10代20代女性の声を聞いてみると、「PMS(月経前症候群)」のつらい症状の中に、「痛み」がたくさんあることがわかりました。頭痛、胸(乳房)の痛み、お腹や腰の痛みです。PMSの時期の痛みをどうケアしたらいいか、産婦人科医の八田真理子先生にうかがいました。
産婦人科専門医
聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田 理事長・院長。地域密着型クリニックとして思春期から更年期まで幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行なっています。著書に『思春期女子のからだと心 Q&A 資料ダウンロード付き』(労働教育センター)、『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)ほか。
PMSで頭痛、胸の痛み、腹痛に悩む人は多い
増田:集英社の女性誌10誌が実施したアンケートの回答を見ると、10代20代の女性たちが生活に支障があると感じているPMS症状の中に、次のような頭痛、胸(乳房)の痛み、お腹や腰の痛みがありました。
「生理前は、頭が痛くて、学校に行くのがつらい。でも大学は女子が少ない学科で話しにくいため、まわりに気づかれないように我慢することが多い」
「大学で体を動かしたり、踊ったりする授業が多いのですが、月経前は胸が張って、痛みで、あまりジャンプしたりできなくなります」
「生理前は、腰や下腹部が痛すぎて立っているのもきつい」
「生理が始まる前は、必ずお腹を下し、生理が始まると生理痛で寝込んでしまう」
「生理前は、便秘でお腹が張ってつらい」
このように、PMSの時期に頭痛、胸の痛み、お腹や腰の痛みに悩む声が数多く寄せられました。八田先生、これらPMSの痛みには、どう対処すればいいでしょうか? 婦人科を受診したほうがいいのは、どんなときでしょう?
八田先生:PMSの不調で「痛み」を訴える女性は少なくありません。なかでも、頭痛、胸の痛み、腹痛は多いですね。
ここに紹介された読者の方々は、生活に支障があり、つらいと悩んでいるので、婦人科で相談していいケースです。ご本人がつらいと思ったら、迷わず婦人科で相談してください。痛みが月経3~10日前に限られているのなら、PMSの不調と考えられますので、低用量ピル、漢方薬などを服用すると、かなり改善できると思います。
PMSの頭痛? それとも片頭痛?
八田先生:また、特に女性は片頭痛の人が多いので、片頭痛なのかPMSの頭痛なのか、見極めるのが難しいケースもあります。
増田:そうですね。ある20代の読者の方からは、「生理周期にリンクして排卵後と月経終盤に片頭痛が起こります。月経前の時期は、夕方になると体がほてる感じがすることもあります。低用量ピルを飲んでみたいと思ったこともあるのですが、前兆のある片頭痛は、低用量ピルが禁忌とされているので、怖くて服用していません」という声もありました。
八田先生:そのとおりです。視野が欠けたり、視界にギザギザした光が現れる“前兆”のある片頭痛の人には、低用量ピルは処方できません。この場合は、片頭痛をよく診ている頭痛外来を受診するのがいいでしょう。今、片頭痛専用の新しい治療薬や予防薬が次々出ていますので、片頭痛専門の医師にぜひ相談してください。
上記のような前兆のない片頭痛が生理の3~10日前頃に出るのであれば、低用量ピルで改善できることも少なくありません。まずは婦人科で相談してみてください。
リモートで取材に対応いただいた八田真理子先生。
胸がむくんで少し大きくなるから、締めつけない下着を
増田:PMSで胸(乳房)が痛む人も多いですね。
八田先生:排卵後から月経前のPMSの時期は、女性ホルモンのプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が増えて、受精卵が着床しやすくなるよう子宮内膜を厚くして、妊娠のための準備をします。プロゲステロンには、基礎体温を高くしたり、水分をため込んでむくみやすくする作用があります。胸が張って痛くなるのも、プロゲステロンの分泌が増えるためです。
PMSで胸が張って、痛くて動きづらいときは、締めつけないように、伸縮性のあるブラジャーにしたり、サイズを少し大きめにしてはどうでしょう。月経前のPMSの時期は、胸も少し大きくなります。下着のサイズを変えてみる工夫もしてみてください。
運動は、いつもより少しペースを落とすなどして、無理のない範囲なら行なって大丈夫です。有酸素運動で汗をかくことで、むくみがとれて、痛みがラクになることもあります。運動は、女性ホルモンのバランスも整えてくれます。また、心拍数が上がると脳からエンドルフィンというホルモンが出て、うつっぽさが軽減し、楽しく、いい気分になるといわれています。適度な運動は、PMSも月経痛も、軽減してくれるかもしれません。
しっかり食事をとること&温めるのも◎
増田:PMSの時期に、お腹や腰が痛い、下痢をする、逆に便秘をするという女性たちもいます。PMSの痛みを、セルフケアで軽くする方法はありませんか?
八田先生:PMSのセルフケアとしては、私はしっかり食事をとること、そしてやはり、適度に運動することをおすすめしたいですね。いつも推奨しているのは、ご飯、お味噌汁、おかずといった和定食風の食事。
炭水化物もしっかり食べましょう。炭水化物抜きの食事は、血糖値が下がりすぎるために、メンタルが不安定でうつっぽくなりやすいんです。ビタミンB群、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルをとることも大切です。サプリメントのエクオールも、PMS軽減作用があるといわれています。
増田:PMSの時期に食べないほうがいい食材はありますか?
八田先生:スイーツやスナック菓子は、食べすぎないようにしましょう。また、カフェイン、チョコレート、チーズ、アルコールの飲みすぎは、PMSを悪化させるといわれています。頭痛がひどくなる人もいますね。
増田:痛いときに、体を温めるとラクになることがありますが、お腹や腰周りを温めるのはどうでしょうか?
八田先生:痛みのときに、腰まわりを温めるのはいいと思います。「体を冷やさないことは、病気を遠ざける」という言葉もあるくらいですし、保温は大事です。血行がよくなると、痛み物質の発生も抑えられます。血の巡りがよくなると、ホルモンの巡りもよくなります。温かいと精神的にも安心できますから、半身浴でもいいので、湯船で温まるのもいいですね。リラクセーション効果も期待できます。
増田:PMS対策にセルフケアでできること、いろいろありますね。もちろん、つらい人は躊躇せず、婦人科で相談してほしいです。婦人科のドクターは、低用量ピルや漢方薬、鎮痛剤など、ひとりひとりの希望を聞いて、対処法をアドバイスしてくれますので、ぜひ!
次回も八田先生に、PMSで起こる眠気、食欲、ニキビ・吹き出物に対する対策をじっくり伺います。お楽しみに!
撮影/島袋智子 イラスト/itabamoe Photo by Boyloso/iStock/gettymages 取材・文/増田美加 企画・編集/浅香淳子(yoi)