飲みすぎた次の日の頭痛や吐き気、だるさ…。お酒好きならきっと経験したことがある二日酔い。つらくなるとわかっているのに、ついつい飲んでしまうという人も少なくないのではないでしょうか。冷たいビールがおいしいこれからの季節、「酒好き」としても知られる肝臓専門医の浅部伸一先生に、二日酔いの原因対処法や予防法について伺いました!

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浅部伸一先生

肝臓専門医

浅部伸一先生

東大病院などでの勤務を経て、1993年より国立がんセンターへ勤務し、ウイルス肝炎の研究に従事。自治医科大学勤務を経て、肝炎免疫学研究のためアメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所に留学。2010年より、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科・准教授に。現在はアッヴィ合同会社に所属し、お酒の飲み方のスペシャリストとしても活躍。監修書に『酒好き医師が教える 最高の飲み方』などがある。

飲みすぎるとなぜ起こる? 二日酔いのメカニズム

――お酒を飲みすぎた翌日に、頭痛や吐き気など、さまざまな症状が現れる二日酔いですが、そのとき体内ではどんなことが起きているのでしょうか。

浅部先生:実のところその原因は、はっきりしていないのです。何が一番の原因になっているのかは、個人差があり、一概には断定できません。二日酔いのメカニズムは意外にも複雑なのです。

まずひとつは、限度を超えてお酒を飲みすぎたことで、翌日まで体内にアルコールが残りつづけてしまうということアルコールは主に肝臓で分解されますが、その代謝には想像以上に時間がかかります。体重50kgの人が1時間あたりに分解できるアルコール量は5g程度とされ、ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合で、3時間以上かかる計算になります。


深酒をすれば7〜9時間ぐらい残り続けてしまうんです。ただし、アルコールの代謝は、体質や体型、その日の体調などによっても大きく左右されるため、この時間はあくまでも目安となります。

体内に入ったアルコールを肝臓で分解する際に生じる、「アセトアルデヒド」という有害物質の影響も挙げられます。アセトアルデヒドは、体内の酵素の働きによって、無害な酢酸と水へと分解されるのですが、飲みすぎるとこの代謝が間に合わず、有毒物質が体内に残りつづけてしまうことに。すると、吐き気や頭痛といった不快な症状が起こるのです。

お酒を飲むとすぐに顔が赤くなったり、動悸がしたりする、いわゆるお酒に弱いタイプの人は、アセトアルデヒドの代謝が悪い体質で、悪酔いもしやすい。一方、お酒に強い人は、アセトアルデヒドを速やかに分解できるため、限度を超えて飲まなければ、次の日も残りにくいでしょう。

また、アルコールの利尿作用による脱水症状も、不快な症状を引き起こす大きな要因だと考えられます。女性の場合、生理中は体が脱水状態に傾きやすくなるため、より強く影響を受けることもあるようです。

さらに、二日酔いで、吐き気や胃炎に悩む人も少なくありません。アルコールやアセトアルデヒドは体内で炎症を起こす作用があるため、胃や腸が荒れて、吐き気や胃炎を引き起こすことがあるのです。

メンタルにも影響? 二日酔いの主な症状

――二日酔いとひと口にいっても、その症状はさまざま。頭痛や吐き気など代表的な症状のほかにも、気分の落ち込みや不安感を覚えたことはありませんか? 実は、これも二日酔いの症状のひとつなんだとか。

浅部先生:症状として多いのは、吐き気やだるさ、頭痛胃腸の不快感。また、気分の落ち込みなどメンタルの不調を感じる人も少なくありませんこれは、アルコールが脳の神経細胞に作用しやすい特性を持っているから。同じような特性を持つ物質に、麻薬などドラッグや麻酔薬が挙げられます。つまり、アルコールは、脳に影響を与え、依存を生みやすいものなんです。二日酔いでメンタルに不調が出る人は、体内からアルコールが抜け、離脱症状に陥っている状態。アルコール依存症予備軍ともいえ、注意が必要です。

また、慢性的な飲みすぎから、睡眠障害を抱えてしまうことも珍しくありません。お酒を飲むと寝つきがよくなるというイメージがありますが、これは誤り。むしろ眠りが浅くなるなど、アルコールが睡眠の質を低下させることがわかっています。睡眠障害からうつ病などメンタルの不調に発展する場合もありますし、寝酒が習慣化している人は、お酒に頼らない生活へと改善したいですね。

なかには、二日酔いによる心身の苦痛に耐えられず、「迎え酒」をしてしまう人がいますが、これは絶対にNG確かに再び脳を麻痺させることで、不快な症状は一時的に紛らわすことができますが、アルコールが抜けてしまえば逆戻り。いつの間にかこの悪循環から抜けられなくなり、アルコール依存症につながりかねません。

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二日酔いになってしまった…今すぐできる回復法は?

――二日酔いになってしまったとき、おなじみのウコンやしじみ、サプリメントなどは有効といえるのでしょうか? つらい状態からできるだけ早く回復するための方法を教えてもらいました。

●経口補水液やスポーツドリンク

お酒を飲んだ次の日の朝は、かなりの脱水状態になっています。アルコールの代謝をスムーズにするためにも、まずは水分をとることが大切。経口補水液やスポーツドリンクなら、失われた塩分や糖分も効率的に補給できます。ただし、糖分の多いスポーツドリンクは飲みすぎに注意しましょう。

●ウコン

ウコンには抗炎症作用があり、アルコールによる肝臓の炎症を抑え、不快感をやわらげる効果が期待できます。飲むなら、お酒を飲んだ直後に。ウコンはとりすぎると逆に肝臓にダメージを与えてしまう可能性もあるため、常用するのはおすすめできません。

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●しじみの味噌汁

二日酔いにおなじみのしじみの味噌汁は、水分補給ができると同時に、アルコールを分解するのに必要なアミノ酸を補ってくれます。吐き気で食欲がわかないときなどは栄養補給にもいいですね。

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●ビタミンB類

アルコールを分解する際にビタミンB類が大量に消費されるため、ドリンクやサプリで補うとよいでしょう。ただ、たくさんとったからといってアルコールの代謝が高まるということではありません。

●胃薬や頭痛薬

症状がひどい場合には胃薬や頭痛薬に頼るのも手。つらさを我慢する必要はありません。起き上がれないほどつらい状況であれば安静にして過ごすこと、また、たかが二日酔いだからと臆せず、病院で診てもらうのもいいでしょう。

実はNG! 風呂やサウナで汗をかく

体内に残ったアルコールを早く排出しようとたくさん汗をかいても、ほとんど意味がありません。500mlの汗を絞り出すより、500mlの尿を増やすほうが体に負担が少なく、アルコールを効率的に排出することができます。むしろお酒を飲んだあとの脱水状態で汗をかくのは、心筋梗塞などのリスクを高めることにもなり、命の危険も。

サウナ 写真

二日酔いにならないために! 覚えておきたい4つの心がけ

――そもそも、二日酔いにならないためには飲みすぎないことが大前提。自分にとっての適量を知っておくことが重要だと、浅部先生は言います。

浅部先生:個人差がありますが、厚生労働省が発表している「飲酒ガイドライン」では、節度ある適度な飲酒の定義を「1日平均純アルコールで20g程度である」としています。ただ、酒好きにとって厳密にこの量を守るのは現実的ではない場合もあるでしょう。目安量はしっかりと頭に入れつつ、ここでは、それぞれの適量を超えないため、これだけは覚えておいてほしいということを4つお伝えします。

1.早く飲みすぎない

私はお酒を飲むと血圧が下がり、軽い頭痛を感じることがあるのですが、それを「これ以上飲みすぎないように」というサインにしています。乾杯してから短時間で酔ってしまうと、こうした体調の些細な変化にも気づけなくなります。自分がどれだけ飲んだかを把握しておくためにも、会話や食事を楽しみながらゆっくりとしたペースで飲むことが大切です。

2.何か胃に入れてから飲む

空腹で飲むとアルコールが腸へとすぐに流れて一気に吸収され、短時間で酔いがまわってしまいます。そこでおすすめしたいのが、飲む前には揚げ物など、少量の油物を胃に入れておくこと。油分は胃での吸収に時間がかかるため長く胃の中にとどまっています。そのため後から入ってきたアルコールの吸収をゆるやかにしてくれる効果があるのです。とはいえ、油物のとりすぎには気をつけたいところ。唐揚げなら2個程度がちょうどいいのではないでしょうか。

3.「やわらぎ水」と一緒に飲む

お酒を飲むときは、水もお酒と同じくらいとってほしいですね。ひと息置きながら飲むことで飲みすぎを防ぐだけでなく、水によってアルコール濃度が薄まることで、胃や腸の負担も軽減できます。また、脱水症状の防止にもつながります。

4.惰性で長時間飲まない

最初の一杯は「おいしい」と感じるお酒も、それ以上はまわりの雰囲気に合わせて惰性で飲んでいることはありませんか? もっとも危険なのは、「飲み放題」。時間いっぱいまで飲みつづけるのではなく、後半はペースダウンしたり、ノンアルコールに切り替えたり、コントロールしながら飲むようにしましょう。できれば二次会、三次会は避けたいところです。

二日酔い お酒を飲む女性 やわらぎ水

浅部先生:お酒の適量には個人差があり、その日、そのときの自分の体調によってもアルコールの代謝は変わりますから、「これぐらいなら、大丈夫」とは、明確に言えません。お酒好きな人ほど、飲酒中の自分の体の些細な変化をキャッチできる技を磨いていただきたいですね。

冷たいビールのおいしくなる季節。お酒好きの方は、飲みすぎに十分注意して楽しむようにしてくださいね!

取材・文/秦レンナ イラスト/ナガタニサキ