人間に生まれつき備わっている回復力や強みに注目するストレスコーピング、「BASIC Ph」。人のストレス対処の方法は、「Belief(信念)」「Affect(感情)」「Social(社会)」「Imagination(想像)」「Cognition(認知)」「Physiology(身体)」の6つのチャンネルのどれかに分類されるとされています。自分の得意なチャンネルを知り、その力を使えれば、ストレスにうまく対処できるようになります。この記事では「BASIC Ph」の6つのチャンネルのうちのひとつ、「Affect(感情)」について、詳しく解説します

解説してくれたのは…

BASIC Ph JAPAN代表

新井陽子

臨床心理士、公認心理師。BASIC Ph JAPAN代表。日本EMDR学会所属。公益社団法人被害者支援都民センター勤務。東日本大震災の復興支援に関わり、その際にBASIC Phとその提唱者・ムーリ・ラハド氏と出会う。

BASIC PhのA「Affect(感情)」とは

BASIC Ph 「Affect(感情)」

新井さん感情を出す、ということを回復につなげるチャンネルです。その出来事に対し、直接的に泣いたり怒ったりすることはもちろん、何かを通じて感情を発散することも「Affect(感情)」のストレスコーピングです

例えば、失恋したときに、失恋の映画や音楽に浸ってさめざめと泣くのはこのチャンネルです。つらいことがあったから漫才を見て笑って元気を出す! というストレス発散もこれに含まれます。ストレスによって発生した感情と同じものでなくてもOK。「感情を通じて回復する」のがこのチャンネルなんです

逆に、何も感じなくなる“麻痺”も「Affect(感情)」。例えば、“火事場の馬鹿力”がわかりやすいですね。あれは、恐怖を感じていると逃げられなくなるから、感情の関与を切っている状態。感じなくすることで生き延びる……という立派な「Affect(感情)」チャンネルの対処法です

「Affect(感情)」のキーワード

感情 情動 感情表現 表出 受容

「Affect(感情)」を使ったストレス対処法

悲しむ、怒る、泣く、笑うなど様々な感情を表出する。落語やコメディ・お笑いを見て気分転換する。感動する・共感する映画を見て感情を表す。お化け屋敷、絶叫マシーンなどで気持ちを発散させる。日記や文書に気持ちを書く。絵を描く、何かを造る。誰かに気持ちを聞いてもらう。毛布などに包まり安心感を得る。

八つ当たり。感情を隠したりないものにする、罪悪感を持つ。後悔をする。落ち込む。

新井さん上記の中に、やったことはないけれど興味があるものがあれば、挑戦してみると、ストレス対処の方法が増やせるでしょう。また、コーピングに「いい/悪い」はない、というのがBASIC Phでの考え方ではありますが、「より安全に」「より長く生き延びる」ためには、やはりポジティブなものを選んでいくほうがいいとも考えています。悪いから手放すのではなく、より長く生き延びるために健康的な方法へ乗り換える……というイメージです。なので、グレーのマーカーを引いた部分のコーピングに頼っている方は、余裕やエネルギーがあるときに、ぜひ適応的なものを試してみてほしいです

BASIC Ph 「Affect(感情)」泣く

「Affect(感情)」と一緒に使いたい、隣接するチャンネル

新井さん:「BASIC Ph」には、「得意なチャンネルの両隣にあるチャンネルの行動も、ストレスコーピングとして取り入れやすい」という特徴があります。Aの場合は、「Belief(信念)」と「Social(社会)」が隣接チャンネルになります。単体で取り入れるだけでなく、隣接するチャンネル同士を組み合わせた対処法もおすすめです。例えば、「友達に愚痴る(A+S)」のように考えます。

Belief(信念)
社会的理想、倫理的価値、自己信頼感、宗教的信念などにより、アイデンティティを明確に確立することに基づく能力。


【行動例】
出来事に意味付けする。自他を信じる。神に祈る、運命を信じる。「何とかなる」と楽観視する。「ま、いっか」と諦める。自分自身の価値を信じる。経験の意義を探究する。逆境から成長すると捉える。なりたい姿を思い描く。自己啓発本を読む。伝統儀式への参加や礼拝・お祓い。縁起を担ぐ。神社仏閣巡り。座右の銘や格言を信じる。使命感を持つ。自分を鼓舞する。

「〜するべきだ」と考える(べき思考)。自責思考、何かや誰かを盲信する。不合理な信念でも信じ続ける。迷信的思考。ただ耐える。

【Aとの組み合わせ例】
人生の中で自分にとって大きな意味を持つポジティブな記憶を思い出す。

Social(社会)
親しい誰かと接したり、誰かと作業をしたり、新しいコミュニティを探したり、人や社会とのつながり、役割
によって回復する。逆に社会との遮断も含まれる。

【行動例】
家族やパートナーと過ごす。誰かと会う。誰かに相談する。SNSなどで発信する。誰かとつながる。サークルやボランティア活動などを通じて人とつながる。興味関心があることでつながる。父親としての役割や課長としての役割など、役割があることで、困難に対処する。

人から距離を取る。引きこもる。

【Aとの組み合わせ例】
友達に話して共感してもらう。

参考文献:『緊急支援のためのBASIC Phアプローチ――レジリエンスを引き出す6つの対処チャンネル』(遠見書房)ムーリ・ラハド,ミリ・シャシャム,オフラ・アヤロン 編
佐野信也,立花正一 監訳
新井陽子 角田智哉 濱田智子 水馬裕子 丸田眞由子 岡田太陽 柳井由美 訳

取材・文/東美希 イラスト・企画・構成/木村美紀