自分の体について、どのくらい知っていますか? 自分をケアするためには、自分の体をよく知ることが必要です。また、他者とコミュニケーションを取る上でも、自分とは違う体について正しい知識をもっておくことが欠かせません。yoiでは、男性同士でも話題に上る機会が少ないという男性の体や性器にまつわる悩みやギモンを聞き込み調査。プライベートケアクリニック東京・東京院の院長である小堀善友先生にお答えいただきました。 

男性器のギモン27

Q27.射精後にやってくる「賢者タイム」の正体は?

27個目のギモンは、【射精後にやってくる「賢者タイム」の正体は?】。賢者タイムとは、男性がオルガズムに達して射精した後、性欲が急激に低下する現象のこと。煩悩から解放されて悟りを開いた賢者のように冷静になることが由来とされており、ネットスラングから始まった俗称でありながら一般的に広く使われている言葉です。賢者タイム中は気だるさや疲れを感じやすいため、セックス後にパートナーから「態度が冷たい、愛情が足りない」と指摘された経験のある人が多いのだとか。お互いを思いやる関係性を築くためにも、射精後の体の変化についてのメカニズムを知っておきたいところ!

A27.「プロラクチン」というホルモンが関係しています

賢者タイムは、「性反応」の4段階目

小堀先生:まず人間が性的な刺激を受けた際の心や体の変化は、「性反応」という4段階に分けられ、賢者タイムは4段階目の消退期に該当します。この段階で脳下垂体前葉から分泌される、「プロラクチン」というホルモンが賢者タイムに大きく関係しているのです。性科学者のマスターズとジョンソンは、ヒトの性反応を以下の4段階に分けています。

①興奮期
・心身の性的興奮を受けて心拍数が上昇
・性器が充血し始める
・男性は勃起
・女性は膣分泌液が多く分泌される

②高原期(平坦期)
・心拍数、血圧、呼吸数がさらに上昇
・男性はカウパー腺液が分泌され始める
・女性は膣の奥が広がる

③オルガズム期
・性的興奮がMAXに高まり、約0.8秒間隔で性器が収縮
・男性は射精、全身の火照りや発汗、微小なけいれんを伴うことも
・女性のオルガズムはさまざまなバリエーションがある

④消退期(回復期)
・興奮状態のオルガズム期から平常時に戻る
・心拍数や呼吸が徐々に落ち着く
・膨らんだ性器が元の状態へ

プロラクチンの分泌により、興奮状態から冷静に

小堀先生:「プロラクチン」は乳汁分泌ホルモンと呼ばれ、主に乳腺の発達を促して母乳を作ることで知られています。そのほか、活動意欲や快楽を担っている神経伝達物質「ドーパミン」の働きを抑制する作用があるのです。つまり、ドーパミンの大量分泌によって興奮の絶頂にあるオルガズム期から、射精後はプロラクチンの分泌により冷静さを取り戻す。これが賢者タイムの正体だと考えられています。

また、男性はプロラクチンの分泌量が過剰になる「高プロラクチン血症」の状態になると、性欲低下や勃起不全が引き起こされる可能性が。女性の場合は授乳期間中の妊娠や無月経により起こることがありますが、男性の場合は脳下垂体の良性腫瘍、睡眠薬や向精神薬などの薬の服用などが主な原因となります。まれではありますが、男性不妊の原因にもなり得るため、症状に心当たりがあって子どもを作ることを検討している人は一度検査を受けてみましょう。

賢者タイム 男性

小堀善友(こぼりよしとも)先生

プライベートケアクリニック東京・東京院 院長

小堀善友(こぼりよしとも)先生

日本泌尿器科学会専門医、日本性感染症学会認定医、日本性機能学会専門医、日本性科学会セックスセラピストなど多数の資格を保有。金沢大学医学部を卒業後、獨協医科大学越谷病院(現・ 獨協医科大学埼玉医療センター)の泌尿器科に勤務したのち、アメリカ・イリノイ大学に招請研究員として留学。2021年より、プライベートケアクリニック東京 東京院の院長を務める。主に男性性機能障害、男性不妊症、性感染症を専門にしており、ホームページのブログやSNSではメンズヘルスについての情報発信にも取り組む。著書に『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)、『妊活カップルのためのオトコ学』(メディカルトリビューン)、『泌尿器科医が教える「正しいマスターベーション」』(インプレス)などがある。

取材・文/井上ハナエ 企画・構成/木村美紀(yoi)