虹クロ 井手上漠 若林祐真 Eテレ

セクシュアリティーやジェンダーにまつわる悩みや疑問を抱える10代が、さまざまな分野で活躍するLGBTQ+のメンターたちと本音で語り合う、NHK Eテレの番組『ハートネットTV 虹クロ』。番組に出演するメンターの井手上漠さんと若林佑真さんが、yoi読者のお悩みに回答してくださいました。

『ハートネットTV 虹クロ』とは?
セクシュアリティーやジェンダーにまつわる悩みや疑問を抱える10代が、さまざまな分野で活躍するLGBTQ+のメンターたちと本音で語り合う、NHK Eテレの番組。

●放送:毎月第1火曜 午後8:00~8:29 (NHKプラスで同時配信、1週間の見逃し配信もしています)
●再放送:本放送の翌週水曜 午前0:30~0:59 ※火曜深夜

公式HP:https://www.nhk.jp/p/ts/WYNW817V7Y/ 

お悩みに回答してくれたのは…

井手上 漠

モデル・タレント

井手上 漠

2003年生まれ、島根県出身。2018年、『第31回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』にてDDセルフプロデュース賞を受賞。2022年3月には、『絶対BLになる世界vs絶対BLになりたくない男シーズン2』でドラマデビュー。芸能界で活躍する傍ら美容専門学校に通い、2023年にハリウッド国際メイクアップアーティスト検定1級を取得。今年、初の美容本『自信がつく美容、美容でつく自信』を出版。

若林 佑真

俳優・ジェンダー表現監修

若林 佑真

1991年生まれ、大阪府出身。生まれた時に割り当てられた性別は女性で、性自認は男性のトランスジェンダー男性。大学在籍中から演技のレッスンを受け、卒業を機に上京。 俳優、舞台プロデュースの他、作品監修、講演活動など多岐に渡り活動している。2022年にはドラマ『チェイサーゲーム』(テレビ東京)にトランスジェンダー当事者役として出演。

18歳・トランスジェンダー男性読者のお悩み:乳房手術の予定を、両親に伝えるべき…?

私はトランスジェンダー男性の18歳です。ついこの間、保険適用での乳房切除手術の予約をしました。もう成人していて、親の同意も必要なかったので、たった独りでここまで物事を進めてしまいました。手術は約一年後ですが、それまでに親や兄弟に手術に踏み切ることを言うべきか迷っています。

性自認に関してのカミングアウトはしていますが、治療へのアプローチに関しては曖昧にしか話したことがありません。 また両親は私のセクシュアリティーを批判することはありませんが、「そんな風に思えない」とはよく言われます。なので、気持ち的には相談がしづらい状況です。

今のままでは、手術に関して事後報告という形になってしまいます。ただ、そうしてしまうと両親との信頼関係などに影響してしまうかも知れないし、何より事後報告は両親が求めていることはないと見当がついています。何を選択することが最善なのか、大人の皆様からのアドバイスがいただきたいです。

井手上漠さんの回答

虹クロ 井手上漠 お悩み相談 LGBTQ+

私は、相手が親であっても、すべてを知ってほしいとは思っていません

もし私だったら、事後報告にします。理由としては、おそらく止められるから。きっとこの方も、自分が親に言えない理由を理解しているんじゃないかな。うまく言いくるめられちゃうかもしれない、とか、「まだやらなくていいんじゃない」と言われるだろうとか。でも、この方の中では、“いつまでにしたい”というタイムリミットがあったりとか、本人にしかわからないことがたくさんあると思うんです。

私は、相手が親であっても、全てを知っておいてほしいとは思わなくて。その分、自分で決断するからには、自分で自分の責任を負う覚悟もしています。

悩んで決めた、自分の決断を大切に

いろんな親がいると思うけど、私の母は、やりたいことを最終的には納得してくれるタイプでした。反対したとしても、私と離れて一人になった時にすごく悩んで考えて、最後は受け入れてくれる。それは、愛があるからなんですよね。 

お悩みを読んで、この方も、愛のある親子関係を築いていると感じました。だから事後報告を選んだとしても、親に見捨てられるかも、親子関係が壊れてしまうかも、と不安に思わなくても大丈夫じゃないかな。たくさん考えて、悩んで決めた、自分の決断を大切にしてほしいなと思いました。

若林佑真さんの回答

虹クロ 若林裕真 LGBTQ+ お悩み相談

僕の場合は、事後報告でした

まず、たった一人でここまで進めてきたことを本当にすごいと思います。親御さんに自分のセクシュアリティを伝えたものの「そんな風に思えない」と言われてしまい、相談しづらい状況やお気持ち、すごくわかります。というのも、僕も父親にカミングアウトした時、「あなたは違うんじゃない」という反応が返ってきたんですよ。どう説明したらいいのかわからず、当分、自分からセクシュアリティーについて話すことはなくなりました。

僕自身の経験を例にお話ししますと、僕は24歳の時に乳房摘出手術をして、父親には事後報告でした。その理由としては、20歳を超えた大人であり、また、自分のお金で手術をしようと思ったから。……というのは建前で、本音としては、事前に父親に話して反対されたり、悲しそうな顔をされたりして、罪悪感やモヤモヤを抱いたまま手術をするのが嫌だった。手術をしない選択肢はなかったので、事前に伝えるのはやめました。

術後、何て言われるかな?とドキドキしながら父親に報告したところ、父親の第一声は「なんぼしたん?」。まさかの手術費用を一番に聞かれて、拍子抜けしちゃいました(笑)。「自分でお金貯めて、ようやったな」と言われて、乳房摘出手術についての会話は終わりました。

全てを話し合わない家族の形もある

『虹クロ』でもお話ししているんですけど、僕と父親の関係性は、全てを話し合う感じではなくて。ただ、お互いに多くを語らずとも寄り添い合っている感覚はあるし、僕たちってそういう家族なんだな、と自分の中で腑に落ちたんですよね。あくまで僕個人の話ですが、事後報告にして良かったと思っています。

親にきちんと話して、同意を得てから手術したいということであれば、理解してくれるまで話し続けるしかない。ただ、それには時間がかかるかもしれないし、大変な作業になる可能性もある。僕らの親世代って、学校でLGBTQについて教えてもらっていないし、そもそも知識がないんですよね。その点は仕方がないと諦めて、辛抱強く伝え続けることも一つの手ではあると思います。

書籍やエンタメを通して伝える方法も

面と向かって話すことに疲れてしまったり、辛さを感じたら、トランスジェンダーについて書かれた本を渡して、「自分のことが書かれているから読んでほしい」と間接的に伝える方法もあります。または、トランスジェンダーの方が発信しているYouTube動画のリンクを送るのでもいいでしょう。

頑張って伝えたい気持ちも理解できますが、親御さんの気持ちは操作できません。自分にできることはやり切ったけれど、それでも分かり合えない場合は、話さない選択肢を選んでもいいと僕は思う。僕の友人には、10年かかってやっと親と分かり合えた人もいれば、いまだに分かり合えていないけれど、お互いに落とし所を見つけて家族関係を保っている人もいます。

最終的には、自分の気持ちを一番大切に

相談者さんには、自分はどうしたいのか、今の気持ちに耳を傾けてほしいです。お悩みを読んでいて、親御さんを思いやる気持ちがまっすぐに伝わってきました。ご両親やご家族を大切にするのは素晴らしいこと。でも、自分の味方でいてあげられるのは自分だけですし、自分の気持ちを一番大切にしてほしい。これが、僕が最終的に一番、伝えたい言葉です。 

撮影/TOWA 画像デザイン/齋藤春香 取材・文/中西彩乃 企画・構成/木村美紀(yoi)