「適切な業務注意をハラスメントとして訴えられないか心配」「コミュニケーションを取ったらセクハラだと思われる?」——職場で指導をする立場になった人が悩むことが多い「ハラスメント・ハラスメント」(=ハラハラ)。読者から寄せられた「ハラハラ」にまつわるお悩みに、社会保険労務士の村井真子さんにお答えいただきました。

ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)とは?
管理職や上司が適切な指導をしているにもかかわらず、パワハラやセクハラなどの加害行為であると指摘する事象や、単なる不快感をハラスメント加害として訴える行為のこと。

村井真子

社会保険労務士/キャリアコンサルタント

村井真子

村井社会保険労務士事務所代表。地方中小企業における企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築・組織設計やハラスメント対応が強み。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追及とともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問としても活躍中。著書に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)、原作に『御社のモメゴト』(KADOKAWA)など。

お悩み①「ハラスメント・ハラスメント」が怖くて、部下や後輩を指導しづらいです。どうすればよいですか?

ハラスメント・ハラスメント お悩み 上司と部下

お悩み…
どこからハラスメントと言われてしまうのかがわからず、部下や後輩への指導を躊躇してしまいます。部下が仕事でよくないことをしたときにも、優しく注意することしかできません。ハラスメントと間違われずに、きちんと指導する方法は?


ハラスメントと業務の境目を組織内で決め、全員に共有するべし!

村井さんまずは主観を排して指導する理由となる「事実」を伝えることが大事です。そのうえで業務に対する取組について組織として一本化した基準を設けることです。きっちりガイドラインを作っておけば、上司と部下で「ここまでは指導の範囲」という認識を共有できますし、注意する側が身を守りやすくなりますよ。

例えば、「納期は、具体的に、余裕を持って日時を指定する」とルールを作るとします。この場合、日時を指定していないのに「遅い」と指摘するとハラスメントの可能性が生まれますが、日時を指定した上で遅れた場合に「遅れているから◯日◯時までには完了させてください」と指摘するのは適切。判断しやすいですよね。ガイドラインの基準から外れていなければハラスメントと間違われることもありません。「業務指導をする際は人格否定になる言葉を使わない」など、当たり前に思えることについても基準に定めておくと安心です。

会社単位での一本化が難しければ、部署単位やプロジェクト単位など、やりやすい単位でOKです。とにかく基準を決め、組織の全員で共有しましょう

お悩み②上司が「ハラスメント・ハラスメント」を恐れるあまり、適切な指導をしてくれていないと感じます。

お悩み…
上司がハラハラを恐れすぎて、適切な指導をしてくれません。業務を上司が巻き取ってしまい、成長の機会が減ってしまうこともあります。ハラハラを恐れず指導してもらうにはどうしたらいいですか?

自身のハラスメントの定義を伝えつつ、時には自ら指導を仰いで

村井さん:ひとつ前の質問同様、ハラスメントの定義をすり合わせておくことは重要です。ガイドラインを作るよう提案しにくいのであれば、雑談の中で意見を交換する機会を作るのもよいでしょう。例えば「自分の友人がこういうことをハラスメントだと言っていたんですけど、私はそうは感じなくて…。◯◯さんはどう思いますか?」「私はこういうことをされるとハラスメントになると思っています」のような形で、ご自身の考えを示しつつ、上司の意見を聞いてみるといいですね

また、指摘のたびにハラスメントかどうか気にさせることは、想像以上に上司の負担になっています。自ら指導を仰ぐ姿勢を見せて、アピールするのもひとつの手です。部下側から具体的に課題や問題について話し、フィードバックを得たい旨を伝えるといいでしょう

お悩み③実際に「ハラスメント・ハラスメント」を受けてしまった! どこに助けを求めるべき?

ハラスメント・ハラスメント お悩み 上司と部下 会社

お悩み…
自分としては適切な指導のつもりでしたが、部下からハラスメントと訴えられてしまいました。会社に相談したものの、ハラスメントの告発を恐れるあまり、私が処分されそうです。どこに助けを求めればいいでしょうか?

労働局の総合労働相談コーナーは、無料で気軽に相談できる!

村井さん会社に相談できない場合は、外部の相談窓口を活用してみて下さい。そのなかでも、まず労働局の総合労働相談コーナーに相談することをおすすめします。無料で利用できるので気軽に相談してみましょう。「これって客観的に見てどうですか?」と質問するためだけに利用してもOK。

相談の際に必要なものや条件はありませんが、録音やメールなどの証拠があったほうが的確なアドバイスをもらえます。時系列に整理しておくとよりスムースです。

ハラハラと判断されれば、相談センターがその後の対応の仕方についてのアドバイスをくれることも。まずは外部に相談を!

お悩み④「これって今ではセクハラか!」と誤魔化しながら不快な発言をする上司を告発したら「ハラスメント・ハラスメント」になりますか?

お悩み…
上司が、セクハラっぽい発言をしたあとに「これって今ではセクハラか!」と言って誤魔化してきます。私は不快な思いをしているのですが、ハラスメントとして告発すると、ハラハラになるのでしょうか?

上司がしているのはセクハラの可能性が高い。迷わず注意or相談を!

村井さん告発してもハラハラにはなりません。その上司は「今ではセクハラ」と、理解した上で発言しています。程度にもよりますが、セクハラにあたる可能性が高いです。

ぜひ一度「それはセクハラです」とはっきり言ってみてください。直接言えない、怖い、という状況であれば社内に設けられているハラスメント相談窓口に相談しましょう。

お悩み⑤セクハラを受けているのか微妙なライン。これをセクハラと告発したら、「ハラスメント・ハラスメント」になりますか?

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お悩み…
女性がほとんどいない職場で働いています。力が必要な作業もありますが、すべて一人で作業を完了できています。それなのに、作業中にやたら距離を詰めてくる男性がいて困っています。業務上必要だから手伝ってくれている可能性もあり、指摘できません。

私が不快だと思っていることは、
・重いものを押している際に、急に横に来て一緒に押す。
・私が手を置いていたところに手を置こうとする。
・物を手渡す時、相手の手を触らなければつかめない状態で差し出してくる。
・物を取りに行くと、なぜか相手が物のすぐ横にいる。
などです。

セクハラだと訴えるとハラハラになるかもしれないので、我慢しています。

不快だと伝えてやめてくれなければ、それはハラスメント。客観的な意見も大事に

村井さん:おっしゃるとおり、記載されている内容だけでは、はっきりと「セクハラである」と断言しにくいですね。相手が親切でやっているのか、意図的なのかわかりません。

ですから、まずは不快であることを表明しましょう。いきなり「セクハラです」と訴えるのではなく、「びっくりしてしまうのでやめてほしいです」「配慮はありがたいけれど、不必要です」と自分の考えをお伝えすることは、ハラハラにはなりません。本人に不快だと伝えてやめてくれるならば親切心、やめないのであればハラスメントの可能性が高いでしょう。言って対応してもらえるか否かで、ハラスメントかどうかの判断材料になるケースだと思います。我慢しすぎずに、やめてほしいという意思を伝えましょう。

また、どう見えるかを職場の方々に聞いてみてもいいですね。あなただけに距離が近い場合は、ほかの男性社員から軽く注意してもらうなどの方法も取りえるかと思います。逆に、職場の方々から「あなた本人は一人でできると思っているが、まわりから見ると危なっかしい」と指摘される可能性も考えられます。客観的になるためにも、まずはまわりの方に意見を聞いてみてください。

イラスト/ふち 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)