人前で緊張したり、心や体が張り詰めてしまうのは誰にでもあること。そもそも人はどうして緊張するのでしょうか? そのメカニズムと対処法をはじめ、意外にも子どもの頃から人前に立つのが大の苦手だと言うお笑いトリオ・ハナコの秋山寛貴のインタビュー、さらに今増えている電話恐怖症から、緊張やストレスをやわらげる深い呼吸まで、日々のさまざまな場面で役立つお話をまとめてご紹介します。
- 【専門家が解説】なぜ人は緊張するの? プレッシャー下でも自分のよさを生かすための訓練「セルフモニタリング」とは?
- 緊張のメカニズムは、人間が“サル”だった時代から変わっていない
- “落ち着こうとすると、かえって緊張する現象”の対処法
- 日頃から訓練することで条件反射的に「平常心」を取り戻す
- 心身の自己調整「セルフモニタリング」とは?
- 大切なのは「人より優れること」ではなく「自分を高めること」
- ミレニアル世代以降に「電話恐怖症」が急増中? 心療内科医が教える、“電話が怖い”理由<前編>
- ミレニアル世代以降に「電話が怖い」人が増えている背景とは?
- 電話でのトラウマ体験による反応で恐怖症になることも
- 「電話恐怖症」は専門性の高いプロに頼り、「電話が怖い」場合は呼吸や心拍を遅くする工夫を
- 【“電話が怖い”症状5パターン】それぞれの心理的・物理的対策法を心療内科医が解説!<後編>
- 「電話恐怖症」と「電話が怖い」の症状・対策の違い
- ①「電話をかけるのが怖い」場合:「注意のシフト」で気が楽に
- ②「電話を取るのが怖い」場合:姿勢を変えるだけで安心感が増す!
- ③「電話を聞かれるのが怖い」場合:自分に向けられる周囲の「目」をジャッジする
- ④「通話中、頭が真っ白になる」場合:フリーズ後のフレーズを準備!
- ⑤「どうしても電話ができない」場合:医師やカウンセラーへ相談!
- ストレスや緊張をやわらげる「深い呼吸」とは? 自律神経も整う1日3分のメソッドを専門家に聞いてみた!
- 「呼吸」の仕組みとは? 体や心とどう関係がある?
- ろっ骨と横隔膜の位置関係
- 呼吸が浅くなることで起こる、意外な問題
- 呼吸を深め、骨格を調整するトレーニング
- 息を吐く筋肉を鍛える呼吸筋トレーニング
- 息を吸う筋肉を鍛える呼吸筋トレーニング
- 深い呼吸を取り入れるメリット
- 【ハナコ・秋山寛貴さん】「人前が大の苦手」それでも舞台に立つことを続けられた理由〈インタビュー前編〉
- 子どもの頃から人前が大の苦手。「学芸会の主役」なんてありえなかった
- 「M-1甲子園」でついた“恥ずかしさへの免疫”
- 失敗のパターンを経験し尽くしたおかげで、緊張しづらくなってきた
- どうしても避けられない人前は、まずは“テンプレ”から
- 【ハナコ・秋山寛貴さん】人前が苦手な読者からのお悩みに回答!「めちゃくちゃわかる」からの対処法は?〈インタビュー後編〉
- スピーチやプレゼンが苦手。大勢の前に立つときの緊張への対処法は?
- 人前で自分が主役になることに耐えられない。お祝いの場をどう乗り切ればいい?
- 人前での失敗を後悔して眠れなくなってしまう……。対処法はある?
- 会議や勉強会で司会をする機会が増えてきた。場の仕切り方のコツを知りたい!
【専門家が解説】なぜ人は緊張するの? プレッシャー下でも自分のよさを生かすための訓練「セルフモニタリング」とは?
筑波大学体育科科学系教授
筑波大学体育科科学系教授、臨床心理士。健康心理学、スポーツ心理学を専門に、自律訓練法・軽運動・瞑想法を活用した、心身コンディションのセルフコントロールなどを研究。著書に、『身心の自己調整:こころのダイアグラムとからだのモニタリング』(誠信書房)があげられる。
緊張のメカニズムは、人間が“サル”だった時代から変わっていない
――そもそも、人はなぜ新しい環境や重要な場面で緊張してしまうのでしょうか? そのメカニズムから教えてください。
坂入先生:まず、緊張と大きく関係しているのが「自律神経系」のシステムです。自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2種類で構成されていて、交感神経が優位のときは体と心が興奮し、“パフォーマンスモード”に入っている状態。つまり、緊張状態ですね。反対に、副交感神経が優位のときは“リラックスモード”に入っている状態です。
実はこの自律神経のプログラムは、人間がまだ、サルだった頃から変わっていないシステムです。サルの場合は、毛づくろいをしたり、果物を食べたりと、ほとんどの時間はリラックスモード=副交感神経が優位の状態で過ごしていますが、敵に出くわしたときや獲物を狙うとき、メスを奪い合うといった緊急事態には全速力で動けるよう、パフォーマンスモード=交感神経が優位に働きます。こうなると、拍数が上がって手足の末梢血管が収縮し、体じゅうの血液や酸素が脳に送られることになります。
人間の自律神経のプログラムもサルと同じで、「頑張らなきゃ!」と意気込んでいるときや、怒り・興奮を感じたときに同じ反応を起こすことになります。例を挙げると、緊張したときに顔が赤くなるのは、前述のサルと同じで全身の血液が脳に集まるからです。同時に、血液が手や足の末端に行き渡らなくなることで、緊張すると手足が冷たくなることもあります。
サルにとっては、交感神経が優位になることで、素早く敵から逃げることができたり、手足にケガをしても出血しにくく都合がいいのですが、日常生活で戦ったり獲物を狙う必要がない人間にとっては不便なことばかり。例えば、緊張したときに起こる、動悸、口の乾き、手汗・わき汗といった反応は、役に立たないだけでなく、不快なものばかりです。
『身心の自己調整 こころのダイアグラムとからだのモニタリング』(坂入洋右・著)より参照
坂入先生:しかし、緊張状態になることは決して悪いことばかりではありません。完全にリラックスモードに入っているよりも適度な緊張感があるほうがパフォーマンスの向上につながるからです。ただ、日常的にその緊張状態が続くと、うまくリラックスモードに切り替えられず、ストレスがたまったり、筋肉に力が入りすぎて、肩こりや冷え、便秘、イライラを引き起こしたりと、身心の状態が悪化します。
そのため、緊張とリラックスをうまく切り替えられる術を身につけておくと、仕事や勉強、スポーツの際に実力を発揮しやすくなるし、体と心の負担も軽減できて健康にもいい。つまり、アクセルからブレーキに戻す方法を知っておくとずっと生きやすくなるということです。
“落ち着こうとすると、かえって緊張する現象”の対処法
――例えば「大事な日の前日にうまく寝付けない」とか、「落ち着こうとしたらかえって緊張してしまう」といった現象は、緊張とリラックスの切り替え、つまり交感神経と副交感神経の調整がうまくいっていないということなのでしょうか。
坂入先生:その通りです。交感神経と副交感神経は、自分の意志では切り替えられないため、以下の図のように落ち着こうとするとかえって交感神経系が活性化されて焦る、という悪循環が起こるんです。副交感神経系を優位にしたいなら、「眠ろう」「リラックスしよう」と考えるのではなく、「何もしないこと」が大切です。
「何もしない」のポイントは、“自分がコントロールできないことはあきらめ、自分がコントロールできることだけに意識を向ける”ということです。
『身心の自己調整 こころのダイアグラムとからだのモニタリング』(坂入洋右・著)より参照
――「自分がコントロールできること」とは、なんでしょうか。
坂入先生:自分の体で変えられるのは、「行動」や「呼吸」です。筋肉を緩めたり、呼吸を整えたりするなどの“自己調整”をして過剰な興奮状態を抑制すれば、少しずつ体の力が抜けて心も落ち着いてくるはずです。ただ、この調整法は訓練をして身につけない限り、すぐにできるようになるものではありません。
日頃から訓練することで条件反射的に「平常心」を取り戻す
――逆に言えば、訓練をすれば、緊張とリラックスの調整ができるようになる、ということですね!
坂入先生:はい。日々自己調整の練習を積み重ねていれば、いざというときに平常心になれる。大切なのは、ピンチやチャンスのときに、場当たり的に気持ちを落ち着かせようとするのではなく、いかに平常時に心の安定を取り戻す訓練をしておくかです。
「パブロフの犬」の実験を知っていますか? 犬に餌を与える際、その前に必ずベルを鳴らす、という訓練を繰り返していると、ベルの音を聞いただけで、犬はよだれを出すようになるという実験です。この原理で、例えばお坊さんは、毎日同じ姿勢・同じ呼吸で坐禅をする修行を積み重ねることで、ピンチやチャンスのときでも坐禅を組もうとしただけで、身心が勝手に平常心になる。私はスポーツ心理学を専門としていますが、世界で活躍するスポーツ選手も同じで、大事な場面でも、いつもと同じ姿勢、同じ行動を繰り返してプレーすることで、条件反射的に身心を平常心に保つことを目指しています。
こういった自己調整の訓練として、まずは「セルフモニタリング」が必要です。
心身の自己調整「セルフモニタリング」とは?
――「セルフモニタリング」とはどのようなものなのでしょうか。
坂入先生:ひと言で言うなら、「自分は今どのような状態か」について正しく観察し、心身を適切な状態に調整することです。その点では、ヨガや瞑想にも似ているといえます。対・人の場合で考えると、相手のことを知るためには、まずその人の情報をたくさん集めますよね。そうすると、相手は何が好きで、どんなことで喜ぶのかがわかって関係がよくなる。それは、自分の体に対しても同じことがいえます。日々の健康状態や身心の状態の情報を日頃から把握することで、ピンチのときや緊張下でも、自分といい関係を築くことができるというわけです。
――どうすれば、効果的にセルフモニタリングすることができるのでしょうか?
坂入先生:具体的な測定法として、「心のダイアグラム」というグラフの活用が挙げられます。心の「活性度」(抑うつ状態〜元気な状態)と「安定度」(不安・緊張状態〜落ち着いた状態)を測る「二次元気分尺度」という検査の短縮版が「心のダイアグラム」です。このグラフに印をつけたり指差し確認をして、さまざまな場面における心理状態の特徴とその変化を、視覚的に理解していきます。
二次元気分尺度の一部『身心の自己調整 こころのダイアグラムとからだのモニタリング』(坂入洋右・著)より参照
――1日のうち、どのようなタイミングで何回行えばよいのでしょうか。
坂入先生:自分の情報をたくさん得るには、できるだけこまめに行うといいのですが、面倒になると続かないので、朝晩2回、スキンケアの時間などに合わせて行い、習慣化するのもひとつの手です。このチェックを続けると、例えばもし頭にくることがあっても、「自分の感情は今、グラフのどの位置だろう?」と考えた瞬間、冷静になれます。自分を客観視することが苦手な人でも、感情の変化に気づきやすくなり、モニタリングスキルが伸びていきます。
あとは、いろいろな心理状態のときに、休息や軽い運動などを行ってみて、その前後の変化を見ることも有効です。
大切なのは「人より優れること」ではなく「自分を高めること」
坂入先生:この「セルフモニタリング」を行ううえでいちばん大切なのは、「○○さんみたいになりたい」とか「メンタルが強くならなくては」という考えをモチベーションにしないことです。セルフモニタリングは、あくまで自分のコンディションをいい状態にすることが目的で、他人と比べる必要はまったくありません。「人より優れること」ではなく「自分を高めること」を目的に今の状態を正しく理解できれば、緊張やプレッシャー下でも最大限の力を発揮することができるようになるはずですよ。
ミレニアル世代以降に「電話恐怖症」が急増中? 心療内科医が教える、“電話が怖い”理由<前編>
ミレニアル世代以降に「電話が怖い」人が増えている背景とは?
——最近、「電話に苦手意識がある」という声を聞く機会が多いように感じます。鈴木先生は、ご自身で開業なさっているクリニックのほか、産業医としても診察されていますが、そういった声が増えているという印象はありますか。
鈴木先生:そうですね。特に20代の方に増えている感覚があります。それは日本だけではなく、欧米でも同様で、「テレフォビア」と呼ばれています。ミレニアル世代(1981年から1996年頃生まれの世代)には、電話をストレスに感じる人が多いというイギリスの調査もあり、20代・30代の実に70%〜80%が「電話が鳴ると不安になる」と答えたという結果でした。
特に会社の固定電話を「怖い」と感じる人が多いですね。ミレニアル世代以降は、「誰からかわからない電話を受ける」という経験が上の世代より極端に減るんです。携帯電話・SNSが普及し、発信元がわかる通話しか受けていない。つまり、会社の固定電話で初めて「誰につながるかわからない電話」をすることになる。今までさらされることのなかったストレスによって、恐怖が生まれているのかもしれません。
あとは、チャットやメールがメインの連絡手段になっている中で、「電話は相手の時間を奪うので失礼」というマナーが生まれたこともあるでしょう。「自分は相手の時間を奪っているんだ」という思いがあれば、特に電話をかけることは緊張するでしょう。でもそれって実は思い込みで、メールなら3往復のやりとりが必要なところを、電話なら1回3分で終わるような話題も多い。相手や内容によっては、電話のほうが都合がいい場合もあります。「すべての電話が迷惑なわけではない」と、こちら側で勝手に決めつけず、ケースバイケースだと意識しておくことも大切です。
——この「電話が怖い」という不安を持つことが、「電話恐怖症」なのでしょうか。
鈴木先生:そのような意味で使っている人も多いと思いますが、ひと言で「怖い」と言っても、単なる「苦手意識」なのか、「恐怖症」レベルなのかでは、話がまったく違います。一般的に「電話恐怖症」と呼ばれている人の中には、医学的に見れば恐怖症ではない人もおそらく多く含まれているでしょう。
医学的に恐怖症とは、「本来そこまで感じる必要はない対象に対して、過剰に不安や恐怖を感じること」です。着信によってパニックや動悸などが起きたり「電話を受けたくないから会社に行きたくない」と思ったり、というような回避の症状があれば、電話恐怖症と言っていいでしょう。
ただし、たとえ恐怖症というレベルでなくても、困っているという事実は変わりません。「病気でもないのに何で自分は電話を怖がってるんだろう」なんて落ち込む必要はない。電話が怖くて不快だったり仕事に支障をきたしていれば、それは「困りごと」ですから。
電話でのトラウマ体験による反応で恐怖症になることも
——「電話恐怖症」と「電話への苦手意識」だと、解決策は違うのでしょうか。
鈴木先生:単純な苦手意識の場合は、単純に試行回数を増やすと克服できることがあります。体質的な問題とは違って、大半の「苦手なもの」は、スキルや経験の蓄積によってやわらいでいきます。「こう来たらこう返せばよい」「困ったときはこうすればいい」などのケーススタディを学んでいくうちに、対応できるようになるのです。ものすごく簡単に言うと「慣れ」ですね。
克服できるかもしれないのに、無理だと決めつけてひたすら回避してしまうのはもったいない。そこまで大変な症状が出ているわけでないのであれば、メモを使ったり、マニュアルを読んだりして工夫しながら、粛々と試行回数を重ねていくというプロセスは試してみてよいと思います。
産業医として「電話が苦手」という方の相談を受けてきた経験からも、回数による習熟で怖さが弱まっていく人が多い印象です。複雑な対応でなければ、それなりに対策をしながら100回くらい試行回数を重ねれば、苦手意識というのは無くなることのほうが多いのではないかと思います。
——「電話が怖い」は、試行回数の問題の場合もあるのですね。では、「電話恐怖症」レベルのものは何が原因となって起きるのでしょうか。
鈴木先生:原因はさまざまですが、「電話恐怖症」レベルの方は電話や通話と衝撃的な体験が結びついている方が多いですね。会社以外の、プライベートの電話も出るのが難しいほどの電話恐怖症の人はこのパターンの方をよくみます。
例えば、大事な人の訃報など、生死と結びつくような突然の連絡を電話で受けたことのある人。病院や警察からの突然の電話がトラウマになってしまい、着信があると激しい反応が出るようになってしまう人もいます。そのほかにもストーカーから電話による加害を受けた経験や、重すぎる悩み事を何度も何度も電話で聞いてしまった経験など、電話という体験が深刻なストレスや恐怖などの不快な情動と結びつくときに、「電話は恐ろしいものだ」という学習が起きてしまうのです。
なので、「電話に出るのが怖いのは、過去の体験のせいかもしれない」と考えて、振り返ってみてもよいですね。もしかしたら原因となるエピソードが見つかるかもしれません。お仕事の電話が怖い人も、プライベートなことに原因がある可能性はあります。もし特定できれば、対策に役立つかもしれません。
——そのような体験があると、電話すべてが恐ろしくなりそうです。ですが、「仕事の電話だけが怖い」という人も多く見られます。その理由はなんなのでしょうか。
鈴木先生:こちらの原因もさまざまですが、「プライベートよりも仕事のほうが恐ろしい体験と出会う可能性が高い/高そうに感じる」ことが原因ではないでしょうか。プライベートなら回避できますが、仕事だと絶対に出なければいけないというプレッシャーもあります。
そこまで激しい体験がない場合でも、“トラウマ的”なでき事によって電話が恐ろしくなってしまうパターンもとても多いですね。例えば、取引先や上司に電話口で理不尽に怒られたり、詰められるというのも、体験に恐怖が条件づけられるために、広い意味での“トラウマ的”なでき事と呼べるでしょう。
僕は電話恐怖症ではありませんが、電話が怖くなる気持ちはとてもよくわかります。研修医時代、短気な循環器内科の先生に電話するのもされるのも、めちゃくちゃイヤでしたから(笑)。怖い先生にかけたくないけど、患者さんのためだからかけなくては、という気持ちで電話をしていました。
このような「めちゃくちゃイヤ」と「電話恐怖症」をある程度は区別しつつ、対応していきましょう。
「電話恐怖症」は専門性の高いプロに頼り、「電話が怖い」場合は呼吸や心拍を遅くする工夫を
——具体的にはどのように対応していくのがよいのでしょうか?
鈴木先生:まず、激しい症状が出る「電話恐怖症」の場合は、最初から専門性の高い医師やカウンセラーに頼るのがいいと思います。特に、トラウマに関連している電話への恐怖は、心理療法で改善できる可能性が高いということは、知っておいてほしいです。
電話に出られないというだけで、仕事の評価が下がってしまう場合もありますし、何より「電話が怖い」みたいな痛みから得られるものってあまりないので、早々にプロにお願いしてしまうほうがいいと思います。人生においては、「喪失」とか「失恋」とか、もっと優先的に向き合ったほうがいい痛みがありますから。
プロにお願いする際は、トラウマ治療や認知行動療法などの心理療法にしっかり取り組んでいる、専門性の高い専門家を選ぶことができれば、薬物療法より心理療法のほうが効果的だと考えています。
——激しい症状が出ない「電話が怖い」程度の場合は、どうすればいいのでしょうか。
鈴木先生:恐怖などの感情は、呼吸や心拍などの体の情報に引っ張られているので、それらを遅くすることで体感が大きく変わります。例えば、「3秒で吸って7秒で吐く」といった、呼気を長くする呼吸がおすすめです。気持ちを落ち着けられればなんでもいいです。素数を数えるとか、テトリスをするとか、自分の心に合った方法で対処してみましょう。
また、「電話をかける」「電話を受ける」「電話を聞かれる」など、さまざまなパターンに対する怖さがあると思います。次の記事では、それぞれについての解説と、物理的・心理的対策をお話しますので、使えそうなものを試してみてくださいね。
【“電話が怖い”症状5パターン】それぞれの心理的・物理的対策法を心療内科医が解説!<後編>
「電話恐怖症」と「電話が怖い」の症状・対策の違い
鈴木先生:さまざまなケースの対策をお伝えする前に、改めてお話ししておきたいのが「電話恐怖症」と単に「電話が怖い」という状態との違いです。医学的には、電話恐怖症は「限局性恐怖症」のひとつと考えられています。
限局性恐怖症とは、特定の状況や対象に対して、非現実的で激しい不安や恐怖感が持続する状態です。高所や閉所、クモやヘビなど動物、落雷や雷鳴に対する恐怖症などが多いですが、電話恐怖症も比較的ポピュラーなもののひとつです。電話に出ることやかけることに対して、実際に起こり得るリスクに見合わないほどの強い恐怖感があり、パニック発作や強い動悸が起きることもあります。日常生活や仕事に支障をきたすものであり、専門的な治療が必要です。
一方、「電話が怖い」というのは、電話に対する苦手意識や不安感がある状態を指しますが、それが過度でない場合や、日常生活にあまり支障をきたさない範囲のものです。これは多くの人が持つ不安で、練習や慣れによって克服できることが多いです。
基本的に、今からお話する対策は後者の「電話が怖い」へのものです。「電話恐怖症」である場合は、自己判断で対策せず、専門家のアドバイスを受けてくださいね。
このことを踏まえ、電話にまつわる不安を取り除く方法を模索していきましょう。
①「電話をかけるのが怖い」場合:「注意のシフト」で気が楽に
鈴木先生:「電話が怖い」レベルであれば、「習熟」でなんとかできます。かけ続けることで軽減する可能性が高いですが、そうはいっても怖いですよね。その怖さを軽減できる心理的・物理的対策をお教えします。
<心理的対策>
まずは、「電話は命を取られるようなことではない」と意識してください。緊張しすぎる人は、重大にとらえすぎる傾向があります。
また、不安というのは自分に注目すればするほど増幅するという特徴を持っているので、電話の相手にどう思われるかを気にしすぎないことも有効です。ここでのポイントは、「自分がどう見られるか」から「相手に何を伝えるか」に意識をシフトすること。これを「注意のシフト」と呼びます。自分の発言が相手にどう受け取られるかを気にするよりも、電話の目的や伝えたい内容にフォーカスすることで、不安を感じにくくなります。
電話の際に自分と相手の関係について心配しなければならないことは、「取引先に失礼のないように」程度です。自分がどう見られるか、好かれるかどうか等は本来気にしなくていいことなんですよ。
<物理的対策>
これはとても簡単で、話さなければいけない内容をしっかりメモしておくこと。リストアップした箇条書きでもいいですし、不安が強いならば、台本のように読み上げればいい自分なりのマニュアル的なものを作成しておくとより安心できますね。
それでも怖さが軽減されない場合は、同僚に助けを求めるのもひとつの手です。メモの内容を確認してもらったり、状況によっては電話を代わってもらう相手を確保して、保険をかけておくのもいいでしょう。
②「電話を取るのが怖い」場合:姿勢を変えるだけで安心感が増す!
鈴木先生:自分で何もコントロールできない「着信」だから怖い……という心理的状況もあります。できる部分はコントロールして、自分を落ち着かせる対策を取りましょう。
<心理的対策>
実は、姿勢や声のトーンも心の落ち着きに影響します。電話に出る際には、次の点を意識してみてください。
・ゆっくりと低い声で話すことを意識する。
・前のめりにならないように、体重を後ろにかける(前傾姿勢は緊張を高めてしまう)。
・足に重心を置き、椅子に深く腰掛け、どっしりと座る姿勢を心がける。
また、自分を落ち着かせる「おまじない」を取り入れるのも効果的です。例えば、視界の中に、観葉植物や写真、フィギュアなど自分の好きなものや安心できるものを配置して電話を取ると安心感が増します。もし物を置いたり準備したりできない場合は、心の中で落ち着く言葉をつぶやいてみましょう。安心感をもたらす記憶ネットワークを活性化させることができます。好きな動物や推しの名前など、「おまじない」になるワードを探してみてください。
<物理的対策>
電話がかかってきてびっくりしてしまう場合、まずは着信音を変えたり、音量を下げたり、バイブレーションのパターンを変えてみるのはどうでしょうか。
いきなり強い音が来る状況を避けるだけで、突然に強い「圧」や衝撃を感じなくて済みます。これは誰にもまったく迷惑をかけずにできる簡単な対策ですね。
また、携帯電話の場合は“知らない番号は1回目で出ない”、ということも効果的です。留守電を聞いたり、その電話番号がどこからかかってきているのかを調べてから折り返すと、アドリブ感が減り、不安も軽減されるはずです。
③「電話を聞かれるのが怖い」場合:自分に向けられる周囲の「目」をジャッジする
鈴木先生:これは電話そのものに対する恐怖ではなく、一種の評価不安かもしれません。「自分の電話応対が変だと思われたらどうしよう」と、聞いているまわりの人を怖がっているのです。
自分の行動を他人につぶさに見られるというのは誰でも心地よい感じはしないでしょうが、「それにしても周囲のことが気になりすぎてしまう」と感じるのであれば、以下のような対策をしてみてください。
<心理的対策>
周囲の目が気になる場合、まずはその「目」をジャッジすることが重要です。具体的には、自分をじっと見てくる人や聞き耳を立ててくる人が、果たして自分にとって本当に問題になるのかどうかを見極めることです。また、感じている注目や視線が、実は自分の思い過ごしであることも少なくありません。
もし、特定の人が原因でストレスを感じる場合、その人が意図的に自分にだけ嫌な態度を取っているのか、他の人にも同じようにしているのかを観察する。相手の言動に敵対的な意図があるのか、それとも自分が過剰に受け止めすぎてしまっているのかを冷静に識別する必要があります。自分の受け止め方の問題だとわかれば、少しは気持ちが楽になるかもしれません。逆に、その人の言動に問題がある場合は、第三者に相談するなど、対処する必要があります。
<物理的対策>
人の目が気にならない環境に移動して、電話をかけ直すこと。たとえば、Zoomや個人のスマートフォンなど、プライベートな回線を利用して、人が見ていない場所から電話をかけ直すことが有効ですね。自分に負担のないタイミングやセッティングで電話をすることを心がけましょう。
④「通話中、頭が真っ白になる」場合:フリーズ後のフレーズを準備!
鈴木先生:頭が真っ白になるという現象は、強い緊張やプレッシャーが原因で起こりやすいもの。緊張すると、脳は「危機的状況」に対処するために交感神経を働かせます。すると、呼吸が浅くなって酸素濃度が低下したり、合理的な意思決定などを行う前頭前皮質の働きが低下するなどして、いま目の前にある会話やタスクに対して、十分な注意を向けられなくなるのです。これは多くの人が経験することであり、特別なことではありません。僕も生放送の番組に出演したときに、同じように、何を喋っているかわからなくなることがありました(笑)。
なので、「頭が真っ白になる」からといって、電話恐怖症であるとは言い切れないのです。スピーチやプレゼンが苦手な人にも起こり得ることですからね。
<心理的対策>
頭が真っ白になってしまった場合、その場での完璧な対応をする必要はないと割り切りましょう。後からカバーできればOKです。
そもそも、1回で伝え切り、聞き取らなければいけない理由はありませんよね。電話の終わりに内容を復唱して確認したり、電話を切った後で確認メールを送ったり、うまくできなかったことをカバーする方法はたくさんあります。
具体的な方法を考えて、「失敗しても、あとからなんとかなる」と緊張感をやわらげる思考にするのがおすすめです。
<物理的対策>
「フリーズ後のフレーズ」を準備しておきましょう。
たとえば、「お電話が遠かったので、もう一度お願いできますか?」や「すみません、少し緊張してしまいまして、もう一度説明していただけますか?」など。頭が真っ白になったときはこれさえ言えばいい!というセリフをいくつか準備しておくことで、適切に対応しやすくなります。
⑤「どうしても電話ができない」場合:医師やカウンセラーへ相談!
鈴木先生:これは恐怖の度合いが強くて、生活や仕事に大きく支障が出てきているため、「恐怖症」といっていいものでしょう。専門家に相談するべきケースですね。
「したくない」「するのに時間がかかる」ではなく、恐怖が強すぎて「かける/出ることができない」という状態まできているのであれば、単なる苦手意識を越えているように思います。後者のような、恐怖が強すぎるゆえの回避行動は、病名がつくレベルである可能性が高いです。
電話の着信音を聞いただけで体が固まってしまったり、電話がかかってくることを想像するだけで強い不安や恐怖を感じる場合は、心身に負担がかかりすぎているおそれがあります。自分一人で解決しようとするのではなく、専門家の適切なサポートを受けてください。
「自分でなんとかしなければならない」と思わず、専門家へ。電話恐怖症は、曝露療法などの認知的なアプローチや、トラウマ治療に特化した心理療法など、プロによる専門技術が、克服の手助けとなりやすい問題です。実際、「治ると思わなかった」「もっと早く来ればよかった」と患者さんに言ってもらうことも多いです。新しい心理的な治療方法もどんどん進化しており、いま電話恐怖症は治る可能性が非常に高い疾患だと考えています。専門的な心理療法のスキルを持つ、医師やカウンセラーを探してみてください。
ストレスや緊張をやわらげる「深い呼吸」とは? 自律神経も整う1日3分のメソッドを専門家に聞いてみた!
文京学院大学教授
文京学院大学にて、保健医療技術学部、保健医療科学研究科の教授を務める。理学療法学科 理学療法士、医学博士。胸郭の運動分析、姿勢と胸郭周囲筋活動の関係、呼吸運動療法(呼吸困難感をやわらげ、個人に見合った日常生活動作を再建するための運動療法)の開発を行う。呼吸と姿勢のバランスを整える「ブリージングケア東京」を立ち上げ、コンディショニングや講習会を行っている。
「呼吸」の仕組みとは? 体や心とどう関係がある?
ろっ骨と横隔膜の位置関係
柿崎先生 自律神経と呼吸には深い関係があります。一般に息を吸うことは交感神経、息を吐くことは副交感神経との関係が深いとされており、緊張すると交感神経が優位になり、息を吸う回数だけが増えてしまいがち。そのため、人前に出る場面など緊張する際には『大きく息を吐いてリラックスして』と言われることが多いのです。
また手で触ってみるとわかりますが、ろっ骨はカゴのような形になっていますよね。その中に肺が納まっている状態で、ろっ骨の下にある筋肉=横隔膜や肋間筋などがカゴを動かす役割を担っています。なので、息を吸ったときには横隔膜が下がることでろっ骨のカゴの中にスペースが生まれ、肺にたくさんの空気を入れることができるのです。
ですが、特にろっ骨に歪みがあると、横隔膜や肋間筋のように呼吸の際に必要な筋肉を正しく動かせなくなり、呼吸が浅くなってしまうのです。
・吸う息は交感神経と、吐く息は副交感神経と関係が深い
・緊張している場面では、呼吸が浅くなりやすい
・骨格に歪みがある場合も、筋肉が動かしにくくなり呼吸が浅くなりやすい
呼吸が浅くなることで起こる、意外な問題
柿崎先生 交感神経が優位になると息を吸う回数が増える、つまり呼吸が浅いときは自律神経が乱れている状態といえます。そのため疲れやすくなったり、動悸や息切れ、睡眠障害、便秘や下痢など、自律神経の乱れによる症状につながります。
また、呼吸筋は歩行するための筋肉にも深い関わりがあるため、呼吸筋のバランスが崩れると歩きづらくなってしまう可能性が。歩くための筋肉が正常に働かないと、ほかの筋肉や動きで補おうと体全体が疲れてしまい、呼吸が乱れて浅くなる…という悪循環に陥ることもあります。
・呼吸が浅くなると自律神経が乱れ、睡眠障害や便秘などを引き起こす
・息を吸うための筋肉を過剰に使うと、歩行がしにくくなる
・歩行の際にうまく筋肉を使えないと、体全体が疲れやすくなる
柿崎先生 深い呼吸は、横隔膜が正しく機能し、胸郭が呼吸に応じて動くことで起こります。感覚的には、息を吸った際に胸やろっ骨がふわ〜っと空気で満たされて広がった感覚が得られたら、それが深い呼吸です。息を吸い込むとお腹が膨らむ「腹式呼吸」は正しい呼吸法だと思われがちですが、実はそれは深い呼吸とは言えません。
呼吸を深め、骨格を調整するトレーニング
今回は柿崎先生に、自宅で簡単にできる、深い呼吸を身につける方法を教えてもらいました。
STEP1 仰向けに寝転び、椅子などに足をのせて膝を90度に曲げた状態にする
STEP2 10cmほど腰を上げる。おしりの下にタオルなどを敷いてもOK
STEP3 3分ほど、息を長く吐くことに集中しながら呼吸する
※STEP1〜3を1日1回行う
柿崎先生 おしりの位置が高くなることによって、内臓が上にあがり横隔膜に圧が加わります。すると横隔膜は「腹横筋・背筋・骨盤底筋が正しく働いている」と錯覚し、正しく動けるようになるんだそう。これを1日1回繰り返すことで、通常の体勢でも、体が自動的に横隔膜を正しく動かすことができるようになり、また日々の生活で歪んだろっ骨の位置も正常に戻っていきます。
息を吐く筋肉を鍛える呼吸筋トレーニング
「深い呼吸」を習得する方法以外に、息を吐く筋肉・息を吸う筋肉を鍛えるトレーニングも教えていただきました。デスクでもすぐできる簡単なものなので、隙間時間に取り入れてみてください。
STEP1 片手を頭の後ろに持っていき、ひじを上にあげる
STEP2 ひじをあげていない側に、息を吐きながら上体を倒す。体重はひじを上げている側の坐骨にかけるように意識
STEP3 息を吸いながらひじを下ろす
※STEP1〜3を左右5回ずつ行う
息を吸う筋肉を鍛える呼吸筋トレーニング
STEP1 両手を胸の前で組む
STEP2 息を吸いながら背中を丸めて組んだ手を前に伸ばす
※STEP1〜2を5回ずつ繰り返し行う
深い呼吸を取り入れるメリット
柿崎先生 当たり前のようですが、呼吸が浅くなることによるデメリットは、呼吸が深くなると解消されます。自律神経が整って睡眠の質が向上したり、血行がよくなって冷えや便秘が解消されたりといいことずくめです。
お手元にメジャーがあれば、みぞおちのあたりにメジャーを巻いて、息を吸った状態でどのくらい膨らむかを見てみてください。5cm膨らませられていたら成功です。逆に3〜4cm程度しか変わっていなかったら、かなり呼吸が浅くなっているサインです。
・自律神経が整う
・体が動かしやすくなる
・血行がよくなる
・便秘や下痢の解消 etc...
【ハナコ・秋山寛貴さん】「人前が大の苦手」それでも舞台に立つことを続けられた理由〈インタビュー前編〉
お笑い芸人
1991年岡山県生まれ。ワタナベエンターテインメント所属。2014年、同じくワタナベコメディスクールの12期生だった岡部大、菊田竜大とともにお笑いトリオ・ハナコを結成。「キングオブコント2018」優勝。「ワタナベお笑いNo.1決定戦 2018/2019」2年連続優勝。数多くのネタ番組や情報番組に出演するほか、文化放送の「レコメン!」の火曜パーソナリティーを努めるなど、活動の幅を広げている。
子どもの頃から人前が大の苦手。「学芸会の主役」なんてありえなかった
──先日、エッセイ集『人前に立つのは苦手だけど』を上梓された秋山さんですが、タイトルのとおり、子どもの頃から人前が大の苦手だったそうですね。
秋山さん 本当に小さい頃から苦手でしたね。例えば小学校で、日直になると朝の会とか帰りの会の司会をさせられたりするじゃないですか。ああいうのも嫌で嫌でしょうがなかったです。それから、お盆とかお正月に親戚たちが集まって会話をしている場で「ヒロくんはどう?」と話を振られたりしても、全然喋れないんですよ。自分に注目が集まっていることに緊張してしまって。そのくらいずっと人見知りだった記憶があります。
──芸人さんを目指すような方は子どもの頃から目立ちたがりなんだろうなと勝手ながら思っていたので、ちょっと意外でした。
秋山さん 僕は心を許しきっている人の前でだけはしゃぐみたいなタイプでしたね。絵を描くのはずっと好きだったので、描くたびに親に見せて、褒めてもらおうとしてましたし。でも、例えば学芸会で自分が主役を演じたいみたいなことはまったく思わないタイプでした。初対面の大勢の人の前で演技をするなんて絶対に無理だなと。そういうのはもう、クラスの真ん中にいるいつものにぎやかなチームでやってください、と思ってましたね(笑)。
「M-1甲子園」でついた“恥ずかしさへの免疫”
──そんな秋山さんですが、学生向けのお笑いコンクール「M-1甲子園」に、高校生のときに3回出場されています。お笑いの道に進むきっかけになったコンクールだと思いますが、何故出場しようと思ったのでしょう?
秋山さん 当時からお笑いは大好きだったので、同じくお笑い好きだった同級生が誘ってくれたのをきっかけに、じゃあネタを書いてみようかなと軽い気持ちで応募したんです。ただ、いざ本番前になったら信じられないくらい緊張しちゃって……。人前でネタをしなきゃいけないなんて何かのまちがいだろって思いましたし、後悔しかなかったです。
で、どうにか勇気を振り絞って漫才をしてみたら、面白くないどころか「声が全然聞こえなかった」って客席で見ていた家族に言われて。大失敗でしたね。
でも、数カ月後だったか半年後だったか、それからしばらくたって初舞台のことを思い出したときに、「もう一度出てみたら、客席に声を聞かせるくらいはできるんじゃないか」と思ったんです。思いっきりスベってたらもっと心が折れてたかもしれないけど、そういう折れ方さえ経験できなかったのが悔しいなと思って。恥を一度さらしたことで免疫がついたというか……。
──失敗したからこそ、恥ずかしさに対する免疫がついたと。
秋山さん そうだと思います。それで1年後、「M-1甲子園」に2回目に出場したときは客席に声を届けることだけを意識したんですが、そのせいで僕も当時の相方も不自然な動きになっちゃって。ただ、声は聞こえたよと家族に言われたので、それだけでも自分からしたら大きな進歩だったんですよね。チェックリストにひとつチェックがついた感覚があった。そこで舞台に立つ面白さを感じられたのが、お笑いの道に進もうと思えたひとつのきっかけだったんだろうなと、いま振り返ると思います。
失敗のパターンを経験し尽くしたおかげで、緊張しづらくなってきた
──芸歴13年目を迎えられた秋山さんですが、お仕事でいまだに緊張されることはありますか?
秋山さん 大勢の人が苦手だったり人見知りだったりする根本の性格は変わらないです。ただ、テンパることは減りましたね。人前が苦手な自分の性格を受け入れられるようになってきて、「こういう場面は僕は苦手なので、得意な方どうぞ」みたいなことを思えるようになってからは、そこまで焦らなくなりました。
例えば、コントをつくって演出したり細かいことを考えたりするのは、僕は苦じゃないし楽しいんですよ。一方で苦手なのはMC。ときどきMCを任せてもらうことがあって、うわー下手だなと自分でも思いながらやるんですけど、出番が終わったあとはもっと貢献したかったなと反省しつつ、「
──得意不得意は誰にでもありますよね。ひと言で「人前」と言っても、人によって苦手な人前とそうではない人前もありそうですし。
秋山さん そうですよね。僕の場合、コントは10年以上続けてきたおかげで、役に入ってしまえばほとんど緊張しなくなりました。たぶん、経験していない失敗のパターンが少なくなってきたからなんでしょうね。自分がどんな瞬間に「やばっ!」と焦るかもわかっているので、焦ったとしても「あ、このパターンか」と思えるようになってきた。苦手な場面を経験し尽くしたおかげで緊張しづらくなってきたというのはひとつあると思います。
でも逆に、経験値の低い人前はいまだにめちゃくちゃ怖いです。つい最近は、単独ライブの東京公演が終わって制作チームの20名くらいで打ち上げをしたんですが、その飲み会のシメの挨拶を頼まれて、本当に嫌でしたね(笑)。ライブの打ち上げの挨拶とかパーティーでのスピーチとかって、たまにしか機会がないから経験値が低いんですよね。でも、そういう場が苦手な芸人って意外とたくさんいると思います。
──周りの芸人さんと接していても、人見知りだったり人前が苦手だったりする方は意外と多いんでしょうか?
秋山さん そう思いますよ。うちの相方でいうと、菊田は根っから明るいんですが、岡部はけっこう僕寄りで、シメの挨拶みたいな場では露骨に緊張していることが多いですね(笑)。岡部はトーク番組でも緊張してあたふたしがちなんですが、芸風としてそれが笑いにつながるタイプなのでいいなと。
芸人を見ていて思うのは、人前が好きな人ってやっぱり余裕がありますよね。たとえ緊張していたとしても、それを見ていてこちらが不安にならないというか、どっしりしている。僕は焦っていると「大丈夫……?」と周りから心配されてしまうタイプなので、焦りも緊張も笑いにつなげられるタイプの人は羨ましいなと思います。
どうしても避けられない人前は、まずは“テンプレ”から
──芸人さんに限らず、社会人として仕事をする上では、「人前に出ること」をできるだけ好きになったほうがいいと秋山さんは思いますか?
秋山さん 好きになれるならなったほうがいいと思いますけど、根本の性格を変えるのってしんどいですよね。僕はそれを無理に変えようとするくらいなら、自分にとって苦じゃないことを探して、そっちを頑張ればいいと思うタイプです。
ただ、どうしてもやらなきゃいけないときもあるじゃないですか。会社員の人であればプレゼンとか会議の進行ですかね、そういう機会から逃げられないことも時々あるから……。例えば僕の場合は、自分が仕切らないといけないときは、一旦“テンプレ”でいいかなと割り切ってやってましたね。
──テンプレでいい、というと?
秋山さん 得意な先輩方の映像を見返して、まずは割り切ってこれを真似ようと。進行中って、予想外のタイミングで言葉に詰まったりするんですよ。「あれ、こういう場面ってなんて言って締めるんだっけ?」って急にわからなくなったり。そういう焦りを何度か経験したので、まずは真似からでいいやと思って、仕切りが上手な人がクッションとしてよく言っているフレーズをまるまる使わせてもらったりしてましたね。
──なるほど。最初は秋山さんのように、「上手な人の振る舞い方をそのまま真似よう」と心がけるだけでも少し緊張しづらくなるかもしれませんね。
秋山さん そうですね。まずはある程度の量をインプットすると自分の手札も増えてくるので、それだけでちょっと安心できる気もしますし。苦手だけどどうしても人前に出なきゃいけない、という機会があるときは試してみてもいいやり方じゃないかなと思います。
【ハナコ・秋山寛貴さん】人前が苦手な読者からのお悩みに回答!「めちゃくちゃわかる」からの対処法は?〈インタビュー後編〉
スピーチやプレゼンが苦手。大勢の前に立つときの緊張への対処法は?
【お悩みその1】パーティでのスピーチや職場でのプレゼンなど、たくさんの人から注目を浴びる場面があると緊張して動悸がしたり、顔が赤くなったりしてしまいます。頭が真っ白になってしまい、自分でも何を言っているかわからない状態で出番を終えることが多いので、大勢の前に立つときの緊張への対処法を知りたいです。
秋山さん パーティとか僕もめちゃくちゃ苦手なので、気持ちはよくわかります。実行しにくさレベルで言ったらマックスですけど、「とにかくたくさんパーティに出てみて、顔を真っ赤にすることに慣れる」(笑)っていうのは解決策としてひとつあると思うんです。緊張しているときの自分に慣れる。
人前に立って緊張してるときって、自分がどの要素に対して緊張してるかわからないじゃないですか。スピーチの場合、進行台本があることにも緊張するだろうし大勢の人が見ていることにも緊張するだろうし、自分を緊張させる要素が複数あると思うんです。だから緊張の原因を細分化していって、「これは知ってる段取りだ」って思えたら、ちょっとだけ緊張が減るんじゃないかなと思います。
僕も仕事でMCやラジオのパーソナリティーをするようになって、もともとは苦手だった台本読みや進行が少しだけ板についてきた感覚があるので、たぶんいまパーティとかで急に進行台本を渡されてもそこまで緊張しないと思うんです。やることがなんとなくわかっているから。
それから、スピーチやプレゼンの場合は、自分が喋っている映像を事前に録画してみるのも手かもしれないですね。僕もネタの録画はよく見返すんですが、自分の姿を見慣れておくだけでも緊張が多少和らぐと思います。映像に撮ってみたら自分の想像とは違う動きをしていることってよくあるので、思ってるより早口だなとか俯きがちだなとか、気づくことも出てくると思うんですよ。
客席からの見え方の印象が変わるだけで、緊張やプレッシャーの一因になっているであろう場の空気も少しよくなると思うので、録画は一度試してみてほしいですね。
人前で自分が主役になることに耐えられない。お祝いの場をどう乗り切ればいい?
【お悩みその2】結婚式や誕生日会、職場の昇進祝いなど、自分が主役になる場がとても苦手です。人に祝われる場面が苦手な人は、そういったシーンをどう乗り切ればいいのでしょうか?
秋山さん めっちゃわかるな……。人前は苦手だけど、一方でみんなが喜ぶ主役をちゃんと演じなきゃって思っちゃうんでしょうね。これは僕も解決していないというか、この方とまったく同じ地点に僕もいるかもしれないです(笑)。誕生日会とはいかないまでも、レギュラー番組のスタッフさんが誕生日にケーキを用意してくれたりすることがあるんですけど、可愛げのある喜び方ができないというか……。変に取り繕ってしまいがちですね、僕も。
でも、それを思い切って口にしてしまうというのはひとつのテクニックかもしれませんね。「リアクションが薄くてごめんなさい、でも嬉しいんです」とか、「いま自分でも何言ってるのかわからないです、頭真っ白になりました」とか、そういうことは吐露してしまったほうが場の空気がよくなる可能性が高い。緊張しているのがバレないようにちゃんとやらなきゃ、という真面目さで苦しくなることが多いと思うので、いっそ全部言ってしまうのはアリだと思います。
人前での失敗を後悔して眠れなくなってしまう……。対処法はある?
【お悩みその3】内向的なので、たくさんの人が集まる飲み会や職場のプレゼンなどがあった日の夜は、「自分はトンチンカンなことを言わなかっただろうか」「相手を不快にさせなかっただろうか」と不安と後悔で眠れなくなってしまいます。人前での失敗をあとから何度も思い返して悩んでしまう人はどうすればいいと思いますか。
秋山さん いや、これも本当によくわかるな……僕と同じタイプの人がこれほどたくさんいることにホッとしてます、いま(笑)。僕もそうですけど、失敗を思い返しちゃう性格自体はたぶん直そうとしても簡単には直せないと思うんです。
だから僕の場合は、人の集まる場にいた相手にもう一度会ったタイミングで、ひと言弁解するようにしてますね。ほとんどの場合、向こうは何も気にしてないんでしょうけど、自分が安心するために口に出します。「僕の最初の挨拶、たぶんオドオドしてましたよね?」とか、「この前僕、緊張で変なこと言ってませんでした?」とか。相手はおそらく「全然そんなことないよ、心配しすぎだよ」って言ってくれると思うんですけど、わざわざそれを伝えることでマイナスの印象になるケースは少ないと思うんです。たぶん、「あの時失敗しちゃったな……」という自分の気持ちの行き場がないのが一番ストレスになると思うので、その場にいた相手にもう一度会える場合は、口に出しちゃってもいいと思います。
会議や勉強会で司会をする機会が増えてきた。場の仕切り方のコツを知りたい!
【お悩みその4】管理職に就き、会議や勉強会などを仕切る場面が増えてきました。司会として、発言のタイミングや人の話をまとめるタイミングにいまだに悩んでしまいます。秋山さんは芸人さんとしてMCをしたり大勢の中で発言したりすることも多いと思いますが、話し出すタイミングや場の仕切り方などをどう意識していますか?
秋山さん 仕切り方って難しいですよね。大勢の芸人が出演しているライブで進行役をするときとか、僕もいまだに悩みます。いろんな芸人が喋り始めちゃって場がとっ散らかってしまったとき、自分なりに気の利いたことを言ってオチをつけようとしてるのに、周りに声量で負けてどうにもならないなんてことはこれまでにも何度もありました。進行がうまい人は、そこでひと言何か言うだけで場を仕切れるんですよ。でも、まず簡単には真似できないですよね。
そういう時、僕は2回くらい何か言ってみても場が収まらなかったら、すべてが終わるのをただただ待ちますね(笑)。あと、表情を曇らせて大きく両手を振る。それでちょっと笑ってくれるお客さんもいるし、芸人の誰かが気づいて「おい、秋山が悲しい顔してるぞ!」って流れを戻してくれることもあるので。だから悲しい顔をして周囲を心配させると、周りは笑ってくれるかもしれないですね。……これに関しては芸人しかできないやり方かもしれないですけど(笑)。