ライター海渡理恵さんによる、音楽を入り口に世界を見つめる連載「世界は鳴っている」。世界中のアーティストから発信される、個人の内面や社会のムードを反映した音楽シーンの躍動をお届けします。現在進行形で世界各地から生まれている音楽に耳をすませて、自分や世の中の内側をのぞいてみませんか?
自分らしくありたい。その意識の高まりが後押しする“Maximalism(マキシマリズム)”
コロナ禍初期に隆盛を極めた“Less is more(少ないほど豊か)”のミニマリズムブームは落ち着きを見せ、2022年頃からインテリア、ファッション、デザイン業界を筆頭に、“More is more(多いほど良い)”のMaximalism(マキシマリズム/過剰主義)が復権している。TikTokでも、“#Maximalism”といったタグの投稿が多く見受けられ、鮮やかなカラーや個性的なデザインのアイテムで身のまわりを固めて、自分らしくあろうとする人が若い世代を中心に目立つ。
こうした背景には、新型コロナウイルスの蔓延によって長期間、制限された日々を過ごした人たちの“憂鬱な気持ちを晴らしたい”という願いや、“好きなことをして生きていきたい”という意識の高まりがある。また、この時期に始まり、いまだ熱気が冷めない“Y2K”や“推し活”ブームもマキシマリズムを後押ししている。
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3/5公開『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』予告編
“マキシマリスト”として有名なインテリアデザイナー、アイリス・アプフェル。彼女の大胆なファッションや、好きなもので埋め尽くされた部屋は、まさに“マキシマリズム”。近年、彼女の家のように、カラフルな色使いや、好きなもので埋め尽くしたインテリアを好む人が増えている。
そんなマキシマリズムの高まりを象徴する存在のなかでも2024年の最注目株が、イギリス・ロンドン出身の5人組ガールズバンド「The Last Dinner Party」だ。今年大ブレイク確実と言われているバンドで、すでに期待の新人アーティストリスト「BBC Sound Of 2024」や「Vevo DSCVR Artist to Watch 2024」、「BRITs 2024」のライジングスター賞に選出されている。
2021年に結成。大学で出会った、アビゲイル・モリス(Vo、下段左)、ジョージア・デイヴィーズ(B、上段右)、リジー・メイランド(G&Vo、下段右)と、途中で加入したエミリー・ロバーツ(G、上段左)とオーロラ・ニシェヴシ(Key、上段中央)によって構成。
バンド最大の特徴は、グラムやゴス、ポスト・パンクといった要素を巧みに取り入れたアートロック。また、マキシマリズムが盛り上がったビクトリア朝時代を彷彿とさせるコルセットやリボン、フリルをパンクに着こなすファッション、さらには、演劇を見ているかのようなステージングなど、芸術的センスの高さで異彩を放っている。
The Last Dinner Party - Nothing Matters
TikTok上でのバイラルヒットによるブレイクが多い昨今、地道にライブ活動を続けたバンドは、デビューシングル『Nothing Matters』(2023年4月リリース)で一躍注目を集める。このMVは、ソフィア・コッポラ監督の映画『ヴァージン・スーサイズ』(1999年公開)や、デヴィッド・リンチ監督の映画『マルホランド・ドライブ』(2001年公開)、現代のフェミニズムを牽引する世界的フォトグラファーのペトラ・コリンズの作品などがインスピレーション源。
そんな唯一無二なThe Last Dinner Partyのライブは、ドレスコードが設けられている(強制ではないが、推奨している)。テーマは、ギリシャ神話のミューズや、花言葉、グリム兄弟、夜のオペラなど。本国メディアのインタビューによると、こうした試みには、The Last Dinner Partyのライブは、社会の同調圧力から解放されて、自分を自由に表現できるセーフティスペースでありたいという想いも込められているそうだ。
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バンド独自の強烈な美学が発揮された楽曲、パフォーマンス、スタイリングやMVといったビジュアル表現を通して、“自分らしくあること”や、“好きを表現すること”の楽しさや、面白さを伝える5人。そんなバンドのブレない姿勢を目の当たりにすると、いつの間にか抑えていた“自分の好き”を解放させたくなってくるはずだ。
2月2日リリースのデビューアルバム『Prelude To Ecstasy』
『Prelude To Ecstasy』2月2日配信スタート ユニバーサル ミュージック
デビュー曲『Nothing Matters』や『Sinners』、『My Lady of Mercy』など、人気曲を多数収録予定。
取材・文/海渡理恵