「いつかは…」と思いつつ、仕事やキャリアを考えると妊娠や出産がまだ現実的ではなかったり、現時点ではパートナーがいない、という人も多い20代後半~30代前後のyoi世代。そこで、実際にSNSで届いた読者の不安やお悩みを、専門家に取材します。今回は「体」にまつわる疑問について、女性ライフクリニック銀座の大山香先生に伺いました。

今月の相談相手は……
大山 香先生先生

産婦人科医

大山 香先生先生

女性ライフクリニック銀座にて産婦人科を担当。女性ヘルスケア専門医でもある。「婦人科は敷居が高いと思われることがあるかもしれませんが、まずはお話しだけでも構いません。気になる症状があれば、いつでもご相談くださいね」

Q. AMH値が低い=妊娠の可能性が低いということ?

AMH値が平均より低く、将来妊娠できるか不安です。AMH値が平均より高い人と低い人がいるのはどうしてなのでしょうか? また、AMH値が低い=妊娠の可能性が低い、ということなのでしょうか? 今からできる対策があれば知りたいです。

A. 卵胞の数を推測するAMH値と妊娠率は相関しません

【AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査とは】
卵巣内の発育過程の卵胞から分泌されるホルモン・AMHの数値から、卵胞の残数(卵子がどの程度残っているか)を推測し、年齢ごとの平均値と比較する検査。卵子の数は生まれつき決まっていて、年齢とともに減っていくが、その個数は体質などによって一人一人違う。

AMH値は、年齢や喫煙のほか、卵巣腫瘍や子宮内膜症などで卵巣の手術をされた方、そして低用量ピルを服用していると数値が低く出る傾向があります。逆に高すぎる場合は、多嚢胞性卵巣症候群の可能性が考えられます。

そして、AMH値が低い=妊娠率が低いと勘違いされる方が多いのですが、そうとは限りません。AMH値は卵子の質を示す数値ではないので、AMH値が低くても、質のいい卵子が排卵されれば自然妊娠できる可能性があります。

卵子の数を増やすことはできないので、今からできるケアとしては卵子の質を落とさない&妊娠しやすい体に整えることが大切だと思います。

【体を整えるためのポイント】
●禁煙する
●体を温める(冷やさない)
●質のいい睡眠をとる
●ストレスケアをする
●栄養バランスのいい食事を心がける

今後は卵子凍結も選択肢のひとつに

お金はかかりますが、卵子凍結(未受精卵凍結)も選択肢のひとつです。東京都では18〜39歳で要件を満たした方を対象に2023年11月から助成金制度がスタートしたので、相談される方の数も増えています。なるべく若いうちに採卵したほうが妊娠率は高くなりますが、何回か通院して注射や採卵を行う必要があることや痛みがあること、凍結した卵子を融解しても妊娠するかわからないこと、毎年凍結保存するお金がかかることなどを踏まえつつ、ご自身にとってのメリットと比較した上で検討するのがいいと思います。 

また、将来妊娠はしたいけれどすぐに難しい人には、ムダな排卵を防ぎ子宮卵巣の病気を予防する低用量ピルを服用するのもひとつの手です。ただ、ピルを服用していても卵子は年齢とともに自然に減少しますし、質を向上させる働きはありません。

Q. 風疹の抗体検査は受けたほうがいい?

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妊活を始める前に、風疹の抗体検査を受けたほうがよいのでしょうか? 一度ワクチンを受けていれば、抗体はあるものなのでしょうか?

A. 少なくとも本人とパートナーは受けておきましょう。自治体の制度を確認して

妊娠中に風疹にかかると、赤ちゃんが白内障や緑内障、先天性心疾患などの「先天性風疹症候群」を持って生まれる可能性があります。確実に風疹にかかったことがあれば生涯免疫がつくといわれますが、罹患の有無が定かではないケースも多い上、接種率が低い世代もあるので、ワクチンを打つのがいちばんいいといわれています。

ワクチン接種による免疫獲得は1回で90〜95%、2回で99%なので、2回打つのが確実です。すでに免疫獲得している人が打っても問題はありません。まずは本人とパートナー、そして同居家族がいる場合は家族も検査して必要であれば接種しておくと安心です。

各自治体では、妊娠を希望する本人や同居家族を対象に、風疹の抗体検査やワクチン接種の無償化や助成を実施しているので、それを活用して受診される方もいます。そういった制度もうまく活用していただけたらと思います。

【特に注意が必要な世代】
●1962年〜1978年度生まれの男性
当時は風疹の定期接種の対象が女性のみで、接種の機会がなかった世代。

●1980年〜1987年度生まれの人 
個別接種が推奨されていたものの、男女共に接種率が低い世代。

●1990年〜1994年度生まれの人 
1歳で1回目、18歳で2回目の接種を推奨されている世代。18歳での接種率が低く、風疹に対する免疫が低下している可能性がある。

Q. 今は避妊しているが、妊活をはじめたい。どんなステップを踏めばいい?

今は避妊をしていますが、妊活を始めようと思っています。その場合、どのようなステップを踏むのがよいのでしょうか?

A. まずはご自身の生理を知るところからはじめましょう。尿で排卵日を予測できるキットもあります

実は診察で「最後の生理はいつでしたか?」と聞いてもわからない人が結構多いんです。もちろん、妊娠を考えた段階で、すぐに婦人科で相談していただいてもいいですが、まずは生理周期と生理痛の有無や強さ、経血量などを記録してみましょう。生理がきていても排卵していなければ妊娠成立しないので、基礎体温を測って記録することも大切です。婦人科を受診する際にそれらの記録を見せることで、状況把握がよりスムーズにできます。

婦人科の一般的なプレママドックとしては、子宮頸がん検査や受精卵が着床する子宮に筋腫や内膜症などがないかを超音波エコーで調べます。その検診時に風疹の抗体検査を受けたり、不妊症の原因となるクラミジアなどの性病検査を受けたりする人もいます。

特に病気やトラブルがなければ、基礎体温が低温期から高温期に切り替わる排卵時期にあわせてセックスのタイミングをとってもらいます。自宅で採尿して使える排卵日予測検査薬などもあるので、それらを活用するのがいいと思います。6カ月〜1年を目安にタイミングをとってみて授からない場合は、不妊治療が必要な場合もあるので、婦人科の受診をおすすめします。

Q. 医療の進歩で妊娠できる年齢や確率は上がっているの?

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最近は高齢出産の方も増えている印象があります。卵子凍結などの選択肢が広がったことで、妊娠できる年齢や確率が上がっているのでしょうか?


 また、凍結した卵子が着床する確率は、年齢によって変わってくるのでしょうか。

A. 生殖医療が発達しても、体にはリミットがあります

女性の社会進出によって晩婚化や高齢出産は確かに増えています。ただ、平均寿命が伸びても卵子の老化が遅れたり妊孕性の低下がゆるやかになったりするわけではありません。卵子の老化を考えると、生物学的に妊孕性が高いのは25歳から30代前半です。

35歳を機に妊娠率はかなり低下してきますし、たとえ技術の進歩により妊娠率が上がったとしても、実際に赤ちゃんが生まれた率(生産率)は年齢とともに下がっていくのも事実です。

日本産科婦人科学会のデータを見ると、生殖補助医療での32歳の生産率は21.8%ですが、39歳では12.4%になり、45歳では1.2%となります。逆に流産率は32歳の17%に対して45歳は59.6%と、年齢とともに上がっていきます。生殖補助医療がどれだけ発達しても、体にはリミットがあるのです。

また、40代はホルモンバランスが乱れてくる時期であり、着床する場所に筋腫などの婦人科疾患があると着床率も下がります。年齢とともに妊娠高血圧症や妊娠糖尿病などのリスクも出てくるので、凍結した卵子を使用して移植する場合も、45歳ぐらいまでを推奨しています。

出典:日本産科婦人科学会「2020年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績」 ART妊娠率・生産率・流産率 2020

Q. アトピー体質が遺伝しないか心配…

アトピー体質の遺伝が心配です。自分がアトピー性皮膚炎の場合、子どもがアトピー性皮膚炎になる確率はどのくらいなのでしょうか?
 もし対処法があれば教えてください。

A. 体質は遺伝しますが、絶対に発症するとは限りません

アトピー性皮膚炎の方の多くは、「アトピー素因」を持っています。アトピー素因とは、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれか、または複数をもつ体質のことで、遺伝するといわれています。

ただし、それだけでアトピー性皮膚炎を発症するわけではありません。埃、ストレス、食事、乾燥などの環境要因が重なり合って起こるので、環境を整えることで発症しない、もしくは軽い症状で済む可能性もあります。

実際に子どもがアトピー性皮膚炎を発症する確率は、両親のどちらかにアレルギー疾患がある場合で37.9%、両方にある場合で50%という報告もあります。

Q. パートナーがED。妊活についてどう話せばいい?

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パートナーがEDで、妊活ができるか心配です。どのような手段があるでしょうか? また、相手にどのように切り出したらよいでしょうか。

A. まずは「妊娠・出産」についてお互いの気持ちをすり合わせてみましょう

結論から言うと、セックスができなくても射精さえできれば精子を採取して、人工授精や体外受精をするという選択肢があります。切り出し方はお二人の関係性によるので難しいところですが、まずは「妊娠・出産」についてお互いの気持ちをすり合わせることから始めてみるのがいいと思います。

ちなみに、EDの治療は、不妊治療の場合に限って2022年4月から保険適用になっています。治療を希望するのであれば、保険適用となる病院の泌尿器科を受診してください。最近はEDの専門クリニックもあるようです。

Q. 妊活中も、抗うつ剤の服用を続けていいの?

現在抗うつ剤を飲んでいるのですが、妊活中や妊娠中に服用を続けても大丈夫でしょうか?

A. 妊活中や妊娠中も使える薬はあります。まずは担当医に相談を

これはよく聞かれる相談のひとつですが、かかりつけの精神科医に妊娠の意思を伝えて相談し、必要があれば薬の種類をできるだけ安全性の高いものに変更してもらえば問題ありません。妊娠初期と妊娠後期にはそれぞれに抗うつ剤の服用によるリスクがあるものの、その時期に服用するとリスクが高まる薬の種類はわかっています。

薬を変える前に妊娠してしまうケースもありますが、過度な心配はしなくて大丈夫です。大切なのは、自己判断で服用をやめないこと。それによってご自身の症状が悪化してしまうケースもあるので、必ず担当医に相談しましょう。そして、婦人科にかかる場合は、処方されている薬の情報をきちんと共有することも大切です。

イラスト/yukorangel 構成・取材・文/国分美由紀 企画/種谷美波(yoi)