日本初となる男性同士の恋愛リアリティーシリーズとして話題をさらっているNetflix番組『ボーイフレンド』。9人の男性の共同生活を通して浮かび上がる、人が人を思う純粋な気持ちや友情を育むことの大切さ、心の成長が多くの反響を集めています。今回はキャスティング・プロデュースを担当し、本人もゲイであることを公言しているモデルのTAIKIさんを迎え、yoiで連載中の竹田ダニエルさんとの対談が実現。番組づくりのきっかけから、男性同士のリアリティーシリーズを作る上で大事にしたこと、そして、なぜこんなに人気を集めているのかを語り合いました。
“一緒にいることが当たり前”ではないパートナーとの暮らしの中で
——『ボーイフレンド』プロデューサーのTAIKIさんとダニエルさんはもともと知り合いだったそうですが、出会いはいつ頃でしたか?
ダニエルさん:去年、TAIKIくんの事務所に所属するフォトグラファーの紹介で知り合ったんだよね。その後、パーティとか発表会とかあちこちで会ってたんだけど、こうやって静かな場所で二人で話すのは初めて。いつも会うときはまわりが騒がしいから(笑)。
TAIKIさん:そうだね(笑)。ダニエルさんとは一度ゆっくり話したいと思ってたから、対談の機会をつくってくれてうれしい。
——TAIKIさんはモデル業のほかに、マネジメントやイベントなどを行う事務所「OfficeBriller」の代表取締役としても活動されています。芸能事務所を立ち上げようと思ったのには、どんな理由があるのでしょうか?
TAIKIさん:韓国籍のモデルのNOAHと韓国で出会ってつき合うことになり、二人で一緒にいるために日本で暮らすことになりました。それにはNOAHのビザが必要だったから、自分の知り合いのモデル事務所に所属させてもらうことに。その会社が就労ビザを出してくれるおかげで、NOAHも仕事ができたし、二人でカップルとしての活動もできて、すごくありがたかったんだけど、自分もNOAHもいつまでモデルを続けられるかわからない。その会社が「もうビザ出せないです」と言われたらNOAHと離れないといけなくなる。自分たちの大事な部分を他人に預けている感じがして不安だったから、自分が事務所を立ち上げて、NOAHのビザを出そう!って。
最初は二人だけの小さな事務所だったけど、すぐにコロナ禍に入っちゃって。中国で俳優をしていた後輩が日本帰国中に中国に戻れなくなってしまって、仕事がなくて困ってたから「じゃあ、マネジメントするよ」って、国内のクライアントを紹介したり、仕事をつないだりしてたんです。もともとお節介な性格で、事務所に所属してモデルをやっていたときからも、モデルの原石のような人を勝手にスカウトして、事務所に紹介したりしてたし(笑)、40歳になったらマネージメント事業をやろうと思ってたから、それが少し前倒しで始まった感覚で。今年、事務所を立ち上げてから4年経つけど、応募やスカウトを通じて、今は50、60人のモデルやクリエイターが所属してくれている。もっと一人一人と向き合う時間が欲しいなと思いつつ、会社を大きくしたいという目標もあるから、それを両立することが今の課題かな。
ダニエルさん:会社を大きくしたいのはなぜ?
TAIKIさん:僕は輝いている人を見るのが好きなんだよね。キラキラしている人がいると自分も輝きたいと思えるし、そういう輝きの連鎖が生み出せたらと思っている。それは表に出ている人でも裏方の人でも関係なくて。会社が大きくなると、できることも増えるし、たくさんの人が輝く場を生み出せると思うから。
ダニエルさん:「OfficeBriller」に所属しているモデルは個性的な人が多いよね。他のモデル事務所には入れない人も積極的に受け入れたいという気持ちがある?
TAIKIさん:そうだね。身長もスタイルもセクシュアリティも国籍も関係ない。大事なのは、人に輝きを与えられるかどうか。そこは正解がない部分だから難しいんだけど、輝けそうだと感じる人がいたら、全力でサポートしたい。
ダニエルさん:輝けるかどうかはどういうところを見てる?
TAIKIさん:人を笑顔にしたり、勇気を与えられるかどうか、かな。例えばPOC(ポック)という3兄弟のYouTuberがいるんだけど、長男のサエキさんは耳が聞こえる人、次男のナツさんと三男のマコさんは聴覚障がいがある。彼らのYouTubeを見たとき、三人のかけあいがすごく微笑ましくて、彼らがもっと輝ける場所を見つけたいと思って、マネジメントさせてもらうことにした。彼らはいろんな人に勇気を与えられるし、影響を与える人になると思ってる。
そうやって、みんなが輝ける場所をつくるために会社を大きくしたくて、そのためにイベントのプロデュースとかキャスティング、番組プロデュースも始めちゃって、「自分って何屋さんなんだろう?」って思うこともあるし(笑)、全部に均等に注力できない歯がゆさは感じるものの、ひとつのことにこだわって、やらないよりはみんなで頑張ってやっていけたらと思ってる。
TAIKIさんがマネジメントするYouTuber「POC(ポック)」
ゲイにもいろんな人がいる。ステレオタイプではないキャスティングに
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ダニエルさん:TAIKIくんが『ボーイフレンド』をプロデュースすることになったきっかけを教えて。
TAIKI:自分の中にはいくつか番組の構想があったんだよね。その中のひとつが「ゲイのリアリティショーを作りたい」という夢で。以前からの知り合いで「何か一緒にできたらいいね」と言い合っていた、エグゼクティブプロデューサーの太田大さんにそれを伝えたら、太田さんも元々同じように考えていらっしゃって。太田さんがNetflixに移籍され、この企画を立案したタイミングで、「本気で企画決定に向けて動きます」というご連絡をもらって。
ダニエルさん:『ボーイフレンド』には、今までメディアで取り上げられてきたステレオタイプ的なゲイではない人たちが出演していたところが面白いなと思った。
TAIKIさん:そうだね。もちろん、“オネエキャラ”と言われる人も素敵だし、大好きだけど、やっぱりこれまでテレビに映し出される人ってそういう人が多かったと思っていて。ゲイと言っても、いろんな人がいるということを番組で伝えたかった。今回は9人という人数の制限があったけど、それでも見た目も雰囲気も国籍もバラバラで、カミングアウトしている人もしていない人にも出てもらえてうれしかった。中には、バイセクシャルの人もいて、彼らにはゲイの人とは少し違う悩みがあるということも、会話の中で自然と出てきたのが個人的にはよかったなと思ってる。
ダニエルさん:私はシス・ヘテロの恋愛リアリティシリーズを観ると、どうしても男女の不均衡さが気になったり、ステレオタイプなジェンダー観によって人の価値を判断したり、比べるところがある気がして、苦手に感じることもあるんだけど、『ボーイフレンド』はそういうのがなくて、みんな平等に人と人として向き合っている感じが好きだった。
演出しなくても、ドラマは起こる。あの9人だったからこそ愛される番組に
——制作段階では、どんなことを意識されていたのでしょう?
TAIKIさん:約1カ月間、9人で共同生活をしてもらうということと、その間で2人(たまに3人)でコーヒートラックで働くということはこちらで設定として決めましたが、それ以外はメンバーにおまかせ。台本も筋書きもなかった。最初の頃はみんながあまりに普段通りの会話のトーンだったから聞こえづらくて、「もっと声張って!」って思ったぐらい(笑)。
プロデューサーの太田さんが「9人が共同生活すれば、こちらが無理に仕込んだり、過剰に盛り上げなくても、ドラマは起きますから」って言っていたので、「そうか」と。それに“ゲイ=賑やかなオネエ”というステレオタイプを崩して、いろんなゲイの人たちがいることを知ってもらいたかったから、わざわざ盛り上げたり、矢印を向ける必要はないんだって。僕はキャスティングや監修として制作に携わってはいるけど、この番組を作ったのは9人。彼らだったから、こんなにたくさんの人に愛される番組になったと思う。
——これまでのエンタメ業界では、過剰な演出やキャラクターの脚色、ドラマティックな編集をする傾向もあったと思います。そういったことをしないという意志も感じます。
TAIKIさん:そうですね。日本では初めての試みで、前例がないから参加者も不安はあったと思います。面白おかしく脚色されるのではないかとか。でも、そういうことは絶対にしないと伝えていたし、不安があったらいつでも相談できる環境づくりを徹底していました。Netflix側でも専門家によるカウンセリングを定期的に設けていて、メンタルケアはすごく大切にしていました。メンバーにとっては僕に打ち明けにくいことがあっても、外部への相談窓口があることで心の負担を軽減できたかなと思います。そうしたことを踏まえて、キャスティングの時は、ありのままでいてくれる人かどうかということはすごく重視しました。
ダニエルさん:出演者の中には定期的にセラピーやカウンセリングを受けて、自分の気持ちを言語化することに慣れている人もいたんじゃないかな。人に自分の気持ちを伝えるのが、すごく上手な人が多いなと思ったから。メンバー間の話し合いも丁寧で、ぶつかることはあっても、きちんと相手を理解しようという姿勢が感じられた。育ってきた環境や過去の恋愛など、それぞれのバックグラウンドを打ち明けて、その上でどうして自分は不安に思っているのかとか、恋愛の向き合い方の違いとか、素直に自分を表現していたと思う。
話題を集めがちな男女の恋愛リアリティシリーズと違って、役割がないのも安心して見られた理由かも。男性らしく強くあらねばならないとか、女性らしく控えめにして相手を立てる、みたいなジェンダーロールがあの空間にはない。あと、シンプルなことだけど、皿洗いとか料理とか全員でやるところもいいなと思った。
男女が混在すると、料理が上手=女子力が高くてモテそうとか、男性がリーダーシップを取るべきとか、伝統的なジェンダー観に基づく自己演出や他者へのジャッジがありがちで、本当のお互いを知ることが難しいことも。そういうものがないだけで、安心して見られる。
TAIKIさん:それは狙っていたわけじゃないけど、たしかにそうかもね。そういう見方をしてくれているんだっていうこちらでは気づかなかった視点をもらえるのもうれしい。
撮影/森川英里 取材・文/浦本真梨子 企画・構成/木村美紀(yoi)