甲賀かをり先生のイラストによる、連載第4回の扉

生理痛の治療で低用量ピル(OC、LEP)を服用するメリットと気になる副作用を、産婦人科医の甲賀かをり先生に聞きました。「低用量ピルが効かない生理痛は?」「何歳から服用が可能?」といった疑問もこれで解決!

今月お話をうかがうのは…
甲賀かをり

医学博士・産婦人科専門医

甲賀かをり

東京大学医学部附属病院産婦人科准教授。同病院で日本初の子宮内膜症外来を設立するなど、生理痛に悩む女性たちの診療に力を注いでいます

生理痛の緩和や避妊以外のメリットも!

増田:集英社の女性誌10誌が実施した大アンケートでは、生活に支障があると感じている生理(月経)の痛みを、10代20代の女性たちの多くが感じている実態が明らかになりました。なかには、鎮痛剤が効かないような激しい生理痛に悩まされている人もいます。

甲賀先生はこうした女性たちに「ぜひ婦人科を受診して! 婦人科に来れば痛みは軽減できます」と呼び掛けていますが、婦人科で生理痛の治療に使われている低用量ピル※についても教えてください。まず、10代、20代の女性が生理痛の治療で、低用量ピルを服用するメリットはなんでしょう?
※低用量ピル(OC、LEP)

甲賀先生10代の女性こそ、生理痛に困っている人は低用量ピルを飲むメリットが高いと思います。低用量ピルで多くの生理痛は軽減できますし、生理の時期を大事な試験や部活の試合などからずらすことも可能です。生理不順の心配からも解放され、経血量もかなり減るので使うナプキンの枚数も減りますよ。

20代の女性にとっても、社会に出て責任を持って働き、キャリアを積み上げていくなかで、低用量ピル(OC、LEP)を使うことで生理や生理痛に振り回されずに済むのはメリットが大きいのではないでしょうか。排卵も止めるので、避妊の効果もあります。

また、低用量ピルで子宮内膜症の悪化を止めることによって、不妊症の予防にもなります。女性が妊娠したいときに妊娠できるというのは、人生設計の中で子どもをつくるタイミングを自分で決められるという、大きなメリットだと思います。

増田美加のドクタートーク Vol.4 生理痛で低用量ピルを飲むメリットは? 副作用は大丈夫?_2

どちらもエストロゲンとプロゲスチンが配合されている薬で、ほとんど成分は同じです。ただし、保険適用のLEPも自費のOCも、窓口で支払う金額は大きく変わらないのが現状です。どちらも月3,000円程度が目安。

頭痛、むくみなどの副作用は3カ月でほぼ治まる

増田「低用量ピルは副作用が心配」という声も聞かれます。副作用にはどんなものがありますか? また、服用しても生理痛が治まらない場合はどうすればいいでしょうか?

甲賀先生:低用量ピルの飲み始めにはよくあるのですが、軽微な副作用が出て、自分に合わないように感じる場合があります。おもな症状は、頭痛、だるさ、吐き気、乳房の張り、むくみ、不正出血など。副作用といわれるもののほとんどは、このような一時的なマイナートラブルです。これらの症状は、低用量ピルによってエストロゲンやプロゲステロンのバランスが変化したことで起こるもので、体が薬に慣れてくる3カ月程度で大部分が治まります。

もし自分には合わないと感じられても、勝手にやめたりせず、必ず医師に相談してください。ホルモンの含有量やバランスによっていくつかの選択肢がありますので、別の種類の低用量ピルに変えてみるなど、自分に合った薬を見つけていきましょう。

一方、重大な副作用として、血の塊が血管に詰まる血栓症があります。しかし発生頻度はごくまれです。低用量ピルの服用者よりも、妊婦さんや子どもを産んだばかりの女性のほうが血栓症の発症リスクは高いと言われています。また、低用量ピルを飲んでも生理痛が治まらないという人は、生理痛の背景に病気が隠れていることがありますので、その場合も自己判断で中止せずに、婦人科医に必ず相談してください。

リモート取材中の甲賀かをり先生

リモートで取材に対応いただいた甲賀かをり先生。

増田:「ピルは太るって聞きました」と質問してくる女性もたくさんいらっしゃいますが…

甲賀先生低用量ピルで太ることはありません。低用量ピルによって体重が増えることがあるとすれば、脂肪ではなく水分です。つまり、むくみ。

特に、初めての服用直後は、低用量ピルに含まれるプロゲスチンによって体内の保水力が高まり、水分が体重を多少増加させると考えられています。そのため、「急に体重が1キロ増えた!」という方もいますが、体重増加はあくまで一時的なものです。低用量ピルに体が慣れてくれば、むくむこともなくなり、体重増加もなくなりますので、心配しなくて大丈夫です。

低用量ピルは何歳から服用できるの?

増田:低用量ピルは、何歳から服用可能なのでしょうか?

甲賀先生WHO(世界保健機関)は、初経が始まったら低用量ピルを服用してよいとしています。海外の臨床試験の結果では、14歳以上で低用量ピルを安全に服用できるというデータが多いですね。私も14歳以上なら迷わず低用量ピルを処方します。でも私の患者さんで、本人の希望と親の理解のもとで、生理痛の軽減のため、12歳から継続して服用している方もいます。もちろん、将来の妊娠にも差し支えありません。

知っていただきたいのは、低用量ピルを飲むことで、生理痛軽減や避妊効果以外にもメリットがあるということ。生理周期が規則正しくなる、経血量が減る、PMS(月経前症候群)や貧血、ニキビや多毛症の改善、卵巣がん、子宮体がんの予防、良性の乳房疾患の減少なども期待できます!

増田:甲賀先生、ありがとうございました。女性にとってメリットの高い低用量ピル。一般的には、タバコを吸わず、今すぐ妊娠を希望しない健康な女性であれば、メリットがデメリットを上回るといわれています。生理痛をきっかけに低用量ピルを飲むかどうか検討することは、ドクターに自分の健康について相談できるチャンス。疑問や不安は、婦人科医にぜひぶつけてみてください。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

撮影/島袋智子 イラスト/itabamoe Photo by Zenstock/iStock/gettymages  取材・文/増田美加 企画・編集/浅香淳子(yoi)