人間関係が長続きしない、よくトラブルになるといった困りごとを抱えやすい「パーソナリティ障害」。その定義や考えられる要因といった基礎知識から、病院を選ぶ際のポイントまで精神科医の藤野智哉先生に教えていただました。さらに、女性に多いと言われる「演技性パーソナリティ障害」、“自分は特別”と思いこみ、対人関係でトラブルになりがちな「自己愛性パーソナリティ障害」、依存ファーストゆえにDV被害のリスクも高い「依存性パーソナリティ障害」についても解説。

「パーソナリティ障害」とは?基本知識&病院選びの注意点も!

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自分や他者が困りごとを抱えてしまう「パーソナリティ障害」
そもそもパーソナリティは個人差のあるものですが、平均からの著しい偏りをパーソナリティ異常と捉え、その異常性のために自分自身、あるいは他者や社会が困りごとを抱えている状態を「パーソナリティ障害」としています。パーソナリティ障害の割合は、人口の10〜20%ともいわれ、人間関係での問題を抱えやすい状況にあります

最近は、パーソナリティ障害も含めた疾病にまつわる簡単なチェックリストがネット上に出ていますよね。自分の特性を知ることに興味を持つのは必ずしも悪いことではないけれど、安易に自分にレッテルを貼ってしまうのはよくないなと思います。自分で貼ってしまったレッテルって、剥がすのがすごく難しいので。

パーソナリティ障害には生育環境や家族との関係、社会要因など、さまざまな要因が影響するといわれています。また、研究によって、先天的な要因(遺伝性)もある程度関与していることがわかっています。

もし、「変わりたい」と思っているとしたら、しんどい状況の要因になっている考え方や、その考えの根底に目を向けていく必要があります。そのパーソナリティの存在自体を否定するのではなく、それがなぜ障害になっているのか、どうすれば影響を減らせるのか考えていくことが必要です。その場合は、心理学的カウンセリングや行動療法などを行います。
 

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「パーソナリティ障害」かもしれない...と病院を選ぶ際は主治医の経歴をチェック


受診する病院を選ぶポイントのひとつは主治医となる医師の経歴がきちんと書かれていることですね。少なくとも数年間は病院の精神科もしくは心療内科で勤務した経歴があることはとても大事です。

カウンセリングルームを利用する際も同じように医療機関での勤務経歴があるかどうか。そして、公認心理師や臨床心理士の資格を持っているかどうかは確認したほうがいいと思います。

女性に多いと言われる「演技性パーソナリティ障害」とは?

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注目の的になりたい「演技性パーソナリティ障害」

パーソナリティ障害の中でも、女性に多いといわれる「演技性パーソナリティ障害」は相手の興味を引くことに興味を示しすぎてしまうタイプで、自分が注目の的になるように演技のような行動をしたり、感情表現が豊かに見えたりするなどの傾向があります

【演技性パーソナリティ障害の特徴】
●注目されていたいという思いが非常に強い
●自分が場の中心になっていないと、不快になりやすい
●周囲の関心を引くために、身体的、性的アピールも厭わないことがある
●社交的に見えるが、コミュニケーションが得意というわけではない
●対人関係を実際以上に親密だと思い込む
●感情表現は大げさだが、表面的でうつろいやすい
●注目をあびるために、中身のない話を印象的に話したり、事実を誇張してしまったりする

より注目されるために、例えば肌を露出する、誇張した嘘をつくなど、アピール手段がエスカレートしてしまいます。結局、そこにあるのは「承認されたい」という熱望です無理をして演じているわけですから、当然しんどくなってしまう人もいるし、気持ちが落ち込んでしまう人もいます

このタイプは、実際はそうでなかったとしても、「まわりはみんな自分のことが好きであるべき」と思ってしまいます。ですから、周囲が自分を称賛したり味方したりしてくれないと、自分の思い込みと現実とのギャップに不安を感じ、「なぜもっと好意を示してくれないんだ!」とイライラしてしまうのです。

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「演技性パーソナリティ障害」でも、困りごとがないなら、今すぐ変える必要はない

もし変わりたいと思うのであれば、「自分はなぜこういうことをしているのか」という根本的な感情に目を向ける必要があります。

今まで「自分はまわりから、魅力的な存在として見られている」と思っていたけれど、実はそうではなかったということ。そんなふうにわざわざアピールして人に認められないと満足できない背景には、自分の自信のなさがあるということでもあります。何を、なぜ抑圧しているのか、そこに目を向けて、受け入れられるかどうかなんです。

パーソナリティ障害は本人や周囲が困りごとを抱えているかどうかが重要なので、もしまわりも本人も特に困っていなければ、それは障害とは呼ばれませんし、そのまま生きていくのも悪くないと思います。「自分にはそういう特性がある」と知っておいて悪いことはありませんが、困っていないのであれば、必ずしも今すぐ変える必要はないですよね。


身近な人が「演技性パーソナリティ障害」かもしれないと思ったら?知識や適度な距離感が必要

このタイプの目的は、周囲の人間の関心を得ることです。振り回して、操作して、自分を称賛してくれる方向へもっていきたい逆にいえば、それで満足するので、浅い関係性なら特性を知ったうえであえて軽くのるのもひとつの手です。ただ、深く関わるとどんどん巻き込まれていくので、のる・のらないはご自分で選んでいいと思います。

適度な距離感はとても大事ですね。というのも、相手をヨイショしすぎると「この人だけは自分を持ち上げてくれる」と近付いてきます。彼らは感情表現が激しいので、その分エネルギーをぶつけられ、振り回され、疲れてしまいます。

「自己愛性パーソナリティ障害」とは?

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「自分は特別」と思い込むことで弱さを補完する「自己愛性パーソナリティ障害」

「自己愛性パーソナリティ障害」とは、自分の重要性を、実際よりも大きく思い込むタイプですね。本当は自尊心がもろくて自信がない部分を、「自分は特別だ」と思うことで補完しているので、ちょっとした批判にもすごく攻撃的になったりします。

【自己愛性パーソナリティ障害の特徴】
●「自分は特別な人間だ」と強く思い込み、賞賛の言葉や特別待遇を求める
●相手の気持ちを尊重せず自己を優先することがある
●社会的なルールより、自分のルールを優先してしまうことがある
●自分以外の人を、自分より劣った存在、利用すべき存在として扱ってしまうことがある
●挫折に非常に弱い
●自己を強化するために、富や名声を追求し空想する
●自分より優れている人に対して嫉妬する

自分よりも力のある人がいる場合、それを利用しようと近づくこともあります。自分より優れている人を素直に受け入れられない側面もありますが、そういう人たちのグループに入ってしまえば、「自分たちは特別だ」と自分を高められますから。同じ理由で、「自分とその家族は特別だ」と考える人もいます。

人間関係が保てなかったり、壊れたりしやすいので、対人関係では困りごとが非常に生じやすくなります。自分では特別だと思っていても、実際は特別扱いされないことのほうが多いですよね。このタイプにとって、そういった現実とのギャップがいちばんのストレスです。

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このタイプは、尊大な自尊心を持ちながらも打たれ弱いので、気分が沈みやすく抑うつ的になりやすい方もいます。特にミッドライフ(40〜50代)に入ると、性別を問わず、わかりやすい外見的な魅力は失われていくものですが、本人はそんな自分に耐えられなかったりします

自己愛性パーソナリティ障害の人は、基本的に相手を自分より下に見ることが多く、相手の気持ちを考えたり共感したりすることが少ないタイプです。それでも、どこかで他者と深く関わることで「他の人にも対等に人権があって、自分と同じようなことを感じる」と気づける経験があると、少しずつ落ち着いていったりもします。


身近な人が「自己愛性パーソナリティ障害」かもしれないと思ったら?大切なのは、相手を変えようとしないこと

パーソナリティ障害は基本的に周囲が「巻き込まれる」ものです。このタイプは自己愛のために人を利用することも多いので、周囲がどれだけ自己愛を満たしてあげようとしても、本人が満足できなければ否定されたり激昂されたりするし、見返りもありません。ですから、実は上手な距離をとることが大事なんです。

「パーソナリティの偏りを変える」というのは、「今まで生きてきた大好きな自分が間違っていた」ということなので、それを本人が認めるのはすごく難しいと思います。また、周囲が困るからといって、本人が困っていないものを「病気」として診断や治療する、ということがそもそも許されるのかという重大な問題でもあります。

「あなたのパーソナリティが原因だ」と伝えるのではなく、例えば「あなたが毎回そんなにつらい目にあって、しんどい思いをするのはなぜなのか、そこをひもとくためにも一度カウンセリングを受けてみるのはどう?」と、起きている状況にフォーカスするのはありだと思います。そして、身近な人にできることはそこまで、ということも知ってほしいと思います。

「依存性パーソナリティ障害」とは?

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自分の人生を生きるというのは、自分の選択に責任を持つことでもありますが、「依存性パーソナリティ障害」は、そこを他者にゆだねてしまうのです。自分の決断に自信がなかったり、責任を取ることが怖かったりするので、誰かに判断を任せてしまうわけです。

【依存性パーソナリティ障害の特徴】
●自分だけで物事を決めるのが困難
●一人で生きていかなければならない状況への恐怖感が強い
●自分が頼れる存在としての依存相手を切実に求める
●関係が壊れることへの不安から、依存相手に反論できない
●一人になると不安や無力感を感じる

例えば、相手が選んだ結果に文句を言ったら関係が壊れてしまう可能性がありますよね。このタイプは基本的に“依存ファースト”で、関係を断ち切られないことが最優先なので、結果に不満を言うことは多くありません。そして次第に正当な要求もしなくなる傾向があります。自分にとって不利なことでも反対できなかったりします。

このタイプは、判断してくれる他者がいると安定する反面、自分で何かを決めることに恐怖を感じるので、一人でいると不安定になります。ですから、依存相手との関係が崩れるとすぐに次の依存先を探します。依存したい相手に受け入れてもらえるように自分を変えることも多いですね。

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このタイプとずっと一緒にいられる人というのは、相手を支配するタイプなことも多いんです。しかも、本人は見捨てられることを恐れて、意見を主張したり反論したりしないので、身体的・精神的虐待の被害にも遭いやすいといえます。

相手から離れてしまうと、自分には何もないし、決められないから不安になる。そこまで考えが整理できないまま、「よくわかんないけど離れられない」っていう人もたくさんいます。

依存相手との関係を否定されることは大きな恐怖なので、よく「この関係は私にしかわからない」という言葉が出たりします。つまり、他人は時に自分たちの依存関係を邪魔してくる存在になるわけです。


「依存性パーソナリティ障害」の改善や、周囲の人ができること

このタイプは周囲に害をなすというよりも、自分がしんどくなるケースが多いので、他のタイプと比べると受診につながる可能性が高く、状況が改善されやすい疾患ではあります。

背景に「他人から認められたい」という思いがある一方で、そのための行動選択には不安や否定への恐怖、責任を放棄したい感情が付きまといます。相手に依存することで、そこをすべてごまかしてしまっている自分に目を向けると、少しずつ変わっていくことができます。そのためにも、今まで失敗しないために他者にゆだねていた部分を抜け出して、ちょっとずつ練習していくことが必要です。

まわりの人は、不安を感じさせないように、小さなことから本人に決定をさせて、それを尊重することが大切です。「自分でこれを選んだ。みんなも満足した」という成功体験を積ませてあげるわけです。そういう経験を、安心できる場所で積んでいくと、不安を解放することにつながります。

お話を伺ったのは…
藤野智哉先生

精神科医・産業医・公認心理師

藤野智哉先生

幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。SNSやメディアを通じ、障害とともに生きることで学んできた考え方と精神科医としての知見を発信。著書に『「自分に生まれてよかった」と思えるようになる本 心が軽くなる26のルール』(幻冬舎)、『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』(ワニブックス)、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房)など、最新刊に『「誰かのため」に生きすぎない』ディスカヴァー・トゥエンティワンがある。

構成・取材・文/国分美由紀