池田理代子原作のマンガ『ベルサイユのばら』(集英社刊)は、少女マンガ界に旋風を巻き起こした愛と革命の物語。宝塚歌劇団での舞台化やTVアニメ化、韓国でのミュージカル化を経て、1月31日(金)、完全新作となる劇場アニメ『ベルサイユのばら』が公開! 主人公の一人、オスカルに生命を吹き込むのは、声優・沢城みゆきさん。『ルパン三世』の峰不二子役、『ゲゲゲの鬼太郎』鬼太郎役など、名だたるキャラクターの声を演じてきた実力派に、新たなメディアミックスとしての『ベルサイユのばら』の魅力と、オスカルという役への取り組みを通じて得たことについてお聞きしました。

声優
1985年6月2日生まれ。'99年『デ・ジ・キャラット』の新人声優オーディションに参加し、審査員特別賞を受賞。演技経験のないまま声優デビューを果たす。少女役から青年役まで幅広い役柄を演じ、ナレーションの仕事も多数。2011年から『ルパン三世』シリーズの峰不二子役、’18年からテレビアニメシリーズ『ゲゲゲの鬼太郎』鬼太郎役を演じている。
オスカルとは?
オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェは、将軍家の跡取りとなるべく、“息子”として育てられた男装の麗人。フランス近衛連隊長として王妃マリー・アントワネットの護衛を務め、激動の時代に翻弄されながら気高く生きる。フィクションの人物でありながら作中のみならず、歴史的・世界的に屈指の人気を誇るキャラクター。
原作に描かれた「自由に生きていくこと」という普遍的なテーマ

——沢城さんは、今回のオーディションを受けるにあたって、初めて『ベルサイユのばら』(以下『ベルばら』)の原作漫画を読まれたそうですね。どんな感想を持ちましたか?
沢城さん:宝塚歌劇団の演目だったり、「懐かしのテレビアニメ」などの番組で聞く主題歌だったり、LINEスタンプなど、いわゆる国民的常識としての『ベルばら』は知っていましたが、全巻通してストーリーに触れたのは最近のことでした。
「少女漫画の金字塔なのだから、恋愛をメインにした物語なのだろう」と無意識に先入観があったんです。ところが読んでいくと、描かれているのは人間の普遍的な問い、「一人一人が鎖につながれることなく、どう自由に生きていくか」ということでした。オスカルも影響を受けたルソーの『社会契約論』が本当にベースにあるんだ! と感じ入りました。
「自分が自由に生きていくことってなんだろう? みんなで、よりよく生きてくってなんだろう?」という問いかけが原作の根底にあり、その上にキャラクター同士の恋愛があり、友情が描かれている。漫画の連載開始から50年以上ということは、私のおばあさん、お母さんの世代もこのテーマについて向き合ってきたわけですよね。そしてこの先、子どもたちにも問われていく。この劇場アニメが、3世代をつなぐきっかけになれたら素晴らしいと思いました。
——「鎖につながれず、どう自由に生きていくか」。沢城さんが今回の劇場アニメ『ベルサイユのばら』で演じるオスカルは、まさにこのテーマを象徴する存在でもありますね。
沢城さん:はい、オスカルは、先に言ったような『ベルばら』一般常識として“男装の麗人”と認知されています。ですが、原作を読み、演じてみた私個人としては、「男社会の中の女性」という女性像に実はあまりピンと来ないんです。私がオスカルの演者として、読者や視聴者の皆さんよりも近い距離から『ベルばら』を体感しているからかもしれません。
オスカルは、自分のあり方について、自らの使命を全うするという一点に集中しています。それはすなわち「近衛連隊長として王妃マリー・アントワネットをお守りする」という使命です。「男性だけの隊の中に女が一人いる」という図式の中でたとえ揶揄され反発を受けても、相手を黙らせるだけの剣の技術と志の高さがある。あくまで私の体感としてですが、オスカルにとって女、男の区別は本質的な問題ではなかったのではないかと感じるのです。

©️池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
——確かに、新作では特に、王妃マリー・アントワネット(以下、アントワネット)との深い関係性と、生き方の対比が印象的に描かれていたと感じました。
沢城さん:ありがたいことにアントワネット役の平野綾さんとは共演シーンを全編通して一緒に演じることができました。そこに、吉村愛監督からの「拮抗する存在としてのオスカルとアントワネットを描きたい」という細かな演出が加わりました。
崇高な大作、高貴な主人公たちを扱っている作品ではありますが、アフレコやレコーディングはもう少しラフに、生活感のある言葉で役や物語を解釈しながら、鋭く、軽やかに、繊細に作ってきた気がします。女性の比率がとても高い現場ならではだったかもしれません。
美しく、気高いだけではない、「人間」オスカルに近しさを感じて

——フランス革命を背景にしたストーリーの中で、オスカルの価値観や周囲との関係は大きくうねっていきます。オスカルの本質を描き出すために、沢城さんが心を砕いたことはなんでしょうか。
沢城さん:漫画にすると9巻分のストーリーを約2時間という劇場映画の尺に凝縮しているので、どうしてもオスカルの美しさや尊さ、志の高さが際立つ名場面が連なってくる。その状況にあっても見る人にとって遠い存在にならず、等身大の葛藤があったことを薫らせたいと思いました。
彼女は人との出会いの中で新たな価値観に触れ、自分の素直な心に従い、人から見ると大胆な選択をしてゆくわけですが、そのとき、過去にあったことを全否定することをしない。例えば、男として生きることを強いた父親・ジャルジェ将軍に対して「この人生をありがとうございます」と伝えるシーンがあります。女に生まれ、男として生きてきたからこんなに広い世界を見ることができた、と。今まで来た道を否定せず、でも今の自分の心に従って未来を選んでいく姿を、丁寧に演じようと思いました。

©️池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
——オスカルと沢城さんご自身とが重なる部分は感じましたか。
沢城さん:原作を読むとすごく口が悪かったり、ケンカ早かったりするオスカルが描かれています。完璧な人間ではなく、年相応の青さや至らなさもいっぱい詰まったキャラクターでもあるんですよね。社会のこと、目の前の人のことを「何も知らなかった」と申し訳なさや焦燥感を抱く「人間」オスカルを、ずいぶん近くに感じるな、と思いました。
自分と戦いつつも、同じ力で自分を応援したい

——オスカルは自由と自分の心のために戦ってきました。沢城さんは今、戦っていることはありますか。
沢城さん:私が戦っているのは……面白くないことばっかりですよ。忙しいときに限って、家族の洗濯物のポケットにティッシュが入ってたりして「ああもう!」と怒ることとか(笑)。母親としても仕事をする人間としても、いつでも自分の至らなさとの戦いです。ただ、自分と戦う力があるなら、同じ力で自分への応援もしてやろうと思うんです。
——具体的にはどんな応援を?
沢城さん:日常に起きるささいな戦いの中では、誰も自分を褒めてくれません。だから、藁をもつかむような気持ちで自分を支えてくれた人たちの言葉をもう1回自分に言い聞かせるんです(笑)。13歳のときに受けた初めてのオーディションで「抜群の将来性に期待して」と言われて特別賞をもらったこととか……「あのとき、“将来性”の前に“抜群の”って付けてもらったんだから!」と、自分を鼓舞して前に進みます。
それに、憧れの人たちと一緒に働かせていただけるようになって、それまでそんなに好きじゃなかった自分の名前がすごく好きになりました。だって、『ドラゴンボール』の孫悟空と同じ声で野沢雅子さんに名前を呼んでもらえるって、ちょっとすごいですよね(笑)。彼らに「みゆきちゃん」って呼んでもらえるなんて。本当に言葉には力があって、力のある音色を持った人から言われた言葉は、私の中でいつまでも光輝いて、私の日々の戦いを支えてくれています。
「もう迷わない」オスカルの歌い上げる、自由な未来への言葉

——今回の現場で、そうした言葉の力を実感したことはありましたか。
沢城さん:本作は、歌があるのも大きな特色になっています。この映画を大きく支えている澤野弘之さんの楽曲、そして脚本の金春智子さんはじめ丁寧に作詞された歌詞もキャラクターの心情をよく表していて、見ていただいたあと歌いたくなるはず…!
オスカルが終盤、軍神マルスの子として革命に身を投じることを決意する曲があるのですが、「もう迷わない」という歌詞をオスカルとして本気で歌ったとき、私の中の迷いもつられて一緒に出ていった感覚があって(笑)、やっぱり言霊ってあるんだな…と改めて言葉の力を感じました。レコーディングの時に感じた清らかな気持ちが忘れられません。
——歌唱シーンはすごく印象的で、一緒に歌い上げたくなったり、ライブ上映を見たくなったりしました!
沢城さん:そう思っていただけたら嬉しいです。ぜひ皆さんにも口に出して歌って欲しい! 原作を凝縮した歌詞と澤野弘之さんの楽曲の力が、若い世代にも間口を広げてくれていて、『ベルばら』を近くに感じてもらえるんじゃないかと思っています。
私が演じたオスカルというキャラクターは、決して立派なだけではありません。世の中を知りたい、知らなくてはいけないともがいた末に見つけた未来に、透徹した意志で進んでいきます。その未来には決して一人ではたどり着けなかったこと、本当の愛や自由には、他者が存在していることも含め…彼女たち、それぞれが選び取った姿を見届けていただけたらと思っています。
劇場アニメ『ベルサイユのばら』1月31日(金)全国ロードショー!

原作:池田理代子
監督:吉村 愛/脚本:金春智子
キャラクターデザイン:岡 真里子/音楽プロデューサー:澤野弘之/音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO/アニメーション制作:MAPPA/製作:劇場アニメベルサイユのばら製作委員会/配給:TOHO NEXT、エイベックス・ピクチャーズ/後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ:沢城みゆき/マリー・アントワネット:平野 綾/アンドレ・グランディエ:豊永利行/ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン:加藤和樹 ほか/ナレーション:黒木 瞳
主題歌:絢香『Versailles - ベルサイユ - 』
©️池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
撮影/森川英里 取材・文・構成/久保田梓美 企画/木村美紀(yoi)