世界最大級のマッチングアプリ「Tinder®︎ Japan」が企画した、オリジナルサイト「Let’s Talk Gender」。多様なジェンダーやセクシュアリティについて、楽しくわかりやすく学べると、公開するやいなや大評判に。あらゆる人が自分や相手について知ることができ、たくさんの気づきを得ることができるサイトにyoi編集部も感動! どのような思いでサイトを作られたのか、制作メンバーへのインタビューが実現しました。

Tinder永野久美 中里虎鉄 落ち葉えりか Let’s Talk Gender

サイトを制作するに至った経緯や、こだわった点などを、プロデューサーとして制作に携わった落葉えりかさん、コンテンツディレクターの中里虎鉄さん、「Tinder®︎ Japan」広報担当の永野久美さんの3人に伺いました。

<Let’s Talk Genderとは
マッチングアプリ「Tinder®︎ Japan」が企画し、2023年4月にローンチしたオリジナルウェブサイト。ジェンダーアイデンティティ(性自認)やセクシュアリティ(性的指向)、ロマンティック(恋愛的指向)を含む多様な性のあり方について、より深く理解するためのキーワードを紹介するほか、日常生活で起こりうる身近なシチュエーションを題材にしたQ&Aをまとめ、ジェンダーに関して戸惑いや疑問が生じて立ち止まってしまったとき、解決のヒントとなるような情報を掲載。また、サイト内では性のあり方が多彩な10名によるインタビュームービーも公開している。
▶︎https://letstalkgender.jp/

Let's Talk Gender サイト画像

プロデューサー

落葉えりか

企業のビジョンを設計し、形にするビジョニングカンパニー「NEWPEACE Inc.」で、ジェンダーや性教育、サステナビリティの領域を中心にプロジェクトをプロデュース。

コンテンツディレクター

中里虎鉄

フリーランスでメディアのエディター・フォトグラファー・ライターと、肩書きに捉われず多岐にわたり活動している。あらゆるメディアのコンテンツ制作に携わりながら、ノンバイナリーであることをオープンにし、性的マイノリティ関連のコンテンツ監修なども行う。

Tinder®️ Japan コミュニケーションズ シニアディレクター

永野久美

マッチングアプリ「Tinder®️」を通して、ダイバーシティや性的同意についての認知拡大、性的マイノリティAlly教育などの取り組みに力を入れたプロジェクトを展開中。

“日本の読者が”ジェンダーやセクシュアリティについてもっと知ることができるサイトを目指しました

――まず、Let’s Talk Gender誕生のきっかけを教えてください。

永野「Tinder®︎」はもともと、すべての人がお互いの人権と尊厳を大事にして生きていけることを大切にしており、「多様な人々を歓迎します」という姿勢を示すための活動は、積極的に取り組んできました。そんな中、インドの「Tinder®︎」チームが現地のNPO法人と共に制作した同様のサイトを見て、「日本でも絶対に作りたい!」と感じたのがきっかけです。しかしインドと日本では文化も環境も違うため、日本で作るにあたって、きちんとローカライズしなければいけないなと感じて。昨年、別のプロジェクトでご一緒した落葉さんに今回は依頼しました。

落葉:ありがとうございます!

永野:同じ志を持ったかれらならば、信頼して任せられるなと。一緒に食事をしていたときだっけ? こういうサイトを作りたいんだけど…と話したら、めちゃめちゃ盛り上がり、とんとん拍子で始まりました。

落葉:私自身が以前から「Tinder®︎」メンバーで、大好きなマッチングアプリだったんです。前回のプロジェクトは私たちからアプローチして実現したので、相思相愛になれたことがうれしかった!

――サイトを制作するにあたり、どのようなことにこだわりましたか?

落葉:永野さんからは、このサイトはインド版の「日本語訳」ではなく「日本版」なので、オリジナルの、自分達が本当に良いと思えるコンテンツを作ってほしいとリクエストいただきました

永野:日本人はコンテンツを選ぶ際にビジュアルから入る傾向が高いため、デザインは特にこだわりたかった。そのうえで、わかりやすく、かつ誰も排除しないような内容にしたいと思っていました。

落葉まず制作チームを考える段階から、絶対に性的マイノリティ当事者の方には入っていただきたい、と考えていました。今の日本の状況を理解し、どうやって発信するべきかをきちんと考えられて、かつクリエイティブな視点も持ち合わせている人…と考えたときに、虎鉄しかいなかった!

虎鉄:あははは、ありがとう。

――落葉さんと虎鉄さんは、元々どのようなつながりがあったのですか?

虎鉄:お仕事をご一緒したことをきっかけに、日々のモヤモヤなどを共有し合う友達に発展しました。もともと信頼関係のある落葉からの依頼だったので、安心してジョインすることができました!

中里虎鉄 落葉えりか Tinder Let's Talk Gender

“知る”ことでひろがる、救われる。言葉のひとつひとつを慎重に選びました

――多様な性のあり方を取り上げながらも、とてもわかりやすい文章とサイトデザインに仕上がっていて感動しました! サイトの構成を考える際に、どのようなことを考えましたか?

落葉:インド版はテキストとQ&Aがベースになっていて、すごくわかりやすかったから、そのフォーマットは残そうと。その上で、日本版はどういう構成にしようか?ということを話し合いました。中でも、多様な性のあり方をどう整理して掲載するかについては、ライターの大谷明日香さんを中心に制作チームで何度も試行錯誤しましたね。

虎鉄アイデンティティを選定することについては、かなりジレンマというか、後ろめたさを感じましたね。すべてを載せてしまうと膨大な数になってしまうし、サイトとしてわかりづらくなってしまう。それではもったいないので、今の日本の社会情勢や性的マイノリティコミュニティを考慮しながら、慎重に選びました。言葉の認知度として高いものや、逆に認知されていないけど、明確にすることで救われる人が増えるであろう言葉など、様々な視点から考慮しています。もちろんそこに優劣はないのですが。

落葉認知されていない言葉の一つが、ロマンティック(恋愛的指向)ですね。既存のこういったサイトでは、個人の指向についてセクシュアリティ(性的指向)のみを紹介している場合が多いのですが、虎鉄がロマンティックは絶対に入れたいと言ってくれて。

虎鉄セクシュアリティとロマンティックって同じものとして考えられがちなんですけど、性的な魅力と恋愛的な魅力の感じ方は、必ずしも一緒じゃない。例えば性的に魅力を感じるのは異性であっても、恋愛感情を抱くのは同性という人もいます。また、ロマンティックが誰にも向かないアロマンティックを自認する人もいます。実際、私の友達にもそういう人がたくさんいますが、この言葉に出合うまでは、「自分は誰かを好きになっても、一般的とされているカップルと同じような関係を築けない」と悩んでいました。

永野:ロマンティックという言葉は私にとっても新鮮でした。私が知らないことは、「Tinder®︎」の主なメンバー層である若い人たちは、もっと知らないはず。出会いや恋愛のきっかけを提供するアプリとして、とても大切な知識だと感じて入れてもらいました。

落葉:文章量については、丁寧に表現しつつもコンパクトにまとめるために、たくさんの試行錯誤を重ねたよね。

虎鉄:ジェンダーに関する知識をつければつけるほど、ひとつのアイデンティティを短く説明することは難しくて。最初はめちゃめちゃ長くなってしまったんですよ。でも当事者だけでなく、今はシスヘテロ(生まれたときに割り当てられた性別と自認する性が一致する異性愛者)の人たちにも理解してもらう必要がある。そのためには、もう少しライトな言い回しやボリューム感でないといけない

わかりやすさを求めすぎても、ないがしろになってしまう可能性もあるし…当事者と今は当事者ではないと感じている人、多くの人の視点を入れながら、少しずつ情報を削っていきました。世間に知られていない言葉や情報は、まだまだたくさんあるので、これからもブラッシュアップしていきたい。世の中の動きと共に言葉の数を増やすなど、アップデートしていけたらいいなと思っています。

中里虎鉄 落葉えりか Tinder Let's Talk Gender トーク

当事者たちが“自分の言葉で”話すからこそ伝わることがある

――当事者の方たちが出演する動画は、インド版には含まれていないオリジナルコンテンツのひとつですね。動画を作るに至った理由を教えてください。

落葉虎鉄の「当事者の存在を可視化したい」という意見がきっかけでした。

虎鉄:性的マイノリティについて語る機会では、ゲイ男性が起用されることが多いんですね。実は性的マイノリティの中にも特権階級が存在し、その上層にいるのがシスゲイ男性(生まれた時に割り当てられた性別と自認する性が一致する男性同性愛者)。セクシュアリティに関してはマイノリティですが、男性としての特権も持っているため、性的マイノリティについて包括的に語れる人は少ないと思っていて。そんな背景もあって、自分のアイデンティティやストーリーを自分の言葉で話す機会を奪われ続けてきた人々に、かれら自身の言葉で話してもらいたかった

落葉:もちろん当事者であれば誰でもいいわけではないし、人数が少なすぎると偏りが出てしまう。オファーする方やアイデンティティの数・種類についても、何度も議論しました。

虎鉄アイデンティティが同じであっても、みんなが同じ考えを持っているわけじゃないので。それを理解し、責任を持って発信できる人たちにお声がけさせていただきました。

永野:印象的だったのは、動画に出演してくださった皆さんに、「私たちのことをもっと知ってほしい」という想いが共通していたこと。かれらの熱量を感じ、これはもっともっと伝えていくべきことで、その先に、かれらのアイデンティティが当たり前の世の中がある。そう強く感じました。

中里虎鉄 Tinder Let's Talk Gender

無関係の人なんていないから。みんなが知り、話し合える世界を目指すために

――このサイトを制作する過程で、どんな発見や学びはありましたか?

虎鉄:リリース後、当事者コミュニティからよいフィードバックが沢山あり、かれらをエンパワーできるようなコンテンツに仕上がったことを実感できて本当にうれしかった。ある一定のコミュニティについて取り上げる際に、その当事者が制作に入ること、そして当事者以外の人々と手を組んで色んな視点を入れることの大切さを改めて学びました

落葉:たくさんの学びがありましたが…私は特に、虎鉄のスタンスにハッとさせられることが多かった。例えば、虎鉄はすべての人の性のあり方について、必ず“今は”とつけて話すじゃない? 誰でもゆらぐ可能性があるってことを前提にコミュニケーションを取ってくれるので、私を含めて、シスヘテロを自認するメンバーが改めて自分の性のあり方と向き合うきっかけになった。決めつけられないことで、すごく心地よく議論できたし…姿勢として本当に素晴らしい。虎鉄のコミュニケーション方法は、自分も実践したいし、もっと広めたいと感じました。

永野:サイト全体を通して、本当に沢山の学びがあったので、もっと早く知りたかった! と強く感じました。私自身を含め、知識がない人はまだまだ沢山いて、その原因のひとつはコミュニケーション不足なのかな、と。みんなが話し合えば、お互いの理解が深まり、知識も広がります。ますます「Let’s Talk Gender」を広めたい気持ちが強くなりました!

Tinder永野久美 中里虎鉄 落葉えりか Let’s Talk Gender 笑顔のスリーショット

【8/30(水)20時START】ジェンダー、セクシュアリティ、人間関係のモヤモヤを語るオンラインイベントを配信!

8/30(水)の20時から、本インタビューにも登場していただいた中里虎鉄さん、「Let's Talk Gender」の動画コンテンツに出演しているモデル・俳優のイシヅカユウさん、学生のRinka Yamashimaさんをゲストにお迎えしたスペシャルトークムービーのプレミア公開イベントが決定!

yoi読者から募集した、ジェンダー、セクシュアリティ、人間関係にまつわるモヤモヤについてトークします。当日は、視聴者の皆さんと一緒にプレミア公開を視聴しつつ、出演者の皆さんがリアルタイムでチャットに返信します。動画の感想や、ゲストの皆さんに聞いてみたいことなど、たくさんお話ししましょう!

取材・文/中西彩乃 撮影/山崎ユミ 企画・編集/木村美紀(yoi)