中元日芽香さんは乃木坂46の元メンバーであり、現在は心理カウンセラー。この連載では、“推される側”を経験し、“推す側”のメンタルにも寄り添ってきた彼女ならではの視点で、推し活とメンタルヘルスの関係について語ります。第5回のテーマは「推し活と新しい出会い」。新しい「推し」と出会うメンタルの持ち方とは? 2017年にアイドルを卒業して出会えた今のキャリア、そして、2024年2月に結婚したパートナーとの出会いのエピソードも!
心理カウンセラー&メンタルトレーナー
1996年4月13日生まれ、広島県出身。2011年からアイドルグループ・乃木坂46のメンバーとして活動し、2017年に卒業。早稲田大学で認知行動療法やカウンセリング学などを学び、2018年にカウンセリングサロン「モニカと私」を開設。心理カウンセラーとして活動を始め、今に至る。著書に『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』『なんでも聴くよ。中元日芽香のお悩みカウンセリングルーム』(共に文藝春秋)。現在、ポッドキャストサイトPodcastQRにて、パーソナリティを務める『中元日芽香の「な」』を配信中
第5回のテーマは、推し活と新しい出会い
前回のテーマは「推し活と卒業」だったので、その次のステップ、「出会い」について語ることにしましょう。
推しの卒業を知って、ファンの方々の心には、さみしさが募り不安が広がります。自分を保てなくなってしまう前に、別の対象を探さなくては!と、焦る気持ちが生まれることも。喪失感を別の何かで埋めようとする働きは「防衛反応」といって、心を守ろうとする自然な作用です。今まで“二推し”だった対象を、“一推し”として応援しよう、と思ったり、代わりに夢中になれるジャンルを探したり。スポーツ観戦・習い事・副業へのチャレンジ・新しい行きつけのお店を開拓する……など、推し活だけにとらわれず、その人にとってワクワクできる新しい刺激を見つけることができたら、メンタルヘルス的にもいいことだと思います。
難しいのは、タイミングよく次の出会いを得られるのかという点です。無理に探さなければと焦ることなく、自然に「これからはこの人を応援したいな」「次はこのことに情熱を注ぎたいな」と思える対象に出会えればいいのですが……。そんなにうまく切り替えることができるの?と疑問に思う人もいるでしょう。
私自身の経験を振り返ると、新しい出会いに心を動かせるメンタルへ向かうためには、自分の心の動きに無理強いをしないことが大切だったと感じます。
新しいこと、知らないことに対して心が閉じたり、開いたりする時期があるのは自然なこと。人生には、自分を守ることを優先するべき時期もあります。誰かに会ってどうにかしなきゃ!という切迫感ではなく、ふと外の世界に目を向けてみようかと思えたら、背伸びをせずに行動してみる。そうすることで、自分にぴったりの対象と出会うことができるかもしれません。
セカンドキャリアに結婚、私の人生の「出会い」のタイミング
10代の頃、推される側であるアイドルとしての職業意識もあって、新しい出会いに警戒心がありました。
新しく出会う人に自分をさらけ出すことは怖かったし、自分を守るためにも出会いを広げたくありませんでした。もしかすると、この「自分を閉じていたい」「明るく頼りになる自分だけを見せたい」という気持ちは、その後の適応障害にもつながってゆく部分だったのかもしれません。メンタルバランスを崩して休養期間をいただいたとき、マネージャーさんの紹介で出会ったのが、心理カウンセリングでした。
れまで「自分の悩みを打ち明け、弱い部分を見せる必要なんてない」と思っていた私の価値観を、カウンセラーさんは大きく変えてくれました。アイドルの先をどう生きていけばいいかわからず、セカンドキャリアのイメージがわかなかった自分が、初めて「次はこれをやってみたい!」と思えたのです。この出会いは、アイドルという仕事をやりきって次のステップへ踏み出そう、という決意の扉を開いた幸せな経験でした。
そうして、心理カウンセラーになって数年がたち、つい先日結婚しました。旦那さんとの出会いのタイミングにも、自分の心の自然な変化を感じています。
人生のパートナーとの出会いは、推しとの出会いに似ている?
アイドルを卒業して今の仕事についた時、ちょっとだけ“鎖国状態”な自分を感じる時期にありました。一人で勉強して自分自身を高めていくことができたけれど、それだけでは成長に限界がある。「もう少し人と交流して世界を広げていかなきゃ」「いろんな人と話してみることって大事だな」と、高校時代の友人に相談したところ「会ってみる?」と紹介されたのが、彼でした。
10代の頃の警戒心が強い自分だったら、あるいは20代初め、仕事と勉強に没頭していた頃の自分だったら、受けつけていなかったでしょう。精神的に臆病だったアイドル時代に比べるとタフになっていたし、その分、新しい出会いに対して肩の力を抜くことができるようにもなっていました。だから、彼とは必要以上に自分を飾りすぎず初対面からフラットに対話ができました。お互いに気楽な状態で、この先も変わらず一緒にいられそう! そう感じて、結婚することにしたのです。
旦那さんは友達が多い人なので、出会ったことでどんどん人間関係が広がっていくのも、今の私にはとても面白い。自分一人では見ることのできなかった世界を疑似体験しながら、彼の友達の悩み相談に乗ることもあります。新しい出会いを通じて、自分の中にストックが増えていく感じは、推し活で生まれるものにも似ているかもしれません。推しが 一人増えると、推し仲間という枝葉が広がっていくというお話をよく聞きます。推しの勧める本や映画を見たり、推しを追って新しい場所へ旅をしたり、そんなこともワクワクする出会いのひとつ。リアルでも、推し活でも、心地のいい広がりが生まれるのは、かけがえのない経験です。
推す側も推される側も、新しい推し活をヘルシーに続けていくには
今、アイドルを卒業して6年が経ち、心理カウンセラーとしての活動も同じくらいの長さになろうとしています。最近では、カウンセラー中元日芽香を知り、後からアイドル中元日芽香の映像や楽曲に出会う、という方も少なくありません。過去のレジェンドアイドルと呼ばれる方々を、リアルタイムでは触れて来なかった2000年代生まれの人たちが推す、という話もよく聞きます。
「アイドル時代の“ひめたん”がすごく素敵で、動画を遡って見ています」と言われると、不思議だけど、とてもうれしくて感激します。アイドルから新しいステップに進んだことで、その人は以前の私を見つけてくれたわけですから『出会ってくれてありがとう』という気持ちでいっぱいになります。今の自分、過去の自分の両方を見て、“どちらが良かった”ではなくて、それぞれを認めてもらえると、推される側はきっとうれしく感じるはずです。
もうひとつ、推しが卒業して、別の新しい推しに出会う、いわゆる“推し変”をする方におすすめしたい考え方は「新しい推しを過去の推しの身代わりにしない」ということ。例えば、Aさんで実現しなかった目標を、Bさんに託して応援していると、結局Aさんのことを引きずったままで、Bさんをまっすぐに推せていない。これは少しいびつな関係性に思えます。前の推しとの思い出は丁寧に整理して、新しい推しとの関係性はきちんと一から作り上げる。そうした気持ちでいられるとヘルシーだし、推す方・推される方が共に気持ちよく進んでいけるのではないでしょうか。
卒業と出会いは、そう考えると表裏一体。悔いなくお別れをして、心機一転関係を築いてゆく。そんな風に繰り返して行けたら、とっても素敵だと思います。
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撮影/森川英里 ヘア&メイク/上野祐実 スタイリスト/辻村真理 画像デザイン/齋藤春香 取材・文/久保田梓美 企画・構成/木村美紀(yoi)