3月8日は、女性たちによってもたらされた勇気と決断を称える「国際女性デー」。性教育にまつわる活動を続けるSHELLYさんに、その原動力や目指す未来、ご自身が大切にしていることなどについて伺いました。

SHELLY
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1984年生まれ、神奈川県出身。14歳でモデルとしてデビュー後、タレント、MCとして幅広く活躍。YouTubeチャンネル「SHELLYのお風呂場」やDMMオンラインサロン「SHELLY家族ラボ」などを通じて性教育や家族、コミュニケーションにまつわる発信を積極的に行っている。8歳・6歳・1歳の娘の母。

未来は私たち次第。“世間の常識”を塗り替えていきたい

SHELLY 国際女性デー 性教育 性的同意 メンタルヘルス インタビュー1

──ライフワークとして性教育に取り組まれているSHELLYさんの原動力は、どんな思いや経験から生まれているのでしょうか。

SHELLYさん 自分のまわりにいる女性たちですね。最初は二人の姉と話していて感じた「そうだよね、おかしいよね!」という怒りから始まったけれど、子どもが生まれた今は、自分が子どもの頃から感じてきた社会のストレスを、子どもたちの世代に残したくなくて。

理想は、私が母親から「会社員時代にお茶を汲まされていた」という話を聞いたときの「うぇっ、何それ…」っていう感情を、子どもたちが当たり前に抱いてくれること。その変化の一部になりたい。子どもたちが大人になったとき、「あの頃の社会をそのまま渡したくなかったから、私はすごく頑張ったよ」って自信を持って言えるようになるための戦いだと思っています。

──この社会のままでは渡せない、という思いはとてもよくわかります。

SHELLYさん 未来は私たち次第だから、代々受け継がれている刷り込みや“世間の常識”みたいなものを、次の世代のためにちょっとずつ塗り替えていきたい。とはいえ、それを自分より上の世代と分かち合うのはめちゃくちゃ大変なんですけどね(笑)。

考えが違う人と向き合うときこそ、共感力が大切

──性教育をはじめとする社会的課題に対して少しずつ理解が進む一方で、勇気を持って発信した人がバッシングを受けるという残念な現状もあります。そういう声に対して、SHELLYさんはどう受け止め、距離をとっていらっしゃいますか。

SHELLYさん 家とか車の中とか、一人のときはブチギレてます(笑)。だけど、相手に向き合うときは共感力を大事にしたいので、自分の大切な人に置き換えたり、「この人も、誰かのすごく大事な人」って想像したりします。例えば、「女性は子どもを産むことが幸せだろ」という発言があったとして、世代的にはもしかしたら自分の親も無意識に口にしているかもしれない。だって、それが当たり前とされる社会で育ってきているから。

そういう発言への怒りや拒否反応はあって当然だし、その感情を発散できる場も必要だと思います。でも、その人に対して否定や拒絶で終わらせてしまったら、考え方が重なる人や同じ世代の人は「自分が否定された」って気持ちになるだろうし、その人を大事に思っている家族も傷つきますよね。

性教育を発信している立場としてあえて使わせてもらうと、そこで否定する側は気持ちいいかもしれないけれど、公開マスターベーションをしているだけで、何の解決にもならないんですよ。

──対立が深まるだけで、対話にすらなっていないですよね。

SHELLYさん そう。だから私は、「あなたの世代の方がそう思われるのはわかります。ただ、今はこんなふうに社会が変化してきていて、私はこう思っています」と伝えたいし、できるだけ論理的に伝えられるように、わかりやすいたとえ話や事例のストックを増やすように心がけています。

世代の話でいうと、男性社会の中で戦ってきた女性の先輩たちの中で”名誉おっさん”(名誉男性:男尊女卑的な価値観に染まってしまった女性)になりやすい人がいたのは仕方がないと思うんですよ。男性社会の中でキャリアを築いたり生き抜いたりするには、“男のルール”で戦うしかなかったわけだから。

大事にしているのは、誰も置いていかないこと

SHELLY 国際女性デー 性教育 性的同意 メンタルヘルス インタビュー2

──声をあげたときのプレッシャーも、今以上に厳しかったでしょうね。

SHELLYさん なかったことにされてきた声もたくさんあると思います。大切なのは「男性も含めて誰も得をしないルールはもう変えようよ」という話であって、ここまで戦ってきた人たちを全否定するのは違うと思うんですよね。その人たちが戦ってくれなかったら、私たちは変化のスタートラインにも立てていないはずだから、そこへの敬意は絶対に必要。

私がメディアに出る上でいちばん大事にしているのは、「誰かの代表になること」じゃなくて、「誰も置いていかないこと」なんです。私の言葉で誰かを傷つけたり、「私のことは見えていないんだ」って感じさせたりすることがいちばん不安。それは、私自身が日本で外国人として育ってきて、学校でも少数派にいることが多かったことも影響しているかもしれないけれど、誰かをそういう気持ちにさせたくないっていう思いが強いです。

──誰も置いていかない、線引きをしないというのは根源的で大切な視点ですし、本来はそれが社会の前提であるべきだと思いますが、バランスを間違えると言えなくなってしまうことが増える可能性もはらんでいます。SHELLYさんのお話を聞きながら、それほど強い覚悟で発信やチャレンジをされているのだなと改めて感じました。

SHELLYさん 本当に難しいことなので、ちゃんとできているかどうかわからないけど、チャレンジはしています。私のYouTubeチャンネルのチームは、みんなが「どう伝わっていくか」への想像力があるし、すごくバランスがいいんですよ。私一人だったらきっと早々にズッコケてるし(笑)、それ以前に動けていないと思うので、本当にありがたいです。

離婚を機に始めたカウンセリングから生まれた変化

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──チームだからこその強みですね。未来に向けて発信していく上でも、自分の心と体の健やかさは大切な土台だと思いますが、SHELLYさんは普段どんなケアをされていますか?

SHELLYさん 私はメンタルヘルスのためにカウンセリングを活用しています。友達の長谷川潤ちゃんから離婚をきっかけに勧められたんですけど、「今は船に穴が開いている状態。たまってしまった水を全部出し切ったと思っても、穴が開いている限り水はまたたまるから、『もう大丈夫』と思っても通い続けないとだめ」って言われて。当時は本当にしんどくて心が溺れそうだったし、騙されたと思って続けてみようと。

船に残った傷は完全には治らないし、1時間のカウンセリングで答えが出るわけでもないけれど、ちょっとずつ修復作業を続けながら、「自分はどういう生き方をしたいのか」「どういう母親になりたいのか」「どんなパートナーでいたいのか」を考えていく時間は、すごく大事だなって実感しています。

──その時間ができたことで、どんな変化が生まれましたか?

SHELLYさん (隣にいるマネージャーさんに)めちゃくちゃ変わったよね、私。20代の頃は、「大人としてちゃんとしなきゃ」「色々なことを抱えているのはみんな同じ」って、自分に意識を向けるよりも前に進むことばかり考えていました。でも、カウンセリングを通じてこれまでを振り返ったときに、初めて自分の考え方の癖みたいなものが見えたんです。

自分の核となる価値観や考え方は変わらないけれど、考えや気持ちを整理するうちに「親からの教え」と「自分の考え」、「社会的な刷り込み」と「自分が発信したいこと」というふうに、少しずつ分けて考えられるようになりましたね。

おかげで自分との向き合い方や表現の仕方はすごく変わったと思います。「本当に頑張ってる」って自分を褒めたい。その感覚は離婚前にはなかったし、今も「自分はダメだな」って思うことはあるけれど、「でも、それに気づけただけいいや」と思えるようになりました。

あなたの「NO」には力がある。人生の舵取りをするのは自分だから

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──それはとても大きな変化ですね。お話を伺っていると、“自分”を軸に生きていくことの大切さを強く感じます。SHELLYさんがYouTubeチャンネルでおっしゃっていた「自分で人生の舵取りをしている感覚を持ってほしい」という言葉もとても印象的でした。

SHELLYさん すべての選択はあなた次第だし、あなたの「NO」には力がある。これは本当にみんなに伝えたいこと。嫌なことは「嫌だ」って言っていいんです。性的なことに限らず、仕事でも友達関係でも親に対してでも、あなたには「NO」と言う価値がある。

皆さんからの声を聞いていると、「私なんかが…」と考えしまう人が本当に多いし、私自身、「嫌だ」と言えないこともあります。でも、「NO」が言える関係性って「私はこうしたい」も言いやすいと思うんですよね。例えば、セックスでも「痛い」とか「あ、ちょっとそこ違う」が言えないと、「もっとこうしてほしい」も言いづらいんじゃないかな。コミュニケーションを深めるためにも「NO」を言う練習はすごく大事。

──お互いの心や体を尊重し、「NO」が言える関係性を育む上でも、性教育が大切なカギになりますね。

SHELLYさん そうなんです。例えば、好きな人に対して「申し訳なくて」とか「嫌われるかも」っていう理由で「NO」が言えないとしたら、それはちょっと危険信号かも…ということを子どもの頃から知っていれば、もっと自分の心の声を意識するようになると思うんです。

──SHELLYさんがカウンセリングで経験した自分を振り返る作業は、まさに心の声を聞くこと。それを身につけることで、心の揺らぎもうまく受け止められる気がします。

SHELLYさん 大人になればなるほど、空気を変えない・壊さないとか連帯責任みたいなことに慣れすぎて、「なんかちょっと違うよね」って言えなくなりがちじゃないですか。20代、30代って、そういうフィルターが増えるタイミングだけれど、まだまだ変われるから大丈夫。そのためにも、自分の心の声に耳を澄ませて、それを信じることが本当に大事だと思います。

「今、勝手にフィルターかけてるかも」と気づくことはもちろん、「私は今、モヤっとしたものを抱えているけれど、これは何に対するモヤモヤなんだろう」って、誰の・何のための我慢なのかを考えたほうがいいと思います。理不尽な我慢はしなくていいんですよ。

友達とかパートナーとか、自分の大切な時間をシェアする相手は「NO」が言える人にするっていうのもありだと思います。「あ、それはいいや」とか「その日は行かない」とか「これは食べたくないな」とか、日常のコミュニケーションで気軽に「NO」を意思表示できる関係性は、きっとお互いに生きやすいんじゃないかな。

撮影/花盛友里 ヘア&メイク/高橋純子 画像デザイン/坪本瑞希、前原悠花 スタイリスト/野田さやか 構成・取材・文/国分美由紀