ライター海渡理恵さんによる、音楽を入り口に世界を見つめる連載「世界は鳴っている」。世界中のアーティストから発信される、個人の内面や社会のムードを反映した音楽シーンの躍動をお届けします。現在進行形で世界各地から生まれている音楽に耳をすませて、自分や世の中の内側をのぞいてみませんか?

海渡理恵の世界は鳴っている AURORA オーロラ

北欧で生まれ育ったAURORA(オーロラ)が、神秘的な表現で後押しする“ありのままに生きる”こと

北欧で生まれ育ったAURORA(オーロラ) ノルウェー 音楽 アーティスト

雄大な自然から影響を受けたミニマルでクリーンなデザイン、さらには、幸福度の高さでも有名な北欧。近年、この土地出身のアーティストが世界で存在感を示している。例えば、韓国の5人組ガールズグループ・NewJeansの楽曲制作に参加したことで注目を集めるデンマーク出身のErika de Casier(エリカ・ド・カシエール)や、ノルウェー出身のSigrid(シグリッド)などだ。

そんな中、今回ピックアップするのは、ノルウェー出身のシンガーソングライター、AURORA(オーロラ)。山と湖が国土の大半を占め、ノーベル平和賞の授賞式開催地としても知られるノルウェーで生まれ育ったアーティストだ。

オーロラは、シングル『Runaway』(2015年)でデビューを果たす。故郷であるベルゲンの郊外で撮影されたMVは、息を呑む大自然の美しさと、オーロラが持つ神秘的な魅力を堪能できる。この作品は世界中で話題を呼び、ビリー・アイリッシュは、この曲との出合いがアーティストを目指すきっかけのひとつだったと公言している。

AURORA - Runaway

そんなオーロラは、これまでに自分らしくあることを後押しするほか、現代社会が抱える問題に一石を投じる楽曲を数多く生み出してきた。例えば、2019年にリリースしたアルバム『A Different Kind Of Human – Step 2』。この作品には、『Soulless Creatures』や『The Seed』など、行きすぎた資本主義社会や、環境問題をテーマにした楽曲がそろう。強いメッセージ性が込められた歌詞と、幻想的なサウンドの組み合わせが絶妙で、どの楽曲もスピーディな社会に疲弊してしまった私たちを鼓舞し、自然とともに自分のペースで生きることの重要性を思い出させてくれる。

AURORA - The Seed
“お金は口にすることができない。最後の木が切り倒されて、川が毒されてしまっては”と繰り返し歌い、環境破壊への警鐘を鳴らす『The Seed』のMV。

2021年にリリースした『Cure For Me』では、ノルウェーで選挙が開催されるたびに対応が叫ばれていた社会問題のひとつ、“コンバージョン・セラピー(転向療法。同性愛者を異性愛者に矯正することを目的にしたセラピー)を問題視。“私は治療薬なんて必要ない”、“必要ないともう分かって”とポップなサウンドに乗せて繰り返すこの曲を通して、“ありのままの自分”の美しさを讃えている。ちなみに、ノルウェーでは、2023年末に転向療法を禁止する法案が、国会にて賛成多数で可決した。

【和訳】AURORA - Cure for me TikTokで話題のペンギンダンス

また、さまざまな角度からメンタルヘルスについても真摯に向き合うオーロラは、最新曲『The Conflict Of The Mind』で、周囲の人に心を開示することの大切さを解く。この曲について、オーロラは「私は痛みがあるとき、自分を孤立させることがあるの。でも時が経つにつれ、私は愛する人に寄り添うという大きな名誉を、まわりの人々から奪ってしまっていることに気づいた。その奥底には、闇の底には美しさがある。一度本当の意味で心を開けば、もう存在しないと思っていた自分を見つけることができるの。そしてそれはきっと美しい。手遅れになる前に、まわりの人と話をして。どんな家族も痛みを抱えている。語り合うことは、癒す上で大切なことなの。嵐の後には平和が訪れるから」とコメント。ノスタルジーを随所に感じるサウンドと、心のプリミティブな部分を揺さぶる歌唱が、身近な人と悩みや不安を分かち合う後押しをしてくれる。

AURORA - The Conflict Of The Mind

個人や社会が抱える課題を真っ直ぐに見つめ、また、そこに向き合う人々の心情に寄り添う楽曲を数多く生み出すオーロラが、次作ではどんなメッセージを音楽に託すのか。今後の活動から目が離せない。

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画像デザイン/齋藤春香 取材・文/海渡理恵