自分の体について、どのくらい知っていますか? 自分をケアするためには、自分の体をよく知ることが必要です。また、他者とコミュニケーションを取る上でも、自分とは違う体について正しい知識をもっておくことが欠かせません。yoiでは、男性同士でも話題に上る機会が少ないという男性の体や性器にまつわる悩みやギモンを聞き込み調査。プライベートケアクリニック東京・東京院の院長である小堀善友先生にお答えいただきました。 

男性器のギモン22

Q22.精子が作られて射精するまでのメカニズムが知りたい!

22個目のギモンは、【精子が作られて射精するまでのメカニズムが知りたい!】。男性器の基本的な構造や役割はQ1の記事でご紹介しましたが、生殖機能において重要な精子の生成と射精についてもっと詳しく知りたい! 精巣で作られた精子が精管を通って精嚢や前立腺の分泌液と混ざり合って精液となり、射精管から尿道を通って体外への射精に至るまで、男性の体内では何が起こっているのでしょうか?

A22.精子が作られた後、3つのプロセスを経て射精します

まずは脳からの司令で精子が作られる!

小堀先生:まずは精子が作られる工程から説明しましょう。精子は精巣内で自動的に作られるのではなく、脳の視床下部と下垂体から分泌される性ホルモンによって生成を調節されています。視床下部から分泌される“ゴナドトロピン放出ホルモン=性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)”が下垂体を刺激し、“黄体化ホルモン(LH)”と“卵胞刺激ホルモン(FSH)”を分泌するよう司令を出します。このふたつのホルモンが精巣内の「精細管(せいさいかん)」という細い管の中にある複数の細胞を刺激し、精子を作り出すのです。非常に面白いのは、同じホルモンが女性に働くことにより、排卵や生理が起こります。女性は約1カ月のホルモン周期で生理が起きますが、男性には女性のような大きな周期はありません。

黄体化ホルモン(LH)は、「ライディッヒ細胞」を刺激して男性ホルモンであるテストステロンを分泌。卵胞刺激ホルモン(FSH)はテストステロンの分泌とともに、精細管内部の「セルトリ細胞」に存在する、精子のもととなる細胞に栄養を与えて精子形成を促します。また、セルトリ細胞には精子の生成量をコントロールする制御装置のような役割も! “インヒビン”という物質を生成し、FSHの過剰分泌によって精子を作りすぎないように脳の下垂体へシグナルを送るのです。この役割を「ネガティブ・フィードバック」と呼びます。

精細管内のセルトリ細胞における精子形成とは、細胞分裂の繰り返しのこと。精子のもとである「精祖細胞(せいそさいぼう)」から始まって「精母細胞(せいぼさいぼう)」、「精子細胞(せいしさいぼう)」となり、成熟すると頭と尾があるオタマジャクシのような形をした精子となります。その精子は精巣上体で熟成&貯蔵され、精管を通って体外に向かって運搬されるのです。

精子ができる流れ 射精

出典/プライベートケアクリニック東京WEBサイト(https://pcct.jp/repro/

3つのプロセス、どこかに問題があると射精障害に

小堀先生精管を通った精子が精嚢へ送られ、精嚢液や前立腺液と混ざって精液になった後、射精するまでのプロセスは3段階に分かれます。

①Emission(エミッション)…精子、精嚢液、前立腺液が前立腺内に送られる

②膀胱頸部の閉鎖…膀胱側に精液が逆流しないように、膀胱頸部が閉じる

③体外へ…筋肉がリズミカルに動いて精液が尿道側へ押し出され、3〜7回に分けて体外へ出る

この3プロセスのうち、どこかに問題が起きると「射精障害」となります。射精障害には遅漏や早漏、腟内で射精できない、射精する感覚はあるのに精液が出ない…などさまざまなタイプがあり、細かく原因を突き止めれば治療できる可能性が。

例えば、マスターベーションでは射精できるのにセックスでは射精できない場合、思春期からの不適切なマスターベーションが主な原因と考えられます。治療としてはセックス時のピストン運動に近い上下の刺激で射精できるようにリハビリを行ったり、心理的原因を探るためのカウンセリング、時には投薬治療を用いて改善を促します。

射精のプロセス

出典/プライベートケアクリニック東京WEBサイト(https://pcct.jp/repro/

小堀先生:ちなみに、一般的には勃起してから射精するのが一連の流れだと考えられていますが、勃起しないまま射精する人もいることをご存じでしょうか? そもそも勃起と射精は神経的にも解剖学的にもまったく別の現象で、勃起は血流と副交換神経系、射精は脳と交感神経系でそれぞれコントロールしています。そのため、勃起障害と射精障害とでは治療のアプローチも変わるのです。

勃起障害については【Q17:ペニスの勃起力をアップするにはどうすればいいですか?】で解説しているので、併せてチェックしてみてください。

小堀善友(こぼりよしとも)先生

プライベートケアクリニック東京・東京院 院長

小堀善友(こぼりよしとも)先生

日本泌尿器科学会専門医、日本性感染症学会認定医、日本性機能学会専門医、日本性科学会セックスセラピストなど多数の資格を保有。金沢大学医学部を卒業後、獨協医科大学越谷病院(現・ 獨協医科大学埼玉医療センター)の泌尿器科に勤務したのち、アメリカ・イリノイ大学に招請研究員として留学。2021年より、プライベートケアクリニック東京 東京院の院長を務める。主に男性性機能障害、男性不妊症、性感染症を専門にしており、ホームページのブログやSNSではメンズヘルスについての情報発信にも取り組む。著書に『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)、『妊活カップルのためのオトコ学』(メディカルトリビューン)、『泌尿器科医が教える「正しいマスターベーション」』(インプレス)などがある。

取材・文/井上ハナエ 企画・構成/木村美紀(yoi)