自分を知るには、キメ顔とそうじゃないときの顔のコントラストを知ることが大切

実はみんな自分の顔を知らない  メイクアップアーティスト吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.41
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UNMIXビジュアルより。グラフィックデザイナーのアキさんの3ショット。メイク、髪、アングルが変わるとアキさんの印象が変わる。

スキンケアやメイクをする際に鏡を見るし、写真を撮ったり、撮られたりしているから、当然わかっているはずの自分の顔。でも、鏡で自分を見るときは顔をつくっているし、写真は加工するのが当たり前となり、自分の素顔=人から見られている顔を知らない人が多いかも!? メイクで自分らしさを引き出すには、本当の自分の顔を知らなければいけないと思うけれど、自分の顔を知るにはどうしたらいいんでしょうか?

「確かに、確かに。これは決して今に始まったことではなく、昔からみんな自分の顔を知りませんよ。鏡に映る自分の顔は、ほぼほぼキメ顔の自分。目線は必ず自分にあるわけで、別アングルの自分を見ようと思っても、鏡に映る自分の見える範囲だけしか見られない。それがプロと一般の人との違いでもあるんです。

しかも昨今は、自撮りやアバターとかで、自分の顔を理想基準で加工しちゃうでしょう。それはどう見ても自分の顔ではありません。自分に似ている別の人。もう、他人です。遊びとしてなら全然OKだけど、自分の顔を知ることにはなりません。自分がなんなのかも知らないのに、いろいろ加工をしてしまったら、余計に本質を見ることから遠ざかっちゃうんじゃないのかな。 

僕たちメイクのプロは、他人目線でいろいろな角度からその人を見ます。写真を撮るプロも、その人の魅力的なアングルを探します。ビジュアルのプロたちは、正面だけじゃなく、横からも、上からも、下からも見て仕上げていくのです。だからこそ、正面からだけしか考えられていないメイクではダメなんです。でも、普通の人は、正面ばかりで他のアングルがどんな顔なのか知らない人が多い。

他人に自分の顔を見せるプロであるモデルさんや、俳優さん、タレントさんは、横顔や、自分が見られないアングルの見え方を意識しているし、インタビュー中の表情でもいい感じで見せる訓練ができています。要するに自己分析ができているんです。自分が横を向いたとき、下を向いたときなど、さまざまな角度からの顔をわかっているから、目線がなくてもキレイに見せることができる。それができるようになるために必要なのが三面鏡。三面鏡をフル活用すれば、キメ顔はもちろん、横顔のアングルもチェックできるし、自分では普段見られない角度もチェックできますよね。

自分の魅力を知るには、キメ顔だけじゃなくいろいろな自分の顔を知ることが大切。その中にはヘンな顔も必ずあるはずです。人はそれを隠したがりますが、あえてイヤな言い方をさせてもらうと、僕は自分がブスだと思っている部分を、『あえて消さないように』と思っています。それはその人の個性の一部だから、それを残しておいてキメ顔も持っていればいいんです。

すべての人がおすまし以外の顔を持っていて、その2つが合わさるから、そこに面白さが出て味となり魅力となる。おすましの顔だけでは絶対につまらないのです。そういうところも含めて自分の顔を研究して、自分ってなんなのだろうって観察をしてみる。自分とは一生つき合うのだから、いろいろな角度で観察して生かしたほうがいいですよね。みんなが見ている正面顔が最高の顔とは限りません。だからこそ、いいアングルを絶対探してほしいなと思うのです」

自分のイヤなところも受け入れられるようになると、それがあなたの魅力になるはず

実はみんな自分の顔を知らない  メイクアップアーティスト吉川康雄「世界はキレイでできている」Vol.41
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UNMIXビジュアルより。ディスプレーセットデザイナーのジェニーさんの3ショット。個性にイエス! というポジティブなムードの女性でした。

近年は美容整形が身近になり、コンプレックスを克服する1つの方法にもなっています。自分を好きになるための手段ともいえますが、自分の嫌いを変えてしまうことに対して吉川さんはどう思いますか? 

「顔って不思議なもので、自分が思っているキレイな顔と、そうじゃない部分があって、それを併せたのがその人だから、自分では不細工だなと思っていたとしても、そういったことを受けとめることで、その人だけの魅力になるんじゃないかな。

受けとめるって、すごく視野を広げるんですよ。でも、自分を大切に思わないとできないこと。だから鏡を見るときは、100%自分の味方になってあげて自分の顔を分析する。そして好きなところは思いっきり磨き上げてみる。気になるところは違った角度や表情でチェックしてみて。そうするとその見え方が変わったりして、その人だけの魅力のある顔になるんだと思います。

憧れのハリウッドスターでさえも顔のバランスがパーフェクトか、といったら、案外そうではないんですよ。かっこいいといわれているブラッド・ピットだって、僕の第一印象では、クールな目元なのに、ふっくらとした唇が組み合わさって、アンバランスな顔立ちだなと感じたのを覚えています。今のAI技術で、ブラピの目元でハンサムな顔立ちを作成しようとしたら、あの唇は決してつけないと思います(笑)。でもブラピはかっこいい。それはあのアンバランスな顔立ちだから。演技と相まって、人が忘れがたい魅力になっていると思うんです。

美容整形に話を戻しますね。美の黄金率をベースにしたみたいなつじつま合わせの美容整形は、簡単に、もともとその人が持っていた魅力を消し去ることもあるかもしれません。もし、自分の個性の魅力を探究したいのなら、まずは整形や化粧で隠す前に、とことん自分の顔を見てほしいな。もちろん、自分のコンプレックスがどうしても耐えられないなら美容整形をするのもありかもしれませんが。

気に入らないアンバランスさはその人らしさの特徴。もし、一人の時間があるなら見てみてください。“イヤだな”という先入観を抜きに、ニュートラルに、心を無にして。かわいいとかブスとか思わず、いろいろな表情を見ることが大切。自分が嫌いだと思っているところも、なぜ嫌いなのか理由も考えて。実は自分では気になっていなかったのに、誰かに指摘されて嫌いになっていたとしたら、そんなくだらないことはありません。顔のバランスはその人の個性。イヤだから排除する方法を考えるのではなく、イヤなところも認められるよう自分で許容範囲を広げてあげる。

現代は“自分”という個性が生かせる時代なのに、目指す顔がみんな一緒になってしまったら面白くないし、もったいない。これまでのこり固まったかわいいではなく、一度自分の心の常識を捨て去って自分を見てみることが大切。それは、他人のことを見ても勉強になるはず。アラを探すのではなくいいところをどんどん探してみる。今こそ、そんな気持ちで 『自分の顔のバランスってなんだろう』ということを考えてみるといいですよ」

自分が思っているキメ顔はほんの一部でしかないこと。自分が好きではない顔を直視 するのは正直勇気がいることだけれども、それに向き合うことで本当の自分に出会えるのかも。今回はそんなきっかけをもらえた気がします。

吉川康雄

メイクアップアーティスト

吉川康雄

1983年にメイクアップアーティストとして活動開始。 1995年に渡米。2008年から19年まで「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターを務める。現在は、ニューヨークを拠点に、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレートなど、トップメイクアップアーティストとして活躍中。自身が運営するウェブメディア「unmixlove(アンミックスラブ)」で美容情報を発信する中、2021年春に「UNMIX」を立ち上げる。

取材・文/藤井優美(dis-moi)  撮影/Mikako Koyama 企画・編集/木下理恵(MAQUIA)

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