男女間の性の格差を可視化し、性と暴力の問題を抉り出すように描いた漫画『先生の白い嘘』(原作・鳥飼茜)。累計部数100万部を突破した作品の実写映画化(2024年7月5日公開)にあたって主人公・原美鈴を演じた奈緒さんに、この役を演じた覚悟を聞きました。

奈緒 女優 先生の白い嘘

奈緒
奈緒

1995年生まれ。福岡県出身。NHK連続テレビ小説『半分、青い。』でヒロインの親友役に抜擢されて注目を浴びる。現在、出演映画『陰陽師0』、『告白 コンフェッション』公開中、WOWOW『演じ屋 Re:act』放送・配信中。映画『傲慢と善良』(9月27日公開)も控える。

『先生の白い嘘』STORY
高校教師の原美鈴(奈緒)は、親友・美奈子(三吉彩花)の婚約者である早藤(風間俊介)との関係を隠しながら、教卓の高みから生徒たちを見下ろし観察することで、密かに自尊心を満たしていた。しかし、平穏を装った彼女の日常は、自分が担任する男子生徒・新妻(猪狩蒼弥)の事件をきっかけに崩れ始める……。

この物語に出合えたことが大きな出来事のひとつに

奈緒 インタビュー 先生の白い嘘

——性についての考えや意識の男女差をあぶり出した作品です。今回、主人公の原美鈴を演じる前にこういったテーマについて考えたことはありましたか。


奈緒さん:まさに原作を読んだことで、男女間に存在する性の格差などについて改めて考えるようになりました。原作に出合う前は、性や暴力を扱うセンシティブなシーンをやる時に、果たして自分は仕事と割り切って今やれていただろうか、それ以前に感じることがもっとあるなと自分自身の中にもやもやしたものを抱えていました。他人が教えてくれることでもないので、もやもやの解消方法がわからなかったんです。


でも、この物語に触れてからは、より自分自身の性についてきちんと向き合い、考えるようになりました。また、目の前に起きたことに対して、立場が違えばまた別の受け取り方がある、必ずしも自分と他人が同じ考えを持つことはないということも学べました。この物語に出合えたことは私にとって大きな出来事のひとつです。


尊厳を踏みにじられる経験をしたことで自分の中に抱える矛盾に気づき、それにより自分を許せなくなってしまう、美鈴という役に挑戦するにあたり、関連書籍もいろいろ読みましたが、演じるうえで一番の支えであり指針になっていたのは、やはり原作でした。一人の人間としてこの美鈴という女性をどのように理解し、向き合っていくべきなのかを教えてもらった気がします。

——奈緒さんの意識を変えるほどに原作との出合いは大きなものだったんですね。最初に読んだときにまず何を思いましたか。

奈緒さん:
男女という性別の違いだけでなく、それぞれの人物がさまざまな角度からすごく丁寧に描かれていて、これは女性のためだけの物語ではないというメッセージを強烈に感じました。男性だから強い、女性だから弱い、という単純な話なんてない、ということに気づかせてくれます。

“仕事だから”と割り切れない役とどう向き合うか

奈緒 先生の白い嘘

——映画を拝見し、相当な覚悟をもって演じられていたのが伝わってきました。難しい役を演じるにあたり、どのように心や体のコンディションを整えていらっしゃいましたか。

奈緒さん:
演じることに集中していて、正直言うと全然整っていなかったですね。今だったらもう少しやりようがあるのかもしれないのですが……。でも、やれるだけのことはやった、という自負もあります。精一杯だった自分を認めてあげたいです。


この役を演じることで少なからず傷つくことはわかっていました。芝居だから、仕事だから、といったことだけでは割り切れないと強く感じていたので、その覚悟だけはにぎりしめていました。技術とか技量だけではごまかせるような役や物語ではないですし、自分がキャスティングされたからには、それだけを求められているわけではないだろうと感じていたから、なおさら。


傷つけられるシーンは、演じている私自身もとても怖いですし、悲しい。相手の圧倒的な力を前にして、何もできないということはこんなにも心にダメージを与えるんだ、と知りました。叫ぶこともできない、抵抗もできないというのはここまで悲しいのか、と。力では到底かなわない人から暴力を受けることは、恐怖以外のなにものでもありません。脅され、虐げられることは尊厳をも奪われます。

奈緒 映画 先生の白い嘘

——一方で、腕力に訴えれば逃げられる相手からも暴力を受けることがある、ということもこの物語では描いています。その被害者が、美鈴が教える学校の生徒・新妻祐希です。


奈緒さん:はい。同じ傷を抱える、美鈴と新妻くんが心を通わせるシーンもこの物語で大切なことなので、現場で感じる「温かい気持ち」も取りこぼさないように意識していました。美鈴の中に芽生える優しい気持ちや、美鈴が初めて出合う感情に私自身も感情移入し、ひとつひとつすくいとっていく作業を重ねていきました。


実際に、新妻くんを演じた猪狩蒼弥くんは現場でも救いのような存在でした。最後のシーンで美鈴が発する重要なセリフが自分の中から自然に生まれてくるか不安だったのですが、猪狩くんがいたからこそたどり着けました。そういった意味では、自分自身を積極的に整えることはうまくできなかったけれど、共演者の皆さんにとても助けていただきましたね。

『先生の白い噓』
7月5日(金)全国劇場&3面ライブスクリーンにてロードショー
https://senseino-shiroiuso.jp 

先生の白い嘘 映画 奈緒 場面写真

©2024「先生の白い嘘」製作委員会 ©鳥飼茜/講談社

撮影/垂水佳菜 ヘア&メイク/竹下あゆみ スタイリスト/岡本純子 取材・文/高田真莉絵 構成/渋谷香菜子