子宮頸がんの予防ワクチン(HPVワクチン)の定期接種の積極的な勧奨が2021年11月、8年ぶりに再開になりました 。HPVワクチンは、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防します。小学校6年生から高校1年生の女子は、定期接種として3回分無料で接種できます。もちろん、それ以降の年齢の女子や男子にも有効です。

そこで、子宮頸がんとHPVワクチンについて詳しい、産婦人科医の柴田綾子先生に3回連続でお話を伺います。1回目は、子宮頸がんと検診についてのお話です。

柴田綾子先生のイラストによる、連載第12回の扉

子宮頸がんは、なぜ若い世代にかかりやすいの?

増田 がんというと年配の人の病気というイメージを持っている人が多いと思いますが、子宮頸がんは若い女性に多いですよね。子宮頸がんとは、どんながんなのでしょうか?

柴田先生 子宮頸がんは、子宮の入り口の子宮頸部にできるがんです。子宮頸がんの原因は、性交渉によってヒトパピローマウイルス(HPV)に持続的に感染することです。HPVは、決して珍しいウイルスではなく、多くの女性と男性が一生に一度は感染するといわれる、ごくありふれたウイルスです。性交渉の経験がある方の80%は、知らないうちにHPVにかかったり、治ったりしています。

増田 「セックスをたくさんしている人が感染する」とか、「夫だけしか性交渉をしたことがないから感染しない」ということではないのですね?

柴田先生 はい。それは間違いで、過去に一度でも性交渉の経験がある人ならば、誰もが感染するリスクがあります。たとえ一人の人としかセックスをしたことがなくても、その人が過去にほかの人と性交渉をして、感染している可能性はないとはいえないのです。

通常はウイルスに感染しても、異物を排除する免疫機能によって自然に排除されるのですが、約10%の人は排除されずに長期間、感染が続く場合があって、ウイルスに感染した子宮の入り口の細胞ががん化することがあります。なぜ、持続的に感染する人と、自然に排除できる人がいるのかはわかっていません。

増田 なぜ20代、30代に多いのですか? 性交渉の機会が多いからでしょうか?

柴田先生 通常、HPVに感染してから子宮頸がんになるまで、数年から数十年かかるといわれていて、がんが時間をかけてゆっくりと増殖するためです。がんが発見される前段階として、子宮頸部にがん化する可能性がある細胞が増えていきます。これをがんになる前の「異形成」といいます。10代で初めての性交渉を経験してHPVに感染した場合、異形成やがんが見つかり出すのは20代になった頃から。そして30代、40代でかなり増えていきます。妊活世代で、働き盛りの女性たちがかかりやすいのが子宮頸がんなのです。

そして、日本の20代、30代の子宮頸がんは1990年と2015年を比べると約2倍に増えていて、今も増え続けています。

20~30代女性の子宮頸がん発症率グラフ

国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))全国推計値:がん罹患データ(1975~2015年)より作図
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dt/index.html
MSD製薬「子宮頸がん予防情報サイト もっと守ろう.jp」を参考に図表作成
https://www.shikyukeigan-yobo.jp/movie/

子宮頸がんになると、どんな症状がある?

増田 子宮頸がんは、早期のうちはほとんど自覚症状がなく、気づかないうちに進行するといわれていますが、最初に表れる自覚症状にはどんなものがあるのでしょうか?

柴田先生 子宮頸がんは、進行するまで症状が出ないことが多いがんです。2大症状は、不正出血(生理ではないのに出血する)、性行為後の出血(子宮の入り口の細胞がもろくなるので、こすれると出血する)ですが、これらの症状が出たときには、がんが進行していることが多いのです。


ですから、早期発見するには、症状がまったくなくても定期的に検診を受けることがとても大事です。20歳になったら、2年に1回は、症状がなくても検診をぜひ受けてください。

増田 20歳以降でも、セックスを経験していない人は検診を受けなくてもいいのでしょうか? また、10代でセックス経験がある人はどうすればいいでしょうか?

柴田先生 20歳以降で未経験の場合は、医師との相談になります。セックス経験がなければHPVに感染しているリスクはかなり低いですが、子宮頸がんのリスクはゼロではありません。子宮頸がんは、HPV感染以外の原因でなる可能性も決してゼロとはいえないのです。

柴田綾子先生

淀川キリスト教病院 産婦人科で診療にあたり、「体の悩みを気軽に相談できる窓口を目指しています」という柴田先生。今回はリモートで取材にお答えいただきました。

柴田先生 ただ、性交渉の経験がない人は検査の痛みが強く、出血もしやすいので、受診の際に産婦人科医に相談してみてください。検査では、腟をクスコという器具で広げて子宮頸部の細胞を取るのですが、小さいクスコにしたり、ゼリーですべりやすくしたり、といった工夫で痛みをやわらげることもできます。また、話をいろいろ聞いたうえで、そのときは検診を行わずに、1年後にまた来てくださいということもあります。

10代の女性が子宮頸がん検診を受けてはいけないわけではありませんが、HPVに感染してから前がん病変の異形成になるまで数年程度の時間がかかりますので、国のガイドラインでは子宮頸がん検診は20歳からとなっています。もちろん、性行為があり、不正出血や性行為後の出血などの心配なことがあれば、10代でも検査できますので、産婦人科を受診してください。

子宮頸がんは、検診で早期発見ができれば、円錐切除術という、がんのあるところだけを薄く切り取る手術ができます。円錐切除であれば将来、妊娠・出産は可能ですが、早産や流産のリスクが上がってしまいます。ですから、子宮頸がんはぜひ予防したほうがいいのです。

女性の出産年齢と年齢別子宮頸がん発症率

厚生労働省 平成27年人口動態統計月報年計(概数)の概況 母の年齢(5歳階級)・出生順位別にみた出生数の年次推移 より作図
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai15/
国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ)) 全国累計値:がん罹患データ(1975~2015年)より作図
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dt/index.html
MSD製薬「子宮頸がん予防情報サイト もっと守ろう.jp」を参考に図表作成
https://www.shikyukeigan-yobo.jp/movie/

子宮頸がん検診は、痛くないの?

増田 子宮頸がんを予防する方法については、次回詳しく伺いますね。柴田先生、子宮頸がん検診は痛いから怖くて受けたくないという人もいますが、痛くない受け方ってあるのでしょうか?

柴田先生 検査自体は、内診台に乗っていただいて1分くらいで終わります。痛みの感じ方には個人差があり、クスコという診察器具を入れるときや開くときに痛みを感じることがあります。子宮頸がんの検査自体は、子宮の入り口を小さなブラシでそっとこするだけなので、採取自体には痛みはほとんどありません。

緊張して力が入ると痛く感じやすくなりますので、できる限り力を抜いて受けたほうが痛くないと思います。いろいろと話ができて安心できる先生に検査してもらうことも、痛みを感じにくい方法だと思います。1回やってみると、「なぁんだ、簡単だった」と思う方もいると思います。それから、子宮頸がん検診は細胞に月経血が混ざると正確に診断できませんので、生理ではないときに受けてください。

増田 子宮頸がん検診は産婦人科で受けられます。予約するときに、子宮頸がん検診を受けたいと伝えておくとスムーズだと思います。また、自治体で行なっている子宮頸がん検診なら、安価で受けられますよね。受診年齢によっては無料クーポンも出しているので、自治体のホームページを見てみるといいと思います。


次回は、子宮頸がんを予防する方法、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンについて、柴田先生に詳しく伺います。

柴田綾子先生

淀川キリスト教病院 産婦人科医

柴田綾子先生

日本産科婦人科学会産婦人科専門医。日本周産期・新生児医学会周産期専門医(母体・胎児)。名古屋大学情報文化学部を卒業後、群馬大学医学部に編入。沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職。世界遺産15カ国ほどを旅した経験から、母子保健に関心を持ち、産婦人科医に。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)『産婦人科研修ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)ほか。NPO法人女性医療ネットワーク理事。

増田美加

女性医療ジャーナリスト

増田美加

35年にわたり、女性の医療、ヘルスケアを取材。エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』『もう我慢しない! おしもの悩み 40代からの女の選択』ほか

撮影/島袋智子 イラスト/itabamoe 取材・文/増田美加 企画・編集/浅香淳子(yoi)