経血量(生理の出血量)が多くて、「昼間でも夜用ナプキンを使っている」「夜用でも漏れてしまって困る」という声が、読者の女性たちからたくさん寄せられています。経血量がどのくらい多いと病気なのかも心配です。月経のときの経血量が通常より多い場合を「過多月経」といいます。過多月経かどうかの見分け方、過多月経の背後には、どんな病気が隠れているのかを、産婦人科医の中込彰子先生に取材しました。3回にわたっての連載をまとめてご紹介します。

中込彰子(なかごみ あきこ)先生

山梨大学医学部 産婦人科医

中込彰子(なかごみ あきこ)先生

愛媛生まれ、広島育ち。日本産科婦人科学会専門医。NPO法人女性医療ネットワーク理事。琉球大学医学部医学科卒業後、地域に根ざした女性総合診療医を目指し、市立大村市民病院(長崎)で研修。日々の診療のなかで、目指す医師像は「家庭医」ではないかと考え、Oregon Health & Science Universityに短期留学。そこでの経験を経て、総合診療医から産婦人科医への転科を決意。2014年より、東京で産婦人科医として7年間勤務後、現職。『内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』『Rp.+(レシピプラス)ホルモンとくすり』共同執筆。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

中込彰子先生のイラストによる、連載第15回の扉

生理の出血量、どのくらいだと異常なの?

増田:2021年2月に1万人以上が回答してくださった集英社女性誌の読者アンケートでは、「経血漏れが心配で熟睡できない」「洋服が染みになっていないか、気になって外出がおっくうになる」「ナプキンを頻繁に変えないと漏れるので、トイレに行くタイミングが気になって仕事に集中できない」などなど、経血量の多さに困っている女性たちの声が多くて驚きました。経血量は、どのくらいの量だと異常なんでしょうか?

中込先生正常な経血量の目安は、1回の月経周期での総経血量が20~140mlといわれています。経血量が多い「過多月経」は、1回の月経周期で140ml以上出血する場合とされています。でも、自分で経血量を毎回測る方はいないですよね。経血量を測らずに、過多月経かどうか、自覚症状からチェックできるポイントがありますのでご紹介しますね。

過多月経のセルフチェックポイント3つ

中込先生:これらにひとつでも当てはまったら、過多月経といえます。経血量が多くて気になると思ったら、ぜひ婦人科にご相談ください。過多月経の背後には原因となる病気が隠れている場合があります。そして、その病気によっては、今後の妊娠などにもかかわってくる可能性もあるんです。ちなみに、私の過多月経にも、背後に原因となる病気があったんですよ。

過多月経の原因にはどんな病気があるの?

増田:過多月経の原因となる病気は、子宮内膜症と子宮腺筋症が多いのですか?

中込先生:過多月経には、さまざまな原因があります。婦人科系の病気としては、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなどが考えられますし、そのほかでは、血を固める作用のある血小板が少なくなる病気が隠れていて出血が止まりにくい場合もあります。10代20代の若い方ですと、ホルモン分泌がまだ確立していないことによって起こる「無排卵性機能性出血」が原因の場合が多いですね。

もちろん、頻度は少ないですが、若くても子宮頸がんや子宮体がんなど悪性の病気が隠れていることもありますから注意が必要です。過多月経で、性交渉歴のある方、肥満と診断されたことがある方は、一度は婦人科を受診いただいて相談されることをおすすめします。それから、特に注意してほしいのは、過多月経の人は気づかないうちに貧血になっている場合があることです。

婦人科を受診すべき「目安」は?

増田:過多月経のために貧血になっているのに、気づかずそのままにしているケースが多いんですね。10代20代の人は婦人科に行くのはなかなかハードルが高いと思うのですが、どのくらいの過多月経なら受診したほうがいいのでしょうか?

中込先生経血量にかかわらず、「月経のことが気になる、生理のために生活に支障がある」というときや、「私の月経は正常かな? 異常かな?」と不安になったら、ぜひ一度、婦人科を受診していただきたいです。先ほども言いましたとおり、過多月経はホルモンバランスの変化だけでなく、治療が必要な病気が原因になっていることがあります。でも何が原因なのかは、受診いただいて診察や検査をしてみないとわからないんです。

性交渉前の方にとっては内診台は抵抗があると思いますので、診察室のベッド上で膝を立てていただき、そこにタオルをかけ、診察することもできます。また、腟からのエコー(超音波)が難しいときは、お尻からのエコーやお腹の上からのエコーで検査することも可能です。

今は患者さんが医師を選ぶ時代です。よくわからない、納得できないと思うことは、素直に担当医師に伝えてみてください。もし、どうしても先生と合わないなぁと感じたら、別の先生を探してみましょう。皆さんが安心して通い、信頼して相談できる先生が必ずいるはずですよ。

「過多月経でナプキン代の負担が大変」の声が…

中込彰子先生

山梨大学医学部の産婦人科で診療にあたる中込彰子先生。やわらかな笑顔が印象的です!

増田:10代20代の読者の方々から、過多月経に関してはこんな生理用品の悩みも寄せられています。

「ナプキンを2重に使うので、費用が大変」
「夜用にショーツ型のナプキンが必要で、お金がかかる」
「運動をするので、量の多い数日はタンポンを使用しますが、量が多すぎて8時間もつとされているものも1時間でキャパオーバー。生理用品の消費が早く、毎月の出費も大変」
「いいナプキンを使いたいが、価格が高く、安いものを買ってしまう」
「過多月経のせいか、ナプキンを使うと、肌のかゆみ、かぶれが気になります」

経血量が多いと、ナプキン代もかかりますよね。過多月経を治療すれば生理用品の費用の負担も減ると思いますが、どうでしょうか?

中込先生:はい、過多月経は治療できます。
過多月経には、原因になる子宮由来の病気がある場合と、体内のホルモンや血液の状態が原因となっている場合があります。原因となる子宮の病気は、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症、子宮内膜ポリープなど。これらの病気がある場合は、その治療を行うことで経血量も減ってきます。

10代20代の方の場合、多いのはホルモンバランスの不安定さや無排卵周期、子宮内膜症や子宮腺筋症によるものですので、これらは低用量ピルで治療することができます。私の過多月経も、低用量ピルで改善していきました。低用量ピルを服用すると、月経の痛みは軽くなっていきますし、経血量もかなり減ります。早めに治療しておくことで、子宮や卵巣など妊娠にかかわる環境を整えることになるので、将来の不妊の原因予防にもなりますよ。

■低用量ピルの詳しい情報についてはこちらもご参照ください。
増田美加のドクタートーク Vol.4 

過多月経は治療できます

ナプキン代より低用量ピルのほうが安い!?

中込先生:今回、ナプキン代について、わかる範囲で調べてみたんです。正確な数字ではないですが、昼用1枚が10~40円くらい、夜用1枚は25~130円くらいでした。オーガニックコットンなどのナプキンだと1枚400円というものもあってビックリ。

月経期間中、過多月経の方が2~4日目は夜用ナプキンを2時間おきに交換するとして1日12枚。プラス、夜はショーツ型をベースに使うとしたらいくらになる? と計算したら、夜用ナプキンを1枚30円、ショーツ型ナプキンを1枚100円とすると、1日460円。ほかの日は夜用と昼用で5枚くらいとしても、7日間で2000円くらいになりますね。それにタンポンを併用したら、3000円以上になります。低用量ピルは、1カ月2000円くらい。経血量も減るので、おりものシート数枚で済み、月経量がとても多くお困りの方にとっては、費用面でもお得です。


増田低用量ピルを使うと、ナプキンの費用も抑えられるんですね。ナプキンかぶれ防止や、下着が汚れない、洋服への漏れを気にしなくてよいなど、経血量が減るメリットはたくさんあります。低用量ピルは、例えば小学生でも服用して大丈夫なのでしょうか?

中込先生初経後であれば、小学生でも問題ありません。10代で飲ませると成長が止まるのでは、と心配する親御さんが多くいらっしゃいますが、月経開始後であれば大丈夫です。確かに、月経開始前にピルを内服してしまうと、そこに含まれている女性ホルモンであるエストロゲンの作用で骨の成長が早めに止まり低身長になることが指摘されていますが、月経開始後であれば最終的な身長に差は出ないことが示されています。ですので、月経でお困りの際には、ピルを上手に使ってつらい日々から抜け出しましょう。

低用量ピルを服用すると生理用品の費用も抑えられる

子宮に病気がある場合の治療法は?

増田:子宮に病気がある場合(子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ)の過多月経は、どんな治療になりますか?

中込先生:病気の部分の大きさや症状の程度にもよりますが、いずれの病気の場合も、低用量ピルや黄体ホルモン製剤などのホルモン剤でまず治療することが多いです。大きな子宮筋腫やポリープは手術することもありますが、サイズがまだ小さいうちから原因になることは少ないのです。つまり、過多月経の症状が出てから早めに治療開始できれば、結果、手術を回避できる可能性があります。


また、出産経験のある方なら、「ミレーナ」(レボノルゲストレル放出子宮内システム)という人工の黄体ホルモンを持続的に放出する柔らかい器具を子宮内に入れておく治療もあります。

黄体ホルモンには子宮の内膜が厚くなるのを抑える作用があります。この効果により内膜が薄くなれば、経血量は減り、過多月経になることはありません。もともとは避妊具として承認されましたが、最近では過多月経や月経痛がつらい方の治療として使用される機会が多くなってきました。5年間は入れたままで大丈夫ですし、過多月経の治療であれば保険も効くので、費用面でもかなり抑えられますよね。出産経験がない方の場合、挿入時に痛みを感じるケースが多いようですが、使用できないわけではありませんので、婦人科にご相談ください。妊娠したくなったときには、取り出してしまえばOKです。

増田:いろいろな治療法がありますね。過多月経は治療できるということを、多くの女性に知ってほしいです!

中込先生と増田さん

経血量が多いと、貧血になるリスクが高い!?

増田経血量が多い「過多月経」の人は、貧血の可能性が高いといわれています。読者の皆さんからも、「経血量が多いときは具合が悪い」「クラクラする」「すぐ疲れる」などの声がありました。このような症状があれば、貧血を疑ったほうがいいでしょうか?

中込先生:はい、過多月経があって次のような症状があれば、貧血の可能性があります。

貧血チェックリスト

貧血を治療しなければいけない理由とは

増田:過多月経は、貧血になるリスクが高いのですね。過多月経ではないのに健診で貧血と言われることもありますか?

中込先生:そうですね、経血量は多くない、普通だと自分では思っていても、実は多いという人もいます。また、貧血が少しずつ進んでいった場合、貧血の症状に気づきにくくなります。

女性の貧血は、過多月経によるものが約6割、胃潰瘍など消化器からの出血による貧血が約2割といわれています。腎臓の病気でも貧血になることがあります。ですから、経血量が多くない人が貧血の場合は、消化器系や腎臓、血液の病気などで貧血となっている可能性があります。

増田:貧血があっても症状がそれほどつらくないと、治療していない人もいますね。

中込先生貧血は、放置せずにぜひ原因を突きとめ治療をしていただきたいです。というのも、貧血を放置しておくと、さまざまな恐ろしい状態が引き起こされる可能性があるからです。

そもそも貧血とは、血液が酸素を運ぶ能力の低下、つまり「低酸素状態」を表しています。そうなると心臓はより多くの血液を体中に送ろうとして、心拍数が常に増えた状態になるので動悸がしてきます。その状態が長く続くと心臓がオーバーワークになり、さらには脳にも負担をかけ、心筋梗塞や記憶力・認知力の低下など、深刻な状態を引き起こすことになりえるのです。ひとつ間違うと、命の危険もあります。

ちなみに、貧血はヘモグロビンの値で診断され、検査機器によって多少の差はありますが、成人女性で約12g/dL未満、成人男性で約13g/dL未満が基準とされています。

貧血と診断されたら何科に行けばいい?

増田:まずは、過多月経があるなら婦人科を受診してその原因を調べるとともに、貧血がないかどうかを確かめることが大切ですね。

中込先生:はい、ぜひそうしてください。婦人科で過多月経の治療をすれば、貧血があっても徐々に改善されていきます。貧血がひどい場合は、その場で治療を開始することもあります。貧血の治療は、原因にもよりますが、おもに鉄剤です。鉄剤には、錠剤のほか、シロップ剤もあります。気持ちが悪くなって鉄剤を飲めないという人には、注射もあります。

貧血なら婦人科で貧血がないかを確かめて

中込先生過多月経ではないけれど貧血があるという人は、消化器などからの出血を疑って、まず内科を受診し、原因を検査してもらい治療しましょう。貧血の原因はさまざまです。程度にもよりますが、貧血を指摘されたら、一度は必ず病院を受診してしっかり調べていただきたいと思います。

増田:たかが貧血と思うのは大間違いですね。過多月経があれば、我慢せず婦人科を受診して検査してもらうこと。過多月経がなくても、健康診断で貧血を指摘されたら、必ず医療機関を受診して検査してもらい、治療が必要ならしっかり行うこと、覚えておきたいと思います。中込先生、過多月経と貧血のこと、3回にわたってお話しいただきありがとうございました!

取材・文/増田美加 イラスト/itabamoe 撮影/島袋智子 Photo by LightFieldStudios/ iStock / Getty Images Plus 企画・編集/浅香淳子(yoi)