旅行をしやすくなったり、外に出て人と会うことが増えたりと、ここへきて活動の幅はぐっと広がってきましたが、長期化したコロナ禍で、自宅で過ごす時間が長くなった“巣ごもり生活”も一般化。それに伴い、運動量が減っている人が多くなっています。体重が増えた、疲れやすくなったなどの実感しやすいこと以外にも、運動量の少なさが影響を及ぼす問題があるのを知っていますか? それが、アルツハイマー病などに関連する「認知機能の悪化」です。
巣ごもり生活慣れで認知機能が悪化する!?
運動することによって脳は活性化しますが、自宅にこもりきりの巣ごもり生活をしていると、スポーツなどの積極的な運動はもとより、日常生活で自然に生じる運動=歩行の機会までもが減りがちに。そのため、運動による脳への刺激が減ったことも影響して、全国の認知症患者の約4割程度に認知機能の悪化が見られているといいます*1。また、2025年には高齢者の約5人に1人が認知症を患うという推計も出ており、まだ自分は若いから…と、他人事としてとらえていてはいられない状況になりつつあります*2。
*1 広島大学の研究成果、ブレインケアクリニック名誉院長記事
*2 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)
アルツハイマー病の予備軍段階でブレインケア!
未来に向けて、今のうちから生活習慣は見直しておきたいもの。また、日頃から脳をつねに最良の状態に保つケアを行なっていれば、認知症になりにくかったり、認知症予備軍のもの忘れを改善したりする可能性があるといいます。そこで専門医の今野裕之先生に、気をつけたい認知症の初期症状や、予防のために改善すべき生活習慣について教えてもらいました。
医療法人社団TLC医療会 ブレインケアクリニック名誉院長
一般社団法人日本ブレインケア・認知症予防研究所所長。順天堂大学大学院を卒業し、老化予防・認知症予防に関する研究で博士号を取得。日本大学附属板橋病院・薫風会山田病院などを経て2016年にブレインケアクリニックを開院。各種精神疾患や認知症の予防・治療に栄養療法やリコード法を取り入れ、患者一人一人に合わせた診療に当たる。認知症予防医療の普及・啓発活動のため2018年に日本ブレインケア・認知症予防研究所を設立、代表理事就任。2019年より現職。著書に『最新栄養医学でわかった! ボケない人の最強の食事術(青春出版社)』、その他監修など多数。
今野先生によれば、次のチェックリストの症状が思い当たる人はアルツハイマー病予備軍の可能性があるとのこと。まず、自分や家族に当てはまるところがないか、確認してみましょう。
【アルツハイマー予備軍 チェックリスト】
□人や物の名前がすぐ出てこない
□忘れ物が増えた
□集中力が落ちた
□「いつも同じことを聞く」と言われる
□以前に比べて気力が落ちた
□においや味がわからなくなってきた
ひとつでも当てはまる項目があったら、早めのブレインケアが必要です。今野先生のクリニックで行なっているのは、認知症の根本治療を目的とした「リコード法」。国内外で近年注目されている最新の治療法です。
いくつか種類のある認知症の約6割を占めるアルツハイマー病。これまでの治療法は、脳に悪影響を及ぼすアルツハイマー病の原因物質である“アミロイドβ”の蓄積を防いだり、除去することを目的としていました。一方「リコード法」では、その原因物質が蓄積する根本原因を探ります。日常生活のさまざまな要因が脳にダメージを与え、その結果“アミロイドβ”が発生することに着目して、根本原因となる生活習慣の改善などからアプローチするという方法です。
認知症予備軍にならないよう予防するためには、日常生活でも、このリコード法で推奨される認知症予防習慣を取り入れるのが有効なんだとか。今回は、そのなかでも食生活の改善ポイントについて解説します!
認知症予防にいい「ケトフレックス12/3食事法」
リコード法における食事法は「ケトフレックス12/3」と名付けられていて、アルツハイマー病の原因物質(アミロイドβ)を減らす可能性が高い食事法といわれています。アルツハイマー病の脳では、ブドウ糖がうまく使えずに、脳が慢性的なエネルギー不足になっています。それを解消するために、ブドウ糖と同様に脳のエネルギー源になる物質・ケトン体を利用するのです。この食事法の基本的なルールは次の3つ。
①「良質タンパク質と脂質を摂取する」
ナッツや卵、青魚などのタンパク質が豊富な食品。オリーブオイル、エゴマ油、亜麻仁油などの良質な脂質。これらを摂取して、ケトン体が作れる状態を目指します。糖質の摂取量が多いとケトン体ができないため、糖質は控えることも重要。
②「野菜中心の食事を組み立てる」
葉物野菜を中心に、海藻やきのこなどを中心にした食事に。食物繊維を摂取することで血糖値の上がり方が穏やかになり、脳のエネルギー不足を防ぎます。野菜の持つさまざまな栄養素によって、脳の働きを悪くする炎症や、老化を促進する酸化を抑制することも期待できます。
③「12時間のプチ断食+食事は就寝の3時間前まで」
夕食から次の日の朝食まで、食事の間隔を12時間あけます。さらに、1日の最後にとる夕食は就寝の3時間前までに終えること。食事をとらない時間をしっかり設けて、細胞内をきれいにする「オートファジー」の働きを呼び起こします。また、空腹になると「長寿遺伝子」という抗老化にかかわる遺伝子も働き出し、体のメンテナンスにもつながります。
ノンアルツ Bee[機能性表示食品]90球 ビン入り 8,640円/山田養蜂場
この「ケトフレックス12/3食事法」を行う際に、積極的に摂取したい成分が「オメガ3脂肪酸」「タンパク質」「プロポリス」。ただ、「オメガ3脂肪酸」を多く含む食品は魚なのにくわえて、「タンパク質」の毎日の目安摂取量は体重1キロあたり1グラム以上と多めなので、かなり意識的に食事内容を気にかける必要があります。また「プロポリス」はミツバチが作り出す天然物質で、アルテピリンCなどの特長成分を多く含み、抗炎症・抗酸化力を持っていますが、一般的な食品にはほとんど含まれません。食が細い人や食生活が偏りがちな人は、これらの栄養素を効率的に摂取するために、サプリメントを活用するのもひとつの手です。
認知症予防のために推奨されるリコード法の食生活内容を見ても、脳や体のために必要なのは健康的な食事だということがわかります。この食事法をすぐに完璧にはこなせなくても、意識しながら過ごして、少しずつ脳に負担をかけない食生活に改善していきたいもの。後編では、脳トレにつながる行動や脳への負荷を軽減するストレスケアについてご紹介します。
構成・文/政年美代子 資料提供/山田養蜂場 Illustrations by Ada daSilva, reklamlar, NilouferWadia / DigitalVision Vectors