「大人になってからの友達の作り方がわからない」——30歳前後のyoi読者から、よくそんなお悩みを編集部にいただきます。今回は友達をテーマにした演劇『友達じゃない』の公演を終えた、今注目の演劇団体『いいへんじ』の主宰・中島梓織さんと、以前から親交があるという『桃山商事』の清田隆之さんに、お二人の出会いから、「友達」の定義、大人になってからの友達の作り方などについてお聞きしました。

『桃山商事』清田隆之さん×演劇団体『いいへんじ』中島梓織さん対談 友達の作り方 双極性障害

清田隆之

文筆家

清田隆之

1980年生まれ、早稲田大学第一文学部卒。文筆家、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表。これまで1200人以上の恋バナに耳を傾け、恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを執筆。著書に、『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門―暮らしとメディアのモヤモヤ「言語化」通信』(朝日出版社)など。桃山商事としての著書に、『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)などがある。

中島梓織

演劇団体『いいへんじ』主宰・劇作家・演出家・俳優・ワークショップファシリテーター

中島梓織

1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒。演劇団体『いいへんじ』主宰。劇作家・演出家・俳優・ワークショップファシリテーター。大学時代の同期と演劇団体『いいへんじ』を結成し、2017年に旗揚げ。双極性障害Ⅱ型であることを公表しており、演劇『薬をもらいにいく薬』『器』など近年はメンタルヘルスの問題とからめた作劇が特徴。2024年3月の公演『友達じゃない』は、友情について深く考えさせられると話題に。

年齢差17歳。同じ先生の教え子だった清田さんと中島さん

演劇団体『いいへんじ』の三人。左から中島梓織さん、小澤南穂子さん、飯尾朋花さん 『桃山商事』清田隆之さん×演劇団体『いいへんじ』中島梓織さん対談 友達の作り方 双極性障害

演劇団体『いいへんじ』の三人。左から中島梓織さん、小澤南穂子さん、飯尾朋花さん

——お二人はもともとお知り合いだったとのこと。年の差があるお二人の出会いについて教えてください。

清田さん
 中島さんも僕も早稲田大学の卒業生で、同じ先生の教え子だったんです。英米演劇の研究をされている水谷先生という方がいまして、在学していた時期は重なっていないのですが、僕と水谷先生で「自主ゼミ」を毎月開催していたことがあり、そこに大学生だった中島さんが参加してくれて。それが初めての出会いでした。

中島さん そうでしたよね。その講義の帰りに一緒にお茶させてもらって。当時は清田さんのこと「面白いけど何をやっている人なんだろう?」と思っていました(笑)。「“恋バナ収集ユニット”とは…?」みたいな。

清田さん 僕は実はその前から中島さんのことをうっすら知っていたんですよ。先生から面白い演劇を作る人がいると話には聞いていたから。ある日、構内で『いいへんじ』の演劇のポスターを見つけ、「これは先生が授業で話してたあれだ!」とピンときました。

中島さん その時貼り出していたのは『つまり』という作品のポスターで、先生が授業で話していた「言葉のあやふやさ」の図をもとにしてデザインしたものなんですよね。

2018年に上演した、『つまり』のポスター 『桃山商事』清田隆之さん×演劇団体『いいへんじ』中島梓織さん対談 友達の作り方 双極性障害

2018年に上演した、『つまり』のポスター。清田さんは早稲田大学の構内でこのデザインを見て、水谷先生の教え子だと、ピンときたそう

清田さん なぜこのポスターを見てピンときたかというと、「言葉を使うとはどういうことか」を説明するときに先生が描いてくれる図が、まさにこんな感じなんですよ。「感情や考え、概念というのはあやふやで、うにょうにょしていて、形が不明瞭なもの。一方で言葉というのは四角いもので、それを使えば感情や思考の輪郭をとらえることができる。でも、言語化によって切り捨てられてしまう部分もあれば、余分なニュアンスまで取り込んでしまうこともある」と。

だから『つまり』のポスターを見た瞬間ピンときたし、これは「言語化」をめぐる葛藤を描いた、絶対好きなタイプの演劇だ…!と思い、観劇に伺いました。それ以来『いいへんじ』の大ファンになり、個人的にも交流を続けさせてもらっています。

本当の自分を知っても、友達でいてくれる?

——『いいへんじ』が2024年3月に公演を行った『友達じゃない』は、演劇好きの間で大きな話題を呼んでいました。清田さんもアフタートークのゲストとして登壇もされていましたが、『友達じゃない』は一体どんなストーリーだったのでしょうか。

中島さん
 あらすじを簡単に説明すると、主人公の吉村は、「友達」と呼べる人がいないことがコンプレックス、という女性。仕事の後、毎日のように路上ライブをする男性シンガーを追いかけていたのですが、そこでたまたま自由奔放な女性・真壁と出会います。吉村は真壁と友達になりたいがどうしていいかわからず、ある日「友達になりたいです!」と告白のようなことをするんです。そこで真壁に「もうとっくに友達じゃない?」と言われて。

清田さん あの“激しい告白”みたいなシーンはすごく印象的でした。表面張力いっぱいまで蓄積した感情、言わずにはいられない勢い、イチかバチかのギャンブル感…みたいな、今までだったら恋愛という文脈の中で見ることの多かった諸々が「友情」という枠組みの中で描かれている、というところも新鮮でした。好きなシーンはたくさんあるけど、あそこがいちばん心に残っているかもしれない。

2024年3月に公演を行った演劇『友達じゃない』 『桃山商事』清田隆之さん×演劇団体『いいへんじ』中島梓織さん対談 友達の作り方 双極性障害

徐々に仲良くなる、真壁(左)と吉村(右)のワンシーン

中島さん 意識的にそこで感情が爆発するようにエネルギーを凝縮させたので、そう言っていただけてうれしいです。

二人は友達として長い時間一緒に過ごすようになるのですが、ある日、主人公の吉村は、天真爛漫だと思っていた真壁から、双極性障害II型(軽躁状態と抑うつ状態を繰り返す精神障害)であることを告げられます。

「こんな自分を知ったら嫌われるだろう」と真壁は吉村と距離を置くようになりますが、それでも寄り添いたいともがく吉村。そんな二人が、「友達とは?」というテーマに向き合う物語です。

清田さん 構想段階のときに中島さんから「次は友達というテーマで書こうと考えています」って話を聞いたとき、本当にちょっと震える感じがあったんです。家族でも恋人でも仕事仲間でもない、「友達」という関係性に今改めてフォーカスを当てるというのが、なんかすごく現代的な気がして、「おお!」ってなって。

自他の境界線をしっかり引きましょうとか、暴力やハラスメントに気をつけましょうとか、“線引き”の重要性が問われている時代に、「じゃあ友達ってなんだ?」と改めて考えてみることって、とても有意義だし、勇気がいることだよなって感じました。

大人になってから友達を作るには、“フォーリン フレンドシップ”の波に乗る

大人になってから友達を作るには、“フォーリン フレンドシップ”の波に乗る 『桃山商事』清田隆之さん×演劇団体『いいへんじ』中島梓織さん対談 友達の作り方 双極性障害

清田さんのお子さんが生まれた当時、中島さんも会いに行ったそう

——今回の作品のテーマは、「友達」です。yoi読者からは「大人になってからの友達の作り方がわからない」という声を聞くこともあるのですが、お二人は大人の友達作りに難しさを感じたことはありますか?

中島さん
 まさにその悩みが『友達じゃない』を作るきっかけのひとつでした。大人になって出会う人って、だいたいお互いに役割があるじゃないですか。例えば私だと、演劇の「演出家」として、「出演者」や「スタッフ」という肩書きを持った方と出会うことがほとんど。自分は演劇の仲間と仲良くなりたいと思っていても、必然的にそこには権力関係が生まれてしまいます。小さい団体だったとしても自分は役を割り当てたり指示をする側だから、こちらから「仲良くなりましょう」というのは少し暴力的な気もするというか…。

でも清田さんは、どんな方とでも役割を超えてお友達になっているイメージがあります。私もお茶に誘っていただいてから、ずっと関係が続いているし。

清田さん 意識的に友達を増やそうと思っている、というわけではないんですが、確かに昔から苦手ではなかったというか、大人になってから、素敵な縁に恵まれる機会はむしろ増えている気もします(笑)。

恋に落ちることを「フォーリンラブ」って言うじゃないですか。あれの友達版というか、「フォーリンフレンドシップ」みたいなものもあるんじゃないかと思っていて。恋愛的ではなく、人として波長が合うとか、なんかいいなと思うとか、ビビっとくる感じ。

その「フォーリン」を感じたら、思い切ってお茶に誘ってみたり、少しプラベートに近い感覚で接触してみたり、何かしらアクションを起こすようにはしているかもしれません。なんか友達っぽい感じになれそうと思ったら、個人として興味を持った話題を振ってみる。もちろん、相手が関係性の枠組みを重んじるタイプだと感じたら、それに沿った話に切り替える必要はあると思います。

中島さん 私は清田さんみたいに自分から行くのは苦手です…。でも、そうやって、歩み寄ってくれていることがわかるとうれしいですよね。「私と仲良くなりたいと思ってくれてるんだ!」ってうれしくなって、すぐ懐いちゃう。

清田さん 逆に自分は、相手から来られると戸惑ってしまう性格で…(笑)。それはさておき、自分から行動を起こせなくても、誘ってもらってうれしかったらそれを表現してみる、というだけでもいいかもしれないですよね。波が来たら、まずは乗ってみる。自分にあったやり方で「フォーリンフレンドシップ」を大事にできると、大人でもいい友達が作れるんじゃないかと思います。

改めて考える、「友達」とは? 二人が出した結論

——最後に、作品を作る・観ることを通して、お二人は改めて「友達」とはどのようなものだと感じましたか?

清田さん
 今回、『友達じゃない』の配信なども振り返りながらいろいろ考え、ちょっと明確な答えが見えた気がしたんですよ。友達とはつまり、「世界はアウェイじゃない」と感じさせてくれる存在なのではないかって。失敗したとき、周囲になじめないとき、なんか寄る辺ないときとかって、まるでこの世界に自分の居場所がないような気がするじゃないですか。そういうときに「アウェイじゃないんだ」って思わせてくれる存在なんじゃないかって。

それは、リアルに隣に居なくてもよくて、LINEでもいいと思うんですよ。「飲み会に来たら、すごいアウェイなんだけど(笑)」みたいなLINEを送れるとか、そんなことでもいい。この世界のどこかに「つかまる場所がある」と感じさせてくれるのが友達かな、と。中島さんはどう?

中島さん 私は作品を作っていく中で「友達とは◯◯だ」という答えが見つかると思っていたのですが…むしろ逆に「はっきりと定義できないものである」という感覚が強まりました。流動的である、と言うほうが正しいかもしれません。

劇中で、吉村と真壁はまだ友達じゃない状態から友達になりますが、物語の折り返しでまたノットフレンズな状態になり、ラストで改めて友達になる。最初の「友達」とラストの「友達」では形が違うんですね。その意味はどんどん変わっていく。そういう意味で友達とは、「変わっていける関係性」のことを指すのかな、とも感じます。

ちょうど先ほどお話ししていた水谷先生の「言葉のあやふやさ」の図が少し近いかもしれないですね。「友達」という言葉に当てはまる部分も、はみ出すところもありながら、そのときそのときで「ちょうどいいかたち」に変わっていく。そんな関係性が素敵だなと思います。

▶︎PART2では、中島さんが公表されている双極性障害Ⅱ型という精神疾患についてや、それぞれのメンタルヘルスのケアについて、お話をお聞きします。

【後編】「双極性障害Ⅱ型」と生きていくってどういうこと? 演劇団体『いいへんじ』中島梓織さん×『桃山商事』清田隆之さん対談

撮影/三浦晴 取材・文/東美希   画像デザイン/前原悠花 企画・構成/種谷美波(yoi)