自分の意志ではコントロールできない自律神経。けれど、そのバランスを整えるためのヒントは日常にあふれています。今すぐ手放すべき習慣について、自律神経研究の第一人者である小林弘幸先生に教えていただきました。
順天堂大学医学部教授
日本スポーツ協会公認スポーツドクター。研究の中で自律神経バランスの重要性に着目し、日本初の便秘外来を開設した腸のスペシャリスト。国内における自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導を行う。『自律神経が10割 心と体が整う最高の習慣』(プレジデント社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)など著書多数。
自律神経が整う方法①ため息はガマンしない
「ため息をつくと幸せが逃げる」という言葉があるほど、ネガティブな印象のあるため息ですが、自律神経の観点から考えるとむしろ心と体をリセットする素晴らしい自浄作用です。一般的に、ため息が出るシチュエーションは、心配事や悩み事を抱えていたり、根を詰めて作業をしたりしているとき。人はストレスを感じると交感神経が高まり、無意識のうちに呼吸が浅くなります。
そこで「ふぅ〜」とゆっくり長く息を吐き出すと、浅くなった呼吸が深くなり、滞っていた血流が促進され、副交感神経の働きを高めてくれます。逆に、ため息を我慢すると体内の酸素が不足した状態が続き、手足の細胞や脳、臓器などに酸素が行き渡らず、ますます血流が悪くなって全体のパフォーマンスも下がってしまいます。ため息=体をリセットして幸せを呼び込むチャンスととらえて、楽しみながら長く息を吐きましょう。
日常的に実践したいのが、息を吸う時間の倍をかけて吐き出す「1:2の呼吸法」。深くゆっくりとした呼吸には副交感神経の働きを高める効果があります。我々の実験結果では、この呼吸法を1日1回、3分間行うことで、自律神経の調子が徐々に整ってくることがわかりました。焦りやプレッシャー、イライラを感じるときに行うと、すぐに呼吸が深くなってリラックスできます。
①鼻から3〜4秒かけてゆっくり息を吸う。
②口をすぼめながら、6〜8秒かけて、できるだけゆっくり長く息を吐き出す。①→②のプロセスを3分ほど繰り返す。
自律神経が整う方法②朝の通勤中&眠る前の30分はスマホから離れる
電車に乗ると、スマートフォンを見ている人が大半です。しかし、朝からスマートフォンを熱心に見ると交感神経の働きが高くなりすぎて一種の興奮状態になり、自律神経のバランスが乱れてしまいます。本来なら生産性が高い時間帯であるはずの午前中の効率が下がってしまうので、まったくおすすめできません。
また、自律神経を整えるには睡眠の質を高めることが不可欠です。そのためには副交感神経がしっかりと働く「リラクゼーション睡眠」を目指すことが重要。眠る前の3時間は強い光や音などの刺激を避け、ゆったりと過ごしましょう。できれば眠る3時間前、最低でも30分前にはスマホを手放す習慣を身につけると、快適な眠りにつくことができます。
自律神経が整う方法③眉間にシワを寄せない
ストレスフルな時代とはいえ、無意識に眉間にシワを寄せていたり、奥歯を噛み締めていたりしていませんか? 顔をこわばらせていると交感神経が優位になるため血流が悪くなり、呼吸も浅くなって余計に険しい表情になってしまいます。そして、脳に血流が十分に行き渡らず、頭の働きも鈍くなっていきます。
そんなときは、口角を軽く上げてみましょう。口角を上げることで顔の筋肉の緊張がほぐれ、血液や神経の流れが改善するうえ、口角を上げて笑顔をつくると副交感神経の働きが高まるというデータもあります。
自律神経が整う方法④疲れたときこそダラダラしない
帰宅後、ソファに腰を下ろした途端にどっと疲労感に襲われ、なかなか立ち上がることができない──これは一度交感神経がオフになり、副交感神経が活発になることで、いざ動こうとしても再び交感神経をオンにするのが難しくなるためです。
私たちが普段感じる体の重さやだるさは、多くの場合、静脈の血流が悪くなって疲労物質が運ばれにくくなる血液の「うっ滞」が原因。疲れたときこそダラダラするのではなく、体を軽く動かして、疲れを自発的に抜いていく「アクティブレスト」という考え方が重要です。
細かい家事をこなしたり、散歩やストレッチをしたりすると全身の血流がよくなって、自律神経のバランスが整うだけでなく、気持ちもすっきりしていくはずです。「休む」という行為は、「動かないこと」ではなく、「質のいい血液を体内に行き渡らせること」。ちょっとした時間に少しでも体を動かすクセをつけましょう。
①まっすぐに立つ
足は肩幅に開いて、軽く胸を張る。
②手首を交差して全身を上に伸ばす
頭の上で手首を交差させて固定し、肩甲骨を内側に寄せる。息を吸いながら、かかとを上げて背伸びをして全身を伸ばす。ひじが曲がらないように注意。
③腕を横に広げて下ろしながら息を吐く
手のひらを外側に向け、息を吐きながらゆっくり円を描くように腕を下ろしていく。両腕が床と水平になったあたりで腕の力を抜き、同時にかかとを床につける。3回を目安に行う。
自律神経が整う方法⑤他人の評価は放っておく
人間関係でのストレスは、自律神経を乱す大敵。そうしたストレスから自由になるには、「人は人、自分は自分」という考えを持つことが大切ですが、まったく人目を気にしない、コンプレックスを持たないというのは、そう簡単に実践できるものではありません。そこで大切なのが、考え方を「気にしない」よりも「放っておく」にシフトすること。
心が乱れそうなSNSやネットの情報はできるだけ見ないようにする、気分が晴れることだけを考えるなど、自分に向けられる評価や他人の目から距離を置き、自律神経を安定させることを最優先に考えましょう。
自律神経が整う方法⑥雨の日は遅くまで仕事をしない
自律神経は天候によっても左右されるので、私はその日の天候に応じて行動パターンを少しだけ変えることをおすすめしています。例えば、湿気が高い日や雨の日は、どうしても気分が少し下がりぎみになりますが、これは気持ちによる面だけでなく、低気圧が近づくと空気中の酸素濃度が下がって副交感神経が優位になっていくからです。
つまり体が休息モードに入るわけですから、そんなときに無理をしても生産性アップは期待できないでしょう。天候が悪いときに気分が乗らないのは当たり前。そんな自分を否定することなく、いつもより短い時間で集中して乗り切っていくのがコツです。
出典/『自律神経が10割 心と体が整う最高の習慣』(プレジデント社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)
イラスト/川添むつみ 構成・取材・文/国分美由紀