総合順位は、146か国中116位(前回は156か国中120位)とほぼ横ばい。国際的には、日本はやはりジェンダー問題において大きな遅れを取っていると感じざるをえません。

同じだけの能力があるのに、性差だけで仕事内容が違うというのは非常にもったいないこと。これだけグローバルな世の中になってくると、こうしたことは世界との大きな差になるのは火を見るよりも明らかではないでしょうか。高いポジションで働く女性もいるかと思いますが、上に行くほど、その役職の任命を男性が決めていることが多いように思います。もしそうなら、その構造自体が差別だと思うし、多くの分野で性差関係なく仕事ができる状況に向かわないといけないと思うのです。僕はこういった仕事においてのジェンダーバイアスも、少子化の一因なんじゃないかと考えています」

古い価値観と新たな価値観がせめぎ合う現代、そのストレスの多くが女性に向かっている気がします

新緑

新しい季節が始まる予感。

女性の生き方や働き方に原因を問われてしまうこともある少子化問題。しかし、女性は妊娠、出産や育児の負担も大きく、それでいて仕事では完璧さを求められ…。仕事と家事の両立はつらいことばかりがクローズアップされて、もはや子育て自体が“無理ゲー”とまで揶揄されるほど。

「現在は新しい考えと古い考えがぐちゃぐちゃになって、そのストレスの多くが女性に向いてしまっている気がしてならないんです。どうやったって、幸せな子育てがしにくくなっている。仕事しながらがんばって子育てをしているのに、『責任ある仕事ができていない』『子どもを育てるのは母親』なんて、世の中に文句まで言われてしまう。男性、もしくはそういったメッセージを発信する側も、仕事と子育てを一人で責任持ってやるっていう状況が可能かどうか?まずは想像してみたらどうでしょうか? 考え方の移行期である今、よりよい社会を作るために何をしていったらいいのか、今を生きる一人一人が考えなければいけないですよね」

個々が感じる不都合を意識していく。このムーブメントが大きくなっていけば世の中はきっと変わります

森の中にふと見つけた白い花

森の中にふと見つけた白い花は来年も見にくるけどきっと少し違う。

「結婚はしたくない」「子どもはいらない」というのは個人の自由です。でも、その理由が、本当はしてみたいけれど、「女性の負担が大きいから」「経済的に育てられないから」であるとしたら、その原因を解決しなければ少子化問題は前に進みそうもありません。

「多様な働き方を実践できている人やフリーランスはまだごく一部。多くの人は何らかの組織に属しているからこそ、すべての企業は個々が感じる不都合さをもう一度ピックアップし、考え直して、切り拓いていかないといけないときにきています。

産休・育休が推進されてきたとはいえ、その人材的フォローでさえ、僕の見てきた限りではまだまだ不十分ですし、仮に産休・育休に入った人の代わりに人員を補充すればOKということではなく、産休・育休に限らず、組織として個人の生き方を尊重できる働き方や体制を作ることが大事です。『誰かが休んでも組織が回るようにする』ことはもちろん必要ですが、『事情があって休む人に対しても、企業の中で育成されたその個人のキャリアの価値を尊重し、それゆえのフォローをする組織になる』ことができれば、もう少しポジティブに子どもを育てることについて考えられるようになるのでは、と思うんです。

女性にクローズアップしてお話ししましたが、このことは男性に置き換えてもいえること。男性だって女性と同じように育休を活用し、子どもが熱を出したときに普通にお迎えに行けるような環境になれば、女性一人ではなく、二人で働きながら子育てができるようになるんです。でも現状では、子供を持ち育てるための責任の多くを女性に押しつける風潮があるからこそ、育児でキャリアを失うのは女性が多くなる。だからいつまで経っても多くの男性には、『なぜ少子化なのか?』その原因が感じられない。そして、残念ながら日本企業のトップは男性が多いのです。男女一緒に子育ての責任を負う時代になれたら、企業にも男性にもキャリアと育児の両立のハードルの高さを感じることができるし、そこからやっと、やるべきことがちゃんと見えはじめてくると思うのです。

古い価値観を持ったジェネレーションを今すぐに変えるのは難しいとは思いますが、その人たちの時代はいつか終わります。でも、世界との差を考えると遅すぎるかもしれませんし、さらにまずいのは、時代が変わったのに価値観が変わらないこと。だから、今何かしらアクションをする必要があるんです。

性別にかかわらず、いろいろな考え方の人がいる。それなのに、これまでの価値観で『男性だから、女性だから、こうしなさい』というのは、やはり考えが偏ってしまうし、いびつな関係になり、結果、少子化につながっていってしまっている。そんな今の状況を分析もせず、小手先で解決しようとするのは、やっぱり根本的に間違っている。だからこそ、急いでどうにか変わっていかないと、と僕は焦ってしまうんです。

この問題は、一人ががんばって解決できることじゃないし、10人集まっても、1000人集まっても変わらないかもしれない。それよりも、もっともっと全体の話。社会にとってとても大きな問題です。でも、元を正せば、家庭や子育て、働き方など、個人の問題が、そのままつながっているんです。

世界ではいろんな人種や個々人の考えの違いによるダイバーシティの新しい風が吹いていますが、島国の日本ではなかなか感じにくいこともあるかもしれません。でも、ジェンダーギャップやそれに関連する少子化の問題は、世界に吹いているダイバーシティの風と同じように、日本において今考えるべきことなのではないでしょうか。

ワンジェネレーション前は、世界でももっと多くのジェンダーギャップがありました。でも、どんどん変わっています。その変化のスピードは各国で違いますが、みんながさまざまな経験を得て、どう感じ、生かしていくのかで、その差が生まれてきているんだと思います。

今すぐには変わらなかったとしても、自分が経験して感じたことやヘンだと思うことに問題意識を持つことが大切。それがきっと世の中を変えていくこと、そして少子化を解決するひとつのきっかけになるはずです」

さまざまな課題が絡み合い、とても一朝一夕には解決はできない少子化問題。とても大きな社会問題ではあるけれど、実は自分たちが日々感じている社会のひずみの結果なのかも。「自分とは関係ない」とは思わず、今一度このことについて考えてみよう、と吉川さんは呼びかけています。

吉川康雄

メイクアップアーティスト

吉川康雄

1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

取材・文/藤井優美(dis-moi)  撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)

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