健康を考えるなら、飲まないほうがいい。そうはわかっていても、お酒の楽しみを捨てたくない人へ、「酒好き」で知られる肝臓専門医の浅部伸一先生が、健康を考えた上手な飲み方をアドバイス。知っておきたいお酒の適量先生おすすめのおつまみや、“シメ”についても教えてもらいました!

お酒を楽しむ女性3人 二日酔い

浅部伸一先生

肝臓専門医

浅部伸一先生

東大病院などでの勤務を経て、1993年より国立がんセンターへ勤務し、ウイルス肝炎の研究に従事。自治医科大学勤務を経て、肝炎免疫学研究のためアメリカ・サンディエゴのスクリプス研究所に留学。2010年より、自治医科大学附属さいたま医療センター消化器内科・准教授に。現在はアッヴィ合同会社に所属し、お酒の飲み方のスペシャリストとしても活躍。監修書に『酒好き医師が教える 最高の飲み方』などがある。

「酒は百薬の長」は誤り? 飲酒による健康への影響とは

――「酒は百薬の長」という言葉があるように、適量のお酒は健康にいいというイメージがありますが、最近の研究では、「健康のためにはお酒は一滴も飲まないほうがいい」ということがわかってきているそう。実際のところを浅部先生に聞きました。

浅部先生:これまでの研究では、お酒を少し飲む人のほうが死亡率が下がる、というデータが確かにありました。実際、アルコールには、血管を広げる作用やリラクゼーションの効果があり、血管の詰まりやストレスが原因となる心筋梗塞のリスクを下げることがわかっています。しかし近年では、食事療法や薬での予防が可能になり、心筋梗塞は以前ほど死亡率の高い病気ではなくなってきています。

一方、新たに注目されるようになったのが、がんです。平均寿命がのびている今、がんは非常に身近な病気となっています。お酒は本当にわずかではありますが、がんの発病リスクを高めることがわかっていて、現在は、「健康のためには、一滴も飲まないほうがいい」という考えが主流になっています。アルコールを分解する臓器である肝臓のほかにも、アルコール度数の高い強いお酒を好む人に多いのが、咽頭や食道のがん。また、乳がんなど婦人科系のがんは、若い女性にも増えています。

とくに肝臓と膵臓は、アルコールの影響を受けやすく、お酒を飲む人は、がんだけでなく脂肪肝や肝硬変、急性膵炎などにも注意が必要です。肝臓は「沈黙の臓器」とも言われ、初期症状がほとんどないため、定期的な検診が重要になります。

お酒を飲む楽しみは、健康な体があってこそ。血圧や臓器に悪い影響が出ていないか、意識的に健康診断や定期検診を受けるようにしましょう。

飲むなら知っておきたい! 種類別お酒の適量

――こうした健康被害を考えると、やはり飲みすぎは避けたいですよね。「お酒は適量を」と言いますが、適量とはどれくらいなのでしょうか?

浅部先生:適量には個人差があり、その日の体調などによって酔い具合が異なるため、一概には示すことができません。厚生労働省が推進する「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」によると、健康を害さずにほどよくお酒を楽しめる「節度ある適度な飲酒」として、「1日平均純アルコールにして約20g程度」を推奨しています。目安としてはビール中瓶1本、日本酒1合、ワインなら1杯半、アルコール度数7%のチューハイであれば350m l缶1本ほど。ただしこれは、あくまでも目安です。お酒の弱い人、女性や高齢者であれば、これよりも少なめを適量と考えるべきでしょう。

お酒 適量 二日酔い 飲み過ぎ

参照元:厚生労働省『習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方』

浅部先生:お酒好きな人にとっては、この量が現実的ではないということもあるかもしれませんね。目安としての適量を知っておくことは重要ですが、経験値や体感も大切です。飲酒中は、自分の体調の変化を観察しながら、飲む量をコントロールするようにしましょう。

●休肝日は効果アリ?

浅部先生:なかには「休肝日をつくっているから、たくさん飲んでも大丈夫」と思っている人もいるかもしれません。休肝日は、肝臓を休めるという意味では効果的だといえます。しかし平日に休肝日を1日設けたからといって、週末に大量に飲むのはNGです。肝臓への負担や健康被害の予防を考えるのであれば、休肝日にこだわるよりも、1日のアルコール摂取量と1週間の総量に気をつけるほうが効果的だといえるでしょう。

ほどほどから酒好きまで、健康を考えた上手な飲み方アドバイス

――大の酒好きという人も、嗜む程度という人も、日頃からお酒を楽しむ習慣があるならば、健康には気を遣いたいところです。浅部先生に、飲みすぎを防ぎ、健康的にお酒を楽しむための方法を教えてもらいました。

●水と一緒に飲む

日本酒を飲むとき、合間に飲む水を「やわらぎ水」と言いますが、どんなお酒であっても、水と一緒に飲むのがおすすめ。お酒と同量の水を用意し、一息つきながら飲むことで、酔いの回るスピードを緩やかにすることができます。また、アルコールが水で薄まることで胃や腸へのダメージをやわらげたり、脱水症状の予防にもなります。

●食事や会話を楽しみながらゆっくり飲む

乾杯してから早いペースで飲んでしまうと、一気に酔いがまわり、自分の適量を見極めることが難しくなってしまいます。会話や食事を楽しみながらゆっくりとしたペースで飲むようにしましょう。また、ビール、ワイン、日本酒…など、さまざまなお酒を飲むいわゆる「ちゃんぽん」をすると酔いやすいと言われますが、これは、お酒の種類や場所を変えることで新鮮な気持ちになり、ついつい飲みすぎてしまうことが原因。二次会や三次会に行くなら、途中でノンアルコールに切り替えるなど、コントロールが必要です。

●一人で飲むなら量を決めて

自宅で一人で飲むのであれば、まわりの雰囲気に流されることはないので、あらかじめ量を決めておけば飲みすぎを防ぐことができます。飲む分だけ買う、冷蔵庫にストックをしておかない、などルールを決めておくといいですね。

●ハイボールは香りを味わう

ついつい飲みすぎてしまう、お酒好きな人におすすめしたいのが自分で作るハイボール。最初の一杯は好みの濃さで、あとは薄めに調整します。ポイントは、少しいいウイスキーを選ぶこと。香りを楽しみながらゆっくり味わうことで、飲む量を抑えることができます。

●お気に入りのノンアルコールドリンクを用意する

飲みすぎを防ぐためには、お気に入りのノンアルコール飲料を用意しておくのも手。私の場合は、甘くないシークワーサージュースを、自家製炭酸で割るのがお気に入りです。さっぱりとしていておいしいですし、ウーロン茶ではもの足りないという人におすすめです。

浅部先生おすすめ! 体に優しいおつまみ&シメ

――健康のことを考えるなら、お酒のお供にどんなおつまみをチョイスするのがいいのでしょうか。また、シメとしてついつい食べたくなるのが油っこいラーメン。ヘルシーな選択肢はあるのでしょうか。最後に、浅部先生がおすすめする、健康的にお酒を楽しむためのおつまみメニューとシメを教えてもらいました!

浅部先生:おつまみで意識的にとりたいのは、肝臓の働きをサポートしてくれるアミノ酸、つまりタンパク質です。おすすめは、タンパク質が豊富に含まれる、枝豆、豆腐、納豆など。ただし、枝豆は塩分が多いので食べすぎには注意してください。私は、季節を問わず湯豆腐が好きでよくおつまみとして食べています。ネギをたっぷり入れるのがお気に入りです。

ぶっかけ蕎麦 お酒 シメ おつまみ 二日酔い

お酒を飲んだあとにラーメンを食べたくなるのは自然な現象です。というのもアルコールは血糖値を下げる作用があるんです。とくに飲み会の終盤はおつまみなど食べずに、お酒だけを飲み続ける人は少なくありません。すると糖質が不足して空腹感を感じるように。ついガッツリ食べたくなってしまうのです。

飲んだあとの食欲を抑えるには、お酒だけを飲むのではなく、何か食べながら飲むということ、またどうしてもシメが欲しければ、蕎麦がおすすめです。夏であれば、納豆や、茗荷、大葉などを入れたぶっかけ蕎麦はいかがでしょうか。油たっぷりのラーメンよりヘルシーですし、タンパク質も摂取できます。

お酒は酔うためでなく、楽しむために、味わうために飲む

――「お酒は酔うためではなく、楽しむために、味わうために飲むのがいい」と言う浅部先生。

浅部先生:アルコールは脳に影響を与える物質で、いわばドラッグと同じような作用があります。このことを忘れてほしくないんです。お酒は、食事や会話を楽しむためのもの。束の間の幸福のために頼るものではありません。お酒好きな人にこそ伝えたいのは、持続可能にお酒を楽しむなら、健康を考えながら飲むことを大切にしてほしいということですね。

取材・文/秦レンナ イラスト/ナガタニサキ