2019年から「性教育YouTuber」として活動してきたシオリーヌさん。2021年には自身の妊活について動画で発信を始め、人工授精を経て妊娠、2022年夏頃に第一子を出産しました。その後、同年10月に自身の会社(株)Rineを設立し、代表として会社を経営しながら、なんと2023年からは大学院にも通い始めたそう。
会社の経営、子育て、大学院進学、YouTuber…。一人の人間として自分の人生をどう“デザイン”していくのか、現在のリアルな生活やその中での葛藤、今思うことについて、全6回の連載形式でお届けします。
第2回は、シオリーヌさんの活動の中から“大学院での生活”に焦点を当て、「30歳を超えてなぜ再び学ぼうと思ったのか」「育児や仕事と勉強を並立させるには?」などについて、お話を伺います。
大学院への進学を決めたのは“インフルエンサー”では解決できないことがあると思ったから
——インタビューVol.1では、さまざまな活動を同時並行で行うシオリーヌさんのライフスタイルと、新しく事業を立ち上げた理由などについて伺いました。Vol.2では、大学院についてお話を伺えればと思います。出産、起業を経て、2023年4月からはさらに大学院にも通い始められたそうですね…! 学校ではどのような勉強をしているのでしょうか?
シオリーヌさん:神奈川県立保健福祉大学のヘルスイノベーション研究科で、公衆衛生学について学んでいます。この学校は、助産学生時代に自分が通っていた大学でもあるんです。今の研究科の目的は、ヘルスケア領域においてイノベーションを起こせる人を養成すること。これまでもYouTubeで性教育やSRHR(性と生殖の健康と権利)に関連する発信をしてきたこともあり、ここならやりたいことができそうと思って選びました。
ちなみに日本の大学院は通常2年ですが、私の通っている学校は、働きながら4年かけて卒業することもできます。私もその制度を利用していて、通常よりもゆっくりなペースで授業を履修しています。学生は全員社会人経験者で、私以外にも子育て中の人もいますよ。
——大学を出て約10年たった今、なぜ大学院で学び直したいと思ったのでしょうか?
シオリーヌさん:20代は、一人の“インフルエンサー”という立場で発信してきましたが、それだけでは解決できないことがたくさんあるような気がしたからです。
YouTubeやSNSなど、ネットでの発信を始めてから約10年間、とにかく現場で実践を重ね、自分としてベストだと思う伝え方で発信をしてきました。YouTubeのチャンネル登録者数も徐々にに増えていき、今ではたくさんの人が見てくれていますが、「国の制度を変えたり自治体の取り組みに要望を伝えたり、社会に訴えかけていける人になりたい」と思ったときに、説得力に欠けるというふうにも感じていて。自分で研究したり、論文を書いたりして科学的根拠を持って説明できる能力が必要だと思うようになった。
——なるほど…。シオリーヌさんの場合、大学院に行く準備としてどのようなことをしましたか?
シオリーヌさん:私の場合は、学力テストのようなものはなくて、大学院からレポートの課題と面接試験がありました。授業は主に英語で行われるので、TOEFLを受けるなど、英語の勉強もしました。
大学院のコース選びにはかなり時間を使ったと思います。もし今、社会人からもう一度学び直したい、と考えている方は、自分がなぜ大学院へ行きたいのか、具体的にどんなことをしたいのか、自分のやりたいことができる学校はどこなのか、きちんと向き合って、学科を決めていくことをおすすめします。
緩やかでありながら、自分のキャリアも実現できるという事例になれたら
——過去のインタビューでは、大学院で“人生のロールモデルとなるような教授との出会い”があったとおっしゃっていましたよね。シオリーヌさんにとってこの出会いが大きな意味を持ったのはどうしてでしょうか?
シオリーヌさん:初めて大学院に見学に行った際に対応してくれた女性の教授が、産婦人科医の先生をしながら教授をしている方で、さらにお子さんが6人もいらっしゃるんです! ほかにも妊娠しながら現役で論文を書いている先生もいます。
自分は子どもが一人いるだけで、仕事や勉強と両立できるか心配でしたが、素敵な先生方の姿を見て「子育てをしながら自分のキャリアを積み、思い描いていた人生を実現していくこともできるんだ…!」とすごく励まされました。
そういうことが、「特別な人だからできたこと」「無理して色々なことを犠牲にしないとできないこと」ではなくなったらいいなというのが理想で。だからこそ私自身も、寝る間を惜しんで仕事や勉強をするなどの無茶をしたり、子どもと過ごす時間を最小限にしたりして自分のキャリアを築くようなことはしないようにしたいと思っています。
マックスのパワーは出せなくとも、「緩やかでありながら確実に自分のキャリアも実現できる」ということを見せられる事例になれたらいいなと考えています。
「今までの自分ならやらなかったこと」の小さな積み重ねが大きな一歩になる
——読者の中には「まわりの人たちが家庭やキャリアを積み上げていくなか、やりたいことを今から始めるのは遅すぎるのではないか…」と思う人もいるかもしれません。そのような思いを抱える人に、シオリーヌさんならどのような言葉をかけますか?
シオリーヌさん:やりたいことなのであれば、「できるかどうか」ではなく、「どうしたらできるか」を一度考えてみるのはどうでしょうか。できない理由はたくさん思い浮かんでくるかもしれませんが、逆にどういう条件が揃ったらできるのかを考えて、次の行動を選んでみるのもいいかもしれません。
例えば、いきなり会社を辞めるといった退路を断つような方法はハードルが高いですが、新しい習い事をしてみる、色々な働き方をしている人の話を聞いてみるなど、今までの自分だったらしていないような「ちょっとしたこと」から始めてみる、というのもひとつの手かも。
無理をしない範囲で、まずは「ちょっとした挑戦」を積み重ねる。そのうちに、それが「挑戦するのは楽しい」という感覚に変わり、「興味のあることはやってみたほうが後悔は少ない」に進化していく。そんなふうに、小さな勇気を貯めていくことが、大きな一歩を踏み出すきっかけになるかもしれません。
取材・文/雪代すみれ 構成/種谷美波(yoi)