セックスにまつわるモヤモヤについて、助産師兼性教育YouTuberのシオリーヌさんと考える連載『SAY(性)HELLO!』。今回は、読者から寄せられた出産後のセックスにまつわるお悩みについて、シオリーヌさんとゲストが話し合うことに。お招きしたメンバーは、カップルでお互いの価値観を共有できるアプリ「ふたり会議」を運営するあつたゆかさん、コンドームや潤滑ゼリーなどの衛生・生活用品を取り扱う企業、ジェクスのマーケティング企画部・三木望さん。
【読者のお悩み】
4人目の子どもを出産してから、性欲が行方不明です。お産の感覚がまだ残っている感じがして、セックスをするのが怖い…。パートナーからは誘われるのですが、何度断っても「一度試してみよう」の一点張り。なかなか気持ちをわかってもらえていない気がします——。
産後になってみないとわからない、気持ちの変化
シオリーヌ 産後は特に、ホルモンバランスによる心身の変化が大きいタイミングです。産前よりも性的欲求が減少したり、子育てによる寝不足でセックスをしたくない方も多いですよね。実際に、私も出産の動画をYouTubeにアップしてから、コメント欄にこういった悩みが届く機会が増えたと感じています。
身体面では、産後1カ月の健診で医師が問題がないと判断すれば、「セックスを再開していい」と言われるケースが多いですが、心身ともにセックスできる状態になったと本人が感じられるかどうかは、個人差があります。それは、本当に産後になってみないとわからない。今まで感じたことのない自分自身の感情に、戸惑う方も多いです。だから、性行為のタイミングは、体の回復だけでなく精神面や環境面など、いろいろな側面から判断していく必要がありますよね。
あつた 出産後は、まさに育児という“緊急のタスク”が発生している状態。二人の関係におけるセックスの優先順位が、これまでと変わる時期でもあります。そのなかで、セックスをどこに位置づけるのか、パートナー間で意思確認をしてから方法を探っていくのがよいのかなと感じます。
三木 私たちのメーカーでは性交痛用の潤滑ゼリーを販売しているのですが、問い合わせフォームに、産後のセックスについての相談をいただくことがすごく多いです。そこからも、悩んでいる方がたくさんいると感じますね。
「セックスがない現状」をどうとらえているか、のすり合わせ
シオリーヌ まず、現状をどうとらえているのかをパートナー間で共有するのが第一ステップなのではないでしょうか。解決したいと思っているのか、「今はこれでもしょうがないよね」と思っているのか、産後のいちばん大変な時期を乗り越えたら再開したいと思っているのか…どういうスタンスでセックスに向き合っているのかについて、お互いの意思をすり合わせることが必要なのかなと。子どもがまだ幼いうちは、セックスの優先度を下げて育児に専念するという選択もありますし、もしセックスレスを解決したいと思っているのであれば、現実的な解決策を考えていく必要があるかもしれないし…。
あつた パートナー同士で話し合ったうえで「産後のセックスもお互いにとって重要」と判断したならば、二人きりになれる時間を捻出してみるのもありですよね。例えば私が知っている方は、二人の時間をつくるために、赤ちゃんが自力で寝られる習慣を訓練していく「ネントレ(ねんねトレーニング)」をしていました。
シオリーヌ 二人でゆっくりする時間を持つために、共通の目標を持つ、というのは、たとえそれが実現できなかったとしても、いいパートナーシップにつながりそうですよね。
必ずしも“最初から最後まで”がセックスではない
シオリーヌ ところで、お悩みにある、「パートナーが一度試してみようの一点張り」という部分はちょっと気になります。“最初は嫌がっていても、始められさえすれば最終的にはノリ気になるのではないか”、という思いがあったりするのかな。
あつた 夫婦間であっても、セックスをしていいかどうかの性的同意を取るのは重要です。やりたくないことは、男女ともに断る権利がある。
シオリーヌ 夫婦やカップルになるということは、“いつでもセックスできる契約”ではありませんからね。
あつた そうそう。もし挿入に違和感があるのならば、まずはキスやハグから始めて、オーラルセックスを試してみるなど、自分にとって無理のない範囲から始めてみるとか。きっと、「ここまではできるけれど、ここからは難しい」という境界線があると思うんです。
三木 よくお客さまからも、「いつから、どうやってセックスを再開していいのかわからない」という声が届きます。挿入をして“最初から最後まで”完結させることだけを考えず、「今日はここまで」と区切りをつけて少しずつ段階を踏んでいくのもいいかもしれません。
シオリーヌ ここでいう、「試す」ことに合意するときは、自分が主導して、「『ここまではOK』というのを明確に返事するから、『ここでストップ』と言ったらやめてね」と約束したうえで、一度受け入れてみるのはひとつの手かなと思いますね。「試す」の定義を事前に確認しておくのが大切なのではないでしょうか。
性の価値観の話し合い、どう切り出す?
ーーとはいえ、性の価値観について話し合うことにハードルを感じる人も少なくないですよね。その場合、まずはどのようにコミュニケーションを始めていくのがいいのでしょうか。
あつた 私が運営している「ふたり会議」という、パートナーと一緒に使用するアプリでは、いろいろな質問にそれぞれが答えていくことで、お互いの価値観をすり合わせていくことができるようになっています。例えば、「どのくらいの頻度でセックスしたい?」「セックスをしなくなることに抵抗はある?」といった性に関する質問だけでなく、「料理はお惣菜や冷凍食品に頼りたい?」などの日常的な話題や、「将来子どもは欲しい?」「育休は取りたい?」などライフプランの話まで、さまざまな角度でお互いについて知ることができます。直接話題を切り出しにくければ、こういったツールに頼ってみるのもありかなと。
シオリーヌ 「ふたり会議」、すごくいいですよね! あるいは、もし「自分はここがつらい」と伝えることにハードルを感じるなら、「一般的には、産後はこうなることが多い」という事実から伝えてみるのはどうでしょうか。そのうえで、「私にもこういうことがあるかもしれないけど、あなたはどう思う?」という話し合いから始めてみるとか。そうすることで、体や心に起こる変化が、出産した側だけの問題ではなく、二人の課題になっていくと思うんです。片方だけが解決するべきものではなく、“一緒に戸惑っている存在”として、現状に向き合う視点が持てる。
三木 そうですね。大切なのは、この時期にはこういう状況になりうる、ということを、男性も女性も事前に知っておくことだと思っています。というのも、例えば性交痛がセックスレスの原因になっている場合でも、潤滑ゼリーという解決策がある、ということを、意外と知らない方も多いんです。あらかじめ情報を知っていれば、すぐにその選択肢が選べますよね。だから、私たちももっと情報提供をしていかなくては、と感じます。
セックスレスではなく「前向きな活動休止」
シオリーヌ 私は今まさに産後なのですが、パートナーとは「一般的にはセックスレスといえる状況だけど、これは前向きな活動休止だよね」と話していて(笑)。その共有があるだけでも、精神的に楽になる気がします。
セックスは夫婦でつながる、さまざまな方法のうちのひとつ。それは二人で話す時間だったり、一緒に散歩することが夫婦のつながりを確認する方法だという人もいるかもしれない。お互いにとって、それがなんなのかを共有できていることが大事ですよね。我が家は、一緒に育児にドタバタと立ち向かっている今の時間が、夫婦の絆を深めているようにも感じています。
あつた それぞれのライフステージの状況によって、つながる方法も変わってくるはずですよね。例えば仕事に置き換えてみると、「若い頃はたくさん出張に行っていたけれど、今は育児で忙しいのでリモートに切り替える」という感じで、「20代の頃と違って、産後はあまりセックスができない」というように、状況は変わるものだというのが大前提。そのつど話し合って、自分たちにとって必要なセックスを再構築していきたいですよね。
Conclusion
✔︎産後は心身ともに変化する時期。性に対する価値観が変わるのは当たり前
✔︎まずは二人のセックスに対する現状について、お互いの考えをすり合わせる
✔︎産後の変化を、出産した側の問題ではなく、二人の課題にして向き合う
取材・文/平井莉生(FIUME Inc.) 撮影/REIKO MATSUNAGA 企画・編集/種谷美波(yoi)