人間に生まれつき備わっている回復力や強みに注目するストレスコーピング、「BASIC Ph」。人のストレス対処の方法は、「Belief(信念)」「Affect(感情)」「Social(社会)」「Imagination(想像)」「Cognition(認知)」「Physiology(身体)」の6つのチャンネルのどれかに分類されるとされています。自分の得意なチャンネルを知り、その力を使えれば、ストレスにうまく対処できるようになります。この記事では「BASIC Ph」の6つのチャンネルのうちのひとつ、「Physiology(身体)」について、詳しく解説します。
解説してくれたのは…
BASIC Ph JAPAN代表
臨床心理士、公認心理師。BASIC Ph JAPAN代表。日本EMDR学会所属。公益社団法人被害者支援都民センター勤務。東日本大震災の復興支援に関わり、その際にBASIC Phとその提唱者・ムーリ・ラハド氏と出会う。
BASIC PhのPh「Physiology(身体)」とは
新井さん:これは身体に関わることをすべてを含みます。「運動して発散する」はもちろんそうですし、「お酒を飲む」「おいしいものを食べる」のような、身体の中に何かを入れることも、マッサージや鍼灸などでリラックスすることもPhです。
逆に落ち込んだときに「何も食べなくなる」「ひたすら寝る」のように、身体へのアプローチをやめたり、動かなくなったりすることもPh。
また、自傷行為や過食、飲みすぎることなどもPhです。「BASIC Ph」では、ストレスコーピングに対し、「いい/悪い」の判断はしません。なので、ご自身が「本当はやめたほうがいい」と思っているような行為であっても、「BASIC Ph」においては「Phのチャンネルが得意であるという根拠」となります。
「Physiology(身体)」のキーワード
行動 活動 リラクゼーション 実用的
「Physiology(身体)」を使ったストレス対処法
体を動かす、スポーツをする。散歩する。食事やおやつを食べる。薬やサプリをとる。お酒を飲む。タバコを吸う。寝る。料理を作る。お風呂に入る。マッサージ。深呼吸や発声。掃除する。セックス。ストレスが身体症状として出る(胃痛・頭痛・皮膚炎など)。
過度な運動。飲みすぎる。自棄食い。拒食。過剰な服薬。自己破壊的な行動。
新井さん:上記の中に、やったことはないけれど興味があるものがあれば、挑戦してみると、ストレス対処の方法が増やせるでしょう。また、コーピングに「いい/悪い」はない、というのがBASIC Phでの考え方ではありますが、「より安全に」「より長く生き延びる」ためには、やはりポジティブなものを選んでいくほうがいいとも考えています。悪いから手放すのではなく、より長く生き延びるために健康的な方法へ乗り換える……というイメージです。なので、グレーのマーカーを引いた部分のコーピングに頼っている方は、余裕やエネルギーがあるときに、ぜひ適応的なものを試してみてほしいです。
「Physiology(身体)」と一緒に使いたい、隣接するチャンネル
新井さん:「BASIC Ph」には、「得意なチャンネルの両隣にあるチャンネルの行動も、ストレスコーピングとして取り入れやすい」という特徴があります。Phの場合は、「Cognition(認知)」と「Belief(信念)」が隣接チャンネルになります。単体で取り入れるだけでなく、隣接するチャンネル同士を組み合わせた対処法もおすすめです。例えば、「お寺を散歩する(Ph +B)」のように考えます。
Cognition(認知)
情報収集や問題解決に向けた思考、優先順位をつけるなど、問題に向き合って回復につなげる。他にもクイズやパズル、謎解きなど頭を使うストレス発散も含まれる。
【行動例】
情報を収集し、論理的な分析、優先順位などを考えて現実的な戦略を立てる。やることリストを作る。ブレーンストーミングをする。タイムラインを考える。データを活用する。言語化、可視化する。計画を立てる。本を読む。資格を取る。過去の経験から解決策を探る。クイズやパズル、謎解きゲームなど。
考えることを放棄する。批判的に思考する。
【Phとの組み合わせ例】
毎日体重をチェックする。カロリーや栄養量を考えて食事をする。
Belief(信念)
社会的理想、倫理的価値、自己信頼感、宗教的信念などにより、アイデンティティを明確に確立することに基づく能力。
【行動例】
出来事に意味付けする。自他を信じる。神に祈る、運命を信じる。「何とかなる」と楽観視する。「ま、いっか」と諦める。自分自身の価値を信じる。経験の意義を探究する。逆境から成長すると捉える。なりたい姿を思い描く。自己啓発本を読む。伝統儀式への参加や礼拝・お祓い。縁起を担ぐ。神社仏閣巡り。座右の銘や格言を信じる。使命感を持つ。自分を鼓舞する。
「〜するべきだ」と考える(べき思考)。自責思考。何かや誰かを盲信する。不合理な信念でも信じ続ける。迷信的思考。ただ耐える。
【Phとの組み合わせ例】
目標を決めて運動する。
参考文献:『緊急支援のためのBASIC Phアプローチ――レジリエンスを引き出す6つの対処チャンネル』(遠見書房)ムーリ・ラハド,ミリ・シャシャム,オフラ・アヤロン 編
佐野信也,立花正一 監訳
新井陽子 角田智哉 濱田智子 水馬裕子 丸田眞由子 岡田太陽 柳井由美 訳
取材・文/東美希 イラスト・企画・構成/木村美紀