「SBNR」は「Spiritual But Not Religious」の略で、直訳すると「宗教的ではないけれどスピリチュアル」。日本ではまだまだ浸透していない言葉ですが、近年流行中の「マインドフルネス」や「サウナでととのう」なども、実は「SBNR」的とされるトレンドなのです。注目の理由や社会の変化について、「SBNR」に関するレポートを制作した「HAKUHODO HUMANOMICS STUDIOの橋本明意さんと宮島達則さんにお話を伺いました。

HAKUHODO HUMANOMICS STUDIO

「経済活動に豊かな人間性を」をテーマに、“人間経済学”の社会実装を目指して研究と実践を行っていく、プロジェクト。「Human + economics = Humanomics (ヒューマノミクス)」というコンセプトのもと、「生活者発想」をフィロソフィーにかかげる博報堂と、「兆しからより良い社会の道標をつくる」をビジョンにかかげるSIGNINGの共同プロジェクトとして、多彩なテーマでの研究開発やレポート発信、事業支援、サービス開発を実施中。

「SBNR」とは?

SBNR 無宗教型スピリチュアル

——「SBNR」とは、どういう意味でしょうか?

宮島さん:直訳すると「宗教的ではないけれどスピリチュアル」となりますが、特定の宗教を信仰しているわけではないけれど、目に見えない精神的な価値を大切にしたり、精神的に豊かな暮らしを送りたいと思われる方のことを指しています。

スピリチュアルというと、日本では少し怪しげなイメージを抱く人もいるかもしれませんが、自然への敬意や、精神的な豊かさというイメージのほうが近いかもしれません。

——「SBNR」という言葉は、どのようにして生まれたのでしょうか?

宮島さん「SBNR」という概念が広まったのは2000年代のアメリカです。アメリカでは昔から、キリスト教が社会の基盤とされていましたが、1970年代以降、教会に所属しない国民が増えてきました。そのような社会の変化をとらえた、スヴェン・アーランドソン氏の著書『Spiritual but not Religious』がきっかけで、アメリカの宗教事情や人々の心の変化を「SBNR」の言葉を使って表現することが広まっていきました。

なぜ今、「SBNR」が注目されているのか?

——アメリカでは、「SBNR」という言葉は、かなり浸透しているのでしょうか?

宮島さん:アメリカで「キリスト教的な価値観だけに縛られるのはどうか。でも、“精神的な豊かさ”も、宗教とは離れて、それはそれで大事だよね」という若い層がかなり増えてきているというデータがあります。その社会背景を受け、もともとは「キリスト教的な価値観から離れつつも、精神的な豊かさを追求する」という文脈で「SBNR」という言葉は定義されてきました

その後、スティーブ・ジョブズの禅への傾倒や欧米のエリートビジネスマンたちの間で瞑想(マインドフルネス)が流行するなどの動きがありました。禅も瞑想も、もとをたどれば宗教の教えが源流になっていると思いますが、そこから宗教的なエッセンスが削ぎ落とされ、実践的な行動として広がっていますよね。そのような流れも「SBNR」と認識されることによって、どんどん裾野が広がり認知度も高まっています。

SBNR 無宗教型スピリチュアル 米国での増加率

"More Americans now say they're spiritual but not religious." Pew Research Center, Washington, D.C. (2017/09/06)
https://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/09/06/more-americans-now-say-theyre-spiritual-but-not-religious/

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——禅やマインドフルネスは、近年日本でも関心を持つ人が増えていると感じます。「SBNR」という言葉は日本ではあまり浸透していませんが、「SBNR」的なトレンドは多いですし、「精神的な豊かさを求めたい」という気持ちを抱く人は、特にコロナ禍以降増えていますよね。

橋本さん:体だけでなく心も“ととのう”ことを目指す「サウナ」や、「瞑想・マインドフルネス」、「アートや音楽を楽しむ」「デジタルデトックス」「リトリート旅行」「ジャーナリング」なども、「SBNR」的なトレンドですね。

SBNR 無宗教型スピリチュアル トレンド

橋本さん:コロナもありましたし、さまざまな事件や問題で世界が混乱していく中で、社会や人々の課題をこれまでのやり方で短期的に解決することは難しい、という課題感が博報堂にもあります。精神的な豊かさを求める「SBNR」は、一見経済活動からは縁遠い言葉のようですが、今を生きる人々のことを考えると、精神面のことを抜きに経済的なことを考えることはできないと考えています。

「SBNR」な人は、何を大切にしている?

——「SBNR」は「Spritual But Not Religious」の略ですが、レポートの中で別の当て字を使って「SBNR」的なものとは何か、というのを解説していたのが、とてもわかりやすく印象的でした。

宮島さん:はい。今の「SBNR」の潮流をチームで分析して、「こういったものがSBNR的ととらえられるのではないか」というものをリストアップしていき、要素を整理したりどういったカテゴライズができるのかを考えていきました。そこから、

S=Soul(こころ)
B=Body(からだ)

N=Nature(しぜん)
R=Relationship(つながり)

という4つの要素が「SBNR」で主に大切とされているものなのではないかと考えました。


SBNR 無宗教型スピリチュアル 大切にしているもの

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宮島さん:これら4つの要素が複雑に絡み合い、関係し合うものが「SBNR」的なものには多くあります。例えばサウナやヨガは「こころ・からだ」の要素を含みますし、「リトリート旅行」などはすべての要素を含みますよね。

「こころ・からだ・しぜん・つながり」を一体のものとしてとらえ、それぞれを融合させながら豊かな精神性を追求するものが「SBNR」といえるのではないかと考えています。

実は日本人には、「SBNR」な人が多い!

——「宗教的ではないけれどスピリチュアル」というのは、日本人にとってはよくわかるというか、逆に当たり前すぎてピンとこないというような感じもありますよね(笑)。

宮島さん:そうですね(笑)。実際にデータを取ると、他国に比べて日本人には「SBNR」な人が多いことがわかっています。日本では他国に比べ、特定の宗教を強く信仰したり、団体に所属して教義を厳密に実践している人が少ない国ならではの結果ですね。

SBNR 無宗教型スピリチュアル 日本人の割合

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宮島さん:日本では特定の宗教への強い信仰はないものの、「禅」の哲学であったり、「弓道」「武道」「華道」など、精神的なものも大切にする「道」の考え方、唯一神ではなくさまざまなものに神が宿る「八百万の神」、初詣やお祭りなどの行事など、「SBNR」的な考え方や習慣が根付いていますよね。ごはんを食べる前に、「いただきます」と言うことも「SBNR」的だととらえることもできます。

それらの精神や歴史、場所などは日本の持つ資源として、海外の「SBNR」層からも注目されているんです。

橋本さん:サウナなども、「サ道」と“道化”したことで広まったといえるのかもしれません。いろんなものや行いに精神性を見出すことができるのが、日本人らしいですよね。

——日本ではすでに浸透しているともいえる「SBNR」的な精神ですが、そういったことへの関心は、今後ますます高まっていきそうです。

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企画・構成・取材・文/木村美紀(yoi)