セックスにまつわるモヤモヤについて、助産師兼性教育YouTuberのシオリーヌさんと考える連載『SAY(性)HELLO!』。yoiのローンチ以降、たくさんの性にまつわるお悩みと向き合ってきました。今回は、これまで掲載した記事のなかから、特に反響があったお悩みを総集編でお届け。参加してくれた読者の方たちと一緒に導き出した、悩みに対するアンサーとは…?

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photo/Kaname  Sato

お悩み① セックスで嫌な行為を要求されたら

Q. アダルトビデオの影響なのか、セックス中にパートナーから嫌な行為を要求されることがあります。この違和感をどう相手に伝えたらよいでしょうか?

シオリーヌ 性教育 YouTuber セックス 嫌な行為

photo/Mesamong(getty images)

今回の参加者は…
Aさん:20代後半、会社員。未婚で同棲中のパートナーあり
Bさん:
30代前半、会社員。未婚で最近できたパートナーと交際中


▶︎アダルトビデオが、"セックスの教科書"になってない?

シオリーヌさん 大学生の頃つき合っていたパートナーに、「それ、絶対にアダルトビデオで知ったやり方だよね?」という行為を要求されたことがあったんです。「AVを見て抱いた憧れを満たすために、私の体を使わないでほしい」と思ってすごく嫌な気分になりました。私自身というより、女性の体というアイコンとして見られている気がして。皆さんは、そういう体験ありますか?

Bさん 「女性が絶頂に達することが大切だ」「とにかく強く刺激すれば気持ちいい」みたいに思い込みすぎているな、と感じたことはあります。実際にやられると痛いだけだったりして、そこにすごくギャップを感じますし、心のつながりやこちらの気持ちがないがしろにされた感じがしますね。

Aさん 私は大学生の頃、先輩に性行為を強要されかけたことがありました。相手の終電がなくなったので、「私の家で始発まで待っていていいよ」と言ってしまったんです。相手は既婚者で子どもがいたこともあって、私としては信頼して場所を貸しただけのつもりでした。でも向こうは、「家に入れる=セックスしていいと考えている」と当然のように思っていたみたいで、襲われそうになってしまって。そのとき、目の前の私の気持ちを聞かず、彼の「女性とはこういうものだ」という思い込みで行動されたことが、すごく悲しかった記憶があります。

シオリーヌさん うんうん。私のYouTubeチャンネルにいただくコメントでも、「女の人ってどうされたらうれしいですか?」みたいな質問がすごく多いんです。でもその答えは、その人しか知らないことじゃないですか。これはメディアの責任もすごく大きいと思いますが、世の中に「女の人はみんなこう考えている」「女の人はみんなこうされたら気持ちいい」と思わせる情報があふれているのは問題だと思います。メディアからの刷り込みが強すぎて、その人の中に正解ができてしまい、「目の前の人に聞いてみる」という選択肢が見えなくなっちゃっているのかもしれないですよね。


▶︎セックスは「テクニックのお披露目会」ではない

Aさん そういうこと、けっこうよくあると思っていて。例えば、私はセックス中に陰部をなめられるのが好きじゃないんです。だから「本当に嫌だからやめて」とはっきり言うのですが、「みんな好きでしょ?」という感じで流されたり、その場ではストップしても、次にセックスするときにまた同じことをされてしまったこともあります。なんでそうなるのか考えると、やっぱり"セックスの正解"が相手の中にあって、それを私に対してやっているんだと思うんです。私自身ではなく、女性としてカテゴライズされた対象に対してやっているんだなと。

シオリーヌさん セックスが「テクニックのお披露目会」になってしまっていますよね。女性器を持っている人全員がもれなく気持ちよくなる刺激法なんて、存在するわけがない。好みは人それぞれだし、同じ人であっても時期やタイミングによって変わると思うんです。だから本当だったら、毎回きちんとコミュニケーションを取るべき。でも、アダルトコンテンツの中でセックス中にそういったコミュニケーションを取っている描写は、なかなか見たことないですよね。多くの場合、女性がひたすら受け身で描かれていて、そこにどうしても違和感を感じてしまいます…。


▶︎自分のことは自分で決める権利がある

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photo/Mika Hashimoto

シオリーヌさん では、どうしたら意思表示ができるのか。Bさんは、パートナーに「こうしてほしい」と伝えられていますか?

Bさん できていると思います。今のパートナーは、どうしてほしいのか聞いてくれることが多いんです。そういう人は初めてだったので、最初はすごく感動しましたね。テクニックうんぬんの前に、セックスとはコミュニケーションなんだなと気づかされました。

シオリーヌさん 本当にそうですね。Bさんみたいに、相手が性について話せる人だったり、信頼関係ができあがっている場合ならいいけれど、ちょっとハードルが高いと感じる場合は、「もうちょっとこうしてみてほしい」とポジティブな言い方をするのもおすすめです。とはいえ、本当に嫌なことだったり痛い思いをしているときは、相手のご機嫌をうかがう必要はないですから、はっきり伝えてくださいね。

Bさん 私も今のパートナーには言えますが、それまではやっぱり難しかったです。こちらが我慢するべきだと思い込んでいて、相手に言える雰囲気ではなかったし。言ったら引かれたり、嫌われてしまうんじゃないかと、勇気もありませんでした。

シオリーヌさん すごくよくわかります! 性について相手と話し合うことはもちろん大事ですが、目の前に絶対に嫌われたくない大好きな人がいて、「これを言ったら嫌われるかもしれない」と思って切り出せない気持ちには、本当に共感します。だからそんな自分を「意志が弱い」と責める必要はまったくないです。「女性は控えめであってほしい」「意見を言う女性は面倒臭い」という社会のムードがそうさせている面もあるから、個人の弱さのせいだけではないんです。でも、すべての人に、嫌なことは嫌だと言う権利があるし、自分のことは自分で決める権利があることは、覚えていてほしいですね。

お悩み② 女性がコンドームを持っているのはおかしい?

Q. パートナーと初めてホテルに行った日。自分で用意したコンドームを差し出したら引かれてしまった…。女性が避妊具を持っているのって、おかしいことなんでしょうか?

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photo/Rick Gayle(getty images)

今回も参加者は…
Aさん:20代後半、会社員。未婚で同棲中のパートナーあり
Bさん:
30代前半、会社員。未婚で最近できたパートナーと交際中


▶︎コンドームを持っていると、「慣れている」と思われる?

Bさん 今のパートナーとは、まだつき合いはじめたばかり。先日、初めてホテルに行ったのですが、私が前もって用意しておいたコンドームを出したら、すごく驚かれてしまって。「自分は大丈夫だけど、ほかの男だったら『慣れてる』と思われちゃうかもよ」と言われたんです。私はあくまで自分の身を守るために用意していたんだけど、女性から避妊具を出すのって、おかしいんですかね。 皆さんは非常識だと思いますか?

シオリーヌさん 全然おかしくないですよ! 非常識どころか、すごくいいことですよね。Bさんは自分自身に対してすごく誠実な方なんだなという印象を、私は抱きますね。

Bさん ホテルに置いてあるコンドームは、なんとなく使う気になれなくて。

シオリーヌさん それにしても、「慣れていると思われちゃう」という言葉が気になりますね。女性が性行為に慣れていちゃいけないのかな?と。「女性は性のことをあまり知らないほうが純粋でよい」という価値観が、世の中に存在するのを感じてしまいますね。別に性的な経験が豊富だろうがまったくなかろうが、それはその人の魅力や評価にはなんの関係もないはず。それよりも、パートナーとの間に安全で健康的な関係を築くことのほうが大事なのにね。


▶︎女性が主体的に避妊をするということ

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photo/Katsuhiko Hanamura

シオリーヌさん 相手にコンドームを持っていたことを驚かれて、Bさんはなんと返したんですか?

Bさん 「避妊を人任せにしたくなかったから」と答えました。もともと避妊のこともしっかり考えてくれる人だったので、それを聞いて納得していたようでした。たぶん、女性の側からコンドームを出された経験がそれまでにまったくなくて、どう対応していいのかがわからなかったのかもしれません。

シオリーヌさん 日本では、男女のカップルだと性に対しては女性のほうが受け身で、男性の用意した流れに従うものだという雰囲気が、まだまだありますよね。私たちもそれを刷り込まれていて、無意識のうちに内面化しているのかもしれません。だからBさんのパートナーも、「女の人はコンドームを自分で買って用意したりはしないものだ」と、ごく当たり前に思い込んでいただけだったのかも。Bさんとの出来事が、視野を広げるきっかけになったんじゃないかな。

Bさん そうであってほしいなと思いますね。この件があったことで、別に関係性が悪くなったわけではないですし。でも、この件で改めて、「まだ女性が身を守るために、主体的に避妊できるような世の中じゃないんだなあ」と思いましたね。ちょっと悲しかったです。


▶︎コンドームはマスクや絆創膏と同じ「衛生用品」

Aさん 私も普段、自分を守るためにコンドームを持ち歩いています。でも友人の中には、「持ち歩いているってどういうこと?!」「なんで女子が持ってるの?」という反応をする人もいますね…。

シオリーヌさん やっぱりそうですよね〜。もっと女性が持ち歩きやすいものになったらいいのにと、私もつねづね思っているんです。コンドームって、単純に衛生用品なんですよ。だから薬局に行くと絆創膏やガーゼと同じコーナーにありますよね。生活に必要なものだから、それを買ったり持ち歩いたりするのはごく当たり前のこと。だからそれを「恥ずかしい」とか「変に思われるかな」とか、気にする必要はないと思うんです。 

Aさん 私は今のパートナーとは、二人でコンドームを買いに行くこともあります。専門店だといろいろな種類があって楽しいんです! 一緒に選ぶときもあるし、私から「これを使ってみたい!」と提案することもありますね。

シオリーヌさん それ、すごくいいですね! 


▶︎「今は避妊が必要だよね?」と言葉で確認する重要性

シオリーヌさん Aさんは、パートナーとつき合いはじめた当初から、避妊について話し合える関係性だったんですか?

Aさん 最初の頃は、私があまり経験豊富じゃなかったこともあって、私からは特に何も話さなかったんです。でも彼のほうから、「避妊はきちんとするから」と宣言してくれて。今は二人でしっかり話し合っています。私がピルを服用して、かつ行為の際にはコンドームをつけるというのがいちばん安全だと思ったので、ずっとそうしていました。今は、私の体の事情でピルの服用は中止しています。でもコンドームはいつもつけるようにしていますね。

シオリーヌさん よく「性に関することは、面と向かって話しづらい」というお悩みを聞きます。日本では、性のことはわざわざ言葉で確認しない場合が多いですよね。いざそういう行為をすることになって、直前に「コンドームって持ってる?」と確認したりね。Aさんたちは「今はしっかり避妊をしよう」と言葉で意思の共有ができているのがすごい!

Aさん 実は、私のパートナーは海外で生まれ育っているんです。だから日本とは文化や教育の違いがあるのかもしれないですね。

シオリーヌさん なるほど〜。日本よりも、避妊について話し合う習慣があるのかも! やっぱり、「今、私たちは避妊が必要な状態だよね?」と言葉にして確認し合えているだけで、安心感が違うと思うんです。最初にそこの認識を一致させておくことは、すごく大事だと思いますね。


▶︎避妊にかかるコスト、どっちが持つか問題

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photo/Sanga Park(getty images)

Bさん 私は昔、避妊を相手任せにしていて、生理が来なくなって不安な思いをした経験があります。結局何事もなかったのですが、そのときに「避妊を人任せにしてはダメだ」と身にしみて実感したんです。それから、女性側も責任を持って、自分できちんと準備すべきだと思うようになりました。

シオリーヌさん 本当にそうですね。とはいえ、日本では女性が主体となって使える避妊法が少ないし、さらにそこへアクセスするときのハードルが高すぎますよね。海外だと、コンドームやピル以外の選択肢もたくさんあるし、日本よりはるかに安い金額で手に入るんです。これは社会の問題ですよね。

Bさん 最近、ピルを始めようと思って、婦人科に行くことを検討していたんです。でも、毎月数千円のお金がかかってしまうし、土日に開いている病院を探して、休日をつぶして受診する必要がある。薬を飲みつづけることへの不安や、血栓ができるかもしれないという不安も、正直に言うと少しはあります。メリットが多いことはわかっているのですが、やっぱり何かと負担に感じてしまう。いっそのこと、男性用ピルがあったらいいのに! と思ってしまいます(笑)。

Aさん わかります! 私もピルを飲んでいたときは、通院する時間的なコストを負担に感じていました。以前、コンドームがなくなったとき、彼がネットで買っておいてくれたことがあったのですが、「コンドームはネットで簡単に買えるけど、ピルは診察をしてもらわないと手に入らないんだよなあ」と思ってしまいましたね。今は働いているので金銭的な負担はそこまで苦になりませんでしたが、これが学生時代だったら絶対に負担だったと思う! 月に数千円のお金があったら、正直、ピルに使うより趣味や推し活に使いたいと思っていたかもしれません。毎日同じ時間に飲みつづけなきゃいけないのも、小さなことのようでやっぱり大変。気を揉まなきゃいけない要素が多いなと感じますね。

シオリーヌさん 私が過去にピルを飲んでいたときは、パートナーに費用を負担してもらっていました。「病院に行く時間的コストはどうしたって私が負担するのだから、せめてお金は出して」って。

避妊するために生じるコストを、女性側だけが負担するというのには不平等さを感じます。パートナーとは、まず避妊をするという認識を一致させたうえで、「じゃあどうやって避妊する?」「そこにかかるコストは誰がどう負担する?」といったことを少しでも話し合っておけるといいですね。そうすれば、「私だけが損してる?」といったモヤモヤした気持ちも、生まれにくいんじゃないかな。

お悩み③ 出産してからセックスする気になれない

Q. 子どもを産んでから、セックスする気になれません。相手はしたいと言うけれど、気持ち的にも時間的にもそれどころじゃない! 出産後の夫婦のすれ違いにどう向き合えばよいでしょうか。

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photo/Katsuhiko Hanamura

今回の参加者は…
Aさん:30代後半、子育てひろば施設管理スタッフ。既婚で子どもは3人
Bさん:30代後半、会社員。既婚で子どもは2人
Cさん:40代前半、飲食店経営・子育てサロン主宰。既婚で子どもは3人


▶︎産後の「したくない」時期、経験者はどう向き合った?

Aさん 私は子どもが3人いますが、出産後すぐは毎回、セックスする気が起きなくて。そもそも授乳に忙しかったりすごく疲れていたりしてそれどころではないし、そういう雰囲気になったとしても途中で子どもが起きてしまって、中断せざるを得なかったり。パートナーに「触ってほしくない」と感じる時期もありましたね。

シオリーヌさん 子育てが始まると誰にでも起こる可能性のある状況ですよね。慢性的に睡眠不足になりがちなうえに、ホルモンバランスの変化や身体的なさまざまなトラブルなど、性的なスキンシップを取ることよりもはるかに大きな問題が自分の体に積み重なってくる。産後に性的欲求が低くなるというのは、ある意味では自然なことなのでは。

Aさん 特に授乳をしている期間は、「胸は子どものごはんの対象」という感覚になってしまいました。だからパートナーから性的なものとして扱われたときに、自分の頭の中でうまくスイッチが切り替わらないんです。

シオリーヌさん 過去のテーマでも、自分のおっぱいは子どものものなのに、それをパートナーが性的な対象として見ていることにすごくギャップを感じてしまう人もいるという話が出ましたね。


▶︎「こんなおっぱいはセクシーじゃない」体型変化への嫌悪感

Bさん 私はどちらかというと、出産後自分自身の体の変化を受け入れられなくて、それがセックスへの拒否感につながっていきました。例えば授乳にしても、まるで牛が乳搾りをされているような感覚を持ってしまい、「こんなおっぱいはセクシーじゃない」と思ってしまったり。帝王切開の傷あとが残っているのも嫌でしたね。第一子を産むまでは、出産を経てもこれまでと変わらない自分でいたいと思っていたから、思い描いていた理想と実際の姿のギャップに苦しみました。Aさんのように「おっぱいは子どものためのもの」と思えるお母さんのことを羨ましく感じたこともあります。今はもちろん子どもは可愛いですが、産後しばらくはつらかったですね。

シオリーヌさん 私も今妊娠中なのですが、出産・子育てに向けて変化していく自分自身の体を目の当たりにし、ボディイメージがものすごく混乱しています。自分に対する性的なイメージも、ガラッと変わらざるを得ないタイミングなのかと実感しているところです。Bさんはその後、どんなアクションを取ったんですか?

Bさん 最初の子のときは授乳期間が長かったこともあり、1年くらいしてやっと「そういうことをしてもいいかな」という気持ちなりました。なので夫にそう伝えましたね。でも実は、そこに至るまでにいろいろと失敗していて、夫婦関係が険悪な時期もありました。さまざまな要因がありますが、そもそもきちんと話し合えていなかったことが亀裂を生んでいたんだと思います。

シオリーヌさん やっぱりそこで、コミュニケーションを取ろうと一歩を踏み出すことが大事なんですね!

Bさん はい、ものすごく大事だと思います。私が相手と話し合ってみて思ったのは、性欲の表れ方は個人によってもタイミングによっても全然違うんだということ。だからちゃんと伝えておいたほうがよかったなと反省しました。


▶︎人生のフェーズによってセックスへの気持ちも変化する

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photo/Svetlana Lavereva(getty images)

シオリーヌさん 人生のいろんな段階で、性に対する気持ちがどう移り変わっていくのかは、自分でも予想できないことですよね。私もずっと、「おじいちゃん・おばあちゃんになっても性的なスキンシップがあったら素敵だな」と思っていたけれど、年を重ねていくうちに、自分は年齢とともにそういう欲求が減っていくタイプである可能性もあるよなと思うようになりました。

Cさん うちは今、セックスレスの状態です。コロナウイルスの影響で寝室を別にしていたこともあって、特別に時間を取るというのが難しくなりました。今まではそういう雰囲気になれば特に拒むこともなく、「いつでもどうぞ」という感じだったのですが…。でも、そのことについて特に夫と話したりもしていないんです。ほかにやりたいこともたくさんあるし「もうなくてもいいのかな」という気持ちになりかけています。一方で、それを寂しいと思うときも、どうにかしたいと思うときもあるんですよね。自分の気持ちにだって、正直答えは出ていないですね。

Bさん その気持ちはすごくよくわかります。私は最初の子のときに産後にうつのような症状が出てしまい、「もう子どもは1人でいいかな」という気持ちでした。でも、夫はもっと子どもが欲かった。それで関係性がすごくギクシャクしてしまって。その頃は、自分でも「このままじゃいけないな」と思いながらも何もできない状態が続いていました。だから自分でも自分の気持ちに答えが出ないというのは、すごく共感しますね。


▶︎実際に夫婦で話し合いをしたAさんは…

Aさん うちも揉めに揉めていた時期がありました。毎晩のように話し合いをして、最終的にそのなかで「セックスはもういらないの? それともいるの?」と直球で切り出したことも。私としては、もうそのくらいはっきりさせないといけないレベルにまで来ていたんです。今後もそういう関係が必要なら対処法を考えるし、お互いが納得のうえでもういらないなら、もうそれはそれでいいよね、と。

シオリーヌさん そのときのパートナーさんはどう反応されましたか?

Aさん 「すぐには答えられないから、ちょっと考えさせてほしい」と言われましたね。それで考えてもらった結果、お互いに理由はいろいろあるけれど、したいという明確な意志はあることがわかったので、「それならできるときにすればいいよね」ということに落ち着きました。

シオリーヌさん 相手がどう思っているのか聞くのは怖いけれど、その人との関係性を続けていこうと思うのならば、どこかで勇気を出して相手としっかり向き合い、話し合うタイミングが必要になるんでしょうね。


▶︎悩みを周囲の人と共有することの大切さ

シオリーヌさん ちなみに、こういう悩みを周囲の人と話し合ったりしますか?

Aさん 私は普段、あまりほかの人とは話さないですね。

Bさん 私もです。誰かと話したいとは思うんですけどね…。

Cさん 私はけっこう話すタイプで、自分の子どもや子どもの同級生、そのお母さんたちともこういう話をしたりしますね。とはいえ正直に言うと、話に乗ってくる人のほうが少ない。でもそのおかげで、子どもの友達の女の子から性に関するちょっとした相談を受けたこともありました。些細な悩みだったけれど、それでも私が普段から性の話をしていたから打ち明けてくれたのだと思います。だから、たとえすぐにわかり合えなくても、話しておくことには意味があるのかなと思いますね。

シオリーヌさん 本当にそうですね! 今日は私も皆さんのお話を伺って、とても勉強になりました。産前・産後・子育て中は、体の変化も精神的な変化も大きくて、性に対する価値観もガラッと変わる可能性のある局面なんだなと、改めて感じましたね。私はこれから出産を迎えますが、皆さんに教えていただいたことを胸に刻んでいこうと思います!

お悩み④ 産後、セックスを再開するタイミングが掴めない!

Q. 去年3月に第二子を出産してから、パートナーとゆっくり過ごす時間も場所もなく、セックスができていません。私はそろそろセックスを再開したいと思っていますが、パートナーがどう感じているのか、きちんとコミュニケーションを取れずにいます。

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photo/Reiko Matsunaga

▶︎自分たちにとって大事な「ラブランゲージ」とは?

シオリーヌさん この状況、とても理解できます。出産後はパートナーとの時間だけでなく、子どもから目を話せず、心身ともに疲れが溜まってしまいますよね。パートナーとゆっくり話す時間もないという場合、赤ちゃんの託児ができる、産後ケアホテルを利用してみるのもひとつの選択肢だと思います。お値段は少し高いけど…。

三木さん 「産後ケアホテル」というのがあるんですね! どんな施設なんですか?

シオリーヌさん 産後の育児をサポートするために、24時間体制で体と心をケアしてくれるサービスのあるホテルです。助産師が常在していて子どもを預かってくれたり、兄妹やパートナーが一緒に宿泊できるところもある。私も利用したことがあってとてもよいリフレッシュができたので、このサービスがもっと広まってほしいな、と思いますね。

あつたさん お悩みを読んでいると、もしかするとこの相談者さんがセックスを再開したい背景には、“パートナーから十分な愛情を注がれていない”と感じてしまっている可能性がありますよね。それなら、方法はセックスだけに限らなくてもいいのかもしれません。パートナーとのコミュニケーションに関しては、「ラブランゲージ」という考え方があって。ラブランゲージとは、「肯定的な言葉」「一緒に過ごす時間」「プレゼント」「家事などのサービス行動」「スキンシップ」の5つの愛情表現のことです。この中で自分はどの項目の優先度が高いのかを知る、「ラブランゲージ診断」というのもネットで検索すると出てきますよ。直接、性の話を切り出しづらければ、一緒に診断をして結果をパートナーと共有することで、自然と性について話すきっかけになるかもしれません。

また、しばらくセックスはできなくても、「好き」や「ありがとう」などの「ラブランゲージ」を伝えたり、手をつなぐなどの軽いスキンシップを重ねる時間を、パートナーと積極的につくってみるのはどうでしょう。

シオリーヌさん もちろん「セックスは自分たちにとって必要だから、できる場所や時間を二人でつくり出そう!」というのも、一つの絆の深め方としてはありですし、視野を広げてセックス以外のコミュニケーションで愛情を確認するのもありですよね。いろいろな愛し合い方に目を向けると、「セックスのための時間や場所を、絶対に確保しなければならない」という考え方から、少し距離を置けるかもしれません。


▶︎食べものの好みとは比べものにならないくらい、セックスの価値観は変化する

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photo/Reiko Matsunaga

あつたさん 価値観のすり合わせをこまめにするのって、大切ですよね。

シオリーヌさん やっぱり、性に関する価値観って個人差が大きいし、もともと持っていた価値観も、食べ物の好みなんかとは比べものにならないくらい人生のいろいろなフェーズで変わっていくもの。こまめに確認しないと、相手の状況がわからなくなる。

あつたさん 「結婚前に、週一回以上はしようって約束したじゃん!」みたいなスタンスでいると、ちょっと厳しいですよね。

シオリーヌさん 本当に。よく「カップルにとって体の相性は大切だ」などといいますが、今現在の相性がよかったとしても、20年後はどうなっているかわからない。一瞬の相性よりも、「パートナーの変化に対して一緒に変化しつづけられるか」という価値観の共有のほうがはるかに重要なのではないかと、個人的には感じています。

ーー「もともとセックスが好きだったけど、産後は気持ちがついていかなくなった」という声も読者から届きました。性に関しては変化があるのが当たり前、と知っているだけで救いになることがありそうですね。

シオリーヌさん そう思います。産後もセックスしているほうがいいとか、していないのがよくないとか、そういう正解があるものではないと思うんです。


▶︎お互いの希望をすり合わせるベストな方法

ーー日々変化していく価値観をこまめにすり合わせる方法として、取り入れやすい方法はありますでしょうか。

シオリーヌさん 例えばTVで“ベストカップル賞”などのニュースが流れたときに、「自分たちは、おじいちゃんおばあちゃんになっても、いちゃいちゃする時間を持っていたいかね?」という話をしてみるとか。「どんなカップルでいたいか」という話題から入ると、話しやすい気がします。

あつたさん 私が運営しているカップル向けのコミュニケーションアプリ「ふたり会議」でも、“セックスについての質問をもっと増やしてほしい”というリクエストがすごく多くて。アプリの中には、「そもそもセックスが好きか」という質問を入れているのですが、実は相手がしたくないのに我慢していた、というパターンもよくあるみたいで。

シオリーヌさん そうそう。そもそも好きかとか、望んでいる頻度とか。あっさりが好きか、こってりが好きか、30分でいいのか、2時間したいのか。同じ好きだとしても、30分を週3でしたいのか、2時間を月1でしたいのか…。全然違うからこそ、お互いの価値観を言語化してみて初めてわかることもありそうですよね。


お悩み⑤ 産後の体質変化による性交痛、どうしたらいい?

Q. 産後に体質が変化したのか、腟からの分泌物が減って産前に比べて濡れづらく、痛みを感じるようになってしまいました。そのせいでセックスが心から楽しめず、性欲が減退しています。

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photo/Reiko Matsunaga

▶︎セックスのツール、使うハードル高すぎ問題

三木さん 弊社ではいろいろな潤滑ゼリーを販売していますが、産後の性交痛に悩んでいる方は、お客さまのなかにもとても多くいらっしゃいます。産前から「出産後は体の変化がある」という予備知識を持っていると、「私だけかな?」という不安を抱えずにすみますし、いざ変化を感じたときに、ゼリーなどのグッズにも出合いやすいかもしれない。解決策を知らずに悩みを抱えたままの方も多いので、認知を広めていくのが私たちの課題だと感じていますね。

あつたさん 「性交痛は耐えるもの」と思って我慢している人の話は、私もよく聞きます。これが家事や育児なら、いろいろな便利グッズをすぐに試すのに、セックスにグッズやツールを取り入れるのには抵抗がある人も多い。

三木さん そうですよね。私たちが販売している「リューブゼリー」は、薬局や産婦人科などでも販売していて手に取りやすく、特に人気の定番商品です。粘膜や皮膚から水分を吸収してしまう「ローション」と違ってうるおいを逃さず、デリケートな腟内にも使えるのが特徴。使っていただいた方からはすごく好評を得ていて、リピーターも多いんです。

シオリーヌさん 私自身も妊活中、「セックスのタイミングを取らないといけないけれど、体力的に余裕がない」というときに、この「リューブゼリー」を愛用していました!

三木さん ありがとうございます! これまでは、産後のストレスや加齢でうるおい不足になっている利用者の方が大半でしたが、最近は20代の購入者もすごく増えています。性についての悩みを周囲に打ち明けやすくなっていたり、ネットなどで情報を簡単に得られるようになったからかもしれません。

シオリーヌさん 「グッズに頼ってもいいんだ」という認知がようやく届きはじめたことも理由のひとつにありそうですね。


▶︎“うるおい強強”なコンドームを使ってみるのもあり

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ーーグッズを取り入れることに抵抗がある人もいると思います。その場合、二人のあいだでどういうコミュニケーションを取るといいでしょうか。

あつたさん ツールを使うこと自体よりも、“ツールを使うことをパートナーに言うこと”にハードルを感じているのではないかな…。

三木さん それはありそうですね。「パートナーに言いづらいから、事前に内緒でゼリーを仕込んでいる」という利用者も実際にいらっしゃいます。そもそもゼリーを使うことに抵抗がある方は、コンドーム自体に水溶性ゼリーを多く使用している、『グラマラスバタフライ』シリーズの「ジェルリッチ」もおすすめです。

シオリーヌさん たしかに「潤滑ゼリーを使いたい」と言いづらい場合、まずは家にあるコンドームをこっそり「ジェルリッチ」に変えてみる、というのはありですね! 産後一定期間はピルやミレーナが使用できず、コンドームが避妊の第一選択肢になるので、こういうモイストタイプのコンドームはすごくいいなと思います。

あつたさん 二人でセックスについてあまり話した経験がないと、「潤滑ゼリーを使いたいと言って相手を傷つけてしまったら…」とパートナーを気遣って言い出せない可能性もありますよね。まずは日頃から、セックスが終わったあとに、「ここがよかった」とか「グッズを使うともっと楽しいかも」とポジティブに感想を言い合う関係を築いていく。そうすると「実はグッズを使ってみたいんだけど」といったコミュニケーションも取りやすくなるのかなと思いますね。

シオリーヌさん 痛みを本人の気持ちやスキルの問題だとは、決して思い込まないでほしいです。 ホルモンバランスの変化や加齢、アルコールの摂取や疲れ具合などによっても、腟が濡れにくくなるのはよくあること。香りや質感など、さまざまなバリエーションがある潤滑ゼリーやコンドームを取り入れて、パートナー同士の新たなコミュニケーションにつなげていってみてほしいです。


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