セックスにまつわるモヤモヤを、助産師兼性教育YouTuberのシオリーヌさんと考える連載『SAY(性)HELLO!』。今回も、読者から寄せられた産後のセックスに関するふたつのお悩みに、ゲストと一緒に向き合います。メンバーは、カップルでお互いの価値観を共有できるアプリ「ふたり会議」を運営するあつたゆかさん、コンドームや潤滑ゼリーなどの衛生・生活用品を取り扱う企業、ジェクスのマーケティング企画部・三木望さん。
【読者のお悩み①】
去年3月に第二子を出産してから、パートナーとゆっくり過ごす時間も場所もなく、セックスができていません。私はそろそろセックスを再開したいと思っていますが、パートナーがどう感じているのか、きちんとコミュニケーションを取れずにいます——。
自分たちにとって大事な「ラブランゲージ」とは?
シオリーヌ この状況、とても理解できます。出産後はパートナーとの時間だけでなく、子どもから目を話せず、心身ともに疲れが溜まってしまいますよね。パートナーとゆっくり話す時間もないという場合、赤ちゃんの託児ができる、産後ケアホテルを利用してみるのもひとつの選択肢だと思います。お値段は少し高いけど…。
三木 「産後ケアホテル」というのがあるんですね! どんな施設なんですか?
シオリーヌ 産後の育児をサポートするために、24時間体制で体と心をケアしてくれるサービスのあるホテルです。助産師が常在していて子どもを預かってくれたり、兄妹やパートナーが一緒に宿泊できるところもある。私も利用したことがあってとてもよいリフレッシュができたので、このサービスがもっと広まってほしいな、と思いますね。
あつた お悩みを読んでいると、もしかするとこの相談者さんがセックスを再開したい背景には、“パートナーから十分な愛情を注がれていない”と感じてしまっている可能性がありますよね。それなら、方法はセックスだけに限らなくてもいいのかもしれません。パートナーとのコミュニケーションに関しては、「ラブランゲージ」という考え方があって。ラブランゲージとは、「肯定的な言葉」「一緒に過ごす時間」「プレゼント」「家事などのサービス行動」「スキンシップ」の5つの愛情表現のことです。この中で自分はどの項目の優先度が高いのかを知る、「ラブランゲージ診断」というのもネットで検索すると出てきますよ。直接、性の話を切り出しづらければ、一緒に診断をして結果をパートナーと共有することで、自然と性について話すきっかけになるかもしれません。
また、しばらくセックスはできなくても、「好き」や「ありがとう」などの「ラブランゲージ」を伝えたり、手をつなぐなどの軽いスキンシップを重ねる時間を、パートナーと積極的につくってみるのはどうでしょう。
シオリーヌ もちろん「セックスは自分たちにとって必要だから、できる場所や時間を二人でつくり出そう!」というのも、一つの絆の深め方としてはありですし、視野を広げてセックス以外のコミュニケーションで愛情を確認するのもありですよね。いろいろな愛し合い方に目を向けると、「セックスのための時間や場所を、絶対に確保しなければならない」という考え方から、少し距離を置けるかもしれません。
食べものの好みとは比べものにならないくらい、セックスの価値観は変化する
あつた 価値観のすり合わせをこまめにするのって、大切ですよね。
シオリーヌ やっぱり、性に関する価値観って個人差が大きいし、もともと持っていた価値観も、食べ物の好みなんかとは比べものにならないくらい人生のいろいろなフェーズで変わっていくもの。こまめに確認しないと、相手の状況がわからなくなる。
あつた 「結婚前に、週一回以上はしようって約束したじゃん!」みたいなスタンスでいると、ちょっと厳しいですよね。
シオリーヌ 本当に。よく「カップルにとって体の相性は大切だ」などといいますが、今現在の相性がよかったとしても、20年後はどうなっているかわからない。一瞬の相性よりも、「パートナーの変化に対して一緒に変化しつづけられるか」という価値観の共有のほうがはるかに重要なのではないかと、個人的には感じています。
ーー「もともとセックスが好きだったけど、産後は気持ちがついていかなくなった」という声も読者から届きました。性に関しては変化があるのが当たり前、と知っているだけで救いになることがありそうですね。
シオリーヌ そう思います。産後もセックスしているほうがいいとか、していないのがよくないとか、そういう正解があるものではないと思うんです。
ーー日々変化していく価値観をこまめにすり合わせる方法として、取り入れやすい方法はありますでしょうか。
シオリーヌ 例えばTVで“ベストカップル賞”などのニュースが流れたときに、「自分たちは、おじいちゃんおばあちゃんになっても、いちゃいちゃする時間を持っていたいかね?」という話をしてみるとか。「どんなカップルでいたいか」という話題から入ると、話しやすい気がします。
あつた 私が運営しているカップル向けのコミュニケーションアプリ「ふたり会議」でも、“セックスについての質問をもっと増やしてほしい”というリクエストがすごく多くて。アプリの中には、「そもそもセックスが好きか」という質問を入れているのですが、実は相手がしたくないのに我慢していた、というパターンもよくあるみたいで。
シオリーヌ そうそう。そもそも好きかとか、望んでいる頻度とか。あっさりが好きか、こってりが好きか、30分でいいのか、2時間したいのか。同じ好きだとしても、30分を週3でしたいのか、2時間を月1でしたいのか…。全然違うからこそ、お互いの価値観を言語化してみて初めてわかることもありそうですよね。
家事や育児は便利グッズに頼るのに、セックスに関しては我慢する人が多いのはなぜ?
続いて、読者から届いた産後のセックスにまつわるもうひとつのお悩みはこちら。
【読者のお悩み②】
産後に体質が変化したのか、腟からの分泌物が減って産前に比べて濡れづらく、痛みを感じるようになってしまいました。そのせいでセックスが心から楽しめず、性欲が減退しています——。
三木 弊社ではいろいろな潤滑ゼリーを販売していますが、産後の性交痛に悩んでいる方は、お客さまのなかにもとても多くいらっしゃいます。産前から「出産後は体の変化がある」という予備知識を持っていると、「私だけかな?」という不安を抱えずにすみますし、いざ変化を感じたときに、ゼリーなどのグッズにも出合いやすいかもしれない。解決策を知らずに悩みを抱えたままの方も多いので、認知を広めていくのが私たちの課題だと感じていますね。
あつた 「性交痛は耐えるもの」と思って我慢している人の話は、私もよく聞きます。これが家事や育児なら、いろいろな便利グッズをすぐに試すのに、セックスにグッズやツールを取り入れるのには抵抗がある人も多い。
三木 そうですよね。私たちが販売している「リューブゼリー」は、薬局や産婦人科などでも販売していて手に取りやすく、特に人気の定番商品です。粘膜や皮膚から水分を吸収してしまう「ローション」と違ってうるおいを逃さず、デリケートな腟内にも使えるのが特徴。使っていただいた方からはすごく好評を得ていて、リピーターも多いんです。
シオリーヌ 私自身も妊活中、「セックスのタイミングを取らないといけないけれど、体力的に余裕がない」というときに、この「リューブゼリー」を愛用していました!
三木 ありがとうございます! これまでは、産後のストレスや加齢でうるおい不足になっている利用者の方が大半でしたが、最近は20代の購入者もすごく増えています。性についての悩みを周囲に打ち明けやすくなっていたり、ネットなどで情報を簡単に得られるようになったからかもしれません。
シオリーヌ 「グッズに頼ってもいいんだ」という認知がようやく届きはじめたことも理由のひとつにありそうですね。
“うるおい強強”なコンドームを使ってみるのもあり
ーーグッズを取り入れることに抵抗がある人もいると思います。その場合、二人のあいだでどういうコミュニケーションを取るといいでしょうか。
あつた ツールを使うこと自体よりも、“ツールを使うことをパートナーに言うこと”にハードルを感じているのではないかな…。
三木 それはありそうですね。「パートナーに言いづらいから、事前に内緒でゼリーを仕込んでいる」という利用者も実際にいらっしゃいます。そもそもゼリーを使うことに抵抗がある方は、コンドーム自体に水溶性ゼリーを多く使用している、『グラマラスバタフライ』シリーズの「ジェルリッチ」もおすすめです。
シオリーヌ たしかに「潤滑ゼリーを使いたい」と言いづらい場合、まずは家にあるコンドームをこっそり「ジェルリッチ」に変えてみる、というのはありですね! 産後一定期間はピルやミレーナが使用できず、コンドームが避妊の第一選択肢になるので、こういうモイストタイプのコンドームはすごくいいなと思います。
あつた 二人でセックスについてあまり話した経験がないと、「潤滑ゼリーを使いたいと言って相手を傷つけてしまったら…」とパートナーを気遣って言い出せない可能性もありますよね。まずは日頃から、セックスが終わったあとに、「ここがよかった」とか「グッズを使うともっと楽しいかも」とポジティブに感想を言い合う関係を築いていく。そうすると「実はグッズを使ってみたいんだけど」といったコミュニケーションも取りやすくなるのかなと思いますね。
シオリーヌ 痛みを本人の気持ちやスキルの問題だとは、決して思い込まないでほしいです。 ホルモンバランスの変化や加齢、アルコールの摂取や疲れ具合などによっても、腟が濡れにくくなるのはよくあること。香りや質感など、さまざまなバリエーションがある潤滑ゼリーやコンドームを取り入れて、パートナー同士の新たなコミュニケーションにつなげていってみてほしいです。
Conclusion
✔︎自分たちにとって大事なラブランゲージを知る
✔︎セックスに関する価値観を、こまめにすり合わせてみる
✔︎ときにはゼリーなどのグッズに頼ってみる
今回紹介したアイテムはこちら
取材・文/平井莉生(FIUME Inc.) 撮影/REIKO MATSUNAGA 企画・編集/種谷美波(yoi)