年齢に関係なく、誰でもダイナミックに変化し続け、今の自分を作っているんです

吉川康雄 世界はキレイでできている 夕日 変化

昔訪れたカボサンルカスの静かな赤い夕日。でも毎日違うんです。

さまざまなことが変わったこの3年間。パンデミックや戦争を目の当たりにしたことで、私たちのこれまでの価値観や常識、生き方なども大きく変化しました。そんな中、連載でさまざまな思いを紡いでいる吉川さんは、これまで以上に何かを強く思うようになったり、気になることができるなど、ご自身の心境に変化はありましたか?

「変化は常に感じていますよ。とかく子どもや若い人たちだけに成長期があり、ダイナミックに変化していると思われがちですが、大人も同じ。僕自身のことを考えてみても、以前の僕と今の僕とではやれることが変わってきているし、それによって物の見え方が変わったり…。ひとつの変化、それが一見ネガティブなものであっても、ドミノのようにいろんなことに影響して、大きく自分を変えていく。そんなことを感じつつ、最近思うことは、大人も子どもの成長と同じように変わり続けているんだな、ということです」

吉川康雄 世界はキレイでできている 桜 変化

豪華な桜の花が散って、用水路にひっそりと花びらの絨毯を作った。

「がむしゃらに毎日ファッション撮影をしていた頃は力と想像力の勝負でしたから、エンドルフィンが出まくっていたのか、『自分はなんでもできる。なんなら年なんて取ったりしないんじゃないか』という感覚があったほどエネルギーに満ち溢れ、“変化”に対して鈍感だったかもしれません。そこから年を重ね、少しずつですが、前と同じようにできなくなっていることがあるなと気づき始めます。ずっと『いつも前進! 昨日よりは今日!』だったはずなのに、前よりも今のほうが“できない”ことがある。最高に頑張っても、いいところ現状維持…。

昔は自立心がベースになって『全部できる!』『できないことはやれるようにしよう』というのが僕の生き方の中で当たり前だったけれど、本当にできないことは頑張ってもできないんです(笑)。そんな自分の変化を受け入れると、正直に人にお願いすることができるし、謙虚な姿勢で人と会えるようになりました。そういう意味でUNMIXから学んだことは多く、僕はプロダクトを作れるけど、それはいろいろな人の力を借りながら世に出ていくんだな、と。

“変化”って、大人になるとその波がもっと緩やかになるのかと思っていましたが、思春期と同じぐらいダイナミックなんですよね。といっても、決して変化=ダウンしているわけではありません。よく“劣化”なんて言葉が使われることがありますが、それとはまったく違います。なぜなら、変化によって今まで持っていたものを失ったかもしれないけれど、同時にそれ以外のものを手に入れているはずだから。

実はこれ、美容にも通じていて、表面的なものだけをその人の魅力と捉えていたら経時で失っていくものもあるけれど、そこに経験や考え方など、パーソナリティが重なり合うことで、表面的ではない、その人ならではの魅力になっていくんだと思うんです。

だからこそ、『変化は、劣化ではないよ』と僕は強く伝えていきたいけれど、女性たちは長い歴史の中で、外見の美をずっと問われがちだったから、変化を劣化と捉えてしまったりも。でも、人の魅力は決して表面的な見た目ではありません」

僕にとって旅とUNMIXから広がる世界が、クリエイティビティの刺激に

吉川康雄 世界はキレイでできている グレーの夕日

静かだけど、毎日変化しているカボサンルカスの夕日。この日は温かみのあるグレーのサンセットでした。

昨日までは許せなかったことが許せるようになったり、仕事のミスが減ったり、人に優しくできるようになったり…。どんなに小さなでき事だったとしても、自分の内面に目を向けてみると、確かにいろいろなことが変化していそうです。さらに吉川さんには、どんな変化が訪れたのでしょうか?

「また旅をしたいなと思っていること。世界中の刺激に疲れてしまい、僕が求めているものがあると感じて居を移したコネチカット州の山の家。一歩外に出れば、四季折々の自然からさまざまなインスピレーションをもらえ、いい感じで創作できる毎日を送れるようになりました。新たに自分を刺激してあげるために、いろいろなところに行ってみたいな、という気分になったのが、最近の僕の変化かな(笑)。せっかくだから、アメリカの気になっていたところを車で訪ねてみたい。近いところからやってみようかな。自分の気持ちやクリエイティビティを刺激してくれる楽しいものがきっとそこにあると思うから、近い将来、絶対行動したいと思っています。

もうひとつのモチベーションは、UNMIXでのプロダクトクリエイション。

UNMIXのベースは、今の時勢を誰かが会議でまとめ上げたものではなく、僕が人生で見てきて感じたことや発見からできています。だからこそ、そのクリエイションは仕事ではあるけれど、限りなく自由。そして僕が本当に伝えたかった、作りたかった“お化粧って楽しい”という思いを丸ごと詰め込んでいるのです。

そんなUNMIXに込めた思いをSNSで伝えていきたい。それを見て実際に使った人が、その人だけの“キレイ”を見つけ、その喜びの声をタイムラインやメッセージで受け取れたら、そこに距離感はありません。僕が想像した美しさだけでなく、UNMIXを通して人の数だけの“キレイ”が目の前に広がって、そこからまたインスピレーションを感じられたら、とっても楽しそうだと思いませんか? “ただプロダクトを作るだけ”では絶対に見えない景色に触発され、やりたいことが増えていく毎日です(笑)。

僕の中では、旅とUNMIXはクリエイティビティの刺激。変化のためのスパイス的な存在なのです」

時にはネガティブにも捉えられてしまう変化ですが、人は変化するのが当たり前。そう思えば、自分はもちろん、他人が変わっていくことも素直に受け入れられるようになりそうです。変化の先には、きっと今までとは違う、新しい自分に出会えるかも!

吉川康雄

メイクアップアーティスト

吉川康雄

1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

取材・文/藤井優美(dis-moi)  撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)

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