カリフォルニアに暮らすZ世代のライター、竹田ダニエルさん。この連載では、アメリカのZ世代的価値観と「心・体・性」にまつわるトレンドワードを切り口に、新しい世界が広がる内容をお届けします。第11回は、アメリカのファッション事情について。今、改めて古着やアーカイブ・ファッションが注目を集める理由から、ファッション業界のエコシステムについてまで伺いました。

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竹田ダニエル

ライター

竹田ダニエル

1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』を刊行。そのほか、現在も多くのメディアで執筆中。

—— Vol.11 “mob wife”——

今、Z世代が古着を選ぶ理由

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Photo by Daniel Takeda

——今回はファッションのホットトピックについて伺いたいと思っています。

ダニエルさん:先日のアカデミー賞のアフターパーティでマーゴット・ロビーが『MUGLER(ミュグレー)』のヴィンテージのコルセットで登場したり、ゼンデイヤが’95-96年AWの同じくミュグレーのボディースーツを着用したりと、過去の名品をあえて取り入れる、“アーカイブファッション”が注目を集めています。




ダニエルさん:ファッション・ファンダム界隈(いわゆるhigh fashion twitter、略してHFT)のXで話題になる投稿を見ていると「あの伝説のコレクションピースだ!」と盛り上がっていて、レアなアイテムを入手(アーカイブプル)できたスタイリストほどリスペクトを得られているように感じます。ただ、個人的にはヘアメイクも含めたトータルコーディネートや、TPOに合ったスタイルを提案するのがスタイリストの仕事だと思っているので、レアなアーカイブを持ってきたからといって評価が上がるのは少々疑問ではあると思います。

——アメリカではセレブ以外でもアーカイブファッションに注目が集まっているのでしょうか?

ダニエルさん:ハイブランドの貴重なアーカイブファッションは服好きの人たちの間で盛り上がっているトピックですが、さまざまなブランドのヴィンテージ製品を扱う『The RealReal(ザ・リアルリアル)』や『Vestiaire Collective(ヴェスティエール・コレクティブ)』などのサイトが特に人気で、利用している人は少なくないと思います。

Z世代を中心とした若い人には『Goodwill(グッドウィル)』というスリフトショップ(売上の多くを慈善活動などに寄付する古着屋)や『Depop(ディーポップ)』というフリマアプリが身近です。1点10〜30ドルといった価格帯の服が充実していたり、量り売りされていたりと、手頃な価格で服が手に入るので人気を集めていますね。

——若い世代の人が安価なファストファッションブランドではなく、古着を選ぶのには理由があるのでしょうか?

ダニエルさん
:まず、Y2Kファッションに代表されるようなリバイバルファッションのアイテムがスリフトショップだけでなく、オンラインショップや個人間のオークションサイトなどで手に入りやすくなったという点があります。

とはいえ、Z世代が古着しか着ないかといえばそうではなくて、ファストファッションを支えているのもZ世代ですし、両方楽しみたいという人もいる。そこはグラデーションなんですよね。でも、古着に対する抵抗はほかの先行世代よりも低いのは確かだと思います。

かつての「古着なんて貧乏で汚い」などというネガティブなステレオタイプのせいで笑い物の対象になってしまっていた風潮が変わり、古着でコーディネートを組んでいるのはおしゃれ上級者で個性的なスタイルの持ち主、なおかつサステナブルで環境にも配慮しているクールな人、というイメージになったのは大きな変化だと思います。

また、経済的な理由も大きく関わっています。就職難・インフレの被害にあっているZ世代は膨れ上がる学生ローンの返済に追われ、ファッションにたくさんのお金をかけられるほどの余裕がなくて当たり前だという認識を持っている。また、素材や人件費のコスト高によって物価が急激に上がっているのにクオリティはイマイチだから、縫製も丁寧で生地の質も高かったヴィンテージの服をあえて購入する人も。

例えば、昨年はレザーのジャケットが流行りましたが、動物の皮革で作られたジャケットは動物保護の観点から人気が低く、今はあまりお手頃な値段でも作られていないため、古着ショップやサイトでレザー商品を探した人も多かった。近年は「ヴィーガンレザー」という名前でフェイクレザーも普及していますが、聞こえはよくても元をたどると石油由来のプラスチック素材が使われていて環境に負荷がかかったり、質があまりよくなくて長持ちしにくい。それだったらヴィンテージの革製品を購入したほうがよほど環境負荷も低く、長く着られるとも言われています。

ちなみに私は先日、『Goodwill』で9ドルのレザーバッグを見つけたのですが、新品だったら数百ドルで売られている高級ブランドのもので質もよく、今も丁寧に手入れをして愛用しています。TikTokでも古着屋でボロボロになったヴィンテージの革バッグや小物を購入し、洗い方やリストレーション(修復)する方法を伝えながら新品のように綺麗にする動画コンテンツもよく見ます。

「古くなっても手入れをちゃんとすれば長く使える」という、新しいものをじゃんじゃん買うことが美徳のようにされていた消費主義のアメリカでは画期的な価値観が、徐々に一般的なものへと広まっていると感じますね。

“マイクロトレンド”から距離を置きたい人が古着へシフト

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Photo by Daniel Takeda

ダニエルさん:ファッションの話をするときに避けて通れないのは、“マイクロトレンド”=“非常に短いトレンド”による、そのサイクルの速さです。最近は、SNSによって情報が回るスピードが著しく進化したことで、インフルエンサー発のマイクロトレンドが生まれやすくなっています。ただ、インフルエンサーが身につけたアイテムは人気を集めるのも早いですが、収束するのも早い。

同じように、昨年映画『バービー』の公開に合わせて、ピンクの服を買う人が増えましたが、数カ月後、古着屋が『SHEIN(シーイン)』や『ZARA(ザラ)』のピンクの服で埋め尽くされている光景を目の当たりにしました。さすがに捨てるのは気がひけるから、せめてもの罪滅ぼしとして古着屋に持ち込む人が少なくなかったようです。

また、少し前までは「clean girl fashion」と呼ばれるスタイルが流行りました。キュッと髪をまとめて、タイトなTシャツやタンクトップにデニムを合わせて、小さめのサングラスをかけるスタイルです。それが今年に入って、SNSやファッションメディアなどで盛んに「mob wifeに注目!」と言われ出して。

——「mob wife」とはどんなスタイルなんでしょう?

ダニエルさん:「mob wife=極道の妻」と訳されるように、ゴージャスなフェイクのファーコートやレオパードなどのアニマル柄、大きなイヤリングなどを身につけて、濃いアイメイクをしたスタイルです。要は「clean girl」の正反対ですよね。新しいトレンドを作り続けないとモノが売れないというのもよくわかるんですが、急にSNSでは「mob wife」一色になり、ハッとした人は多いと思うんですよね。「私たちはトレンドを買わされてるだけなんだ」って。しかも現在となっては話題にもなりませんしね。













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——Z世代を中心とした若い世代はSNSを眺める時間が長いため、トレンドのサイクルの速さを顕著に感じやすくなったのかもしれませんね。

ダニエルさん:そうですね。そして、自分に合ったモノではなくて、何かしらのキャラを演じることがファッションになってしまっていると感じたのではないでしょうか。自分のスタイルが確立されていたら、むやみにトレンドに左右されずに済む。そんな中で、本当に自分に似合う一着を見つけたい、ほかの人と被らないファッションを楽しみたいという人が古着に注目するようになったと思います。

もちろん、今トレンド中のスタイルをよりサステナブルに楽しみたいから、古着で寄せ集めて再現するという人も多くいます。どうせトレンドとは過去のスタイルのリバイバルであることが多いわけですから、必然的にファッションは「サイクル」であるということがよくわかります。

——では、マイクロトレンドに流されず古着を買う、という風潮に関しては、好意的に受け入れられているのでしょうか?

ダニエルさん
:実は、そうでもない意見もあります。自分で見つけた掘り出し物の古着をSNS上やフリマアプリで転売している人も増えており、「古着屋に行ったらそういう人のせいでもう可愛い服がない」と嘆く意見も。

例えば1枚5ドルで買った古着のシャツを「2000年代ヴィンテージスタイル」とかキャッチーな説明文をつけて100ドルで売るとか。「自分のためではなく転売目的で古着を買っているのなら、結局は資本主義に絡め取られているじゃないか」と指摘されることもあります。また、ハイブランドのドレスを自分の好みの丈に合わせて仕立て直してもらう人が「大切なヴィンテージ品を台なしにしている」と叩かれたり、古着を今風のスタイルにリメイクする人が同じように批判されることもネット上ではよくあること。

しかし、冷静に見ればそのようなヴィンテージ商品は特別な理由でもない限りレアなものでもなく、リメイクしなければいずれは捨てられるだけのもの。みんなが思ってるよりも古着というのはよっぽど多くストックが余ってしまっていて、それをアップサイクル(リメイクして再利用)することは決して「価値のあるものを無駄にしている」わけではないのです。

一見使い物にならないようなボロボロの服をフェス用の衣装に作り替えたりと、一般的には「一度しか着ないで捨ててしまう」ような服をファストファッションで買うのではなく、自分で古着から作り直しているTikTokerもよくポジティブな評価でバズっています。


ダニエルさん:また、ファストファッションも、完全に否定的にとらえられているわけではありません。「貧困層やプラスサイズの人など、これまで他のファッションブランドの服を買えなかった人も手に取れるようになったんだから、断罪するのはよくない」という声もある。しかし、実際に『SHEIN』を購入している最も大きな顧客層は月に100ドル以上を服に使っているという統計もあり、問題は大量にファストファッションを購入してトレンドを高スピードで消費している人たちにあるということもよく話題になります。

“無敵”と言われるファッションアカウントとは?

——ファッションをめぐる課題は環境問題や貧困問題、ルッキズム、ダイエットカルチャーとも密接に関わっていて、一筋縄ではいかないですね。ちなみにファッション業界で話題になっている人はいますか?

ダニエルさん:セレブを担当している敏腕スタイリストは度々名前が上がる印象があります。ゼンデイヤのスタイリングを担当しているロー・ローチは特に有名ですよね。それから、個人的に注目しているのは、Xで「無敵のアカウント」として知られる『derek guy』です。

例えば、悪評高い政治家について、直接的に公約や態度を批判するのではなく、それらが自明であるという前提でその人が身につけているスーツがいかに体型に合っていないかとか、ファッションアイテムの歴史から紐解いてこの場にふさわしくないとか、細かく分析して批判するんです。弱者を搾取するような人たちをこのようなテクニックで小馬鹿にしたり、彼を攻撃しようとする差別主義者の写真を使って彼らがいかに「知ったかぶり」をしているのか、メンズウェアへの知識と反論テクニックでひれ伏させてしまいます。

そして、ただ批判するだけでなく、「あなたの体型に合うのはこういうシルエットのものですよ」など、身近なファッションサイトで売られている手頃な価格のアイテムを提案していて、私は好感を持って見ています。ファッションアイテムやブランドの歴史についてもスレッドを頻繁に展開していて、学ぶこともとても多いです。



——こういう話を聞くと、ファショントレンドから社会を見るのはとても興味深いですね。

ダニエルさん:そうですね。そういえば、服好き界隈で有名なブレンダ・ハッシュタグというブランドコンサルタントが日本のヴィンテージショップを巡っていると投稿していました。というのも、日本はバブル期にブランド品を買い漁っていた人が多く、当時の貴重なバッグや宝飾品、服が国内の質屋やブランド専門のヴィンテージショップに多く出回っているんですよね。外国では買えない、レアかつ良い状態のものも多く、特に円安が加速する今は日本が注目されていますね。

画像デザイン/坪本瑞希 構成・取材・文/浦本真梨子 企画/種谷美波(yoi) 画像/shutter stock(vesperstock) LOS ANGELES, CA, DEC 2016: patrons line up outside The Pantry Cafe in Downtown at the corner of 9th and Figueroa. Restaurant claims to have never closed since opening in 1924