個人の考え方やキャラクターを意味する「パーソナリティ」は本来、一人一人異なるもの。ただし、パーソナリティの飛び抜けた偏りによって本人や周囲が悩みごとを抱えてしまうと「パーソナリティ障害」と診断されます。今回は「演技性パーソナリティ障害」の特徴や困りごと、周りの人の接し方などについて、精神科医の藤野智哉先生に伺いました。
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精神科医・産業医・公認心理師
幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。SNSやメディアを通じ、障害とともに生きることで学んできた考え方と精神科医としての知見を発信。著書に『「自分に生まれてよかった」と思えるようになる本 心が軽くなる26のルール』(幻冬舎)、『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』(ワニブックス)、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房)など、最新刊に『「誰かのため」に生きすぎない』ディスカヴァー・トゥエンティワンがある。
注目の的になりたい「演技性パーソナリティ障害」
――パーソナリティ障害の中でも、女性に多いといわれる「演技性パーソナリティ障害」は、どんなタイプなのでしょう?
藤野先生 相手の興味を引くことに興味を示しすぎてしまうタイプで、自分が注目の的になるように演技のような行動をしたり、感情表現が豊かに見えたりするなどの傾向があります。激しい感情表現は、あくまで他者の興味を引くためのものであり、もともと豊かなわけではありません。割合としては、人口全体の1〜3%ぐらいといわれています。
【演技性パーソナリティ障害の特徴】
●注目されていたいという思いが非常に強い
●自分が場の中心になっていないと、不快になりやすい
●周囲の関心を引くために、身体的、性的アピールも厭わないことがある
●社交的に見えるが、コミュニケーションが得意というわけではない
●対人関係を実際以上に親密だと思い込む
●感情表現は大げさだが、表面的でうつろいやすい
●注目をあびるために、中身のない話を印象的に話したり、事実を誇張してしまったりする
――でも、誰もが自分に興味関心を持ってくれるとは限りませんよね。そういう場合はどうなるのでしょうか。
藤野先生 より注目されるために、例えば肌を露出する、誇張した嘘をつくなど、アピール手段がエスカレートしてしまいます。結局、そこにあるのは「承認されたい」という熱望です。承認されないことで傷つきやすいタイプともいえますね。本来、傷つきやすいタイプだからこそ、注目され、羨望のまなざしで見られる状況をつくることで、心を守っているわけです。
無理をして演じているわけですから、当然しんどくなってしまう人もいるし、気持ちが落ち込んでしまう人もいます。また、「なぜ自分に夢中にならないんだ」とイライラしたり、相手を攻撃したりするパターンもあります。
「演技性パーソナリティ障害」の場合、相手の反応を気にするあまり利用されやすい側面も
――「理解されたい」という願いがかなわないことへの怒りが生まれるのですね。「対人関係を実際以上に親密だと思い込む」というのはどういうことですか?
藤野先生 このタイプは、実際はそうでなかったとしても、「まわりはみんな自分のことが好きであるべき」と思ってしまいます。ですから、周囲が自分を称賛したり味方したりしてくれないと、自分の思い込みと現実とのギャップに不安を感じ、「なぜもっと好意を示してくれないんだ!」とイライラしてしまうのです。
――それは人間関係の困りごとに直結しますね…。
藤野先生 パーソナリティ障害自体が、人と人とのつながりを深く、あるいは長く保つことが難しく、人間関係の問題が起こりやすい疾患です。加えて、演技性パーソナリティ障害の場合、相手のリアクションをすごく気にするので、利用されやすい側面もあったりします。
――うまくのせられてしまう、ということでしょうか。
藤野先生 そうですね。利用しようとする側からすると、「すごい!」とほめていれば満足するので扱いやすいタイプといえます。強い依存欲求から人を過度に信じ込んでしまい騙されてしまう。そういったつながりであっても、先に述べたように本人は実際以上に親密だと思い込んでいるケースが多くあります。
「演技性パーソナリティ障害」でも、困りごとがないなら、今すぐ変える必要はない
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――前回の記事で、自分そのものでもあるパーソナリティと向き合うにはエネルギーが必要だというお話もありましたが、もし本人が人間関係やコミュニケーションで「うまくいかないな…」と感じたとき、何から始めたらいいのでしょうか。
藤野先生 これは始まりであり、ゴールでもありますが、もし変わりたいと思うのであれば、「自分はなぜこういうことをしているのか」という根本的な感情に目を向ける必要があります。
今まで「自分はまわりから、魅力的な存在として見られている」と思っていたけれど、実はそうではなかったということ。そんなふうにわざわざアピールして人に認められないと満足できない背景には、自分の自信のなさがあるということでもあります。何を、なぜ抑圧しているのか、そこに目を向けて、受け入れられるかどうかなんです。
――ただ、ほとんどの人にとっては、それが難しいということですよね。
藤野先生 そうですね。そして、パーソナリティ障害は本人や周囲が困りごとを抱えているかどうかが重要なので、もしまわりも本人も特に困っていなければ、それは障害とは呼ばれませんし、そのまま生きていくのも悪くないと思います。
「自分にはそういう特性がある」と知っておいて悪いことはありませんが、困っていないのであれば、必ずしも今すぐ変える必要はないですよね。
身近な人が「演技性パーソナリティ障害」かもしれないと思ったら?知識や適度な距離感が必要
――では、身近に当事者の方がいる場合の接し方についても教えていただけますか。
藤野先生 このタイプの目的は、周囲の人間の関心を得ることです。振り回して、操作して、自分を称賛してくれる方向へもっていきたい。逆にいえば、それで満足するので、浅い関係性なら特性を知ったうえであえて軽くのるのもひとつの手です。ただ、深く関わるとどんどん巻き込まれていくので、のる・のらないはご自分で選んでいいと思います。
――自分にとってちょうどいい距離感を見つけることが重要なのですね。
藤野先生 適度な距離感はとても大事ですね。というのも、相手をヨイショしすぎると「この人だけは自分を持ち上げてくれる」と近付いてきます。彼らは感情表現が激しいので、その分エネルギーをぶつけられ、振り回され、疲れてしまいます。
一見、魅力的に見えるタイプでもあるので、「あんなに熱量があってすごい」「インスタで発信していてすごい」と勘違いして、まわりが「あの人と比べて自分はダメだな」と考えてしまうこともあります。でも、その姿って実はハリボテなんですよね。「あれは自信のなさの表れなんだな」と知っておくだけで、振り回されることなくメンタルの状態や日常を維持できます。
パーソナリティ障害全般にいえることですが、いちばん問題なのは、周囲が振り回されてしまうこと。そうならないためにも、知識を持っておくことは必要だと思います。
▶︎次回は、自分を特別視してしまう「自己愛性パーソナリティ障害」について解説していきます。
構成・取材・文/国分美由紀